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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第30話 勇者が行く―“to me to you”―

#30


「よし……っ!」

「“円盤(アレ)”が、“円盤(アレ)”が一機落ちたぞー!」

「助かる……助かるのかッ!? 俺達……っ!?」


 硝子ガラスのように罅割ひびわれた虚空そらぜる、“畏敬の赤アームド・ブラッド”のほのお


 その光景に、世界中の人々の喉が、魂が、歓喜の声を響かせていた。


 十字に巨体を砕かれ、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の焔を上げながら、その大仰な残骸を墜落させる、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”の御姿すがたに、状況を見守るアルの腹腔からも、歓喜の息が吐き出される――。


 この災禍の中、“見ているだけ”の自分を叱咤するように、少年アルは自らの震える脚を叩き、眼前の戦闘を、その大きな瞳で、改めて見据えていた。


(やっぱり……やっぱり兄ちゃんはすごい……!)


 “兄”は、キョウ=ムラサメという男は、彼自身がアルに告げたように、“絶望(じぶん)”に飲まれずに、“希望じぶん”という光を、世界中に証明してみせた。


 いま、眩い輝きとともに、目の前に着地した、黄金の騎士が示したのは、現状が“行き止まり”ではない事の証明。


 世界の絶望を挫く、眩き“希望ひかり”。


 それは、“神”の理不尽で、無慈悲な“救済”に対する、人類の初めての“戦果”でもある。そして――、


(……確かにいた。俺以外に円盤アレに仕掛けた奴が――)


 響の思考を過ぎるのは、一つの“事実ファクト”。


 円盤の巨体を“輝醒剣きせいけん”で断った瞬間、自分とは別方向から、円盤を破壊する“力”があった事を、響の五感は確かに感知していた。


 それは、“煌輝じぶん”に匹敵、あるいは凌駕する程の威力チカラを備えた一撃――。


 円盤を破壊せしめた功績の比率は、むしろ、“あちら側”にあったと考えても良い程の一撃だった。


(……そうか)


 “抗っている者”がいるのだ。自分たち以外にもまだ。


 理解と同時に、響は、熱く昂ぶる自分自身を認識する。


 その現実は、響の心身を熱くし、輝醒剣を握る五指に、確かな活力を付与していた。


「我々以外にも、戦う者が――」

「へっ……どこの馬鹿野郎だ! めでてぇぜ!」


 いまだ増殖を続ける“御使”たちを蹴散らし続けながら、人類ニンゲンたちは響と同様にその事実を察知。


 ガルドとジェイクの軽口に僅かに口元を緩めていた。だが、


「……愚かな。つつしみをれ、“猿”ども。その短慮。この“処刑者エリミネーター”も、流石に憐れみを禁じ得ぬ――」

「……!」


 “疑似聖人アルタネイティブ・クライスト”達にもいまだ、動揺はない。


 どこか憂いを帯びた“処刑者エリミネーター”の美声こえと共に、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”たちはその活動を活性化。


 頭が割れんばかりの“声”を、人類の脳内に轟かせていた。


「目醒めるぞ、“物質としての神”がもたらす、真なる“祝福”――“終焉ほろび人類ヒト”が」

「ほろびのひと、だと……?」


 大地が砕け、荊棘いばらに覆われた、巨大な“子宮まゆ”が鳴動する――。


 最もおそるべき、忌むべき“生命いのち”が、この“現実世界”へと、這い出さんとしていた。


※※※


「強度チェックOK、電流による負荷下でも着装状態、維持されています」


 ――場所は“煌都”、“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”。


 右腕に、赤い”強化装甲服アンダー・アーマー“を纏わせたレイは、“遺跡技術レリクス・テクノロジー”スタッフの協力のもと、自らの『鎧醒機アームド・デバイス』の起動チェックを行っていた。


 五指を動かし、自らの思考・神経と連動する“醒石”のエネルギーを感知したレイは、協力してくれているスタッフに頷くと、『鎧醒機アームド・デバイス』に挿し込まれた“相棒バディ”へと微笑む。


