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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第五章 破戒/再醒―Escalation―
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第09話 稀人―”decision”―

#9


「くっ……!」


 響は冷静ではなかった。


 ”アル”の危機への焦燥が、彼の判断力を上回った結果であったのかもしれない。


 アルの危機に駆け出した響の眼前に、”単眼巨人キュプロクス”が放射したミサイルによる焔と衝撃波が迫っていた。


 衣服と肌を焦がす高熱。


 己が身から解き放った”壊音”、その”捕食対象”である”畏敬の赤アームド・ブラッド”の奇蹟ではない、単純シンプルな、”物理的な”危機がいま、響の命を脅かしていた。


 そして――、


「止まるなッ、馬鹿者……!」 

「……!」


 耳朶を打つのは、玲瓏なる声音。


 響の瞳に予期せぬ黒衣が閃き、焔と衝撃波は響を飲み込むことなく、四方へと霧散する。


 焔が去った静寂の闇に揺らめくのは、”彼女”の背に刻まれた”逆十字”の紋章エンブレム――。


「ア、アンタ……」

「勘違いするな。可愛い”弟”をああしただけでなく、お前まで無駄死にさせたとあっては、彼女に合わせる顔がないのでな……」


 振り返った麗句の黒い瞳が、叱咤とともに響を見ていた。


 ”鎧醒器アームド・デバイス”で円を描くようにして、焔と衝撃波を霧散させた彼女は、響の無事を一瞥して確認すると、油断なく”単眼巨人キュプロクス”の挙動へとその目線を映す。


「厄介な男に、厄介な力が渡ったようだしな――」

「”創世石”いイイイイイイ――ッ!」


 音響装置スピーカーから響き渡る、常軌を逸した絶叫。


 ”変生リバース”を遂げた”単眼巨人キュプロクス”の脳となった、ドクトル・サウザンドは、己が新たな器となった”単眼巨人キュプロクス”の巨躯を、猛然と疾駆させていた。


 ”巨人の腕”は霧散したまま、復元する様子はない。


 赤い髪を、舞い上がる粉塵になびかせる”神の子アル・ホワイト”は、感情を宿さぬ虚無に満ちた蒼の瞳で、迫り来る”脅威”を睨む。


「ハッ……! ”軍医ドクトル”の野郎、はしゃぎやがって!」


 ”俺もはしゃぎたくなってきたぜ……!”


 我羅が不穏な呟きとともに、両手を繋ぐ鉄鎖を軋ませ、同時に”獣王キング”の猜疑と憤怒に満ちた眼差しが、”単眼巨人キュプロクス”の狂態を凝視する。


 ”獣王キング”のその眼差しの理由が、シオンには理解わかる気がした。


「確かに……似ていますね。”力”を解放した貴方に」

【…………】


 ”獣王キング”は応えず、ギシリと牙を軋ませる。


 背鰭のように生え並ぶ、刀剣ブレード状の武装パーツ。 


 口顎クラッシャーから放たれる”熱線”。


 ”再現”と呼べる程、正確ではない。どちらかといえば、性質の悪い”物真似パロディ”のようだった。


 フェイスレスは”遊興あそぶ”と言った。


 これも、彼にとっての”遊興”。あるいは、”最大の敵”足り得る”獣王キング”への挑発なのか――。


 解答を得られぬままのシオンの耳に、”軍医ドクトル”の嬌声が轟く。


「逃しませんよッ、”創世石”ッ! ”千眼球閃サウザンド・スフィア”……ッ!」


 ”神の子”を尾の躍動とともに、押し潰さんとする”単眼巨人キュプロクス”の肩部から羽根状の部分パーツが分離・変形。


 一つ一つ不気味な単眼を浮かび上がらせた”球体”へと姿を変えたそれらは、”神の子”へと一挙に殺到する――!


