表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
171/172

第50話 そして、“人柱”は其処に立つ―“CIPHER”―

#50


「……了解した。やはり、目の前にある情景コレが“現実”という訳か」


 ――此処ここは、“鏖殺の獣ティベリウス”を撃破し、静けさを取り戻した“煌都こうと”。


 一騎当千の雄姿と活躍を見せた機神、グレート・オーティスも、いまはその動きを止め、鋼の巨体を、降り出した雨に打たれていた。


 “タワー”との通信を終えたリオンは、そのオーティスの操縦席コクピット内で、不明瞭な状況に爪を噛む隊員たちに通信こえを送る。


「……やはり、どのセンサーにも奴等の反応はない。奇妙な事だが、撃破すべき標的ターゲットことごとく消失している」


 そのリオンの声音に安堵あんどはない。


 状況的に“煌都こうと”は危機を脱したが、飛び交う情報はまだ錯綜さくそうきわめている。


 世界全体に視点を移した時、この未曾有みぞうの事態が終息しているかいなかは、まだまだ不鮮明な状態であった。


 だが、この静けさが“煌都ここ”だけのものとするならば――、


「――どうも我々は円盤あれに“見棄みすてられた”らしい」

「“見棄みすてられた”って……隊長は、あれが神様とか、そういういものだと思ってるんですか!?」


 リオンの呟きに、抗議するようなレイの若い声が重なる。操縦席のモニターに映る惨状は、とても“神聖な存在”による仕業とは思えなかった。


 奈落に潜む悪魔も、眉を潜める蛮行とさえ思える。


 その憤りに頷きながら、リオンは焦燥にざらついた声音をその声帯に奏でさせていた。


「そうだな……。勿論、いものなんかじゃない。だが、“神”なんて超常の代物モノがあるとすれば、我々にとって都合の良い“救い主”とは限らない――むしろ円盤アレのように、暴威を持って審判を下す怪物ばけものであっても、おかしくはないわけさ」


 答えながら、リオンは手元の端末を忙しなく操作。各部署から送信された“悪い報せ”に顔をしかめていた。


「そして、神々やつらは残虐なだけでなく狡猾だ。オーティスが脅威と見るや、我々を舞台上から排除パージしてみせた。……まったく。実に、臆病な連中だな」


 端末に収集された情報から、世界各地で“神による蹂躙”が継続されている事を確信したリオンは、湧き上がる苛立ちを吹き消すように呼吸。


 通信のチャンネルをふたたび“タワー”へと合わせていた。


「ボブ、今から指定する座標のデータをオーティスの“頭脳”に送信してくれ。“彼”が理解できるよう、“煌都ここ”からのルートも含めてね」

【……? え、ええ、それは可能ですが、リオン隊長、この座標は――】


 脳裏にあるのは、“確証”と呼ぶにはあまりにおぼろげな情報である。


 ――だが、リオンの心には不思議と“確信”があった。


 あの時、罅割ひびわれた虚空から響いた懐かしい声と、そこに映し出されていた人物。


 あそこに映っていた人物が、“自分が託されていた”青年と同一であるならば、“彼”であるならば。


 この災禍の中心部――“血戦”の地は“あの土地”に間違いない。


「ああ――わらを掴むような話だが、この“縁”に賭けてみるさ」


※※※


「どうした……!? 貴様の剣は、俺に先端さきっちょすら届いていないぞ、”“天敵種イレギュラー”……!」


 ――同時刻。


 災禍の中心である“血戦”の地。


 其処そこで続く、キョウたちと“殺戮者スレイヤー”の死闘はいま、苛烈かれつさを極めつつあった。


 “殺戮者スレイヤー”のあざけりと共に、三頭邪龍のあぎとが開かれ、眩い光線が、夜の闇にいかずちのように咲き乱れる。


 ――その威力は、響と、彼が騎乗する“獣王キング”の進撃を阻んで余りあるものであった。


【――-__―――-_-___――――――ッ!!!!!】

「また引力の渦が来る! 散開しろ!」


 電子音じみた三頭邪龍の咆哮とともに、放射される光線は、周囲の引力を乱し、その場にある生命いのち混沌ケイオスの渦へと叩き落とす!