「思考との接続・連動も問題ありません。“相棒バディ”自身は、俺の心に応えてくれてる。……怯えてはいても、抗いたいんだな、お前も」

「“音声出力”はまだ、ありませんね、普段はお喋りな“彼”が――」


 平時であれば、『鎧醒機アームド・デバイス』に搭載されたAIを“補助脳”とした“醒石”との、簡素な会話が可能であったが、現状、その機能は回復していない。


 それは“醒石かれ”自身が、ふたたび遭遇した、この“滅びの災禍”に、“言葉を失っている”という事かもしれない――。


「大丈夫……! 言葉なんかなくても理解わかってます。“相棒こいつ”の気持ちはね!」


 絶望の帳の中、僅かな希望を縫い合わせている者たちが此処ここにもいる。


 市街そとでの大きな戦果が確認される中、“煌都”の“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”では、世界の統治機関である“煌都こうと”防衛の為、それぞれがそれぞれの仕事を、慌ただしく進めていた。


 そして、対醒獣・遺跡技術 特務機甲隊『PEACEピース MAKERメーカー』隊長、リオン・マクスウェルもまた、自身が立案した作戦への参加を申し出てくれた十六戦団員とともに、出動前の最後の詰めを行っていた。


「ヘリと車両の確保、完了しました。いつでも出発出来ます……!」

「……ありがとう。すまないな、我々の無茶に付き合わせてしまって」

「無茶をする身体が残ってるんです。やらない理由はないでしょう?」

「……そうか。そうだな」


 自分直轄の部下ではないにも関わらず、作戦への同行を志願・快諾してくれた、十六戦団の団員たちの言葉に深く頷きながら、リオンは、機器から印刷された資料を確認。


 自身の立案した作戦の、決行を決断する。


「……よし、これで“醒石”化をまぬがれた人々の位置は割出せた。これより救出に向かう」


 いよいよ行動を開始せんとする“英雄リオン”に、“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”のざわめきが大きくなる。


 十六戦団団長である、イズマイル・ナナヤ及び首脳陣は、目まぐるしく動く事態の把握と、陣頭指揮に追われ、リオン達を“諌められる”状況にない。


 十六戦団の防衛任務はここ“煌都”だけでなく、全世界が対象なのだから当然といえば、当然である。


 リオン達の自殺に等しい“独断専行”は、それぞれの作業に勤しむ団員たちの心をざわつかせ、軋ませていた。


「ちょっ……ちょっと待ってください! リオン隊長!」

「……! ボブ――」


 その“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”のざわめきの中に、“遺跡技術レリクス・テクノロジー”の統括責任者である、ボブ・マルゲリータの慌てふためいた声が響く。


 印刷された資料を手に、行動を開始しようとするリオンとレイに、ボブは“醒石”化した片脚を引きずるようにして追いすがり、何とか二人の足を止めようと四苦八苦していた。


「い、いまの状況では“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”の発動は不可。発動しても出力一割以下のハリボテにしかならない……! ハッキリ言って死ににいくようなものです! やめてください! リオン隊長……!」


 いま、リオンの手に握られている資料は、“醒石”と異なる生体反応の位置を割り出し、印字した“生命いのち地図マップ”と言うべきものである。


 そこに記された生命いのちが、救うべきものである事は疑いようがない。


 ――だが、それを救おうとする者の生命いのちもまた、失われてはならないもの、かけがえのないものではないか。


 この世界の“財産”と呼ぶべきものではないか。


 それを、わかりきった“死地”に送り、むざむざ死なせるわけにはいかないではないか――! 溢れる感情が、ボブの両肩を大きく震わせる。けれど、


「――しかし、この状況下で動けるのが私たちだけなのもまた事実だ。“戦う力”を残しているのも。同時に、“醒石”に選ばれた人間としての責任も、我々にはある」

「………」


 リオンの“正しさ”は、ボブの懇願を、想いを受け止めながらも、凛然と押し通る。


 そして、助けが必要なのは、市民だけではない。“醒石”化を免れた十六戦団の団員たちもまた、市民を救う為に、市街で危機に瀕している。


 遺跡技術レリクス・テクノロジーを用いない旧式(アナログ)の武装に切り換え、御使と交戦状態にある彼等を、不完全でも“対抗手段”を持つリオン達が捨て置けるわけもなかった。


