第07話 無垢なる猛毒Ⅱ―開戦―
#6
街には鉄の軋むような、嫌なサイレンの音が鳴り響いていた。
住民達は何が起きているのか知らされないまま、自警団員たちに誘導され、地下のシェルターへと避難を開始していた。辺境の自治区には似合わぬ大仰なそれは、この街の住民達によって造られたものではない。
正確には、大戦時に作られた大規模なシェルターの上に、この街が建てられているのだ。
この街の長、ジーン・ホグランと志を同じくする人間たちが、外敵の入り込めないシェルターの中で物資と設備を整えながら、如々(じょじょ)に地上に街を建造していったという経緯がこの街には存在する。
故に、シェルターの内部は原初の街の容といっても過言ではないのだ。いまも、数週間程度なら住民全員を生ながえらせるくらいの備蓄と居住施設としての機能は生き続けている。
――だが、現状、その場所への避難がすべて順調に進んでいるとは言い難かった。
「だからさ、おばちゃん、やばいんだよ! いまは具体的にいえないけど……すぐにでも避難しないと!」
「んなこといったって、アル坊と嬢ちゃんが戻ってきてないんだよ! あとで……あとでとりにくるっていったきり!」
住民の誘導役を、行動を開始した響達に申し出た自警団員達であったが、その理由は響達の姿に感銘を受けた――というより、あの四人の“強化兵士”が長の息子であり、娘であるのだと実感できてしまったから、というのが大きいかもしれない。
自分達もあの人の遺志を継ぐ子であるのだという意地。対抗心と共感がない交ぜになった感情がいま、彼等を動かしていた。
……が、長の死という街を恐慌状態にしかねない情報を秘匿したまま、全ての住民にシェルターへの移動を納得させるというのは、なかなかに至難の業だった。
なまじいままでが平和すぎたぶん、危機感を呼び覚ますのに少し時間がかかるのかもしれない。
まして、この街を包囲する“危機”の正体は、対峙した響をしてもまだ、その全貌を掴み切れていないのだ。
そんな状況下で、この食料品店の女主人は、荷物を預けたままなかなか戻ってこない客――サファイアとアルを探しにいくといってきかないのだ。
「……アル坊は両親があんなことになっちまったばかりだし、嬢ちゃんはああ見えて無茶ばかりするだろう? どうして……どうしてこんなことになっちまったんだろうねぇ!? アンタらなんやかんや騒いじゃいるが、どうせこれも、“強化兵士”の仕業なんだろう!? なら、あのヴェノムの連中に任せときゃいいじゃないか! 化け物どうし、潰し合えばいいんだよ!」
自警団員の若者がその言葉を不快に感じたのは、隊員寮で響の言葉を、表情を、間近で聞き、見ていたからであろうか。
……声を荒げるのも理解できる。
先日の捕り物で彼女の親友の息子であるユーシェンは、響によって腕の骨を折る重傷を負わされている。だが、それはユーシェンが街の食料と情報を野盗まがいの連中に売り渡し、対価として得た拳銃で武装していたが故の制圧処置である。
情報漏洩と食料や物品の横領という、投獄や追放といった処置もあり得る大罪の代価としては、むしろ安く済んだといえるかもしれない。
――そうだ。強化兵士達と異なり、銃器が大きな脅威となる自警団員が事に対処していた場合、“射殺”という最終手段も視野に入ってくるのだから。
「おばちゃん! あのな――!」
突発的に口を開いた若者は何を伝えようとしたのか。
