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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
168/172

第47話 偉大なる無銘の勇者―“Otis”―

#47


※※※


 れは、数百年の昔の寓話きおく


 数十時間に渡る死闘は、巨人かれの全身を覆っていた“光”を枯渇させ、甲虫の外殻を想起させる体躯ボディあらわとさせていた。


 円盤群へと光線を撃ち放った巨大なないなが千切れ、轟音を響かせながら、大地へと転がり落ちる――。


 星と星をける巨人かれは、その日、未曾有の破局にみまわれる惑星ほしに遭遇した。


 罅割れた虚空から出現した円盤群により、無残に結晶化する命の数々――。


 それを目撃した巨人かれは、ゆかりのない惑星ほしに降り立ち、円盤群との無謀な死闘へと身を投じた。


 破局の渦に飲み込まれながらも、互いを慈しみ合い、儚い希望を現実にすべく奮闘する、小さな命の姿に、その心を打たれたからだ。


【………………】


 廃墟の中に立ち尽くし、荒く呼吸音を響かせる、50メートルを超える巨躯は、ところどころ罅割ひびわれ、砕けていた。


 巨人かれの周囲に転がるのは、彼が撃墜した、おびただしいまでの円盤の残骸。


 孤独な戦いを続けた巨人かれは、いま巨人かれが切りひらいた円盤群の“切れ間”へと飛び立ち、惑星外へ退避する宇宙船の光跡を眩しそうに見上げていた。


 ……どうか無事に生き延びてくれ。


 小さくとも、自分よりも遥かに大きな光を放つ命。


 互いを想い合い、繋がる事の出来る、美しき命。


 それを、一部であっても護り抜けた事に安堵し、巨人は静かに眠りに落ちる。


 倒れ伏した体躯が無残に砕け、朽ちようとも、巨人かれの眠りはどこまても静謐せいひつで、おごそかであった。


 そして――、


※※※


「あ、あれは……?」


 罅割ひびわれた虚空そらに映し出された、三機の戦闘機ビークルと巨大な戦車パンツァー雄姿すがたに、絶望にくらく沈んでいた人々の目が、わずかに上を見上げていた。


 計四機のビークルは、それぞれに搭載されたミサイルで“鏖殺の獣ティベリウス”を攻撃。


 “鏖殺の獣ティベリウス”のハサミのような腕から放射される、“醒石化せいせきかを促す光閃りかり”をものともせずに、煌都こうとの空を飛翔・進撃していた。


 その雄姿を、“煌都こうと”の市街を飛翔するカイル、“鏖殺の獣ティベリウス”と交戦するガイとリオンも、興奮とともに見上げていた。


「“星翔艇メガ・フリート”……! ボブの奴、この状況でアレの起動を成功させやがったのか……!」

「ああ、流石さすがは“出鱈目から真実をアメイジング産む男・ボブ”と言ったところか。我々の期待と信頼にこたえ、お釣りが来る仕事ぶりだ」


 ガイの驚嘆に、リオンは感嘆と感謝に震える声でこたえ、聴覚みみに届いた、新たな通信こえに耳を傾ける。


 ……しかし、興奮で異様に早口となったそれは、10人の話を聞き分ける豊聡耳とよとみみ)と呼ばれるリオンを持ってしても、容易に聞き取れるものではなかった。


「――状況が状況だ。気持ちは理解わかるが、まずは落ち着いて、正確な情報をいただきたいな、ボブ?」

【は、はい! すいません!‥】


 リオンの指摘に、一瞬、赤面したかのようにボブの声量が下がる。――だが、彼はすぐに勢いを取り戻し、より早口の報告をリオンの聴覚みみへと叩き付けていた。


【……まったく信じられません。あの翡翠みどりの光。そして、あのデカブツどもの変貌と、それにおくさない人間の姿! それらを感知したように“星翔艇メガ・フリート”――いや、“彼”は、完全に目醒めざめ、いまや各機の出力は想定の120%に達しています!】

「“彼”……素体フレームとなっている異星体か」


 “来訪者ビジター87”。


 “煌都”が発見した87番目の遺跡から発見された、巨人のむくろ


 四つに砕けていたそれを素体フレームとし、秘密裏に開発されたのが四機の“星翔艇メガ・フリート”である。


 巨人そのものは既に死亡していると推定されていたが、生体部分に残された“遺志”のような反応(もの)が、いま、“彼”を動かしているというのだろうか――。

 

【現在はこちらで遠隔操作していますが、各“鎧醒機アームド・デバイス”のAIと連動する事で、あとは“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”の装備と同様、皆さんの脳波で操縦する事が可能です! “鎧醒機アームド・デバイス”のアップデートが事前に終わっていて本当に良かった!】

「はぁ!? そんな仕様聞いてねぇぞ!? 毎度毎度、俺たちに黙って、わけのわからん機能ぶっ込みやがって! ぶっつけでやる俺等の苦――」

【隊長には報告してます】


 ボヤキを一蹴されたガイからの視線に、みどりの機甲が肩をすくめる。


「……実装済みなのは初耳だが、この状況だ。有り難く使わせてもらおう。音声ボイスコードは?」

【“接続コネクト”です】

「――了解した」


 “接続コネクト”……!


