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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第33話 神と人を絆ぐ騎士―“GOD·RIDER”―

#33


「はは……なんだいアレは。反則でしょ」


 自らが行った解析の結果に、シャピロの口から、呆けた声がこぼれる。


 “黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”の脅威スペックも馬鹿げているが、肉食恐竜ティラノサウルスを想起させる前傾姿勢となり、漆黒の重装甲を全身に纏わせた“獣王キング”――”黒鉄の神機龍ジン・ギガンティス“の重装甲ヨロイが、内に秘めた脅威スペック)も、端的に言って馬鹿げていた。


 大地を蹴る、強靭なバネを予感させる、大仰な脚部は、強力無比な複数の兵器を内部に秘め、頭部、その口蓋部に埋め込まれた結晶クリスタルは、“獣王キング”の熱線の威力を倍加する機能を有している――。


 “畏敬の赤アームド・ブラッド”による戦闘に特化せざるをえなかった“以前の鎧醒形態(シン・ギガンティス)”と異なり、この新形態は、“獣王キング”自身の戦闘力を底上げし、強化する機能を有しているようだった。


(……でも、必要なのか? あの“獣王キング”に、“強化”なんて概念が)


 “生物としての神”の荒ぶる生命いのちに、そのような小細工は無粋なもののように思える。――侮辱とすら言えるだろう。あるいは、


(……それを必要とする程、現在いまの“獣王キング”は正常な状態ではない……って事か?)


 脳内で言語化した違和感が、シャピロの胸をざわつかせた瞬間、“神黎児アダム”による荊棘の柱が、シャピロとブルーを強襲。二人を足止めする!


 ――結果的にだが、“獣王キング”の参戦は、“三輝士さんきし”中の二騎が“神黎児アダム”と向き合う、好機チャンスをも生み出していた。


 そして――、


【―――――――――――ッ!!!!】

「……!」


 怪獣ケダモノの闘争が始まる。

 

 交差する、巨獣の咆哮と咆哮!


 舞い上がる土砂と粉塵!


 “獣王キング”の巨脚あしが、大地を蹴る轟音とともに、高く跳躍した重装甲が、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”が放った破壊光線の嵐をかわす……!


 そして、“獣王キング”は降下とともに、脚部装甲に格納されていた、砲塔を展開。息を継がせぬ苛烈な砲撃で、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”を、爆炎の渦の中へ叩き込んでいた。


「クッ……!」


 同時に、“手綱”代わりの鎖を握る、響の五指が痺れ、その腕全体に、“引き千切られそうな”程の衝撃いたみが走る――。


 半ば強制的に、“獣王キング”に騎乗する事となった響は、“獣王キング”の一挙手一投足ごとに襲い来る、壮絶な衝撃に耐えながら、必死の搭乗を続けていた。


 信じ難い事に、“煌輝キラメキ”の“黄金氣マナ”で増強ブーストされた筋力でも、跳ね飛ばされそうな程、“獣王キング”の躍動は、凄絶かつ凶暴。


 ――怪獣という、“荒神”の暴威を、響に、骨の髄まで味あわせていた。


「……どうした? この程度の“舞踏あそび”で音を上げるか、“護る者”よ……」

「……悪いが、舞踏ダンスは俺の趣味じゃない……」


 搭乗による消耗は、確実に響の四肢を疲弊させていたが、息を切らしながらも、響が返した悪態に、“獣王キング”は重装甲の下で、口元を緩めたような息を零す。


 “その意気や良し”。


 轟然と着地した、黒鉄の獣は、爆炎に包まれる三頭邪龍へと、そのあぎとを開き、熱線を放射!


 その熱線は、三つ首が破壊光線を重ね合わせて、生成した障壁シールドをもぶち抜き、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”の巨体を確かに後退させていた。


 ――れこそが“怪獣王”の神威チカラ


 重装甲を輝かせる蒼い死のチェレンコフ光こそ、“畏敬の赤アームド・ブラッド”により無毒化されているが、熱線の威力そのものには、何も影響はない――。むしろ、その両者が混ざり合い、また異なる次元へと到達せんとしていた。


「“獣王キング”……。やはり、とてつもない戦闘力ですね。同胞と呼ぶには、“生命いのちの格”があまりに飛び抜けている――』


 湧き上がる畏敬に、噴き出した汗を拭いながら、シオンは“獣王キング”の新形態――”黒鉄の神機龍ジン・ギガンティス“の雄姿すがたを凝視。


 怪獣ケダモノ同士の闘争に介入し、活路を切りひらくタイミングをうかがっていた。


「同時に、“疑似聖人”との戦闘では、彼が前線から一歩引き、あえて力を制限セーブしていた事もうかがえる――。もしかしたら、あの円盤群も、彼にしてみれば、一蹴出来る程度レベルのものなのかもしれませんね……」


