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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第五章 破戒/再醒―Escalation―
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第13話 悪食-”Abadon”-

♯13


「ハハッ……たまらねえ、たまらねえよ! お前は……俺とれ」


 響の身体から溢れ出す群青色の”壊音”を見据え、我羅の唇から渇いた、脳内物質アドレナリンに酔いしれた声音が零れる。


 目の前にあるのは、体内に”畏敬の赤”を持つ生物――。


 他には存在しない、一点物の”原種オリジナル”だ。


 そうだ。


 あの”獣王キング”でさえ、己を制御・抑制するために”畏敬の赤”を利用しているに過ぎない。


 響のように生体へ直接摂取、循環させているわけではないのだ。


 響のケースは――”畏敬の赤”を、”醒石”を喰らう性質を持つ”天敵種”ゆえに、成せる”異常”と言えた。


【……ぬぅ。”喰らう者”か……】


 そして、全生命の頂点、”王”たる”獣王キング”も、その新たな”生物”の誕生を認識し、その白濁とした目を、響へと向けていた。


 ”動かぬのなら滅さぬ”


 響の行為は、この警告の一線を越えるものである。


 ”調停者ルーラー”として認識した、新たな”標的ターゲット”の出現。


 それに、”王”の尾が揺らめき、動く。


 その刹那――、


「余所見をしている暇はないぞ、”獣王キング”――」

【……!】


 信じ難い事が起きる。


 自らを跳ね飛ばさんとした”尾”を踏み付け、”王”の間合いへと踏み込んだ、フェイスレスの掌打が、その巨顎を撃ち抜き、信じ難い事に――”王”の巨躯をわずかに”グラつかせ”ていた。


 ――”獣王キング”に肉弾戦を挑む。


 その愚行とでも呼ぶべき暴挙に、麗句達の舌は語るべき言葉を失う。


 まして、それを成す、存在があるなど――。


【ヌゥゥ……】

「どうした? ”王”よ。"大男総身に知恵が回り兼ね”――か?」


 弾幕の如き、拳の連打が"獣王キング”の顔面を打ち続け、その”圧”に屈したかのように、崩れた足場の岩盤が”獣王キング”の巨躯を飲み込み、生き埋めのような形で”獣王キング”の巨躯を一時的に”捕獲”する――。


 すぐ様、その上に馬乗りになり、わらうのが――不遜なる”信仰なき男”である。


 まるで遊戯に興じるように、その目は愉し気に細められる。


「フン……元来、けいを封じるならば、氷山の一つも必要であろうが――」


 ”いまはこの一瞬で充分だ……”


 そう告げるとともに、鉛のような、否、彗星が地表に衝突する衝撃を想起させるような拳の雨が、再度”獣王キング”へと降り注ぐ――。


 息を呑み、見守る他に術はなし。


 麗句もシオンも、その光景に目を釘付けとされ、すぐそばで起きている”天敵種”の異変からも、その意識を遮断されていた。


 一方的な、あまりに一方的な惨状であった。


 ……その、”声”が響くまでは。


れるな……”下郎”】

「……!」


 フェイスレスの瞳に、蒼が閃く。  


 太い弦を皮手袋で擦ったかのような、”王”の声が響くとともに、”獣王キング”の開かれた頸部から蒼い光が、熱線が迸り、その噴射力で”王”の巨躯を崩れた岩盤の中から、”宙”へと推し上げていた。


 ”空を飛んだ”に等しい、その業に。直撃を受けた熱線に。弾き飛ばされた”信仰なき男”を、轟音とともに着地し、苛立たし気に尾を大地へと叩き付ける”王”の白濁とした両眼が睨み付ける――。


