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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第45話 戒メル、終焉の獣―“ragnarok”―

#45


洒落臭しゃらくせえよ、タコが」


 ――世界の中枢“煌都こうと”に再度、爆発音が鳴り響く。


 極限まで駆動した“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”の冷却中であるレイを狙撃せんとした円盤の制御核を、凶暴なまでの速度で接近したガイの拳――“最終起動攻撃サベージ・ティース”が叩き壊したのだ、


 ガイ――“独り立つ銀狼シルバー・ファング”の銀の機甲は、降り注ぐ円盤の残骸を蹴り飛ばすと、“下がれ”とレイへとハンドジェスチャーする。


「が、ガイさん……! 隊長の援護は!?」

「へっ……ノってきた隊長アイツに援護なんていらねぇよ」


 響く、ガイの言葉を証明する轟音。


 リオン・マクスウェル――“救世の聖獣セイヴァー・グリフォン”のみどりの機甲は、脚部鎧装に接続されたミサイルポッドを展開。


 装填された弾頭を全弾発射し、新たに動き出そうとしていた円盤を牽制していた。


 更に、肩部に接続された砲塔から発射された熱線が、二機の円盤の外殻を撃ち貫き、その浮上を阻止。


 凱とレイ、二人の前衛アタッカー冷却時間クールタイムを十分過ぎる程に確保していた。


 同時に囮役を務めるように、機甲を“戦闘機形態ファイター・モード”に変形させたカイルの“嵐呼ぶ蒼翼ストーム・ウイング”が、闇夜に蒼い光を閃かせ、円盤群の視線と熱線を集約。


 次なる反抗の為の、布石を打っていた。


 そして、


※※※


「――悔いるがいい。自らのサガ)と、その“生き汚さ”を」

「なっ……!?」


 “畏敬の赤アームド・ブラッド”が吹き荒ぶ血戦の地にて、眼前に立つ“破壊者ジーザス”がもたらす言葉と事象に、アルは思わず息をむ。


 悠然と立つ“破壊者ジーザス”――フェイスレスの頭上に浮かぶ月が、2つに割れたように見えたからだ。


「“処刑者エリミネーター”――“奈落アビスの針”を起動しろ」

「……了解した」


 “……amenそうあれかし”。


 主の声に、“処刑者エリミネーター”が胸で逆十字さかさじゅうじを切った瞬間、奈落アビスの蓋が開く。


 “月”――この惑星の衛星であり、“物質としての神”の外部端末インターフェースの一つであるれが、果物の皮を剥くように展開。


 内部にある“虚ろな穴”を剥き出しとしていた。


 そして――、


「……“変転”せよ……」

「……!」


 フェイスレスがおごそかにささやいた瞬間、“穴”から放たれた巨大な針のようなものが、機能不全を起こしていた“神黎児アダム”及び“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス“のコアへと直撃!


 そのコアに取り込まれるように、深々と突き刺さってゆく――。


「……これを招いたのはお前たちだ。お前たち自身の反抗おこないが、奈落アビスの蓋を開けた」

【――――ぁ―――椏―――――@――――!!!!】


 “破壊者ジーザス”の言葉に呼応するように、“神黎児アダム”の胎内から“歌”ではない咆哮うぶごえが轟き、“神黎児アダム”たちの輪郭シルエットがよりいびつに、凶暴に“変転”する――。


 円盤群は残された複数機が結合するように、溶け合うように変態を開始し、延べ三体の異形を大地に、空に顕現させていた。


「……蹂躙じゅうりんせよ、“終焉の超獣アポカリプス・ビースト”。滅尽ほろびの獣どもよ」

「な……ぁ……」


 人類ニンゲンはその光景をただおそれ、見上げる事しか出来なかった。


 “終焉ほろび人類ひと”の御姿すがたは、既に其処にない。


 かろうじて“人型”と呼べた“神黎児アダム”の輪郭シルエットは、猛々しいいばらに覆われ、その頭蓋骨されこうべは蜥蜴と鼠を混合させたような禍々しい形状に変質していた。