 “疑似聖人”という存在、救済という災禍は、言わば、人類が自ら招いたに等しい“人災”。


 確かに、“生物としての神”、“生態系の調停者”足る彼が、積極的に介入する理由はないのかもしれない。


 ……けれど、その非積極性も、彼が人類にあえて、“自らの手で乗り越えてみせよ”と、過酷な試練を課しているのだと、シオンには感じられた。


 れは、“同僚”としての“甘え”かもしれないが――シオンはそう信じたかった。


「……その“獣王キング”に重い腰を上げさせたのが、あの黄金有翼三頭邪龍バカげたバケモノか。逆を言えば、“獣王キング”の参戦を招いたとしても、奴等はアレを使わざるを得なかった――」

「“女王クイーン”、それは……」


 察した様子のシオンに、麗句は頷き、言葉を続ける。


「奴等、“疑似聖人”の力は、この世界を書き換えてしまう程に大きい。故に、それは奴等が発動おこした“救済”の進行にすら影響する。――だから、奴等は限られた人員しか、この戦闘に参加出来んのだ。恐らく、いま前線に出れるのは、あの“殺戮者スレイヤー”のみ」


「……なるほど。あのカードは切ったのではなく、切らざるを得なかった。たとえ、それによって“獣王キング”の参戦を招いたとしても――」


「ああ……だから、この袋小路のような状況にも、突破口はある」


 “希望は、まだ死んではいない”。


 その麗句の結論に呼応するように、”黒鉄の神機龍ジン・ギガンティス“の巨尾が竜巻のように渦を巻き、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”へと襲い掛かる!


 だが、悪辣なる三頭邪龍は、損傷の自己修復のため、うずくまっていた雷威我の機体を三つ首で咥え、盾として活用!


 巨尾の猛打を凌ぎ、逆に破壊光線を、”黒鉄の神人龍ジン・ギガンティス“へと叩き込んでいた。


「グッ……!?」


 襲い来る衝撃と損耗に、響の口内に血の味が満ち、全身の筋肉が呻き声を上げる。


 “獣王キング”の動きを制御し、重輝醒剣を振るおうにも、自分を遥かに凌駕する“獣王キング”の力と生命いのちは、その制御を跳ね飛ばし、縦横無尽に暴れ狂っている。


 怒れる“荒神”の神威チカラは、絶望を喰らい希望と成した騎士を持ってしても、御し切れぬ程に強大で、無慈悲であった。


「ふん……ソイツにただ、しがみついてるだけなら、文字通りの“お荷物”だなァ、“天敵種イレギュラー”……!」

「……!」


 “殺戮者スレイヤー”は、嘲りとともに邪龍を操演。


 双翼を羽撃はばたかせ、巨体を大きくジャンプさせた三頭邪龍が、“獣王キング”の黒鉄くろがねを猛然と踏み付ける……!


 “聖人”の類とは思えぬ程、野卑で獰猛な蛮行を、響は重輝醒剣を盾のように構え、防御ガード。僅かでも、“獣王キング”のダメージを軽減する。そして、


雷威我ライガッ! “速射迅雷破壊砲ブレイジング・バルカン・マキシマム“!」


 唸る迅雷!


 盾代わりにされ、重い損傷ダメージを負った雷威我ではあるが、“輝神金属アーシウム”の鉄人の神威チカラ伊達だてではない。


 主の声に即座に反応した鉄人は、胸部に迫り出したバルカン砲を斉射。邪龍を操演する“殺戮者スレイヤー”の頭部へと、痛烈なる一矢を報いていた。


 脚部から推進剤を噴射し、”黒鉄の神機龍ジン・ギガンティス”へと飛び付いた雷威我は、主が負う反動を肩代わりするように、一種のブレーキとなって“獣王キング”の暴威を受け止めていた。


 健気とすら言える、その鉄人の行動に、“獣王キング”は愉しげな息をこぼす――。


「……“神威からくり遺児”か。面白い。貴様の持つ全てのえにしを持って、“われ”を御してみせよ……」

「…………」


 内蔵が吐き出した血を、再び飲み込み、響は“獣王キング”からの重圧を、真っ向から受け止める。


 “黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”が、前線に出た影響か、“神黎児アダム”の“歌”や攻撃は、一時沈静化している。


 ――ならば、この貴重な“隙”に、自分はこの“神”を乗りこなし、あの邪龍を斃す。斃さねばならない。


 焦燥にも似た決意が、響が纏う黄金ひかりを揺らし、たぎる血潮をはやらせる。だが、


(焦るな、若人よ――)

「……!」


 鎧装ヨロイから、鎧装ヨロイに宿る“黄金氣マナ”から、波紋のように、澄んだ声音が響き渡る。


 響の精神に直接響く、その声は、響に宿る“黄金氣マナ”の源泉――“守護者”のものである。


(“神”とは、操り、制御するものではない。“神”とは我等の心に、森羅万象に宿り、共に在るもの)