 響のげきにより、回避に移行したジェイク・ミリィ・ガルドのすぐ脇を光線が乱舞し、瓦礫を、岩盤の塊を木っ端のように舞わせていた。


 三頭邪龍――“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”と“殺戮者スレイヤー”の連携は強靭にして鉄壁。


 さらに“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”は、“寄生結晶生物スペース・パラサイト”と融合した“綺晶三頭覇竜(キング・ドラッフェ”なる形態に強化されている。


 れはもはや、響と“獣王キング”の突進力を持ってしても突破し難い、難攻不落の要塞だと言えた。


 その要塞を前に、響は、呼吸いきを整えるように上体を起こし、自らが騎乗する“獣王キング”へと、口を開く。


「……“獣王キング”、俺を―――れるか」

【……ヌゥ……】


 ――両者の間に、沈黙があった。


 れは、短いが、時間ときを止めるような、重い沈黙。


 告げられた“策”に、“獣王キング”の喉奥から、呆れたような、低い唸り声が漏れこぼれていた。


【……もはや、それは“賭け”とすら言えぬ愚行だぞ。“護る者”よ――】

「だとしても……」


 躊躇ためらいを断ち切るように、重輝醒剣じゅうきせいけんを構え、響は答える。


「俺を、“信じろ”」


 “よかろう――”。


 響の覚悟こたえによって、銃爪トリガーは弾かれる。


 刹那。“獣王キング”の巨躯が、轟然と躍動!


 “獣王キング”の脚が岩盤を踏み砕き、その尾が大地へと深々に突き刺されていた。


 同時に、“獣王キング”の体内からほとばしる蒼いチェレンコフ光が、大地をき、夜闇を塗りつぶし、やがて開かれたあぎとに収束してゆく――。


 その挙動が、自身を“固定砲台”とした”獣王キング”の、極大の熱線放射を予告していた。


【―――-――_――---――――――――ッッッ!!!!!!!】

「ヌゥ……ッ!?」


 “獣王キング”の凄絶な咆哮に、“殺戮者スレイヤー”の背筋に怖気おぞけが走る……!


 刹那! 惑星そのものを鳴動させ、き尽くすような、衝撃と熱が戦場を蹂躙じゅうりん!


 三つ首を丸めるようにして防御ガードの姿勢をとった“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”を直撃していた。


 黄金の表皮に纏った結晶体を、シールドのように前面へ集結させるも、熱線の威力・熱量は凄まじく、邪龍の巨躯は一歩、また一歩と後退。


 その膨大な熱量は、“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”に騎乗する“殺戮者スレイヤー”の鎧装ヨロイをも、がしていた。


「……流石さすがは“生物としての神”、その神威ちからで推し通るか――。だぁガァ!」


 ……しかし、“殺戮者スレイヤー”の力もまた、絶大。


 赤く、くすんだ“殺戮者スレイヤー”の鎧装ヨロイから、暴力的な量の“畏敬の赤アームド・ブラッド”が噴出。熱線を押しとどめる!


 三つ首の防御カードを跳ね飛ばし、“殺戮者スレイヤー”そのものを直撃せんとする熱線を、幾重もの“概念干渉”が捕獲。


 その威力と灼熱を、強引に歪めているのだ。


 だが――、


「おおおおおおおおお!」

「なっ――」


 驚愕が、“殺戮者スレイヤー”の思考をつんざく。


 熱線から飛び出してきた“腕”に、“殺戮者スレイヤー”が唖然と息をこぼした刹那、強烈な鉄拳が頬を直撃! “殺戮者スレイヤー”を邪龍の背から弾き飛ばしていた。


 熱線の勢いとともに、“殺戮者スレイヤー”を“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”から引き剥がした、その鉄拳の主は、黒焦げとなった鎧装ヨロイからだを急速に再生させながら、その身にふたたび黄金ひかりまといつつあった。


