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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第26話 滅びの夜、祈りを―“THE FATAL HOUR HAS COME”―

#26


「円盤群が放つ赤い粒子の影響で、市街地の大部分が観測不能……! 被害の全貌、把握出来ません……!」 

「その円盤自体も生体反応および、物質としての実像が観測不能です……! 信じられませんが――“実在する幻”としか表現出来ません……!」


 “煌都こうと”の都市機能の中枢――“絆の塔タワー・オブ・ネクサス”。その“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”は、割れた虚空そらから降臨した円盤群の脅威によって、混乱の極地にあった。


 煌都十六戦団・団長、イズマイル・ナナヤの到着と陣頭指揮により、全体の統制は回復しつつあったが、この未曾有の危機が煌都に、世界に訪れている事に変わりはない。


 誰もが、世界が一変した驚愕おどろき――心身を貫く恐怖・戦慄の中、必死に己の成すべき事を探し、足掻いていた。そして、


「だ、大丈夫ですか!? 痛くないですか!? しっかり……しっかりしてください……! ボブさん……!」

「だ、大丈夫。生命いのちに別状はないよ。いまのところ……だけど」


 倒壊した柱の除去と、負傷者の救命活動が一段落したタイミングで気が付いたのだろう。


 そのあどけない顔を強張らせて、同僚じぶんを心配するレイに、機能を停止した機器に身を寄りかからせたボブは、脂汗を拭いながら、こたえる。


 円盤群の放った“光”と“声”によって、“都市防衛対策室オペレーション・ルーム”の職員数名、そして、ボブの右脚は、“結晶”と化してしまっていた。


 ――苦痛いたみはない。


 だが、自分自身の存在が何処かに吸われていくような感覚が、ボブの精神をじわじわとさいなみ、その身体からだを震わせていた。


「――不覚だよ。無意識にあの声に応えてしまっていたのかな……学術的に見て、興味深すぎる体験、だったから」


「……“タワー”の障壁シールドを越えてくるような奇蹟イカサマたぐいだ。不覚も何もないさ」


 団長――イズマイル・ナナヤとの短い会談ミーティングを終え、駆け付けたリオンもボブの状況を理解し、その不安や恐怖をわずかでも和らげるべく、静かに語りかけていた。

 

 ――誰も遭遇した事のない、未曾有の事態。


 誰もが手探りで、誰もが戸惑いの中、懸命に足掻いていた。


「それに、いまのところ部分的な発症で済んでいるのも、その好奇心という、強い精神力の為せるわざかもしれないよ――」


「はは……! 詭弁きべんの類でも、貴方が言うと頼もしいですよ。リオン隊長」


 “笑えた”。その事実だけでボブは肩が軽くなった気がした。


 ボブは、尊敬する同僚(リオン)の気遣いに感謝し、結晶化した、自らの右脚を見つめる――。


「不思議には……思っていたんです。こんなにたくさんの遺跡、遺跡技術が残されているのに、何で、先住民ネイティプの骨の一つも残されていないんだろうって……」

「…………」


 認め難くはある“現実”だった。


 己の“醒石せいせき”が感知した解答こたえ


 結晶化した職員とボブの右脚が示す反応に、リオンの表情が硬く、強張る。


 やはり、これは――、


「……考えてみれば、簡単シンプル解答こたえです。彼等はずっと、僕たちのかたわらにいたんだ。“醒石せいせき”という奇蹟の石に成り果てて――」

「……かつて、“先住民ネイティブ”達にもこれと同じ現象ことが起こった。やはり、君もそう考えるか――」


 リオンの言葉に、ボブは頷き、レイは蒼白となった表情かおで発光を続ける、己の“醒石せいせき”を見つめる――。


 確かに、この“醒石せいせき”達の反応も、かつて自分達が体験した“破局”への“恐慌”・“警告”と考えれば、合点がいく。


 この惑星に移住する際、惑星が突然、地球人類に適した環境に変化した、あまりに都合の良い“奇蹟”から、人類は自分達に都合の良い夢を見続けているのではないかという説があったが――、


「今日、地球人類われわれの夢が、覚める時が来た。そう認めざるを得ない、か――」


 そして、夢から覚めた、人類のに映された現実セカイの姿が、あの赤く、罅割ひびわれた空だと言うのか――。


 リオンの言葉を肯定するように、彼が握る“醒石”が、強く翡翠エメラルドの光を灯していた。


※※※


嗚呼ああ、人の悲嘆ナミダが、苦痛いたみが、天に吸われていく――なんと美しい、胸に迫る情景か」


 赤く染まる天空そらを埋め尽くし、その輝きを増す“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”に、“処刑者エリミネーター”の喉が、陶然とした声音を響かせる。