「フフ……”調停者”ではない、”素”のけいが垣間見えたな。愉しいぞ、”王”よ――」

【…………】


 この二人の”決着”までの道程はあと、どれ程のものか――。


 予備動作一つなく、まるで”見えない糸に引っ張り上げられる”ようにして、身を起こした”信仰なき男”の不遜なる声に、”王”が発した”唸り”が重なる。


 恐らく、まだ一合目にも達していない”死闘”。


 だが、一つの”異変”に、傍観者達は既に、言葉という概念を根こそぎに奪われつつあった。


 こんな事は、あり得ない、と。


「やはり……生身で”遊興あそぶ”には荷が勝ち過ぎるな……。卿の、身体は」


 彼方此方あべこべだった。


 ”王”の身体には、僅かな損傷も、出血も認められない。


 だが、対して”信仰なき男フェイスレス”の身体は、その状態は異なる。


 彼の四肢は例外なく、あらぬ方向に折れ曲がり、捻じ曲がり、彼が掲げて見せた掌は、あろうことか全ての指が明後日の方向を向いていた。


 ”攻撃を加えていた”のは、彼だったにも関わらず、だ。


「フ……これではフォークすら満足に使えぬ」


 フェイスレスはそう告げると、映像を巻き戻すように、己の四肢を”復元”して見せる。


 その様に、”王”の唸りがより”深く”なるのを、麗句の聴覚は確かに探知した。


 ”王”は、何かを”察知”している――。 


【やはり……”通らぬ”か】


 疑念が言葉となり、”王”の喉を鳴らす。


 ”熱線”を至近距離で浴びせたにも関わらず、フェイスレスには”損傷”がない。 


 ”王”を殴った事によるダメージはあれど、”王”の攻撃によるダメージはないのだ。


「フフ……そうだ。”創世石”の加護を受けた私の身体は、常に高度な”概念干渉”で護られている。”概念干渉”を伴わぬ攻撃では、私から触れぬ限り、毛ほどの傷もつけられぬ――」


 フェイスレスは嘲り、”復元”した己が腕を、その指の関節を試すように、パキリと鳴らす。  


「先程のように腕を吹き飛ばせる”幸運”は、二度とは訪れんよ」


 ”王”の牙がギリ、と軋む。


 それは、”概念干渉”で己が力を抑制する――すなわち、”概念干渉”と”鎧醒”を解除する事で、その真価を発揮する”獣王キング”にとっては、大幅に不利な条件と言えた。


 対抗策と成り得る”奇蹟”。”概念干渉”を無効化する”魔女の吐息ジャンヌ・ダーク”も、現在の消耗した麗句では、満足な効果を発揮・維持する事は困難である。


 ……あらゆる状況が、”信仰なき男”に有利に働いていた。


 全てはこの男の計略通り。


 掌の上なのか――。


「……嘆く事はない。幸い、時間はまだ、たっぷりある。じっくりと、濃密に――”遊興あそぶ”余地は充分にあるのだ」


 不穏な昂揚が、両眼の”虚無”の中に満ち、包帯の隙間から微かな嗤い声が漏れ聞こえる。

 

「故に、興を醒ますような”異端イレギュラー”には、早々にご退席頂こう――」

「……!」


 フェイスレスの声音に、不吉な残響が満ちていた。


 何か、おぞましい事が起こる。


 その予感が、麗句の、傍観者達の肌を粟立てる――。


「……”幻想召還ファンタムズ・シフト”……」

「……!」


 一滴。


 一滴の液状化した”畏敬の赤”が岩肌へと滴り、”現実”の中に不穏な波紋を広げる。


「な……!?」


 ”異変”はすぐに響の足元に起きていた。


 ”水”が地面を浸し、大きな水溜りを響の足元に作っていた。


 ベトつく肌触りや臭気から察するに、これは”海水”――。


 突如として、”海面”が響の足元に顕れていた。


【…鐚醐執鐚…%…※…ア…】

「――!」


 あまりの事にガブリエルの息が詰まる。


 続いて妙な声が響いていた。


 人間の聴覚では聴き取れぬ”声”であり、”言語”だった。


 海面から伸びた”手”が、響の足首を掴み、やがて、その暗く湿った”おぞましき”つらを覗かせる――。


「……人間の創造が生み出した虚神。人間が創り出した”怪物”を屠るには相応ふさわしかろう――」


 海面からその全貌を現したのは、灰緑色の体表を持つ、名状し難い”何か”。


 その群れであった。


 人間に似た四肢と体格を有しているが、その顔部は蛙とも魚ともつかぬ不気味な形状をしており、その首にはえらが確認できた。指と指の間には水かきがあり、水棲の存在である事を窺わせる――。