 繭を破り、滴る“赤”の粘液とともに“現実世界”へと這い出した二本の脚が大地を揺らす――。


 罅割れた虚空を突き破るかのような巨躯は、二足で屹立しているが、その在り様は、どこまでも醜い“けだもの”。


 (いばら背鰭せびれのように硬質化し、天使の双翼の如く背部を彩るも、灰にくすんだ体色は、荘厳さよりも禍々しさを人類ひとに焼き付けていた。


 荊が生い茂る大樹のような、巨大な尾で大地を叩き、“終焉の超獣アポカリプス・ビースト)”は大きく裂けたあぎとを開く――。そして、


「ま、不味ますい……!」


 その瞬間、看過できぬ破局を察知した麗句たちは、瞬時に“音”への概念干渉を敢行。周辺に無音の世界を作り出していた。だが、


えよ、“神黎児ほろびのひと”転じて“神戒獣はろびのけもの”――アダムよ」

「―――――=‾‾‾‾――――――‾‾‾‾―――――----‾‾‾―――ッ!!!!!!!」


 れは、終焉ほろびを告げる鐘の音か。


 “終焉の超獣アポカリプス・ビースト)”――“神戒獣アダム”が吼えた瞬間、この惑星ほし全体に“醒石”化の嵐が吹き荒れていた。


 その咆哮を人類が耳にした瞬間、“歌”とは比較にならぬ規模で、多くの人間が結晶化――。各々が、割れた月の光を浴びて、悲しい“死”のきらめきを闇夜に刻んでいた。


「なっ……」


 “殺戮者スレイヤー”と剣閃を交えていたキョウも、罅割れた虚空に映し出された、その光景に絶句。


 翡翠の少女ガブリエルによる縛鎖を、“変転”と共に引き千切った、おそるべき異形を見上げていた。


 この場所においては、麗句たちの概念干渉により、醒石化の被害は発生していない。


 ――だが、それが急場凌ぎの策でしかない事は、誰の目にも明らかだった。そして、


「……“奈落アビスの針”。この“深淵アビス”に繋がる衛星の機能(システム)をも掌握していたか。“疑似聖人アルタネイティヴ・クライスト”――彼奴きゃつらは僕の思う以上に、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の根幹に迫る存在なのかもしれないね」


 観念世界アンダーワールドの底の底、“深淵アビス”から状況を観測する“神”――惑星ほしの管理者である“JUDAジュダ”もまた、眉間に深い皺を刻み、この由々しき事態に歯噛みしていた。


 さらに、円盤群が“変転”した三体の獣は、屹立する“神戒獣アダム”に追従するように蠢き、より“能動的な”救済に移行すべく、そのあぎとから“畏敬の赤アームド・ブラッド”を滴らせていた。


 その中の一体、黄金の宮殿のような、仰々しい装飾品を巨体に纏わせた四足獣……洛陽らくようの獣・ネロがその声帯からおそるべき“音”を奏でる――。


【――____――――____―――――___――――__―――】

「……!」


 獣が奏でる、歪な“歌”が空気を震わせ、続け様、開かれたあぎとから吐き出された光線が、円状に周囲を薙ぎ払う……!


 聴く者の精神に作用し、“醒石”化させる“歌”の機能を凝縮したかのような、その光線は、触れたものを強制的に“醒石”化。


 瞬く間に無数の“醒石”の像――おびただしい人間の残骸を生み出していた。


 そして、この洛陽の獣も“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”と同様に、全世界に同時に存在するが故に、その被害は甚大。


 逃れられぬ脅威、破滅ほろびとして、そこに存在していた。


「……“強制執行”とでも言うべきか。この惑星ほしには元々、“相応ふさわしくない生命いのち”が惑星ほしの力を手にした時、強制的に醒石化リセットさせるシステムが存在する。――これはそのシステムを我々の手で強引に起動させたものだ」

「な、なに……?」


 れは言うなれば、別システム起動による、ガブリエルによってもたらされた“待機状態スリープモード”の強制解除。


 “終焉の超獣アポカリプス・ビースト”たちを見上げ、淡々と告げる“破壊者ジーザス”の頭上を、巨大な双翼を持つ、淫蕩いんとうの獣・カリグラが通過。


 その羽搏きによって巻き起こる、粒子を孕んだ暴風によって、“醒石”化の嵐を地上に渦巻かせていた。


 ――もはや標的は人類だけではい。動物も、草木も、カリグラの羽搏きによって、次々と結晶化し、無惨に砕け散っていた。


「もう一人の私が用意した“救済”を受け入れていれば、お前たちは何の痛みも、恐怖もなく、温かな毛布に包まれた眠りのように、穏やかに“醒石”化出来た。お前たちが“神黎児アダム”の“歌”を受け入れていれば、救済は静かに世界を包み、終焉は穏やかに落着しただろう」


 “破壊者ジーザス”の言葉こえに呼応するように、ハサミのような両腕を持ち上げたのは、騎士然とした御姿すがたを持つ最後の一体――鏖殺おうさつの獣・ティベリウス。


 鉄仮面と昆虫が混合したような、その不気味な異貌カヲから不協和音じみたわらい声が響き渡る――。


「――だが、お前たちの反抗おこないがこれを招いた。お前たちはこれに、“神”の呪縛から解き放たれた獣に蹂躙されるしかない。この惑星の生命が、一つ残らず醒石化リセットされるまでな」


 “破壊者ジーザス”の言葉に、顕現した獣の暴威に、対峙する人類が戦慄した刹那、再度轟いた咆哮が、より多くの生命いのちを、無惨に醒石化リセットさせてゆく――。


 無慈悲に、凶暴に、“救済”という名の殺戮の嵐が、この惑星を蹂躙しようとしていた。


NEXT⇒第46話 勇気、連なる時―“awake”―

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