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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第29話 畏れを知らぬ獣―“UNBROKEN”―

#29


【…………】


 大樹の如き巨脚が、ぶ厚い岩盤を踏み砕く。


 “生物としての神”――“獣王キング”は、漆黒の巨尾を揺らしながら、人類と“御使ミツカイ”の戦闘、その行方を、静かに注視していた。


 “獣王キング”にまとわりつかんとする“御使ミツカイ”は、“王”の背鰭せびれより放射された青い光に灼かれ、消失。


 “王”の観察を妨げる事すら叶わず、神の御使ツカイたちは無価値なちりとなり、朽ち果てていた。


 そして――、


「ふっ……“人類ニンゲンが招いた人類ニンゲンの災厄”には、不干渉か? “生物としての神”よ――」

【…………】


 “王”の聴覚を撫でるは、不遜なる声。


 この災禍、救済の首謀者である“破壊者ジーザス”――信仰なき男(フェイスレス)は、不遜にも“獣王キング”の背後にその身を浮かばせ、見下ろすように言葉を投げていた。


 ――“物質としての神”の申し子と、“生物としての神”の対峙である。


 響たちが抗う、最前線からは遠く離れた戦場の隅でありながらも、その空気は最前線以上に軋み、砕け散りそうなほどに張り詰めていた。


「“もう一人の私”は、“救いを求めぬ”貴方に強く思い入れていたようだが、私は違う――。貴方が人類の選択に介入するのなら、全力を持って“根絶”する」


 悲願であった“救済”が、発動済みであるが故の余裕か、フェイスレスは“獣王キング”のみを視界に捉え、悠然と、厳かに言葉を紡ぐ。


 それに対する“獣王キング”の返答は、太い弦を革手袋で擦ったかのような、低い“咆哮こえ”である。


【……相変わらず、さえずるものだな、“壊す者”よ……】


 その“咆哮こえ”の中、徐々に形作られた人語が大気を伝い、“破壊者ジーザス”の聴覚に刻み込まれる。


 振り返り、己を射抜く白濁とした視線に、“破壊者ジーザス”の皮膚が粟立ち、高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”の粒子を止めどなく溢れさせる――。


【……遥か遠く、過ぎ去った時代トキの中、我と“小さき者”どもは戦った。我は彼奴きゃつらの“根絶”を、彼奴らは我からの“生存”を望んでな……。そして、あれほど愚かで、あれほど脆弱でありながら、あれらは我を一度は“たおして”みせた】


 噛み締められた歯牙の隙間から、強い情動に満ちた息が零れ、僅かに細められた、“王”の白濁とした瞳に、かつて、海底で相見えた老人、その魂の輪郭がうっすらと蘇る――。


【貴様が我をたおせたのも、所詮しょせん、その猿真似に過ぎん――】


 自らをたおした者への敬意とともに断じ、“獣王キング”は、不遜なる“救世主クライスト”へと、その咆哮ことばを刻み付ける――。 


【“人類ニンゲン無礼ナメるな”、小さき者(フェイスレス)――】

「……………」


 “獣王キング”の咆哮ことばに、黒革に秘匿された、顔のない男(フェイスレス)表情カヲに、修羅が宿る。


 その胸を騒がせるのは、この“生物としての神”が、最凶にして最大の障害となり得る、予感と確信。


 そして、その予感と“獣王キング”の言葉を裏付けるように、人類の反抗も、次なる段階へと移行していた。


指令オーダー……! “ヨルムンガルズ”……ッ!」


 世界の中心である“煌都”にて、“蛇鬼(カシウス)”の“音声指示オーダー”に従い、巻き上がる粉塵の中から一機のバイクが出現。


 “御使ミツカイ”たちを撥ね飛ばしながら主を追うそれは、倒壊したビルの壁面をジャンプ台のようにして、次々と飛び移りながら、疾走。


 罅割ひびわれた虚空そらへと羽撃はばたく“蛇鬼カシウス”と並走するように、その身を踊らせていた。


 ヘッド部分で眩くギラつくのは、ライトではなく“眼”。その紫色のボディは血の流れる生きた肉であり、確かな鼓動がその体内で脈打っている。


 紫の毒蛇コブラを想起させる、その形状フォルムが示す通りに、“彼”は凶暴かつ獰猛な軌道を描きながら、地を埋め尽くす“御使”たちを踏破していた。


 “彼”と“蛇鬼カシウス”が目指すのは、人類を“結晶化”させる災禍の元凶――“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”の懐。


 それを阻むべく、円盤群は“御使”たちの進化の促進と、さらなる“種子”の射出を開始。


 背の甲殻を破り、這い出した荊棘を翼状に織り上げた“御使”たちは次々と飛翔し、空中で開花した“種子”は、荊棘の羽蟲となって“蛇鬼カシウス”へと殺到する……!