 予備動作もなく浮遊した、”神の子”の身体は難なく尾をかわし、”閃光レーザー”を放つ”千眼球閃サウザンド・スフィア”を、その御手から繰り出した円輪状の光によって蹴散らしていく。


「ハハハッ! 随分と逃げ足の素早い”神様”ですねぇ……! お仕置きの時間ですッ!」

 

 細く萎んだようだった”単眼巨人キュプロクス”の両腕が膨れ上がり、強靭な人工筋肉マッスル骨格フレームを覆っていた。同時に圧迫された腕部鎧装が砕け、バラバラとその破片をまき散らす――。


 急速な”進化”に振り回されるように、”単眼巨人キュプロクス”はその異貌カタチを目まぐるしく変貌させていた。


 黒い鎧装は血管チューブから漏れ出した”畏敬の赤”に染まり、その負荷によって崩壊しかけている。

   

「”千連光子砲サウザンド・リーサル・『777スリーセブン』”ッ!」

「――!」


 ”自壊”を続けながら、変貌を続ける”単眼巨人キュプロクス”の胸部に巨大な砲塔が形成され、同時に放出された高濃度の”畏敬の赤”の粒子が、”砲弾”として”神の子”へと挑みかかる……!


 そして、


【―――――――――――――――ッ!!!!」

「……!」


 突然の事だった。


 その様を凝視していた”獣王キング”の喉から、シオンの身体を揺らし、後退させる程の轟音が、咆哮がほとばしる。


 ズシン――と、その巨樹の如き足が踏み鳴らされ、”憤怒”とともに岩盤を打ち砕いていた。


 激しい、激し過ぎる”憤怒いかり”が、"獣王キング”の刀剣ブレードの如き背鰭に、蒼い"死”の光を帯びさせる――。


 ”……つかったな、”壊す者”よ……” 


 牙の隙間から轟く、地鳴りのような、その”呟き”をシオンは確かに聞いた。 


我がアレの、”細胞”を――】


 ”獣繭宮じゅうじきゅう”そのものに封印された”崩壊と再生を繰り返しながら進化を続ける”生物。


 ”獣王キングの呟きは、シオンの脳裏にその存在を過ぎらせた。


(”そんなもの”を使う……ではやはり……)

「どうしたどうしたどうしましたァ!? 神ィイイイイイイイイッ!」


 シオンの思考が何かを掴みかけたその瞬間、ドクトル・サウザンドの絶叫とともに、砲塔からほとばしる粒子が勢いを増し、”神の子”の両手が練り出した”障壁”を押し込み、その御体カラダを後退させていた。


 ――戦況としては互角以上。むしろ、サウザンドが押している状況と言えた。


「科学は幸福! 科学は暴力! 今こそ”物質としての神”を解体し、私の科学に組み込んで差し上げますよ! ”創世石”ィイイイイイッ!」


 サウザンドの機械化された眼が爛々と輝き、”単眼巨人キュプロクス”の単眼もまた暴力的に輝きを増す。


 フェイスレスの異能チカラを注ぎ込まれ、封印生物の細胞を組み込まれ、ドクトル・サウザンドの”賢我石”による”強化ブースト”も受けた”単眼巨人キュプロクス”の口顎クラッシャーから響き渡るのは、”勝利の雄たけび”のようにも感じられた。


 しかし――、  

 

(……違う)


 絶えず思考を繰り返していたシオンは、己の中に湧き上がる、一つの”違和感”に、その指先を、愛刀の柄へとしっかりと絡ませる。


(これは……”遊興あそび”などではない)


 決断は早かった。


 結論を出すと同時に、シオンの脚が天翔けるように大地を蹴り、居合の姿勢のまま、宙へと舞っていた。


 ”もし、そうであるならば――救わなくてはならない”


 シオンは意を決し、”標的”へと叫ぶ。


「”軍医ドクトル”……!」

「はい……?」


 ”ドグシャ……!”