釈明か、擁護か、同調か。本人にも行き先のわからぬ、感情に任せた開口。
しかし、その行き先が明らかとなる前に、
「あいつは……!」
日常は、唐突に終わりを告げた。
「―――!?」
――街路を震撼させる轟音。
まるで隕石でも落ちたような衝撃とともに、砕け、飛散した食料品が衣服を、顔面を、全身を汚す。
続けざま、突如、視界を占拠した、真っ赤に膨れ上がった爆炎と、耳を劈く爆音が肉体と精神を恐慌させる。
……遠方から断続的に響く銃声。
戦闘が始まっている。
若者がそう認識した瞬間、食料品店を押し潰した鉄球が視界に仰々(ぎょうぎょう)しく映し出される。
同時に鉄球に亀裂が走り、それは内に孕んでいた禍々(まがまが)しきものを外部へと、噴出す蒸気とともに放出し始める――。
「う…あ…」
【……作戦領域への到達を確認。標的の捜索を開始する】
肩や肘にプロテクターを組み込んだ黒装束。腕に装着されているカギ爪のような武装。
表情の読めぬ一つ眼の仮面。
組織に戦闘員と呼称される集団は、果実の皮が剥けるように展開された鉄球のなかから姿を現し、自治区の街路を踏みしめた。
装束の袖口に刻まれた逆十字の紋章が、この賊たちが、一連の凶行に関わっていることを如実に嘯いている。
――落下した鉄球はこの一つだけではない。視認できるだけでも周囲に五から六の同じ個体が存在していた。
そのどれもが同様に展開し、複数人の戦闘員を外部へ解き放っている。
上空から響く、夥しい、耳を潰すようなヘリのローター音が、それらを投下した組織の強大さ、膨大さを聞く者の耳に如実に示している。
恐らくこの鉄球は、敵地への奇襲と、降下時の防御を目的とした一種の輸送カプセルなのだろう。
いま、食料品店を跡形もなく押し潰してしまったことを鑑みれば、“兵器”としての存在意義も大きく持ち合わせているのかもしれない。
そして、複数の鉄球から姿を現した戦闘員達は合流し、整然と隊列を組みながら、街路を闊歩し始める。喜怒哀楽を破棄したような、無表情な一つ眼が冷徹に、眼前に在る若者と街を観察していた。
【障害、認識。……排除】
「お…おばちゃん! 逃げるんだ!」
その“眼”に、皮膚のなかを数百の蟲が這い上がるような悪寒を感じながらも、街の守り人である自警団員の若者は武装していた散弾銃を構え、叫ぶ。
震える指で弾かれる引き金。
轟音とともに牙剥く無数の散弾。
しかし、戦闘員の一つ眼――漆黒の仮面に埋め込まれた“石”が何らかの力場を生じさせているのか、放たれた散弾は着弾することなく空中で静止すると、そのすべてが虚しく地面へと落下した。
――“遺跡技術”。世界の統治機関たる、煌都により厳重に管理され、濫用を禁じられたはずの技術がそこには確かに濫用されていた。
腕に装着されたカギ爪状の武装、“竜爪”と名づけられたそれを殺意でギラつかせ、戦闘員達は、これから際限なく増え続けるであろう“目撃者”を一人残らず狩るために、標的たる“救世主”を捕らえるために、行動を開始する。
一欠片の温情も、微塵の容赦もなく。そして、
「……成程。やはり、単なる強化兵士の仕業とは言えなくなったな」
「―――!?」
そして、戦端は開かれる。
進軍を開始した戦闘員たちの視界に現れたのは、巨大な鉄槌を携えた一人の巨漢であった。
……いや、携えているのは、鉄槌だけではない。鉄槌の上にはなにか、巨大な物体、石の塊のようなものが乗せられている。