 爆撃の轟音の中、凱歌を呼ぶ声が、罅割ひびわれた虚空そらに響く。


 『PEACEピース MAKERメーカー』四人の声が、“畏敬の赤アームド・ブラッド”が充満する大気を震わせると同時に、各“鎧醒機アームド・デバイス”のAIが、“星翔艇メガ・フリート”の操作端末に通信(アクセスを開始。


 同時に、四人の意識に“星翔艇メガ・フリートの性能・機能・武装の情報がインストールされ、四機のスーパーマシンは彼等の手足・分身となって、大地を、罅割ひびわれた虚空そら驀進ばくしんしていた。


 そして、


「……何だ、あの面妖なる物体ものは」


 “煌都こうと”から遠く(へだたれた血戦の地。


 罅割ひびわれた虚空そらに映し出された、“星翔艇メガ・フリート”を凝視したフェイスレスの喉から、苛立いらだちをはらんだ声が吐き出される。


 アレは、“畏敬の赤アームド・ブラッド”に連なるものではない。


 外殻こそ、この惑星由来の遺跡技術テクノロジーで固められているが、その芯となる存在ものは、この惑星の外なる者――“来訪者ビジター”とでも呼ぶべき存在だ。


 この期に及んで、そんな存在ものが状況に介入するなど、冗談が過ぎる。


 これも、幾度も時間を繰り返し、世界線を歪めたが故の、“揺り戻し”とでも言うのだろうか――。そして、


「わからないのかよ、“救い主クライスト”」

「……!」


 真正面から浴びせられたアルの声に、フェイスレスの赤をたたえた両眼が鋭く細められていた。


 おくすことなく、“破壊者ジーザス”の前に立ち塞がる少年アルは、“星翔艇メガ・フリート”の雄姿すがたを映し出す虚空そらを指差し、言葉を続ける。


「お前たちがあんな“悪足掻わるあがき”をしたのと同じように、俺たち人間も、“自分に出来る事”を精一杯やってるんだ! その積み重ねは! 繋がりは! お前たちの“悪足掻わるあがき”より絶対に強い……!」


 “あの戦闘機もその一つさ……!”


 確信に満ちたアルの言葉に、フェイスレスはその双眸そうぼうを、再び“星翔艇メガ・フリート”へと向ける。


 ――確かに、“静かに幕引きすらできない”醜態ありさまは、人間ひと人間ひとらしい行状か。


 思い至った“破壊者ジーザス”の口元から、微かなわらいがこぼれ落ちていた。


「……いいだろう。ならば、観劇させてもらおう。愚かにも“終焉の超獣アポカリプス・ビースト”に抗う、貴様らの滑稽こっけい舞踏ダンスをな」


 フェイスレスが苛立ちと侮蔑を舌先に乗せると同時に、“煌都”では、“星翔艇メガ・フリート”と“終焉の超獣アポカリプス・ビースト”の戦闘が本格化しようとしていた。


 ビル群の狭間を飛翔するカイルと、彼の意識が操縦する大型の戦闘機――“オーティス3”の銃撃が、“淫蕩の獣(カリグラ”を迎撃。


 “タワー”を狙い、急降下した“淫蕩の獣(カリグラ”の禍々しい双翼を、苛烈な銃撃が撃ち抜き、看過できぬ害獣を、“タワー”周辺から一時離脱させていた。


 ガイが操縦する巨大な戦車パンツァー――“オーティス4”も、接近しようとする“洛陽の獣(ネロ)”を砲撃て牽制。


 当面の撃破目標である鏖殺の獣ティベリウス”を、なかば孤立化させる事に成功していた。


 同時に、


「なっ……?」

「えぇ……っ?」


 ――腹腔から漏れ溢れる驚愕の声。


 激しい戦闘の最中、予期せぬ奇蹟が、『PEACEピース MAKERメーカー』四人の鎧装からだを包んでいた。


 僅かな一瞬の内に、四人の身体を包んだ眩い光が、彼等を“星翔艇メガ・フリート”の操縦席へと転送。


 各機の中枢に設置された座席へと、彼等を招き入れていた。


「……これも“彼”の、来訪者ビジター異能チカラか」


 四人の“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”への『鎧醒アームド』は自動解除され、“強化外装アンダー・ギア”のみの状態となっていたが、不思議と不安はなかった。