 間の抜けた声だった。


 シオンの叫びに、サウザンドの喉が間の抜けた返事をしたその瞬間、その場にいる全員が言葉を失っていた。


 凄まじい”衝撃”が周囲を揺るがしていた。


 それは、シオンによる斬撃か――。否である。


 ではそれは、”獣王キング”による一撃か――。違う。


 我羅による介入でもない。


 麗句も、響達も、一歩も動いてはいなかった。


 正確には”動けなかった”。


 真に”畏るべき対象”を目にした時、人間ヒトは言葉を失い、身体の力まで奪われるのだと、響も、麗句も実感せざるを得なかった。


「これが……”本体”、なのか……?」


 驚愕と動揺がそのまま言葉となって、麗句の喉から零れ落ちていた。


 其処に紛れもなく”実在”し、”軍医ドクトル”の操る”単眼巨人キュプロクス”を一瞬で屠った、巨大な”てのひら”。


 先程までの”巨人の腕”とは次元の違う、手の平だけで数十メートルはくだらぬ、”畏敬の赤”がそのまま凝固したかのような、赤い鎧装が空を埋め尽くしていた。


 空からその”手”だけを”現実空間”へと出現させた、その鎧装は目視するだけで存在を消し飛ばされるような、圧倒的な”重圧”を持って其処ソコに存在していた。


 ――恐らく、これが、この”畏るべき物体”が、”真の適正者”の鎧装たる存在なのだろう。


 そして、


(ご苦労だったな、”軍医ドクトル”……)

「……! しまっ――」


 ”物質としての神”そのものとも言える”手”に、シオンが一瞬の注意を奪われたその瞬間、その場にいる者達にとって、最も”恐れていた”事態が起きる――。


「そう、お前の犠牲は無駄ではない――」


 僅か一瞬――。僅か一瞬の隙に、彼は”神の子”の傍らにその身を置いていた。


 黒革グローブに覆われた指先が、まだ幼い柔肌に絡みつく――。


 ”信仰なき男フェイスレス”の手がいま、己に許容された”最大の力”を使用し、硬直する”神の子”の首筋へと”触れて”いた。


「”神の子”に……我が手が届いたのだからな」

「フェイスレス……ッ!」


 フェイスレスが”神の子”に――アルの首筋に触れた瞬間、硝子が砕けるように”手”が”現実空間”から掻き消え、まるで吸い上げられるかのように”畏敬の赤”の粒子がアルの身体からフェイスレスへと注ぎ込まれていく。


(……なんという事だ……!)


 ――キレた、と。


 麗句はそう自己を認識した。


 眼前の”信仰なき男フェイスレス”は自らが同胞と呼び、自らが同胞として集めた男を、何の躊躇いもなく――当然の事のように、”捨て駒”とした。


 あの”小さな子”を手中に収め、己が目的に”利用”するために。


 それは彼女の中で、”外道”と呼ばれる行状である。


 ……気に喰わぬ男だった。気に喰わぬ男だったが、


(お前のために、こんなにも腹が立つとは思わなかったぞ、”軍医ドクトル”……!)

かがめ……! ”女王クイーン”ッ!」

「――!」


 感傷は轟音に掻き消される。


 麗句が内なる感傷に囚われた刹那、密かに、フェイスレスが操る”因果廻す紋章輪クレスト・ランケア”から射出されていた”魔槍”の雨を、響の右腕が解き放った”壊音”が飲み込み、その”喰い残しカケラ”を周囲へと四散させていた。


 反射的に身を屈め、驚きの表情を浮かべる麗句に、響は”信仰なき男フェイスレス”を見据えたまま、告げる。


「……勘違いするな。”アイツが救おうとした”アンタをここで無駄死にさせたら、それこそアイツに合わせる顔がないんでな――」

「フン……」


 借りを返すような響の言葉に、麗句が口角を僅かに持ち上げたその瞬間、再度、”因果廻す紋章輪クレスト・ランケア”から魔槍の雨が猛然と射出される……!


