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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第五章 破戒/再醒―Escalation―
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第10話 漂流―”Exile”-

#10


 ――”夢”、だろうか。


 全身を覆うのは、心地良いような、気怠いような、曖昧な感覚。


 まるで泥に飲まれ、溺れているかのような感触があった。


 自分の身体が浮いているのか、沈んでいるのかさえ、定かではなかった。


 頭を支配するのは、酷い酩酊感めいていかん


 薄く開かれた青い瞳が、伽藍洞がらんどうの暗闇に満たされる。


(ここは……)


 整理されない記憶の破片が、時系列を無視して、次々とフラッシュバックする。


 彼女は、それを一つ一つ、朦朧とする意識の中で組み直し、やがて”現実”に辿り着く。


(ボクは……負けた)


 その身を放り込まれた、”物質世界”と”精神世界”の狭間にある”観念世界”の海の中で、少女は――サファイア・モルゲンは、その”現実”を振り返り、唇を噛む。


(届いた……のかな)


 自分の、あの人達の気持ちは、彼女に――麗句=メイリンに届いたのだろうか。


 敗れた、敗れてしまった無念とは別のところで、少女はその事が気がかりだった。


 あの人に、また余計な重荷ものを背負わせてしまったのではないか――そんな危惧もあった。


 同時に、彼女を”殺さずに”済んだ事に、安堵もしていた。


 短い一瞬に、生涯を重ねた女性ひとは、既に”敵”という概念を越えた存在だった。


 ”友人”。あの共繋リンクの中で自分は確かにそう感じ、誓った。


 彼女の前に、自分は立ち続けると。


 ――一人にはしない、と。


 そして、


(ごめん、アル……ガブ君……)


 ”現実世界”に残してきてしまった、アルとガブリエルの事が脳裏に蘇り、サファイアはその手をギュッと握り締める。


 ”泣いてなきゃ――無茶してなきゃいいな”。


 誰より優しく、真っ直ぐな少年を知る姉の思いが雫となって、蒼い瞳から零れ散る――。


(響――)


 そして、腕に絡み付いた、黒いゲル状の物質。そこから伝わる熱い痛みが、何故か彼を思い起こさせた。


 ――彼もきっと、闘っている。


 アルのために。みんなのために。自分の、ために。


(悔しい、な)


 悔いても、戻れない。

 

 手を伸ばしても、届かない。 


 だから、彼女は祈った。


 彼等の無事を、その生存、幸運を。 


 深く昏い、闇の奥底から響く、誰かの”呼び声”を感じながら――。


NEXT⇒第11話 合流―”people”-

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