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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第39話 命砕く詩―”withering“―

#39


「お前は……」

【――気易きやすわめくな、“第0号バケモノ”】


 ひざまずいた状態で無数の槍に貫かれ、半ば磔刑たっけいに処された“蛇鬼カシウス”がその首をもたげた瞬間、赤い靴先が、容赦なく彼の顔面を蹴り上げていた。


「ぐ……ぅ……」


 己の口から飛び散った血反吐で赤く染まる視界の中、”蛇鬼カシウス“は、道化師ピエロのような輪郭シルエットを持つ、その凶敵エネミーを確かに視認――。


 そのめつける”蛇鬼カシウス“の視線を、不遜に受け止めた凶敵エネミーは、細身の長駆から、歯車が噛み合うような機械音を響かせていた。


 その歯車が奏でる名は、


【……私は“疑似聖人アルタネイティブ・クライスト”が1人、”処刑者エリミネーター“。もっとも、この機戎からだは、以前より“煌都ここ”に忍ばせていた傀儡にんぎょうだがな――】

「疑似、聖人だと……」


 その面妖な称号なまえに、“蛇鬼カシウス”の鎧装ヨロイの表層が粟立つ。


 そして、その“蛇鬼カシウス”をなぶるように、彼の顎を指先に乗せ、凶敵エネミー――”処刑者エリミネーター“は流暢に言葉を続ける。


【”救済“の拠点である現地あちらでは、”円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス“の挙動に影響を及ぼす、我等の“力”を振るうわけにはいかないが――遠く離れた”煌都ここ“であれば、多少の無茶あそびも可能だ】


 “処刑者エリミネーター”が言葉を紡ぐ、その最中にも、多量の槍が虚空そらから降り注ぎ、”蛇鬼カシウス“を容赦なく串刺しにしてゆく――。


 本体から遠隔操作される傀儡マリオネットでありながら、この”処刑者エリミネーター“の異能チカラは相も変わらず強大。


 一片の曇りも、観測する事は叶わなかった。


【“殺戮者スレイヤー”が現地あちら危険因子イレギュラーほふる間に、私も煌都こちらの掃除をさせてもらう――】


 罅割ひびわれた虚空そらを見上げ、処刑人はうそぶく。


 “機戎にんぎょう”の目に、高濃度の”赤“がうごめいていた。


※※※


「ブルーさん、お願い……!」

「了解した――」


 “現地”に、少年アルの必死の声が響く。


 アルが”神の子“としての異能チカラで、“神黎児アダム”の動きを抑制した隙に、輝電人きでんじん雷威我ライガと連携した月輝ブルーの斬撃が、そそり立つ巨人を一撃!


 人類の前に立ち塞がる”山“を、わずかではあるが揺るがしていた。


 雷威我の胸部からり出した、大型のバルカン砲が、輝神金属アーシウムの弾丸で、“神黎児アダム”のいばらの柱を砕き、ひらかれた射線に、ブルーの剣閃が疾走はしる――。


 ブルーが握る輝双剣きそうけん――”神輝ジンキ《器》“による一撃は、“畏敬の赤アームド・ブラッド”で編まれた、”神黎児アダム“の巨躯に着実に損傷ダメージを与え、“歌”とは異なる、疳高い悲鳴のような”音“を吐き出させていた。


 そして、


「……雷威我ライガ、俺を“掴め”」

【――――-――――---―――ッ!!!!】


 一挙に畳み掛ける連撃。


 ブルーの指令オーダーに応じ、雷威我の五指が、跳躍ジャンプしたブルーの脚部を掴み、前腕アームを弾丸のように射出!


 輝神金属アーシウムの光を添えるように、ブルーを撃ち出した雷威我の脚が土煙とともに後退。輝双剣を構え、回転する銀蒼ブルー鎧装ヨロイ旋回錐ドリルのように、神黎児アダムの胸部をえぐっていた。


 ”神黎児アダム“の鎧装ヨロイのような皮膚が剥がれ落ち、鮮血のように噴き出す“畏敬の赤アームド・ブラッド”が、視界を更なる“赤”で染め上げる――。


「いよしっ!」

 

 如実な成果を視認したアルの唇から、興奮の息がこぼれる。


 ――いける。自分と雷威我とブルーさんなら、きっと、あの“神黎児デカブツ”を止められる。


 確信が少年の鼓動を早め、握り締めた手のひらから汗がしたたり落ちていた。


 ひび割れた”神黎児アダム“の皮膚からは、モゾモゾとうごめく筋肉のような器官が覗いており、第三者からも、確実な損傷ダメージを視認できる状態となっている。


 あと一押し。


 たけり、焦る少年の瞳が、立ちそびえる逆境を見据えていた。だが、


「……“神の子”と“天敵種の片割れ”。重なれば、それなりの威力を発揮するか。”輝界ピプロ“の絡繰人形オモチャもそれなりに奮闘しているようだ」


 この“救済”の元凶である“破壊者ジーザス”は動じる事なく、腕組みしたままの無感動な音声こえを、張り詰めた”赤“に刻印タイプし続けていた。


 “他所見よそみ”をしている”処刑者エリミネーター“を、とがめるように一瞥いちべつすると、“破壊者ジーザス”は忌むべき”事実“を言葉とする。


「しかし――それも”神黎児(アダム“の“拘束具”を破壊したに過ぎん」

「……!」


 響き轟く”絶望“。


 鎧装ヨロイのように見えた拘束具を破壊され、露わとなった“声帯”が、封じられていた”歌“を紡ぐ。


 其れは、言うなれば、開かれたパンドラの箱。


 以前よりも出力を増した“歌”は、空気を、“現実”を振動させると同時に、多くの人類ニンゲンを物言わぬ結晶に、”醒石“に変えてゆく――。


「クッ――」

「ブルーさん!?」


 破局の予感に、ブルーは盾を形成するように輝双剣を交差させ、銀蒼の鎧装ヨロイから“黄金氣マナ”を放出!