 群青色の”壊音”が、響の足首を掴む手首を切り刻むが、さしたるダメージも受けた様子もなく、その"本体”は体液を海面に滲ませながら潜水し、再浮上。


 響を包囲する群れ、その隊列に加わる――。


 そのおぞましき光景に重ねられるのは、フェイスレスの不遜にして、不穏な声音である。


「フ……その”深きものども”は一体一体が、お前達”人柱実験体”と同等の力を備えている。おとなしく虚無への供物とされるがいい――”天敵種”」


 響の姿を一瞥する事もなく、そう告げて、フェイスレスは天に翳した指を静かに鳴らす――。


「失せろ、”異端イレギュラー”――」

「くっ……! 響さん……!」


 ”信仰なき男”の号令とともに膨れ上がる、”深きものども”から漏れ漂う”殺意”の悪臭を察知し、ガブリエルは響の”目”となるべく、彼の右肩に飛び乗る。


 ――”餌”に反応し、群青色の”壊音”が騒めくが、幼竜ガブリエル躊躇ためらいの余地はなかった。


 ”畏敬の赤”を五感に取り込んだ現在の響は、初めてサファイアが『鎧醒アームド』した時と同じく、五感に溢れ、掌の上に握られた”未知なる”感覚に溺れ、制御できずにいる。


 響が語った通り、五感の暴走によって”見えない”目を、ガブリエルが補助する必要があった。


"力”の奔流に飲まれ、早まる響の呼吸と鼓動が、肩越しに生々しく伝わってくる――。


「……み、右ですッ!」


 撃鉄が起こされ、引き金が弾かれる……!


 ”深きものども”の群れが右サイドから響へと雪崩なだれ込み、ガブリエルの指示に従い、躍動した群青色の”壊音”が、芝を根から刈り取るように迎撃する――。


 鞭のようでもあり、触手のようでもある形状となった”壊音”が、百足むかでのような節足と牙をチェーンソーのように絶えず蠢かせながら、”深きものども”を切り裂いていく。


 だが、高い再生能力を持つ群れを完全に蹴散らす事は出来ず、360度、全方位から絶え間なく襲い来る、”深きものども”を、響はガブリエルの声を頼りに迎撃し続ける――。


「うっとう、しい、な……」

「え……?」


 ”畏敬の赤”を大量に摂取した影響からか、荒み、ひび割れた声音ノイズが、響の喉から零れ落ちる――。


 赤く染め上げられた目が、ぐるぐると動き、唇が歯の隙間から飢えた獣のような息吹を微かに漏らしていた。


 幸い、響と”りたがって”いる我羅は、海面から生じる”概念干渉”の影響で、響の傍には近付けないようだった。


 だが、それはフェイスレスが”本気で”響を始末しようとしている証明でもある――。


 そして、


「ヴヴヴ……オオオオオオッ!」

「ほう――」


 示された響の”力”に、フェイスレスの目が興味深げに細められる。


 振り上げた響の腕が”解放”した、群青色の”壊音”は細く連なる刃の縄となって、大気中に満ち、”深きものども”をズタズタに斬り刻んでいた。


 無意識の”概念干渉”を伴った一撃は、”深きものども”にとって感知できるものではなかっただろう。


 それは、単体で”概念干渉”を駆使する”人類”の誕生した瞬間であったかもしれない――。


 ……”それ”が、”人類”と呼べればの話だが。


「私を”あやめたい”か……? 私を”ちゅうしたい”か……? ”異端イレギュラー”。 お前に定められた、”喰らうべき”忌み子。”神”の申し子はここにいるぞ――」


 ”顔のない男”が包帯の下で嗤っていた。


 ”挑発”するように、不敵に指を鳴らすフェイスレスに、響の”畏敬の赤眼”が向けられる。


 海面からは、その異貌を黒い鎧装と”畏敬の赤アームド・ブラッド”の粒子で覆った、半ば”鎧醒アームド”した状態と言える、新たな”深きものども”が浮上し、響を包囲していた。