「大丈夫……! 大丈夫ですよ! “強化装甲服アンダー・アーマー”も“救命仕様セーブ・モード”なら起動出来ますし、きっと市街そとで凱さんとも、カイルとも合流出来ますから!」

「レイ……」


 赤の“強化装甲服アンダー・アーマー”を装着した右手をボブの肩に置き、溌剌はつらつと告げるレイに、ボブの表情がくしゃくしゃに歪む。


 その年齢にそぐわない、大きな傷痕を愛らしい顔に残す、この青年は、どんな時でも下を向かない。


 その鮮やかな赤を宿した瞳で、いつも、真っ直ぐ前を見据えている。


 眩い、その微笑みに、ボブはうつむき、栗色の瞳から、ただ雫をこぼすしかなかった。


「……わかってる。わかってますよ、隊長も、レイも『PEACEMAKERピースメーカー』だ。装備品を預かる身として二人の役目も、その“力”も、よく理解してます。だけど……!」


 滂沱の涙でグチャグチャとなった顔を上げ、ボブは二人に告げる。


「僕は……大事な“友だち”を失くしたくない! 我が儘かもしれないけど……皆に生きていて、欲しいんです……!」

「ボブ……」


 助けを求める生命いのちがある中で、防人さきもりである彼等を引き止める事が、破廉恥はれんち極まりない事だとは理解している。


 それでも、それでも伝えておきたかった。


 彼等もまた、生存を望まれる生命いのちなのだと言うことを。


 その友の率直な言葉に、リオンは、ボブの前にその身をかがませ、自分を引き止めようとする彼の手を握る――。


「ありがとう、ボブ。君のその気持ちは、私たちの誇りだ。感謝する」

「隊長……」


 よく似た軌跡を辿りながら、同じように多くのものを喪いながら、彼等は此処、“煌都”で出会った。


 数多くの喪失の果てに、“煌都”に辿り着いた彼等にとって、“煌都”で得た、新たな仲間は、二度と喪えない、かけがえのない存在ともである。


 その点において、彼等の想いに、1ミリの違いもない。


 得難く、別れ難い。


 それが嘘偽りない、彼等の関係だった。そして――、


「……それでも、“前に進む”んですよね、リオン隊長」

「……!」


 重く、湿った空気を散らすのは、凛然とした、淑女の美声こえ


 耳朶を撫でる堂々とした音色が、視界に揺れる、薄紅のメッシュを入れた白銀プラチナ短髪ショートカットの煌めきが、“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”にある全ての意識を、入口に立つ、“彼女”へと向けさせる――。


