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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第44話 反抗の焔―“Game Change”―

#44


「ガブ……くん」


 ――観念世界アンダーワールドの最深部に秘匿された、“深淵アビス”の地。


 その一角に、力なくへたり込んだ少女の口から、喪われた命の名がこぼれ落ちていた。


「何で……ダメだよ、そんな事」


 “創世石”の“仮初の適正者”であり、現時点での“所有者”である、サファイア・モルゲンの脳内には、半ば強制的に現実世界の情景が送信されている。


 故に、ガブリエルの最期もまた、明瞭に、詳細に、彼女の精神へと伝えられていた。


 残酷な、までに。


 ――手を伸ばしたくても、伸ばせない。


 この状況は、彼女にとって“地獄”に等しかった。


 だが、


「……すさまじいな、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”と“神黎児アダム”を一挙に機能不全に陥らせるとは――ラ=ヒルカもおそるべき命を産み出したものだね」

「……!」


 こぼれる涙を冷やすような、“物質としての神”の管理者、“JUDAジュダ”の物言いが、少女の青い瞳を振り向かせる。


 抗議するような、サファイアの眼差しを特に意に介す事もなく、“JUDAジュダ”は、


 “これも、繰り返ループした時間の賜物か”。


 と短くつぶやき、きびすを返してしまった。


 その、あまりに無感情な行状に、少女はたまらず桜色の唇を開いていた。


「何も……何も感じないんですか? ガブくんがあれだけの事をしてくれても、ただ見ているだけなんですか!?」

「ふむ……?」 


 己を射抜く少女の眼差しに、“JUDAジュダ”は細い指先で顎をさすると、露骨に面倒そうな息を吐き出す。


「随分だな、サファイア嬢。私は“神”として至極真っ当な感想を述べただけだよ。それも、事実を陳列しただけに等しい、素朴な感想をね。そもそも――」


 “JUDAジュダ”の飄々ひょうひょうとした言葉の中に、不意に、がれたナイフのような冷たさが入り混じる。


「君は何を根拠に、“僕が何も感じてない”と判断したんだい?」

「あ……」


 硝子ガラスのような瞳に、わずかに渦巻くかげりに、サファイアは己の傲慢ごうまんを理解する。


 ――自分の感情を基準に、他者の思考を断じるのは、恥ずべき、愚者の行状だ。


「……ごめんなさい。ボク、自分の気持ちしか見えてなかった。自分のことしか、考えてなかった」

「いいさ、君がそうなるんだ。よほどの事だろう」


 薄い微笑が、少女の憔悴した心をそっと、撫でる。


 寄り添うようで、他人事のような、その“JUDAジュダ”の物言いは、少女に不思議な距離感を覚えさせる、独特なものだった。


 ――“創世石”の管理者。


 彼自身の発言を信用するなら、“究極の願望機”の管理者を任じられるほどの業を重ねた、かつての“創世石”の適正者。


 其れは、少女にとって、想像も及ばぬ、奈落のような“深淵アビス”に立つ存在だ。


(あなたは……)


 現状、彼の内面を知り得るだけの情報は、欠片もない。けれど、


(あなたは……ボクを、知ってる――?)


 不思議と、そう推察させる“匂い”のようなものが、この管理者の行動には漂っていた。


※※※


「……! あれは――」


 世界の中枢たる“煌都”の最前線。


 翡翠の羽根が舞い散る中、進撃する、烈火の騎士フレイム・ブレイダー――レイ・アルフォンスは、標的である“円盤”に生じた異変を、素早く感知していた。


 墜落した巨体がわずかに揺れた瞬間、円盤の外殻が割れるように展開……!


 レイたちを迎え撃つように、自身の戦闘形態バトルスタイルへと変貌しようとしていた。


「……そりゃ黙ってやられてはくれないよな」

「レイ! 相手との交戦距離に入った! 臨戦形態デュエルモードに移行を!」


 レイを乗せて飛翔する、戦闘機形態ファイターモード蒼き機甲ストーム・ウイングからカイルの通信こえが届き、うなずいたレイは、踵から爪先を翼に固定していた拘束ロックを解除。


 腰部に折り畳まれていた、片手剣グラディウスFreiheitフライハイトを起動させ、刀身に醒石のエネルギーを充填させる。


 赤と白に彩られた、騎士然とした機甲は宙空に踊らせた身体を、倒壊したビルへと着地させ、脚部の推進装置スラスターを起動!


 高速移動によって生じた残像と共に、瓦礫の中を疾駆し、立ち塞がる荊の蔦、御使の群れを寸断していた。


 ――標的である“円盤”は、もう目前にある。


「レイ! 標的中枢に高熱源反応! “シールド”の起動を推奨します!」


 同時にカイルも、ストーム・ウイングの変形を解除し、翼を聖職者の式服ローブのように纏う、本来の人型(シルエット)あらわとしていた。


 レイを追走して飛翔する、蒼の機甲は分離させた翼の一部を子機として射出!


 解析機能で状況を注視しながら、群がる御使を、子機からの射撃で薙ぎ払い、レイの前進を援護サポートしていた。そして、


「了解! “守護形態イージス・モード”、起動!」


 カイルの通信こえに従い、レイは左腕部に接続された、大型のシールド――“イーフリート”を前方に構え、盾の外殻を展開!