 一欠けらの容赦もなく、執拗に、それは麗句達を狙っていた。


 だが、


……ッッ!」


 シオン・リー・イスルギ。


 彼の”抜刀”とともに、それらは全て疾風はやての如き、”剣閃”によって断たれ、その折れた穂先を大地へと虚しく突き立てていた。


 ”こうなる”前に、”単眼巨人キュプロクス”を斬り、同胞たる”軍医ドクトル”を救う彼の目論見は叶わなかったが、残された同胞である”女王クイーン”を護る事は出来た。 


 恐らく、”女王クイーン”の”奇蹟を殺す奇蹟”を警戒しての”不意打ち”か――。


「シオン……!」

「”怒り”は注意を曇らせる……。禁物ですよ、”女王クイーン”」


 駆け寄る麗句に告げたその言葉とは裏腹に、シオンの声音にも、岩盤の下に流れる溶岩マグマのような、熱い”怒り”が沸々と滾っていた。


 氷棺のような理性の”鞘”が、溶け落ちるのも時間の問題かもしれない――。


「フン……”必中”の因果をも切り伏せるか、”剣鬼ブレーダー”。そして、”必中”の因果をも喰らうか、”天敵種”。”同胞”でもあるが、同時に”救済”を阻む”障害”足り得るのも、やはりけいらよ……」


 対峙する麗句達を見据えながら、フェイスレスは”神の子”の首筋に絡ませていた指を、その胸元へと滑らせていた。


 ――同時に、フェイスレスの指先からこぼれた、液状化した”畏敬の赤アームド・ブラッド”の雫に反応するように、アルの全身に幾何学模様にも似た”聖痕”が浮かび上がる――。


「その役割も既に終わったがな……」

「あ……あああああああああッ!?」

「ア……アルッ!」


 その瞬間、響は直感し、理解する。


 眼前に在るのは意識を白濁とさせるような、幾重もの奇蹟。


 その極み。


 だが、あの小さな喉からほよばしったのは、”神の子”の声ではない。


 これはアルの――彼自身の”苦悶の声”だ。 


 助けを求める”弟”の声だ――!


雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「……! お、おい……!」


 その時、既に響の理性は弾け飛んでいた。


 その身体は瞬時に”骸鬼スカルオウガ”の鎧装を纏い、一直線に”アル”を弄ぶフェイスレスへと殴りかかっていた。


 ”現実”を浸食する”畏敬の赤”の奇蹟も、彼を阻む”壁”とは成り得ない。


 単なる自らを増強する”餌”でしかないのだ。


 眼前で嗤うこの”信仰なき男”でさえも――!


「フン……」


 しかし――、


「――”我改宗に能はずノーフェイス”――」

「――――!」


 ”現実”はそれ程”単純シンプル”ではなかった。


 フェイスレスが一歩も動くことなく、ただ指を弾くと同時に、空間を水面のように歪めながら出現した、楯状の武装が、”骸鬼スカルオウガ”の拳を受け止め、阻んでいた。


 ”我改宗に能はずノーフェイス”と呼ばれたそれに受け止められた響の拳は、与えた衝撃をそのまま弾き返されたかのように砕け、続け様に軽く振られたフェイスレスの腕が響の、”骸鬼スカルオウガ”の異貌カラダを容易く弾き飛ばしていた。


 圧倒的な、あまりに圧倒的な”力の差”が其処にあった。


「がっ……?」

「響さん……!」


 跳ね飛ばされ、大地に叩き付けられた響のもとへガブリエルが駆け寄る。


 ”壊音”が大量の”畏敬の赤”を喰らった事により、元より制御不調に陥りつつある”骸鬼スカルオウガ”の鎧装は容易く除装はがれ、響の喉は大量の血塊を吐き散らしていた。


 ”次元レベルが違いすぎる……”


 一度の交錯で得た実感を噛み締める響の四肢を、”壊音”が嘲笑うように蠢き、覆う。


(そう、か……)