それが、恐るべき怪力で強引にえぐりとられた街路と気付いた時には、その避け難き“脅威”は既に戦闘員達の頭上に降り注いでいた。
「おおおォォォッ!」
巨漢、ガルド・ガルドの雄叫びとともに、空高く投擲された石塊は次々と戦闘員のもとへと落下し、容赦なく押し潰す。
散弾を防いだ力場も砲弾の如き破壊力と、絶大な重量を持つ石塊を防ぎきることはできず、戦闘員達は無残な肉塊となって果てる。
「……いけ、ここは俺達が預かる」
あまりの事に言葉をなくしている若者と女主人に、野太い声が告げる。
鉄槌を肩に担いだ巨漢は、街路を流れる戦闘員達の血のなかを歩みながら、刻一刻と数を増やす“賊”へと、憤怒に沸き立つ阿修羅の如き眼光を向ける。
「この街は、父との約束どおり――我々、ヴェノムが死守する!」
鉄槌が唸りを上げ、襲い来る戦闘員の群れを瞬時に蹴散らす。
その“強さ”が、若者と女主人に確約する。彼等こそが長からこの街の平穏を託された守護者であり、いま誰より頼れる相手なのだと――。
「ハッ! 遅すぎるんだよ、手前等ッ!」
また――ガルドが居るエリアから離れた場所でも、戦端は華やかに、鮮やかに、赤々(あかあか)とした鮮血の花を咲かせていた。
肩、肘、腕、足、コートにも似た真紅の戦闘服の上に、一つ数キロはあると思しき鉄の鉄甲を身につけた男――ジェイク・D・リーは、戦闘員達が感知できぬ、力場の発生も許さぬスピードで接近し、戦闘員を躊躇いなく蹴り上げ、切り裂き、頭蓋を砕いていた。
全身の骨格を強化する生体金属と、精煉手術で強化された筋力によって得た、尋常ならざるスピードを武器とする彼が身に付けた鉄甲は、迂闊に全力を出せば、自らの身体すらもバラバラにしかねないスピードを制御するためのブレーキ。そして、超スピードから繰り出される攻撃の鋭さに、重さ・破壊力を付加する凶器であった。
特に暴走する壊音を制する際にも発現させた“骨刀”と、両足に履いた鉄靴の威力は凄絶の一語に尽き、瞬時に戦闘員達の肉を吹き荒れる竜巻の如く八つ裂きにし、その骨を荒れ狂う嵐のように、次々と破砕した。そして、
「私の“眼”を簡単に突破できると思うな、私だって……!」
――鉄球、戦闘員の襲撃により、恐慌状態に陥った住民達の悲鳴が轟くなか、彼女のその可憐な、凛とした声は響いた。
【任務遂行のための第一障害、強化兵士の一名を確認。魔法使い型と認識。排除、開始!】
一つ眼の仮面に内蔵された解析機により、眼前の隻眼の女強化兵士、ミリィ・フラッドを非戦闘型と判断した戦闘員達の凶暴な躍動が、その刹那、一直線に彼女へと挑みかかる。
「侮ったな、有象無象……!」
対するミリィが手にしている武器は一本の短刀。それのみである。だが――それで充分すぎた。
【――!?】
戦闘員達の“竜爪”はことごとく宙を切り、その攻撃と同時に 戦闘員を防護する“力場”の一部が微かに撓み、揺らぎを見せる。
その一点を潜り抜け、仮面と黒衣の隙間を縫うようにして皮膚に喰い込んだミリィの短刀が戦闘員の喉首を容赦なく切り裂いてゆく。
噴き上がる血潮がミリィの頬を濡らす――!
「私も猛毒の一員。容易く飲み下せると思うなら、その命、塵芥に等しい……!」
【……グッ!?】
闘志に満ちた彼女の声音に気圧されたように、戦闘員達はわずかに後退し、彼女を取り囲むように散開する!
