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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第四章 血戦 PART2―Count Zero―
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第03話 共鳴

#3


「クッ……!?」


 (あか)い光が、目を潰すような(あか)閃光(ヒカリ)が、(すべ)てを飲み込んでゆく。


 この“栄華此処に眠る(グレイブ・グローリー)”の象徴である、かつて高層ビルであった(うつ)ろな残骸を、かつての栄華の墓標を閃光が飲み込み、瞬時に塵芥(ちりあくた)へと変えてゆく。


 対峙するブルー=ネイル――己と“同種”である人柱実験体“蒼鬼(ブルーオウガ)”を街から引き離し、戦場を此処(ここ)、“栄華此処に眠る(グレイブ・グローリー)”に移せたのは良いが、ブルーが新たに解放した“異能(チカラ)”は、戦況を 一変させ、響を瞬く間に窮地へと追い込む。


「第一射は(かわ)したか……。元より“飛び道具”で決着を付けようとは思わんがな――」


 蒼の異形から(あか)い光の残滓(ざんし)を漂わせながら、ブルーは呟く。


 ブルーの全身から(サークル)状に放射された(あか)の光。


 それが周囲にある全てを飲み込み、風とともに消えゆくような灰燼(かいじん)へと変えてしまったのだ。


 間一髪のところで、全身を(あか)い光に飲み込まれるようなヘマはしなかったが、わずかに(かす)っただけの“骸鬼(スカルオウガ)”の腕部鎧装は溶解し、神経に直に()み込むような痛覚(イタミ)が響の精神を震撼(しんかん)させる。


 幸い、“同種”との接触・戦闘によって活性化している“壊音カイオン”の活動によって、溶解した鎧装・体組織はすぐに“復元(リフレッシュ)”され、響の――“骸鬼(スカルオウガ)”の肉体を万全の状態へと戻す。


「……互いに難儀な体だな。そう簡単に終焉(おわり)は迎えられない」


 ブルーの、蒼鬼(ブルーオウガ)の鎧装の胸部・関節部が裂けるように展開し、そこから(あか)い光を放出している。いやまさにブルーは自らの体組織・鎧装を切り裂き、その内部・自らの体内から朱々(あかあか)とした“チカラ”を放出しているのだ。


 蒼鬼の背部から伸び、宙を漂う“蒼裂布(ブルー・リッパー)”が、蒼鬼の皮膚・鎧装を切り裂き、その内部に在る金属板のような物質を剝き出しにしている。


 眩い光を放つそれは響の精神をも微かに刺激する。


 触れ、目視する事で己の“負の感情”を引き絞られるようなこの感覚――これは現在、強固な“縛鎖”と化し、“壊音”を鎧装へと収束させている“村雨(ムラサメ)”と同種のもの。


精神感応物質(ヒヒイロカネ)”か……!?


「どうした……? “蒼朱爆裂(ブルー・ブラッド)”が恐ろしくて間合いが詰められんのか? “畏敬の赤(アームド・ブラッド)”に対抗できるよう通常の数百倍の濃度で精製された“精神感応物質ヒヒイロカネ”だ。貴様の駄刀(オモチャ)とは訳が違う」

「………」


 ブルーの“異能”。それも響を戦慄させるには充分に過ぎる要素ではある。


 だが、それ以上にブルーの身体に施されている過剰なまでの処置が、響の内腑に吐き気にも似た感覚を蠢かせている。


 感情の除去・強制的な抑制。


 体内への“精神感応物質(ヒヒイロカネ)”の移植。


 ……反吐(ヘド)が出る。


 人体を、人間を“素材”や“部品”としてしか見ていない。そして、


「ふむ……膠着状態というのも退屈なものだ。まぁ、貴様とて一度見た“手”に容易く屠られるような間抜けでもないだろう」


「……!」


 “七罪機関(セブン)”という人柱実験体を生み出した組織への言葉にならぬ怒りに、思考をわずかに乱した響へと、戦意に研ぎ澄まされたブルーの視線が突き刺さる。


 ブルーの口数が明らかに多くなってきている。


 体内の“精神感応物質(ヒヒイロカネ)”を露出させたことで、ブルーの強制的に抑制された感情も“解放”され始めているのだろうか。


「いいだろう。この“精神感応物質(ヒヒイロカネ)”……“朱板(クレナイ)”の応用と真価、いま見せてやる――」


「ナッ――!?」


 (おそ)るべきスピードであった。


 引き裂かれた体組織・鎧装の内部から噴き出した(あか)い光が、ブルーの全身を覆い、ブルーの異形が響の知覚できぬ速度で接近。強烈な手刀が響の、骸鬼(スカルオウガ)の肉を、鎧装を切り裂き、続け様、放たれた蹴撃が、響の身体を遥か後方まで跳ね飛ばす。


(くっ……!)