「……………」


 穏やかに、緩やかに紡がれる言葉は、流水のように、響の精神に浸透し、道をひらくように、その内なるを開かせる――。


(耳をすませ。彼の御心に、生命の鼓動に、自らの五感を、その第六感を預けるのだ――)

「第六感、を……」


 肉体のを閉じ、断つ事で、ぎ澄まされる、“感覚の眼シックス・センス”。


 そのが捉え、五感を撫でる、大きな生命いのち奔流ほんりゅう)。その生命いのちの大河の中で、己の身体からだを魂ごといだくような、雄大な鼓動が響く――。そして、


「ふん……瞑想とは余裕だな、“天敵種イレギュラー”!」 

「……!」


 刹那! 雷威我ライガの“速射迅雷破壊砲ブレイジング・バルカン・マキシマム“により、罅割れた仮面を投げ捨て、野卑な素顔を露わとした“殺戮者スレイヤー”の操演が、邪龍を咆哮させる!


 放たれた破壊光線の渦を、重輝醒剣“玄武”で受け止め、響は自身がまたがる、大いなる生命いのちへと、身を投げるように、たけ生命いのちを重ねる――!


「オオオッ!!」

「……!」


 瞬間、確かに重なった、二つの生命いのちが、堅固な壁となり、破壊光線の渦を、重輝醒剣の一振りとともに一蹴! “殺戮者スレイヤー”へと跳ね返していた。そして――、


(これは……)


 強烈な衝撃とともに、“獣王キング”の生命いのちの奔流を五感で、己の生命いのちで受け止めた響は、一つの異常を感知。


 自身が跨る、黒鉄の獣へと視線を落とす。


「アンタは……」


 ……もっと早くに気付くべきだった。


 邪龍による“黄金氣マナ”の捕食が緩やかになっている事に。


 黒色の地金を晒していた自身の鎧装ヨロイが、黄金を取り戻しつつある事に。


 自分が、“救われていた”事に。


「奴に“喰わせて”いるのか、自分の生命いのちを。俺の“黄金氣マナ”の代わりに――」

「……つまらぬ事だ、“小さき者”よ」


 こたえた“獣王キング”は、重装甲の下で軽く鼻を鳴らし、態勢を整えつつある“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”を見据える。


「……あ奴に我が命を喰らい尽くす事など出来ぬ。そして、一度は我をたおした人類おまえたちが、アレに敗れる事も、我はゆるさぬ――」

「……!」


 気合を入れるように、“獣王キング”の巨尾が響の背中を一撃し、響は面食らいながらも、彼の意志を把握する。


 同時に、響の”眼“は、邪龍に絶えず喰らわれながらも、熱く荒ぶる“獣王キング”の生命いのちを感知。


 その生命いのちに自分自身を、魂を、より深く重ね合わせるように“感覚の眼”を開き、響は自らの心を、生命いのちを、更なる高次元へと駆けのぼらせる――。


「……かつての因縁故、“手は貸す”。だが、奴をたおすのは、我を御し、我を乗りこなした“人類おまえ”でなくてはならない――」

「……承知している。だが!」


 そして――響が、“神”に示すのは己の意志と覚悟。


 響の決意と連動するように、鎧装ヨロイを巡る“黄金氣マナ”が、頭部、胸部、前腕部、脛部に集中する……!


「俺はアンタを制御しない。操りもしない――」

「むぅ……?」


 “獣王キング”に騎乗する為に、“黄金氣マナ”の運用を、四肢の筋力強化と、正面からの防御性能に特化させた鎧装ヨロイは、口顎クラッシャーや腹部など、鎧装の大部分を黒色に染めていた。


 しくもその配色は、“獣王キング”の黒鉄くろがねと同調し、彼等のシルエットを、凄烈かつ、雄壮にけ合わせる――。


「命を護る者として……“共に立つ”!」

「面白い……」


 自らの背に跨り、重輝醒剣“玄武”を雄々しく構える人類ニンゲン)に、“獣王キング”は咆哮で応え、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”へと突撃を開始する!


 同時に、“黄金邪龍樹アウルム・マレフィクス”も、翼と一体化した、前脚のような部位を使い、四つん這いになって突進を開始!


 黒鉄と黄金が、凄絶な衝突音とともに激突し、よこしまな三つ首が黒鉄の巨躯に、蛇のように絡み付いていた。


(……だかな、“護る者”よ)

 

 互いに生命いのちを重ね、神人一体となった響……“神絆輝士ゴッド・ライダー”を内なるで見据え、“獣王キング”は、刻一刻と破局へと近付く戦場へと、“神”の五感を磨ぎ澄ませる――。


(……この戦場で、真に“命を払っている”のは、我ではないぞ……)


NEXT⇒第34話 解答こたえはいつも、無慈悲な嘘―“No quarter”―

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