「やはり……大元を絶たねば、焼け石に水か」


 紫の鎧装の各部にしつらえられた棘状の意匠――“紫獣棘シアン・トリガー”が放つ高熱で、まとわりつく羽蟲を焼き払いながら、“蛇鬼カシウス”は、地上へと下降。


 より強力な“突破力”を求め、紫の鎧装ヨロイを、爆走するヨルムンガルズの背へとまたがらせる。


鎧醒アームド】【鎧醒アームド】【鎧醒アームド


 ヨルムンガルズのグリップを握り、紫の閃光ひかりとなり駆け抜ける“蛇鬼カシウス”。


 その前に、“神幻金属オリハルコン”を召喚し、“鉄巨人(ゴーレム)”と化した“御使ミツカイ”たちが立ち塞がる。


 更に、地面を覆う、おびただしい荊棘いばらが、ヨルムンガルズの車輪に絡み付き、その進撃を著しく減速させつつあった。


 だが、


「活路をひらけッ! “弐号機ベヒモス”……!」

【……!?】


 瓦礫を押し退け、出現した銀の腕が、荊棘を引き千切り、進路を確保。


 銀の腕は更に、掴んだ石柱の如き、巨大な瓦礫がれきを、“御使”へと投擲……! “本体”へと自らを折り畳み、サイを想起させる大型バイクへと変形していた。


 ――そうだ。“ヨルムンガルズ”とは、一機の騎獣マシンの呼び名ではない。


 現在いま、“蛇鬼カシウス”が跨がる“壱号機ガンド”を始めとする“三騎からなる群獣ユニット”、その総称なのだ。


 “蛇鬼カシウス”たちの前方に飛び出した、“弐号機ベヒモス”は、“御使ミツカイ”と荊棘いばらを蹴散らしながら爆走……!


 立ち塞がる“鉄巨人ゴーレム”の腹部を、禍々しく旋回する大角で撃ち貫いていた。


「“弐号機ベヒモス”、臨戦形態バトルモード……!」

【――___--___――ッ!!!!!】


 “蛇鬼カシウス”の“音声指示オーダー”を受けた“弐号機ベヒモス”は、その巨体を立ち上がらせるように車体を持ち上げ、変態を開始。


 犀と蛇を混ぜ合わせたかのような、凶暴な頭部を持つ、二足歩行の騎獣マシンとなって、己を飛び越え、疾走する“蛇鬼カシウス”の背後を護っていた。


 そして――、


「後の事は考えなくていい……ッ! お前の全力を見せろ! “雷威我ライガ”!」

【――――__--__――――ッ!!!!!】


 響の檄に応えるように、“輝乗形態ビークルモード”に変形を遂げた“雷威我”は、最大加速フルスロットルで、“赤”の戦場を疾駆する。


 だが、“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達の“概念干渉”による妨害であろうか。


 “雷威我ライガ”の最大加速を持ってしても、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”との物理的距離は、容易には縮まらず、車輪は荊棘いばらに覆われつつある大地を、削り続けていた。


 ――しかし、それを黙して享受する人類ニンゲンではない。


「ふっ……!」


 麗句が“奇蹟を殺す右掌ファンタズム・ブレイカー”から放った光が、“概念干渉”を荊棘いばらごと消し飛ばし、響が疾走する大地を正常化。


 その援護射撃により、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”の巨躯は、響と雷威我の目前にまで近付いていた。


 それは、絶好の反撃の好機――、


「ではあるがなぁっ!!」

「……!」


 刹那。頭上から踊りかかった巨槍を、反射的に動いた“輝醒剣”が受け止める……!