「姫様……」

「姫――」


 敬意と憧憬が入り混じった声が、そう口々に呟き、彼女を出迎える。


 ――“煌都”の現首相、オズワルド・D・ラ=ソリムの一人娘であり、“煌都”の、“戦後復興”の偶像アイドルを務る少女、リディア・D・ラ=ソリム。


 彼女は白と紅紫色マゼンタを基調とした、綺羅きらびやかな“衣装ドレス”をまとい、花のような芳香とともに、其処に立っていた。


「な……何やってんだよ! リディア……! 君はちゃんと官邸の避難施設シェルターにいなくちゃダメじゃないか! こんな前線とこに――」

「あーら、どの口が言うのかしら。この口? この口かぁー?」

「あがががが……っ?」


 姫君の可憐な指に、思いきり口を引っぱられて、『PEACEMAKERピースメーカー』の前衛アタッカー、レイ・アルフォンスはその手をバタバタと宙に泳がせる。


 その姿に、ニコリと微笑むと、姫君リディアはその指を離し、白い手のひらで、レイの頬を包み込む――。


「ボブさんを、この“わたし”を悲しませて――少なくとも、いま“無謀”を責められる立場じゃないゾ、君は」

「リディア……」


 頬を包む温もりと、少し潤んだ勝ち気な瞳に、レイは抗議の言葉を奪われ、彼女の瞳を見つめるしかなかった。


 そこにあるのは、“個人的に”は見慣れていても、直視するにはあまりに眩い、“煌都”の偶像アイドルにして、世界の姫君ヒロインである少女の美貌。


 そして、切なる想いに少し歪んだ、その表情かおは、レイの意識を強く捉え、離さなかった。


「……でも、私も理解してるんだ。結局、私たちはレイくんに、リオン隊長に頼らなくちゃいけない。悔しいけど、嫌だけど、誰かが、“責任を持って”その背中を押さなきゃ、見送らなきゃいけないんだって」


 その悔しさを噛み締めるように、唇をきゅっと結んだ少女は、少し俯いた後、とびきりの笑顔を作って伝える。


「だから、私、来た。ちゃんと見送るために、“必ず帰ってきなさい”って言うために」

「姫……」

「姫様……」


 あえて、“もっとも辛い役回り”を引き受けた姫君に、“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”内の十六戦団メンバーたちは口々に、忸怩じくじの声を漏らす。


 自分たちは、“非常時だ”、“仕方ない”という言い訳で、“彼等は醒石持ちである”という言い訳で、彼等の独断専行を黙認しようとした。


 ――いや、黙認という言葉は自己弁護が過ぎる。


 結局は、市民の救助を、旧式アナログの装備品で足掻く同胞の救助をも、彼等に無言で“押し付けて”いたのだ。


 ……その“業”を、姫君リディアは、自らの華奢な肩に背負ってくれたのだ。


 いまほのかな絆を、恋をはぐくんでいる自分の“騎士ナイト”を、死地に送るという、酷に過ぎる役割さえも。


「リディ……」

「みんなを助けて、必ず、必ず生きて帰るんだよ? 私たちはまだ何もしてない……! してないんだからね……!」


 凛とした外殻が剥がれ落ちた、年相応の少女の声が、聞く者の胸に突き刺さる――。


 本来なら、青春を謳歌すべき、年端のいかぬ若者に、自分たちは不相応な重責を課しているのだと、誰もが唇を噛み、目を伏せていた。


(……子供にこんな事をさせてしまう。我々、大人の責任だな)


 その忸怩たる想いに、隊長であるリオンも改めて背筋を伸ばし、一礼。


 感極まる部下レイの涙目に頷くと、姫君リディアへと、その整った唇を開く。


「……我々は必ずや市民を救出し、貴女の御心に応えます。ですから、どうか御身も安全な場所に」

「いいえ、この格好の通り、私も“私の仕事”をしにきたんです。ちゃんと“利用”してください? リオン隊長!」

「姫……」


 “姫君”としての衣装ドレス、自身の“戦装束いくさしょうぞく”をひるがえし、リディアは大型スクリーンに映し出された、罅割ひびわれた虚空そらを見つめる。


「あの空から響いた、優しい声――。あの声が教えてくれました。私がやるべき事は、全世界に、“これが世界の終わりじゃないんだ”と伝える事――円盤アレやかましい声を掻き消す事! それが私の仕事なんだって」

「…………」


 理解出来る提案だった。円盤群の“声”が、精神攻撃の類である事を考えれば、煌都の希望の偶像であるリディアの声、パフォーマンスは人の心を支える土台、活力と成り得る。


 そして、細い脚を震わせる恐怖を飲み込み、凛然と立つ姫君リディアの様子に、“重荷を背負わせている”という、自分の考え自体が、大人の傲慢なのかもしれないとリオンは思い直し、襟を正す。


 ならば、自分も彼女リディアがしてくれたように、責任を持って、彼女の“戦”を後押ししよう。


 助けを求める市民が、此処にいる皆が、必ず明日を迎えられるように。


「……確かに救出作戦には、市民を誘導するアナウンスが必要となる。姫様の御助力をお願いしたい」

「喜んでお受けします! リオン隊――」

「待て」


 “……!”