ミリィの精神波の糸による結界。
その内部では、戦闘員の動きなど、子供に観察される虫かごのなかの昆虫の動きに等しかった。
街全体をカバーできるほどのその絶対監視の結界を、自分の周囲に限定的に発生させることによって、彼女は自らへと躍動する物体・事象を、ほぼ時間停止しているといってもいい状態で“観測”できるようになっていた。
精神波の糸によって隙間なく編まれた文字通りの“情報網”から脳に送られる、常人には処理しきれぬほどの情報量。
その示された情報を瞬時に処理し、反射的に動ける強化された肢体。
非戦闘型である自らの能力を、手腕により戦闘へと特化させたそのセンスは、凡百の強化兵士や戦闘員が束になっても敵わぬ“強さ”を秘めていた。
あらゆる接近を察知し、捉えた獲物を決して逃さぬ、畏るべき感覚の眼。
その眼が空間を支配し、自治区の平穏を踏み躙る“賊”の侵入を、頑なに拒絶していた。
「皆さん、落ち着いて! 自警団の指示に従ってください! 此処は私の眼が守る……守ってみせますッ!」
×××
「いやー凄い凄い、感動的だよ、拍手喝采だよ。こうして見ると強化兵士もまだまだ捨てたものじゃないネェ。最先端武装の戦闘員クン達がまるで案山子じゃないの」
――鉄球の落下、開かれた戦端。その混乱とともに発生した火災により、火を帯びつつある建造物の上に、開始された戦闘を見下ろし、知覚する二つの影があった。
シャピロ・ギニアスとブルー=ネイル。“選定されし六人の断罪者”の一人――“女王”、麗句=メイリンの親衛隊、“女王の誇り”に所属する精鋭二人である。
白と黒のストライプの衣服を纏うボブカットの男と、全身青づくめの男は、照りつける火の朱のなかにあっても、異質で、異端で、まるで絵物語のなかからでも抜け出てきたかのような“非日常”として、そこに佇んでいた。
――この状況下にあっても涼しげな、整ったその顔立ちは壮麗ですらあった。
「しっかし驚いたね、こんな辺境にここまで上位クラスの“強化兵士”が集まってるなんて。特にあの魔法使いのお嬢さんの性能は優秀かつ貴重だよ。あのレベルの知覚能力を誤魔化して潜入するなんて、ジャック・ブローズの擬態能力程度じゃあ難しかっただろうにねぇ」
「…………」
――共に立ちながらも、状況に対する二人の在り方はまるで真逆である。
饒舌に、子気味よい音楽を聞いているかのように軽快に、状況への感想を述べるシャピロとは対照的に、言葉という概念すら忘却したかのような青の男(ブルー=ネイル)は、“無粋な騒ぎだ”と、一言だけ吐き捨て、眼下の戦闘を寡黙に見据える。
彼の意志に連動する青の布が、構えられた剣のようにその鎌首をもたげる。
「そうだねぇ……大方、創世石の行方が観測できなくなったんじゃない? それで手当り次第って感じ? 賢我石は、創世石の鎧醒に一役買わされちゃったみたいだしね、お役御免となれば、共振を遮断されちゃっても無理はないんじゃないかな。となると観測は不可――」
「……お前達、魔法使いの知覚能力、絶対監視でも、か」
あの娘が使用しているような。
ブルー=ネイルの問いに、シャピロは口をへの字に曲げると、整えられていたボブカットを掻き上げ、大仰な溜息を吐いてみせる。
「無理言わないでよー。多分、創世石は“概念干渉”で適正者ごと雲隠れしているはずだよ。
視覚という概念に干渉して、“彼の者は誰にも視覚されず探知されない”とすれば、あらゆる追跡からしばらくは逃れられるからね。強化兵士程度の能力じゃあ、まず尻尾の先すら見つけられないだろうねぇ……」
確か陣名は“盲目の守護陣”。一切の戦闘行動はできないかわりに、自らを、もしくは指定した対象をあらゆる視覚から遮断させる概念干渉能力。
女王、軍医等が持つ“畏敬の赤”クラスの六つの醒石、全てに常備された基本的な能力の一つ。――それらの上位種たる創世石ならば、その程度、造作もなく、息を吐くように成し遂げてみせるだろう。