 同時に、一つの”選択肢”が響の脳裏に浮かんでいた。


 ”だが、それをすれば”――そのような思考は既に響の中にはなかった。


 既に彼の思考の中には――、


「フン……この子の身体をゲートとして、無限の”畏敬の赤”がこの世に流れ込む。世界を浄化し、”再醒さいせい”へと導く天上の門がいま開かれるのだ――」


 ”最も、地獄のかまかもしれぬがな……”


 這いつくばる響を一瞥し、不遜に告げたその呟きとともに、”世界”が更なる軋みを見せる――。


 まるで、自らの”終焉おわり”を告げるように。


「……! 空が……!」

「オォ……」


 その瞬間、シオンの喉からは驚愕が、我羅の喉からは恍惚とした感嘆が漏れていた。


 フェイスレスが語ったように、いま”神の子”の体は、天上へと”畏敬の赤”を噴き上げる”赤い柱”と化していた。


 それと共に、空は赤く染まり、周囲の空気を、世界を、得も知れぬものへと変えていく。


 ――まるで、”変生”が世界全体に行われているような”恐怖”が、”畏怖”が、その場にいる者達の五感を震わせてゆく。


「仰ぎ見るがいい……頭を垂れて祈るがいい。あらゆる”業”が、”痛み”が、”悲しみ”が、今日この日をもって終焉を迎える」


 フェイスレスの歓喜に満ちた声が天上へと響き、”世界”の悲鳴の如き雷鳴が、豪雨が地表に降り注ぐ。


「”神”よ……私はいま、”破戒”とともに”救済”を行う……! ”人類”よ、今日この日が……!」


【……何だというのだ、”壊す者”よ……】


「――!」


 ”救いの日”だ。


 フェイスレスがそう告げようとしたその瞬間、場に新たな驚愕が満ちる。


  蒼く、巨大な光が――一筋の”熱線”が、フェイスレスの振り上げた右腕を”消し飛ばして”いた。


 その威力は、”単眼巨人キュプロクス”の紛い物の”比”ではない。


 これこそが、真なる生態系の王――”生物としての神”の喉から迸り出た、"煉獄の蒼い焔ブレイズ・インフェルノ"。


 ”王”の胎内に満ちる”忿怒の焔”である。


「”獣王キング”……」


 ”信仰なき男”の眼が、その”熱線”のあるじを捉え、感極まったかのように細められる――。


 やはり、けいだ。


 私の前に立ち、”真の敵”足り得るのは――。


 どこか恍惚とした様子のフェイスレスの右腕が、”当然のように”再生され、泥の如き呪詛の塊によって覆われてゆく。


【……我が審は下ったぞ、”壊す者”よ……】


 そして、その”信仰なき男”に対し、牙の隙間から漏れる、太い弦を皮手袋で擦ったかのような唸り声とともに、”獣王キング”は、”生物としての神”は自らの結論を告げる。


【……なれは、”滅する”に値する……】

「フン……」


 ”獣王キング”の言葉に呼応するように、フェイスレスの脚が”神の子アル・ホワイト”の傍らから一歩踏み出される。


 そして、そのフェイスレスを凝視する”獣王キング”の巨鎧から、巨躯から、フェイスレスの周囲に溢れ、空間を支配する”畏敬の赤”をも塗り潰すような蒼が、蒼いチェレンコフ光が溢れていた。


 体内から絶えず放射されるその光は衝撃波となって、周囲の岩盤を吹き飛ばし、粉塵を撒き散らす――。


 その胸部に埋め込まれている、勾玉を想起させる形状の水晶クリスタルは、噴き上がる”王”の憤怒いかりによる負荷に喘ぐように、激しく明滅していた。


「来るがいい、”神の名を冠する獣”よ――」

「――――――――――――――――――――――――――――――――ッ‼‼‼‼」


 フェイスレスの”挑発”に、世界そのものを揺るがすような”王”の咆哮が、”開戦”の時を告げる。


 ”信仰なき男”が終焉を呼び、世界の終わりに、”王”が目覚める――。


NEXT⇒第10話 漂流―”Exile”-

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