第28話 破壊の詩、絶望(やみ)を裂いてー“counterattack”ー
#28
「お、おい、あれは……」
罅割れた虚空に映し出された、眩い“黄金”。
神秘の鎧装を纏い、禍々しい円盤群が産み落とした“御使”の群れと対峙する勇士達の雄姿は、否応なく全世界の眼差しを集め、憔悴しきっていたその瞳に、僅かな篝火を灯しつつあった。
“この状況でも、諦めず抗っている奴等がいる――”。
その映像――天空から響いた少女の言葉を補強し、実証するような、その“現実”は、人々の心を静かに奮い立たせ、円盤群が放つ“声”に抗う糧となっていた。そして、
「きれーな、ひか、り……」
祖父母を“結晶化”によって喪失した、幼い少女も、フラフラと彷徨いでた屋外で、その虚空、映像を目撃していた。
眩い、輝甲の騎士達が並び立ち、禍々しい、“御使”の群れを迎え撃つ、その映像は、心神喪失状態にあった少女の心を揺り動かし、そのつぶらな瞳に、大粒の涙を零させる――。
「……んばれ……」
理性や理屈ではない。
衝動に近い感情が、幼い心を突き動かし、その未成熟な唇から掠れた、だが、芯の通った言葉を紡がせていた。
「がんばれぇ……っ! みんなぁ、がんばれぇ……っ!」
天空へと贈られた、幼き少女の言葉が、戦士達に届く事はない。
だが、戦士達はその声を受け止めたかのように、熾烈な戦闘に身を投じていた。
「退け……! 有象無象の御使ども……!」
――いざ、血戦の刻。
人類側の先陣を務める響――“骸鬼・煌輝”の黄金が眩く躍動する。
人類の最終防衛ラインそのものである戦士達は、雪崩れ込む“御使”の群れと激突すると同時に、返り血である、鮮烈な“畏敬の赤”の飛沫をほとばしらせていた。
苛烈な交戦の中、響の重輝醒剣が、群がる“御使“達の甲殻を粉砕。数十体の異形をまとめて跳ね飛ばす……! そして、
「“封印解除”……ッ!!」
「……!」
響の“音声指示”とともに、大剣状の鞘が弾け飛び、露わとなった白銀の刀身が、“御使”たちを瞬く間に斬り伏せてゆく。
“畏敬の赤”の奇蹟、その因子そのものを絶つ、輝醒剣によって斬られた“御使”たちは、塩の塊となって朽ち果てる――。
同時に、大地を埋め尽くす“御使”の海を割り拓くように、銀蒼の閃光もまた、戦場を疾走!
“御使”たちの首を、胴を次々と切断していた。
「神の使い――その不遜な“赤”、この“青”が地に落とす……!」
――閃光の名は、“蒼鬼・月輝”。
輝双剣・三日月の剣閃を、華のように舞わせるブルーは、“御使”の奥に控える本丸、“円盤死告御使”により接近すべく、銀蒼の鎧装を全力で駆動させていた。
「隊長たちの進路は、塞がせない……ッ!」
「ほいさー!(ʃƪ^3^)」
斬っても砕いても湧いて出る“御使”の群れへと、背中を合わせたミリィとアーロウの射撃が直撃……!
ミリィが乱れ撃つ、閃光の矢と、アーロウが放つ紅紫色の生体レーザーが、“御使”たちの荊棘を灼き尽くし、撃ち貫く。そして――、
「来い……! 輝電人・雷威我ッ!」
【――_-―――_-――ッ!!】
抉じ開けられた“活路”へと、響の喚び声とともに、観念世界で、力を充填していた“雷威我”が、現実を叩き割り、再度出現。
雷威我はその巨腕で、纏わりつく“御使”どもを薙ぎ払い、主上である響と並び立つ……!
その“輝神金属”の眩い輝きは、先行するブルーの五感をも包み、鼓舞する――。
「まずは円盤を一機落とす。シャピロ、合わせられるか――?」
「了解――チャージは上々だよ、ブルー」
“射程距離”に辿り着いた鎧装を、滑り込ませるようにして停止させたブルーは、追走していた相棒へと視線・言葉を送り、相棒もまた、それに応える。
「“蒼月銀牙穿”……撃ち穿くッ!!」
「“混沌は暗夜を穿つ”――撃つよ」
ブルーが輝双剣を連結させ、完成させた“輝蒼弓・真月弐型”は即座に“黄金氣”を充填、相棒とともに、虚空へと絶大なエネルギーを放射していた。
真月弐型と“灰鬼・白輝”から放たれた“一矢”が、“円盤死告御使”へと直撃し、その巨躯を僅かに揺らす……!
【……ケ、イレヨ】
「……!」
――しかし、撃破には程遠い、その損傷は黙殺され、“円盤死告御使”による苛烈なる“報復”が、大地へと降り注ぐ。
大地を刳り、破砕する、純粋な破壊エネルギーは戦士達の鎧装を弾き飛ばし、“円盤死告御使”の指令によって、“爆弾”となった“御使”たちの爆発が、さらなる損害を与えてゆく。だが、
「怯むな……ッ! 此の災禍は俺が引き受ける……ッ!」
進撃を阻む爆撃の連鎖を、“五獣将”の首魁、ラズフリートは真っ向から受け止め、その巨腕が練り上げた重力波が、連鎖する爆発を次々と“握り潰して”ゆく。
白の重装が爆炎に黒く煤けても、この巨獣に怯む様子はまるでない――。
「進め……ッ! 道なら此処に抉じ開ける……ッ!」
【……!?】
荒れ狂う重力の渦に、“御使”たちの四肢が戦慄とともに捩じ切れる……!