「……でもねぇ、“魔法使い”である僕の一種の誇りとして言わせてもらうけど、そーゆうズルでもなければ――さっきの話を蒸し返すけれども――本来、侵入者なんて簡単に割り出せちゃうはずなんだよ。任務を請け負ってる以上、変装や擬態なんて、常時していられるわけじゃないしさ。そもそも能力を解放して観察している最中なら、空間に人が一人増えただけでも僕達にとっては、大きな“違和感”なんだ。街全体を監視下におけるあの娘クラスの知覚能力なら尚更だ。いいかい?」
シャピロの指が己の眉間を差し、人為的に埋め込まれた“知覚強化端子”を第三の眼の如く、発光させてみせる。
「見たところ、あの娘に埋め込まれた知覚強化端子は僕と同じ街全体を監視下におけるレベル。その力を二十四時間、無効化するには、同程度の知覚端子を持つ魔法使いが妨害を二十四時間、仕掛けなければいけない。君も知ってのとおり、組織にそんな暇かつ優秀な魔法使いは数えるほどしかいないよ。まぁ――この辺境に派遣されている人員のなかではこの僕くらいなものさ。そして、僕はそんな事してないし、そもそも現地に到着したのも軍医が行動を起こさせた後だったからねぇ。とどのつまり、“概念干渉”以外にジャック・ブローズの潜入を許す要因はなかったというわけさ」
「…………」
――だとすれば、それを成せるのは。
シャピロが何を語ろうとしているのか、半ば察知しながらも、ブルーは組織内でも“百万の奇蹟”の異名で畏れられる偉大な魔法使いへと視線を投げる。
「軍医の仕業ってのは考え難いね。創世石との相対が想定できる状況で、戦闘を禁じられる概念干渉を使うのは得策じゃない。まして、軍医の旦那の“賢我石”は非戦闘型で、ただでさえ一騎打ちじゃ分が悪いしね。そのうえ、女王が到着すれば、隣で睨みを効かせるのがわかってるんだ。なるべく力を温存しておきたかったところだと思うよ。わざわざ擬態能力を持つ強化兵士なんかを獣王から借り受けてるのも、概念干渉を使う気がなかった、その証拠かな。――ウチの女王は言わずもがな。こういう姑息はウジの湧いたパンみたいに嫌うしね」
ならば、もし、そうならば、結論づけられる現実は唯一つ。
創世石を除けば、それを成し遂げられる異能は世に“六つ”のみ。
「……この地に、創世石へ触手を伸ばす第三の“畏敬の赤”が存在する。
つまり、“選定されし六人の断罪者 (ジャッジメント・シックス)”の誰かが、もしくは全員が組織の意向とは別に、密かに動いている……」
そして、恐らく彼らの主である女王も、軍医も、その事に気付いているのだろう。
だからこそ、軍医は行動を急ぎ、女王は前線に側近を派遣し、“創世石”と対峙するための戦支度に入っている。
――眼下で唸りを上げる戦火とは異なる種の戦闘、謀略が、この地に居るもの達を置き去りにして、始まっている。
下で繰り広げられている血で血を洗う凄絶な争い――流される血潮も、迸る怒号も、駆け抜ける想いも、生も、死すら踏み躙り、“茶番”であると嘲笑うような。
「非熬破亜亜亜―――っ!」
「……!」
――だが、彼らは気付いているだろうか。その“茶番”に隠されている刺に。計算通りに配られたはずの手札のなかに紛れ込んでいた“死神”に。
そして、その“茶番”にいま、あらたなアクセントが加えられる。
総毛立つような雄叫びとともに、ヘリから降下した異形は、轟音を上げ、街路を吹き飛ばしながら着地。
“悪意のアルビノ”と称すべき、白身を夜気に晒していた。
鋭く尖った嘴は弾けるような殺意と昂揚にガチガチと噛み鳴らされ、肩と背から翼の如く広がる金属の刃は、勢いを増し続ける戦火の朱を吸い、凶暴な煌きを闇夜に誇示している。
「……醜悪だねぇ、ただの兵器に堕した強化兵士は鑑賞に値しないよ。兵器でありながら人間であることに足掻く、その姿こそが気高く、美しいのに、さ」
――白鴉。人柱実験体、ジャック・ブローズの戦闘形態である災厄は、その兎のそれの如く赤々(あかあか)とした眼を、悪意を、周囲を逃げ惑う獲物達へと向けていた。
その眼が不意に、上から状況を観察するシャピロ達を捉える。
「……始めよーぜ、お前らの血が酒で、肉が抓みの――楽しい宴会を」
饗宴は幕を開ける。下卑た声と笑いが大気を震わせ、いま、白鴉の白い肉に新たに埋め込まれた複数の“醒石”が、妖しい光を放ち始めている。
その胎動は災厄を迎え撃つ青年のもとに、確かに届いていた。
NEXT⇒第08話 疾風―ジェイク―