 あらかじめ用意された機能ではない事は、慌て散らかすボブからの通信で理解出来る。


 ――起動した“星翔艇メガ・フリート”はもはや物言わぬ亡骸フレームではない。


 こうなってみれば、光の粒子となって、煌都に溢れ、リディアの歌声を世界に届けた、不思議な奇蹟――あれも、この“来訪者ビジター87”の仕業だったと信じられる。


 リオンは激戦の刹那に、思考の糸を紡ぎ、機甲に覆われた指先を、操縦席のパネルへと乗せていた。


 四人が操縦席に座すると同時に、“星翔艇メガ・フリート”は『PEACE MAKER』四人のパーソナルカラーを機体へと反映。直接搭乗により、より精度を増した同調シンクロとともに、四機は“鏖殺の獣ティベリウス”へと集中砲火を開始していた。


【§°υυΔ§φ――】 

「おぉっ!?」


 “鏖殺の獣ティベリウス”の鋏、胸部の皮膚が展開し、高出力の光閃ひかりを放射。


 小型の戦闘機――オーティス1を駆るレイは、機体を回転させるようにして直撃を回避すると、機首に装備された機銃で“鏖殺の獣ティベリウス”を射撃。“鏖殺の獣ティベリウス”の股下を潜り抜けるように、背後へと回り込んでいた。


 だが、操縦席のモニターに映し出される、ティベリウスの皮膚が再生する様子に、レイの口内から舌打ちがこぼれる。


「……攻撃は通じてるけど、やっぱり火力が足りない。俺たちの最終起動攻撃リーサル・アサルトを重ねても、倒しきれるかどうか――」


 機銃も、ミサイルも、覚醒した“彼”の影響か、想定以上の威力を発揮している。


 ――だが、足りない。“鏖殺の獣ティベリウスの再生を許さず、その心臓部まで破砕せしめるような火力は、どの“星翔艇メガ・フリート”も有してはいなかった。


 忸怩たる想いを噛み締めながら、レイは自分をんだ“彼”を見つめるように、操縦席の天井へとその視線を送る。


「……たとえ閉ざされた壁の向こう側にでも、人間おれたちは諦めず手を伸ばす! そんな俺たちだから、君はここにんだんだろう? 届かない現実(ものへ、壁の向こう側へ、その手を伸ばすために!」


 “なら、俺たちのちからを使ってくれ、君のちからを貸してくれ!”


 そんなレイの声に応えるように、オーティス1の機体が発光。リディアの歌声を世界へ届けた、光の粒子を放射しながら、他の三機を誘導するように、ビルの狭間を飛翔していた。


「……! “何をする”気だ? “来訪者ビジター”……!」


 罅割れた虚空の映像を通じ、事態を凝視するフェイスレスの両眼に、各部を変形させながら、オーティス1と直列に並ぶ三機の雄姿すがたが映る。


「これは……」

合体ドッキングか――!」


 “星翔艇メガ・フリート”たちが自動オートでとり始めた挙動モーションが、操縦席の『PEACE MAKER』達に、緊張と高揚の息をませる。


 大地を進撃する、鋼鉄の巨躯を起き上がらせ、“脚部”となったオーティス4に、変形し、腰部・背部・前腕部を構築するオーティス3が合体。


 そこへ肩部・上腕部・胴体を担うオーティス2が接続され、最後に胸部を担当するオーティス1が連結する。


 割れるように展開したオーティス1の外装から頭部が迫り上がり、折り畳まれていた二対の角が隆起。


 巨人かれの起動を示す光が、その眼部に灯る。


「頼むよ、無銘ナナシの君。“偉大なる無銘の勇者グレート・オーティス”……!」


 ボブの祈りに呼応するように、罅割ひびわれた虚空そらに雄々しきシルエットが刻まれる。


 合体し、一つになった骨格フレームを確かめるように、巨人かれは巨腕を見得みえを切るように躍動。同時に、背部のウイングが展開し、無銘の勇者の雄姿を、舞い散る粒子とともに完成させていた。


「……ありがとう。一緒に戦おう、“オーティス”……!」


 ギリシャ語で、『誰でもない』を意味する言葉。


 操縦席のモニターに表示された巨人かれの名を呼び、レイは己の思考を伝達する操縦桿コントローラを握り締める。


 完成した機神の名は、グレート・オーティス。


 誰に名を知られずとも、命を護る為に立ち上がる、偉大なる無銘の勇者である。


NEXT⇒第48話 絶望断つ機神―“Re-Live”―

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