 巨槍の主である“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”・“殺戮者スレイヤー”は、響の腕を“輝醒剣”ごと折る勢いで圧力を強め、仮面の口顎クラッシャーから獰猛な息遣いを響かせていた。


「くっ……おぉッ!!」


 響は怯まず、“黄金氣マナ”で増強(ブースト)した筋力で、巨槍を跳ね上げるも、“殺戮者スレイヤー”の圧力は凄まじく、膝頭の突起を“雷威我ライガ”の機体に突き入れた彼は、その鋭利な五指を叩き付けるように、“雷威我ライガ”の突進を受け止める……!


「はぁ……っ! 手緩いぞ、“天敵種イレギュラー”……っ!」


 自らへと響が閃かせた“輝醒剣”をも、巨槍で悠然と受け止めた“殺戮者スレイヤー”は、雷威我の頭を押さえ付けていた五指を固め、煌輝の仮面マスクを執拗に殴り付ける……!


 仮面を構成し、防護する“黄金氣マナ”が、剥がれ落ちるように飛び散り、その一部が罅割れる――。


「ふん……! どこまで仏頂面をキメられるかな? “人柱(ニンゲン)”!」

「…………」


 ――だが、進撃する、響の意志も頑強にして鋭利。


 いかに仮面が砕け、その破片が皮膚を裂こうとも。


 血に濡れた額と、赤い瞳が露出しようとも。


 響の意志に、後退・停滞は、存在しない。


「おおオッ!」

「ㇴ……!?」


 響の精神に応えるように、輝きを増した“輝醒剣”の刀身が、巨槍へと食い込み、“殺戮者スレイヤー”のかいなを押し返えさんと唸りを上げる……!


 己の腕を痺れさせる、確かな圧力に、“殺戮者スレイヤー”は巨槍の柄に設えられた引鉄トリガーを弾く。


我雷となり(サンダースティ)神を呪い竜を殺す(ール・ゲオルギオス)“……ッ!」

退けぇえ――ッ!」


 巨槍から弾けるように轟く、雷鳴と電撃……!


 その衝撃を真っ向から受け止めながらも、響が振り抜いた“輝醒剣”が、巨槍を両断。


 その特効で、残骸を塩の塊へと変え、木っ端と砕いていた。


「なっ……」


 事前に解析した性能スペックを、遥かに凌駕する響の一撃に、“殺戮者スレイヤー”が息を飲んだ刹那、速度を増した“雷威我ライガ”が、“殺戮者スレイヤー”の身体を撥ね飛ばし、“円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”への爆走を再開していた。


 そして――同時刻、“煌都”。


 同じく、““円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”へと爆走する“蛇鬼カシウス”の背後を、鉄巨人たちが放ったミサイルの群れが追走……!


 しかし、その射線上に、威風堂々と屹立するは、“蛇鬼カシウス”の背後を護る“弐号機ベヒモス”の巨躯である。


 蛇とサイが融合したような、雄々しき“騎獣マシン”は、凶暴な咆哮とともに、容赦なき迎撃を開始する……!


【――___--___――ッ!!!!!】


 黒々とした憎悪いかり暴虐ちからが渦となって瓦礫を巻き上げ、破砕する。


 “弐号機ベヒモス”の展開した肩部から放出された、漆黒のエネルギー体が螺旋を描くように渦を巻き、一種のブラックホールとなってミサイル群を飲み込んでいた。


 そして、


「我が道を示せ、“参号機ジズ”」


 “弐号機ベヒモス”が放ったエネルギー体を“餌”として、更なる加速を見せる“壱号機ガンド”の上空に、もう一機の“騎獣マシン”が毒々しい翼を羽撃はばたかせ、出現する――。


 “翼ある蛇”と形容する他ない、毒々しい漆黒の双翼つばさを持つ“騎獣マシン”――“参号機ジズ”は、空を埋め尽くす“御使”たちを蹴散らしながら飛翔。


 “円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”へと至る道を、罅割ひびわれた虚空そらに刻み込んでいた。