 瓦礫にバウンドしながら跳ね飛ばされる響を、ブルーの、蒼鬼(ブルーオウガ)の双眼から放たれる朱いビームが狙い撃ち、響は衝撃に踊る体を(ひね)り、意図的に回転させることで、その着弾を急所から逸らす。


「避けるだけでは……“決着(ケリ)”はつかんぞ!」


「――!」


 そして、街路に骸鬼(スカルオウガ)の爪を突き立てることで、響が体勢を整え、身を起こそうとしたその瞬間、距離を詰めたブルーの両腕、その(ネイル)が響の胸を貫かんと唸りを上げる。


 間一髪! 響の、骸鬼(スカルオウガ)の腕がブルーの両腕を掴み、阻む。


 だが、腕力はブルーの方が上回っている。


 ブルーが“朱板(クレナイ)”と呼んだ“精神感応物質(ヒヒイロカネ)”のエネルギーが蒼鬼(ブルーオウガ)の鎧装――“似て非なる蒼(ダミー・ブルー)”に充填され、先程までと比べて、倍以上の出力(ゲイン)がブルーを駆動させている。


 その力が、響の腕を軋ませ、爪の先端が響の、骸鬼(スカルオウガ)の胸へと突き刺さる――。


 しかし、


「ヌ……!?」


 その瞬間、ブルーの腕を捕える響の掌の、“骸鬼(スカルオウガ)”の握力が急激に増幅し、骨が容赦なく砕ける音とともに、ブルーの両腕を破壊する……! 続いて“骸鬼(スカルオウガ)”の口顎(クラッシャー)が開き、凄まじい咆哮が、響の咽喉(のど)から、腹腔から(とどろ)()ぜる……!


「オオオォォォォ――ッ!」

「クッ――!?」


 両肩と胸の三頭犬(ケルベロス)の口からも同時に放たれるその咆哮は、聞く者の鼓膜を破り、肉を軋ませる、強烈な“音響兵器”でもあった。


 また、咆哮に含まれる超音波によって強制的に“超振動”させられたブルーの、“蒼鬼(ブルーオウガ)”の鎧装に亀裂が走り、ブルーは“骸鬼(スカルオウガ)”の異形を蹴り飛ばすことでこの凶悪に過ぎる“騒音”から逃れる。


 背から伸びる“蒼裂布(ブルー・リッパー)”が主を護るように、我が身を交差させ、その先端に“朱板(クレナイ)”から流入するエネルギーを集中、(あか)い刀身として顕現(けんげん)させる。


「……(なる)(ほど)、“神を喰らう獣(プラネット・イーター)”――その“特性”、か」 


 ブルーの両腕の砕けた骨が、“似て非なる蒼(ダミー・ブルー)”の活動によって体内で結合・再構築される。


 “蒼鬼(ブルーオウガ)”の凶相の仮面から(のぞ)く、(あか)い光を(たた)えた眼が、油断なく響を――“骸鬼(スカルオウガ)”の異形を見据える。


「ハァ、ハァ……」


 ブルーの視線の先で、“骸鬼(スカルオウガ)”の鎧装の一部が触手のように伸び、足元に、地面に散乱する“醒石”の破片を貪るように喰らっていた。


 それは、“アルファノヴァ”――サファイア・モルゲンが交戦し、撃破した醒獣達の残骸。彼女が残した足跡と呼ぶべき“救援”、“僥倖(ぎょうこう)”であった。


 脳をとろけさせるような、芳醇な“美味”とともに、喰われた醒石は“骸鬼(スカルオウガ)”の全身で消化され、純粋なエネルギーとして黒の鎧装に充填される。


「クッ……」


 不愉快なまでの“快感”が、手足を痺れさせる程の“充足”が、響の脳を揺らす。


 それと同時に意識に“雑音(ノイズ)”が混ざり出す。


 “壊音(カイオン)”の声か――? いや違う。これは……、


(――さん、兄、さん)


「な、何……?」


 これは、遠い記憶。それも、自分の記憶ではない。

 

 ナイフを握り、模擬戦を行う、遠い過去の自分。


 その様が映像として、いま脳内に“再現”されている。


 それは、いったい誰の視点か。


 過去の自分を見つめる者――ガラスに反射したその姿。


(なっ……)


 蒼い髪、蒼い瞳、蒼い唇。


 まだ、“そう”なってはいないが、そこにあるのは紛れもなく自分の顔。


 いま、対峙するブルー=ネイルの過去の姿。


 生き写しであるが故に認めるしかなかった。そして、


「お前……」


 無視できぬ“感情”が響の脳に、精神に刻み込まれ、響の瞳が動揺と驚愕に見開かれる。


 再び大地を蹴り、自分へと襲い掛からんとするブルーの姿を見据える響の感情は、明らかに先程までとは変わっていた。


 彼が“製煉施術”を受ける前、どのような感情を抱いていたのか、どのような想いで兄を、自分を見つめていたのか――“知ってしまった”。


 ブルーが“朱板(クレナイ)”と呼んだ全身に埋め込まれた“精神感応物質(ヒヒイロカネ)”、そして、己が喰らった人間の精神に感応するという“醒石”。


 それらが交わり、ぶつかり合う事で予期せぬ“共鳴”が起きたのか。


 いま、響の胸には、ブルーの過去の感情――“蒼い爪痕”がくっきりと刻み込まれていた。


NEXT⇒第04話 舐める絶望

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