 “煌都”の護りの要である、その機能チカラを解放する――。


【ウケ、イ……レ……】

「……るわけないだろうがっ!!」


 刹那! 蟹のような形状に変形した円盤から放たれた熱線を、“イーフリート”の中心に設えられた水晶クリスタルが受け止め、吸収・拡散!


 熱線を防ぐと同時に、展開した外殻の隙間から放射した、その残滓で、群がる御使どもの尽くを焼き払っていた。


 標的の乾坤一擲を阻んだ、烈火の騎士フレイム・ブレイダーは、機械的メカニカル仮面マスクしつらえられた二対の感覚強化機関ブレード・アンテナをV字に展開。


 一転攻勢の“強襲形態ストライクモード”へと移行する。


 熱線を防いだ盾は、左腕から接続を解除され、より大胆に外殻を展開! その内部フレームを大きく変形させる。


 大空を滑空する、翼のような形態フォルムとなった、“イーフリート”は、そのままフレイム・ブレイダーの背部に接続され、レイにより“攻性”の機動力を付与していた。


 同時に、レイは腰部に携帯されていた、もう一対の片手剣グラディウスJustizユスティーツを展開し、展開済みの一対と連結。高威力を誇る両刃剣ツイン・ブレード――“Schwertシュヴェーアト)Vulkan(ヴルカーン)”として起動させる。


「おおおおっ!!」

【――――!?????】


 一息で、円盤の懐に飛び込んだレイの斬撃が、節足のように展開した円盤のフレームを切断。


 もはや言葉にすらならぬ、困惑の呻き(ノイズ)を、神の御使つかいに吐き出させていた。


相棒バディ……! “撃滅形態バスターモード”、起動……!」

了解コンセント。“撃滅形態バスターモード”発動承認】


 レイの要請こえに、相棒である醒石が、補助脳であるAIと発声装置スピーカーを通し応答。


 最大の一撃の発動を承認する。


Schwertシュヴェーアト)Vulkan(ヴルカーン):TYPE2起動!」


 連結状態から、刀身を重ねるように折り畳まれ、大剣状に変形した“Schwertシュヴェーアト)Vulkan(ヴルカーン)”は、肩部から射出されたブレード状のパーツと連結。


 TYPE2――“Schwert(シュヴェーアト)Dragoon(ドラグーン)”としての雄姿を完成させていた。


「はあああっ!!」


 両腕を軋ませる超重量を振り切るように、レイは裂帛の闘志とともに、完成した“勇者の剣”を雄々しく前方へと構えていた。


 その隙を、隊長リオンによる、後方からの砲撃が援護カバーし、烈火の騎士フレイム・ブレイダーは万全の状態で、最終起動攻撃へと移行する!


【“DRAGONドラゴン FANGファング”――発動シュート

「いっけぇえええええ――ッ!!!!」


 背部で加速装置ブースターと化した“イーフリート”が、膨大なエネルギーを噴射! 大地を蹴った紅き機甲が、龍の牙となって標的へと突撃する!


【理解、フノ――】


 円盤から響く断末魔!


 翼を羽撃かせる龍のような、猛々しいオーラを纒った機甲と大剣は、円盤の中心核を轟然と撃ち貫き、人類を見下ろしていた、傲慢な巨躯を爆発四散させていた。  


 フレイムブレイダーの鎧装各部が蒸気を噴き出し、背部の“イーフリート”は、翼を畳むように再度変形。その役割を“冷却装置”へと移行する――。


「残りは……あと四機か!」


 疲弊と冷却が、鎧装の動きを鈍らせようと、レイの闘志は曇りなく、残りの標的を見据えていた。そして、


※※※


「……!」


 大気を震わす轟音。


 対峙する“神の子アル・ホワイト”と“破壊者ジーザス”の背後で、墜落していた円盤が爆発し、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の粒子が吹き荒ぶ。


 自分の周囲を漂う粒子を、指先でなぞると、“破壊者ジーザス”――フェイスレスは、大仰に溜息を吐き出し、アルの左腕に装着された“鎧醒器アームド・デバイス”を見据えていた。


 アルもその視線を受け止め、“鎧醒器アームド・デバイス”が装着された拳を固く、握り締める――。


「……ふん、そうだったな。お前たちは抗わずにはいられぬ生き物。あの少女のもたらした僥倖を、無駄にするはずもない、か――」

「…………」


 この翡翠の空の下で、誰かが紡いでくれた“戦果”に、アルの胸に熱いものがこみ上げていた。


 ――彼女の心が、みんなに届いている、彼女の心に、みんなが応えている。


 その事実が、疲弊しきった少年の四肢に、尽きぬ勇気ちからみなぎらせていた。しかし、


「だが――」


 対峙する“破壊者ジーザス”の物言いにも、焦燥あせりはない。


「そのサガがさらなる苦痛を招く。愚かな事だ。お前たちは自ら、最も苦しく、困難な道へと歩を進めた」


 虎の子の“神黎児アダム”、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”の機能を実質封じられた状況でありながら、フェイスレスの口調の端々には余裕が、憐れむような残響が満ちていた。


「――悔いるがいい。自らのサガと、その“生き汚さ”を」


 開くは、地獄の門。


 ――“物質としての神”の、黄昏たそがれが始まる。


NEXT⇒第45話 戒メル、終焉の獣―“ragnarok”

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