 ”歌“の暴威から、アルとガブリエルを咄嗟に守護ガードしていた。


「馬鹿な……これ程の」


 “歌”の脅威はこの戦場のみならず、全世界に等しく降り注ぐ。


 罅割れた虚空に映し出された、世界の”惨状“を目にした麗句の喉からも、渇いた声音が漏れ溢れていた。


 ほんの刹那。僅かな一瞬で、罅割れた虚空ヴィジョンに映し出されていた人類ニンゲンの多くが、硝子細工のように結晶化。無惨に砕け散っていた。


 如実に見えた成果も、”藪をつついて蛇を出した“に過ぎなかったのだ。そして――、


「あ……あ……」


 世界の中枢“煌都”においても、”歌“による絶望の旋律が、容赦なく奏でられていた。


 レイが護衛していた車両に乗り込んでいた十六戦団員の面々が、保護した市民たちが、一人残らず結晶化し、物言わぬ”醒石“となって崩れ落ちる――。


 その無情に、レイは”歌“を轟かせた元凶、全世界に同時に存在する“神黎児アダム”を睨む。


「お前……お前があぁぁぁ……ッ゙!!」


 ”強化外装アンダー・ギア“の背部から不安定なエネルギーを放射しながら、レイは“神黎児アダム”の巨体へと突貫! 


 無慈悲な巨人へと、せめての一矢を報いるべく、唯一の外付兵装オプションであるアーミーナイフを握り締める。だが、


「レイ……! 落ち着け……!」

「隊長……!?」


 その突貫は、割り込んだ、エメラルドグリーンの”強化外装アンダー・ギア“によってはばまれていた。


 タックルのような体勢でレイを抱えた、その”強化外装アンダー・ギア“は、崩落したビルの壁面にレイを押し付けるようにして、彼を制止。


 若者をいさめる隊長リオンの声を響かせる。


「感情に溺れるな……! 感情に溺れて、まだ助けを待っている人たちから目を逸らしては駄目だ……!」

「でも、でも……!」


 この惨状では、“タワー”に送り届けた人たちも無事かどうかわからない。はやる若者の意識を、絶望くらやみが、悲観かなしみが塗り潰してゆく。


 あの巨人バケモノたおさなければ、災厄の元を絶たなければ――何も報われない。誰も救えない。


 真っ直ぐな瞳が、受け止めきれぬ悲嘆に潤み、隊長リオンの腕を振り払わんとする。だが、


「だとしても、俺たちはまだ“生きてる”だろ、この馬鹿たれ……!」

「……ッ!」


 続け様、乱暴な蹴りがレイの顔面を撃ち抜き、無為な”特攻“を未然に防いでいた。


 衝撃に回転する視界に映し出されたのは、見覚えのある、銀の“強化外装アンダー・ギア”。


 その“強化外装アンダー・ギア”の主――ガイ=シンジョウは自身の感情を押し殺すように深く呼吸。瓦礫の上に転がった若者レイを、胸ぐらを掴むようにして抱き起こす――。


「まだ袋小路じゃねぇ。お前が、俺たちが生きてるから、救えるモンもある。勝手に死に急ぐな、クソガキ」

ガイさん……」


 悔恨を、怒りを噛み潰した副隊長の震える声音こえに、レイは己の未熟を、御すべき感情を悟る。


 そして、その凱の想いを受け止め、リオンの唇もまた、隊長としての、都市防衛を担う防人としての言葉を、”使命“を紡いでいた。


「……我々の仕事はうらみを晴らす事じゃない。命を救う事だ。助けを求める声を聞き逃さぬ事だ。此処で自棄にくもらせる事はできない――」

「そうです……! まだ終わりじゃない……!」

「……! カイル……!」


 絶望の中、繋がり、連帯する希望ひかり


 隊長(リオンが紡いだ想いに共鳴するように、青の”強化外装アンダー・ギア“が瓦礫の中から飛翔……!


 瓦礫の下から救出した生存者を抱えて、レイのかたわらへと降り立っていた。


 レイと同じく、『PEACEピース MAKERメーカー』の新星ルーキーである彼、カイル・アルタイスは、機械的メカニカル仮面マスクの下で唇を噛み締める同期へと、その手を差し伸べる――。


「――助けよう、レイ。『鎧醒アームド』出来なくたって、僕たち四人なら、僕たち『PEACEピース MAKERメーカー』なら、どんな絶望ヤツにだって負けない……!」

「ああ……! そうだな、そうだよな……!」


 乱れ、折れかけた心を再度、奮い立たせ、レイはカイルの手を握り返す。その傍らでは、凱が横転した車両を起こし、再度、市民を“タワー”へと運搬する体制を整えんとしていた。そして――、


【―――――――――】

「……!」


 四人の眼前で、”神黎児アダム“の声帯がふたたびうごめき、“救済すくい”を奏で、うたう。


 抗う術は――、


NEXT⇒第40話 諦めぬ者の詩―”sing a song“―

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