 ”創世石”の分身たるガブリエルが感知した、それら一体一体に秘められた”力”は、正に”破格”だった。


 ”神の子アル・ホワイト”からフェイスレスに流れ込む、”創世石”の加護は、彼等にも注ぎ込まれていると見て間違いない――。


 だが、


「響……さん?」

「もう……大丈夫、だ」


 響の手は、”目”の役割を果たすガブリエルを下がらせるように、その柔毛に覆われた腹部をポン、と押していた。


 ……その掌を固く握り、響は己の中に溢れるものと、己の中から溢れ出さんとするものを噛み殺すように、歯牙を噛み合わせ、軋ませる。


 同時に多量の”畏敬の赤アームド・ブラッド”の粒子が、響の身体から噴出し、その赤く染まった目が”信仰なき男”から周囲を取り囲む”深きものども”へとその目線を移していた。


「ああ……”殺して”やるよ。お前等が何だろうと……俺が、どうなろうと」


 抑え、溜め込んだものを解放するように、歯牙が剥かれ、掌が開かれる――。


 誰もが息を呑み、その情景を見守っていた。


 新たなる”何か”の誕生を。


「ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 『鎧醒アームド』ッ!」

「――――!」


 瞳の”赤”が円輪を描き、煌々と輝く――。


 響の喉が、”言霊”を発すると同時に、群青色の”壊音”が響の全身を覆い、鎧装を形成していた。


 ……異様な『鎧醒アームド』だった。


 鋭く尖った群青色の”壊音”が、”餌”に食らいつくように、響の全身へと食い込み、禍々しくその形状を鎧装へと変貌させる様はまるで――、


(……共食い、か)


 その麗句の呟きと認識は、正しかった。


 ”畏敬の赤”を人体に摂取した響の身体は、”壊音”にとって至上の”餌”である。


 いま、響は己の体を”餌”とする事で、”壊音”と己を密接に繋ぎ、制御している。


 ……己の命を食わせる事で、響は”畏敬の赤”を喰らう獣の全容すべてを、その掌中に収めているのだ。


「ダメです! 響さん! そんな事――絶対にダメだっ!」


 ガブリエルの叫びも、変貌した”標的”へと躍りかかる”深きものども”のおぞましき声で塗り潰される。


 群青色の”壊音”で形成された鎧装が、その群れへとゆらりと反応し――、


「鐚醐執鐚……ッ!?」


 ”恐怖”が、響く。


 人間には聴き取れぬ言語である。


 だが、”怯え”ている事は良くわかった。


 響の――群青色の”骸鬼スカルオウガ”の五指が、迂闊に間合いに入った一体の下顎をとらえ、それを覆う黒の鎧装を軋ませていた。


 同種を捕らえ、”畏るべき”気配を纏う群青色の”骸鬼スカルオウガ”の異様に、”深きものども”は一瞬で”恐怖”し、その動きを封じられていた。


 これは決して、”触れてはならぬ”ものだと。


「ヴゥウ……ヴァウッ!」

「……!」


 響の叫びとともに、”深きものども”の下顎は鎧装ごと引き千切られ、大きく肥大化した”黒獣棘ブラック・トリガー”が、”深きものども”の上半身と下半身を切断! 人ならざる臓物が膿の汁のような体液が撒き散らされる――。


(な……)