 尊敬する“大人”からの信頼に弾む少女の声を、上方からの野太い声が堰き止める。


 声の主は、煌都十六戦団の団長である、イズマイル・ナナヤ。


 筋骨隆々の肉体とは、不似合いな整った顔立ちは、噛み締めた、幾つもの苦渋に歪みながらも、堂々とした発声で、リオン達へと言葉を投げていた。


「姫様にその任務をお頼みする“責任”は、このイズマイルがとる。……“現場”がそう何もかも背負うものではないぞ、リオン・マクスウェル」

団長ナナヤ……」


 自らの耳朶を撫でた、団長の“同期”としての声に、リオンの声も自然と、若き日の声音それへと戻る。


(お前が、お前たちが背負った“汚名”は、俺が上層部うえに行き、必ず晴らす――だから待っていてくれ)


 イズマイルの懐かしい――暑苦しい声が胸に響く。


 数多の苦難と因果の果てに、地位も、立場も大きく離れた二人であったが、この世界の終わりにも、二人の心は離れる事なく、等しく並び立っていた。


「……すまん、リオン。“あの事件”以降、煌都はお前たちを冷遇しながら、その実、頼りきってきた。いまやこの煌都で、“たった四人の適性者”であるお前たちに。その罪と責は、すべて、このイズマイルの双肩にある」


「罪も責もありませんよ、我々はいまも自分の場所で自分のやるべき事をしている。貴方は上層部うえで、私は現場ここで。――護りましょう。この“煌都”を。この“世界”を」


 自らの立ち位置からは見上げる位置にある指揮席イズマイルへと、力強く告げると、リオンはレイ、十六戦団員を連れ立って、救出作戦の最終装備確認へと向かう。


 それを見送りながら、イズマイルは頷き、憂いを帯びた瞳に、防人さきもりとしてのほむらを灯し直す――。


「……そうだな。頼むぞ、『PEACEMAKERピースメーカー』。必ず――生きて帰ってこい」




「いいのかい……? 君は姫様ともっと話したかったんじゃないか?」

「……からかわないでください。いいんです。必ず帰って、たくさん話しますから」


 十数分後。市街そとへと続く地下トンネルの中。


 隊長リオンからの言葉に、レイは潤んだ瞳を擦り、手にした電灯(ライト)だけが先を照らす、暗き行路を見据える。


「隊長は、怖くないですか? 『鎧醒アームド』もマトモに出来ない状態で――」

「怖くない、とは言えないな。だが、君と同じだ。この状況で――」


 二人の脚が、同時に前へと踏み出される。


「「――黙ってなんかいられない」」


 “着装スーツ・オン”……!


 重なる二人の声と共に、二人の身体を赤と翠の“強化装甲服アンダー・スーツ”が包み込み、発光。


 二人の識別色(パーソナルカラー)を、行路の暗闇に刻み付ける。


 それは、いままで“煌都”を、人々を護り続けてきた“希望ひかり”の二色。


 “特機鎧装ヴァリアント・アーマー”への『鎧醒アームド』はいまだ出来なくとも、人間ひと生命いのちと安寧を護る勇者の雄姿すがたは、確かにそこにあった。


「これより作戦を開始する。……各員、必ず生き残れ。どんな状況にあっても“自分の命を拾い忘れるな”」

「――了解!」


 リオンの言葉に、作戦に参加する、全ての人員が“生存”の決意と共に、市街に続く行路を見据え、歩き出す。


 ――世界は、まだ終わっていない。互いに想い合い、諦めず足掻く意志が、まだ此処にある。


 “救済”の発動から約一時間。人類はまだ、“生存”していた。


NEXT⇒第31話 ほろびのひと―“ADAM”―

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