「ゆくぞ、同胞きょうだい……っ!」


 遥か遠くの戦場を疾走する同胞きょうだいと息を合わせるように告げ、“蛇鬼カシウス”は、“壱号機ガンド”から跳躍。


 “騎獣マシン”たちを縛る、最後のくさびを解き放つ。


顕現けんげんせよ、“融合螺旋獣バイオレーター”……ッ!」


 “蛇鬼カシウス”の“音声指示オーダー”を受信した、“弐号機ベヒモス”の巨躯が前転するようにして変形。


 巨大な鉄柱のような腕部が脚部へ、凶暴な爪で大地を踏み砕いていた脚部が腕部へと入れ替わる。


 更にその背部へと、“壱号機ガンド”・“参号機ジズ”が連結し、“変態”を開始。


 胸部と思しき箇所の皮膚が蠢き、喰い破るようにして出現した、巨大なあぎとが、禍々しい咆哮を木霊させる――。


「“融合螺旋獣バイオレーター”・レヴィアタン、その暴威で、“神”を飲み込め……っ!」


 産まれし暴獣ケモノは、畏れを知らぬ獣。


 地上にも天空にも、これと似た存在(モノ)はない。


 “壱号機ガンド”の車体ボディ基礎ベースとした、巨大な尾が大地へと突き立てられ、脚部から展開された鉤爪が、“融合螺旋獣バイオレーター”の巨体を固定する。


【――___--___――ッ!!!!!】


 牙とあぎとそのものと言える頭部から放たれる咆哮と共に、放射された漆黒のエネルギー体が渦を巻き、ブラックホールの如き螺旋を形作る――。そして、


雷威我ライガ、俺に翼を……! 奴に届く“力”を……!」

「――-―――-――ッ!!!」


 “円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”の真下に辿り着いた響は、額の“翡翠核エメラルド・コア”が受信したイメージを具現化すべく、号令。


 その“音声指示(オーダー)”を受けた“雷威我ライガ”は、己が“輝神金属アーシウム”の一部を変形させながら射出……!


 其れは、紅と白銀に彩られた、眩き双翼となって、“煌輝”の背部へと装着される。同時に、


khooooooコォオオオオオオ……っ!」


 “蛇鬼カシウス”の異形が、“煌都”にて背部鎧装を展開……!


 その動きと同調シンクロし、“融合螺旋獣バイオレーター”が産み落とし、練り上げた“ブラックホール”が、蹴撃キックの姿勢をとった“蛇鬼カシウス”へといま、解き放たれる――!


「“蛇咬毒吼螺旋撃ヴォーテックス・ヴェノム・ストライク”……!」

「“煌牙天翔ケルベロス・ライジング”……!」


 “蛇鬼カシウス”の背部へと注ぎ込まれた、漆黒のエネルギー体が、彼を猛毒ヴェノムを纏いし流星へと変え、眩き“黄金氣マナ”と共に飛翔する、“煌輝キョウ”の“輝醒剣きせいけん”が“円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”の巨体を一直線に斬り裂く……!


【受ケ、レ――】


 罅割れた虚空そらに轟く、断末魔の如き爆音。


 “蛇鬼”の蹴撃キックと、“煌輝(キョウ)”の斬撃ブレードで、巨体を十字に砕かれた、“円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”は、“畏敬の赤アームド・ブラッド”のほのおとともに爆散……!


 その禍々しい破片カケラを、次々と大地に墜落させていた。


「や、やった……」

「ひとつ……ひとつ円盤アレが落ちたぞ……!」


 響とカシウスによって成された、その番狂わせジャイアント・キリングに、世界中の人々の喉から驚きの、喜びの声が漏れこぼれていた。


 それは、降り注ぐ超常と災禍に、憔悴した人類ヒトの瞳に、心に刻まれる、最初の“戦果”でもあった。


 そして、


「クククッ……フハハハ……ッ!」


 “雷威我ライガ”にね飛ばされ、“戦犯”を演じる事となった“殺戮者スレイヤー”は、爆散する“円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス)”を、伸ばした五指の隙間から見つめ、其れを固く握り締める――。


「こうなりゃ戦争だ……戦争だぜ、“人柱実験体”――」


 人類の“戦果”に呼応するように、荊棘いばらで覆われた、巨大な繭が胎動を始める――。


 “救済”はまだ終わらない。


 その全貌を見せてすらいない。


 立ち向かうは、人類の“不屈”。


 ついえぬ希望ひかりは、まだ眩く輝いていた。


NEXT⇒第30話 勇者が行く―“to me to you”―

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