ラズフリートが練り上げた重力波は壁となり、大地を埋め尽くす“御使”の群れを、真っ二つに分断。
“円盤死告御使”へとより接近し、追撃する為の活路を抉じ開けていた。そして、
「輝電人・雷威我ッ! 輝乗形態!」
【――-―――-――ッ!】
響の指令と同時に、展開した雷威我の胸部・脚部から車輪が出現。
巨体を折り畳むようにして変形を開始した雷威我は、巨大なバイクのような形態となって、咆哮のような駆動音を轟かせていた。
雷威我の頭部をそのまま残したヘッドライトは、搭乗を促すように、響の顔を照らす。そして、
【『鎧醒』】
「……!」
“御使”たちの歪な口顎から紡がれた、予期せぬ“言霊”に戦士達の表情が強張った瞬間、現象は電光とともに現実を破砕する。
“観念世界”より召喚された“神幻金属”の塊が、巨大な鎧装に変形。
“御使”の群れを、人類を迎撃する、無数の鉄巨人へと“再醒”させていた。
大地を揺るがしながら進撃する、文字通りの巨大な壁に、輝醒剣を握る響の五指に、緊迫の汗が滲む――。
だが、
「ハッ……! 何を呆けてやがる、“好敵手”ゥッ!」
「……!」
突如、弾丸、隕石のように飛び込んできた黒鎧が、その五指で“神幻金属”を薄紙のように両断……!
立ち塞がる鉄巨人の一体を、跡形もなく爆散させていた。
黒鎧の主――我羅・SSは、仮面から伸びる蠍の尾を、辮髪のように棚引かせながら、凶暴に嗤う。
「こんな木偶の坊――てめぇが越えてきた難関を思えば、カスみてぇなもんじゃねぇか。ヒビって、たじろいでる場合かよ……!」
そう語る我羅の背後で、華が咲き乱れるような、鮮やかな剣閃とともに、鉄巨人たちが細切れに裂かれてゆく――。
其れは、“武を極め、奇蹟に到る”漆黒の剣士。
“剣鬼”、シオン・李・イスルギの仕業である事は言うまでもない。
「――有象無象に足を止めている暇はありませんよ。貴方たち、“三輝士”がこの血戦の鍵なのですから」
“黄金氣”の輝きを宿す、煌輝、月輝、白輝の鎧装を見据え、告げたシオンは、奥に控える鉄巨人の腕部が展開するのを確認し、黒衣を翻す。
【――“罪罰の血剤”、“罪赦の血剤”――装填】
――逃れる為ではない。
荒ぶる、盟友の射線を塞がぬ為だ。
「“我異端にして神を穿つ朱”――――“死の果て続く十三階段”ッ!」
”血盟機XⅢ”とふたたび“契約鎧醒”した麗鳳の黒鎧が、その左腕から放たれた円輪状の光で鉄巨人たちを拘束……!
鉄巨人たちの腕部から発射された、無数のミサイルごと、立ち塞がる木偶たちを“奇蹟を殺す右掌”による光で、消し飛ばしてゆく。
「……愚にもつかぬ出来損ないを吐き出すだけなら、神威の具現化と呼ぶには値しないな、“円盤死告御使”……!」
ほとんどの“御使”が塩の塊となり朽ち果てる中、“死の果て続く十三階段”の直撃を受けてなお、その巨躯を回転させる“円盤死告御使”に、麗句は啖呵を切り、その紅き双翼を羽撃かせる。
「ムラサメ……! こいつらは“畏敬の赤”の根源に近い存在! 故に同じ“畏敬の赤”に連なる攻撃では、効果は薄い……! だが……!」
円盤が放つワイヤー状の触手を、“朽ちるも反抗契りし聖槍”で切り払いながら、麗句は響達へと叫ぶ。
「お前達の“黄金氣”を帯びた精神感応金属――シャピロが言うところの“神輝《器》”であれば! その“黄金”であれば! きっと斬り裂く事が出来る……!」
「……承知した」
“煌輝”の仮面、その眼部に翡翠の光が滾り、その金色が輝乗形態となった雷威我へと跨がる。
その“発進”を阻まんとした“御使”たちを、ジェイクとガルド、“五獣将”の面々が粉砕。
しぶとく増殖を続ける“御使”を蹴散らし続け、“三輝士”の進撃を、強く後押ししていた。
「景気良くぶちかましてください、隊長ッ!」
「露払いは我等が引き受けますッ!」
その声に頷き、雷威我と煌輝は、迸る“黄金氣”の粒子と共に、“赤”の戦場を駆け抜ける――。
そして、
「……“原初の罪”の拘束・四番から六番を解放。“逢魔形態”に移行する」
“赤”の戦場から、遥か遠く隔たれた、世界の中心地――“煌都”。
其処で抗う、カシウスの“音声指示”と同時に、“蛇鬼”の両腕部が、皮膚が裂けるように展開し、蒸気を排出。
光を透過する、特殊な精神感応金属で鋳造された、追加武装を顕現させていた。
杭打ち機の如きそれは、踊りかかった十数体の“御使”を、一撫でで粉砕。
生じた衝撃波で、周囲の瓦礫を破砕していた。
さらに、連動するように“蛇鬼”の背部鎧装が裂け、内部に秘匿されていた精神感応金属――拘束具を露わとする。
追加鎧装と同じく、半透明のそれは、猛禽類の翼のように展開し、禍々しい羽搏きを、群がる“御使”たちへと見せつけていた。
「私も共に立とう同胞――“骸鬼”よ」
降り注ぐ“畏敬の赤”の光を浴びた、雄々しき紫鎧が、“悪魔”の如き、その異形を、瓦礫の上に映す。
神を斃す為に捧げられた、最初の人柱。
その“真髄”がいま、解き放たれんとしていた。
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