 戦慄が、静寂を呼ぶ。


 あまりの暴虐に、場の言葉が喪われると同時に、数体の”深きものども”が、群青色の”骸鬼スカルオウガ”の背後から奇襲を仕掛けていた。


 だが、駄目だ。


 ”彼”の背部から生え伸びる触手の如き突起によって、それらは瞬時に刺し貫かれ、無残にその肉と骨を抉られ、潰され、ただの”塊”へとバラバラに解体されていた。


 そして、


【イ タ ダ ギ マ ス】


 背部鎧装の中央から伸びる大口を備えた触手――"悪種の罪牙イグジスト・ジョーズ”が、奇襲を仕掛けたはずが”畏れ”に立ち尽くす一体を、頭からバリバリと喰らっていた。


 響の意志からは独立しているのか、その食い様はどこまでも悪辣で、残忍だった。


 歴戦のつわもの達の、肌を粟立てる程に。


「フン……どこまでも”異端イレギュラー”なのだな、貴様は……」


 その様に”信仰なき男”は眉を顰め、指令を出すかのようにその指を鳴らす――。


 同時に”海面”に”畏敬の赤”が満ち、”深きものども”はそれに繰られるように、雪崩れ込むように群青色の”骸鬼スカルオウガ”へと殺到する。


 その情景に、群青色の”骸鬼スカルオウガ”の黄金の眼が”朱い”光を帯び、その鎧装が大地を蹴り飛ばす。


「ヴゥオオオオオオオオオ……ッ! ヴァラゥッ!」


 高く跳躍した群青の鎧装が、同様に跳躍していた一体の頭頂に鋭い肘鉄を叩き込み、脳髄ごと叩き潰すと同時に、躍動した渾身の膝蹴りがその半身を細切れの肉片へと変えていた。 


 響は着地と同時に、背から放たれる触手と、"悪種の罪牙イグジスト・ジョーズ”によって、次々と”深きものども”を物言わぬ塊へと変えていく……。


 ばれた”幻想”は、”現実”に踏み躙られ、無残に砕かれる――。


「ヴゥウ……アア……」

「鐔縁……讐鐔鰹……っ‼‼‼」


 認識できぬ”恐怖”の言語を吐き出す最後の一体、その喉元に、”骸鬼スカルオウガ”の”黒獣棘ブラック・トリガー”が押し当てられ、群青色の右手が頭部をガッチリと掴んでいた。


 鋭利な爪が頭蓋を割り、脳髄に達し、凄まじい力が諤々がくがくと首を揺らす。


 そして――、


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!」

「……!」


 鮮血が弾ける。


 群青色の腕が頭部ごと脊髄を引っこ抜き、”深きものども”の体内に満ちていた”畏敬の赤”を、混沌とした闇夜へと噴出させていた。


 ”決着”である。


 ”信仰なき男”の手札は無為に帰し、大量の体液と”畏敬の赤”を浴びた、群青色の鎧装は手にした首級しるしを掲げながら、”信仰なき男”を見据えていた。


 同時に、フェイスレスが召還した”海面”から湧き出すように、無数の何かが空間を埋め尽くす程に飛び回る。それは――、


「こ、これは……」

イナゴ……か?」


 手で触れる事もできなければ、衣服に触れる事もない。


 だが、フェイスレスが召還した”幻想”を媒介に、その蝗の群れは全員が共有する”幻覚”として、場に確かに存在していた。


 それら蝗の群れは、群青色の”骸鬼スカルオウガ”の周囲を舞うように乱れ飛ぶ。


 ”それ”が出現した事の意味を、世界に示すように――。


「……幻想の中に凶兆を呼ぶか、つくづく危険な存在だな。貴様は……」


 ――”骸鬼スカルオウガ悪喰デモニック”。


 誕生した群青色の怪物に、”信仰なき男”の気配がよどむ。


 響の選択は何を呼び、何を掴むのか――。


 凶兆の中、解答こたえは”赤”に塗り潰される。


 いま、群青色の腕から滴る血の雫の中――凶相の仮面が咆哮を上げる。


NEXT⇒第14話 蛇蝎―”Poison”―

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