 ――の異形の名は、“骸鬼スカル・オウガ煌輝キラメキ”。


 絶望の夜を照らす、黄金の太陽である。


「……狂人か、貴様。あの熱線の中に“身を隠す”など、策とすら呼べぬ、只の“自殺”だ」


 心底呆れたように告げる“殺戮者スレイヤー”の目線の先で、煌輝キラメキ――キョウ=ムラサメのからだが、目が眩む程の黄金氣マナを放射していた。


 熱線の中に自ら飛び込み、ロケットのように加速。


 己が身を弾丸とした響は、その威力と勢いのまま、“殺戮者スレイヤー”を一撃! おそるべき邪龍と疑似聖人を、見事に引き剥がしてみせたのだ。


「ああ……だが、俺は死なない。“彼女”の生命いのちが、俺の中で燃え続けている限りな――」

「ほぅ……」


 その響の言葉に、虚勢いつわりはない。


 それは、可憐に散った少女ガブリエル生命いのちへの誓いであり、約束。


 戦場に充満する“畏敬の赤アームド・ブラッド”の捕食チャージにより、大幅に“黄金氣マナ”を増強した響の鎧装は、その証を立てるように、眩い金色に輝き、“殺戮者スレイヤー”の前に、雄々しく立ち塞がっていた。


「……なるほど、その狂った“妄執おもいこみ”で“獣王キング”と“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”。俺とお前で一対一の状況に持ち込んだという訳か――まったく度し難いな、貴様は!」


 苦々しく状況を分析した“殺戮者スレイヤー”の指先が、鎧装に刻まれた傷痕スリットをなぞり、その口舌が、渇いた苛立ちを吐き出す。


「騎乗戦は不得手と、ようやく学んだか?」

「――そうだな、上に乗って、あれこれ指示さしずするのは、もともと俺の性分じゃない」


 再生を終えた、全身の筋肉を確かめるように、重輝醒剣じゅうきせいけんを構え、響は翡翠の双眸に、みなぎる闘志のほむらともす。


「同じ大地に“共に立つ”――それが俺のやり方だ」

【―――-――_――---――――――――ッッッ!!!!!!!】


 響の言葉に呼応するように、“獣王キング”の咆哮が轟く。


 ――響の啖呵たんかに、口元を苦く歪めながら、“殺戮者スレイヤー”は、己が大剣、“龍体抜刀(ヒドゥン・ブレード)”を肩に担ぎ、腰を、深く落としていた。


 れは、猟犬が獲物を狙うような、特異な構えであった。


「アンタの“救済”は、俺が止める。“強化兵士カスタム・ヒューマン”である俺が」


 ――背後では、仲間たちと“獣王キング”が、“黄金邪龍樹(アウルム・マレフィクス”との交戦を開始している。


 近付く決着の刻を、その肌に感じながら、響は重輝醒剣を雄々しく、正眼に構えていた。


 そして――、


「む……!?」

「な……!?」


 ――突如として、“現実セカイ”が、歪む。


 対峙する両者の筋肉が、そのバネを弾かんとした瞬間、一つの事象が二人の動きを止めていた。


 ――突然、空間を歪めるようにして出現した、円輪状の光。


 その“内部”から放たれる、尋常ではない気配に、響も、“殺戮者スレイヤー”も息をみ、其処そこから現れる存在モノに、全神経を集中。 


 臨戦態勢のまま、謎の異邦人ストレンジャーの顕現に備えていた。


 そして、


「……やれやれ、とんでもない戦場ばしょに招かれたものだ。これも、あの“機神”の仕業か」

「……!」


 光をまたぎ、大地を踏み締めた紫紺の鎧装。


 その全容が響たちの視界に入り、その“異様”がより場の空気を緊迫させる。


 紫紺の鎧装の主、その白い鱗に覆われた指が、手にしていた鉄塊――“機戒キンドレッド”の残骸を投げ捨て、“彼”の双眸が、戦場に立つ各々の容貌すがたを見渡す。


 その突然の来訪者に、“殺戮者スレイヤー”の喉が渇いた声音こえを、重々しく奏でていた。


「……貴様、何者だ」

「人柱実験体・第0号、カシウス・L・サイファー」

「何……?」


 “殺戮者スレイヤー”の問いに、白蛇に似た面立ちが答える。


 リオンが機神オーティスへと送信させた座標は、効果覿面。寸分の違いなく、おそるべき救援者を血戦の地へと転送させていた。


 人柱実験体・第0号。


 その脅威と“毒”がいま、“疑似聖人”たちへと牙を剥かんとしていた。


NEXT⇒第51話 すべての人生が薔薇色ならば―“LA VIE EN ROSE”―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