 世界各地で人類が結晶化――“醒石せいせき”化する映像が、硝子ガラスのように罅割ひびわれた虚空スクリーンに映し出され、それを見上げる“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達は、感極まったかのように肩を震わせていた。


 そして、感慨にむせぶ“処刑者エリミネーター”の言葉を補強する様に、“醒石”化した人々のものと思われる“声”が、割れた虚空そらから鳴り響き、キョウ達の精神を惑わせる――。


 それは、絶望の声。


 絶望し、疲弊しきった魂の声。


 円盤群の声を“受けれた”人々の声。


 その痛ましい声が、超常に思考を飲み込まれていた響達の精神を軋ませ、同時に、“怒り”という目覚めを呼び込む。


「ふざけるな……ふざけるな……ッ!」

「ムラサメ……」


 己の惑いを断ち切るように響は吠え、輝刀キトウ村雨ムラサメの柄を握り締める……!


 その身の根底にある信仰故か、円盤群に気圧されていた麗句の精神も、その叫びに、揺らぎかけた自我を取り戻し、自らの“鎧醒器アームド・デバイス”を手にする。


 二人の瞳が映すのは、結晶化した住民と戦闘員シャグラットFフラウの姿、嘆き惑う住民達の姿。護れなかった――護るべき人々の姿。“悲しみ”である。


「これが……これが貴様等の言う“救済”かッ!? こんなものが……!」


 あんな、あんな“終わり方”が、救いなどであるはずがない……!


 響は、鎧醒アームドを解除された生身の肉体のまま、立ち塞がる“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達へと吠え、その足を踏み出していた。


 その様に、“破壊者(ジーザス)”――フェイスレスは目を細め、厳粛でありながら熱を帯びた、神聖なる言葉こえを奏でる。


「……“救済すくい”だとも。“醒石”化により、お前達はあらゆる悲嘆・苦痛から乖離された。――そして、それは紛れもなく、お前達人類ニンゲンが望んだ結末だ。我々の手で、その時計の針をいちじるしく、早めてはいるがな……」

「な、何……?」


 ジワジワと精神を蝕む動揺。


 視界の中で、より濃度を増す“赤”に、響は村雨を鞘から引き抜き、再度『鎧醒アームド』を試みるも、精神集中が乱れている為か、体内の“壊音”は鎧装ヨロイとして硬質化せず霧散。


 麗句の“鎧醒器アームド・デバイス”も円盤群が放つ光の影響か、機能不全を起こし、鎧装ヨロイの召喚機能を発動させない――。


 そして――依然いぜん、生身のままの人類ニンゲンたちを、“破壊者ジーザス”の赤をたたえた視線が射抜き、その口舌が、忌むべき“真実の扉”を開く。


「この惑星ほし――“創世石”は、“高次元存在”が産み落とした、“物質としての神”……言わば“究極の願望機”だ。地球人類おまえたち願望ねがいに応え、自らを地球と同様の環境に変異させたのも、その特性ゆえ――」


 フェイスレスは冷淡な程に厳粛げんしゅくに、審判を告げるかのように言葉を紡ぎ、黒革に秘匿された、己の“救世主メシア”としてのカヲを撫でる。


 そう――彼等、“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”も人の願望が産み落とした存在。


 言うなれば、この惑星ほしが、願望機である事を証明する存在である。


「そして、この惑星に生きる生命体による“願い”の蓄積が臨界に達した時、“願望機”であるこの惑星ほしは、願いの根源たる生命体を、“醒石”へと変え、“その願望ねがいごと”惑星内に格納する。“願望機”である己自身をより“進化(アップデート)”させるためにな――」

「なっ……」


 絶句した舌があてなく彷徨さまようように痙攣けいれんし、脳は、酸素を求めてパクパクと口を動かす――。


 それは、この大地を、惑星ほしを当たり前のものとして生きてきた人類ニンゲンたちにとって、処理しきれぬ、認め難い情報であった。


 特に、その身に複数の“醒石”を埋め込んだ“超醒獣兵ギガ・インベイド”である五獣将の面々は、強張った表情で、自らの“醒石”を見つめ、絶句。


 “醒石”を喰らう天敵種である響とブルーも、湧き上がる動揺を隠せずにいた。


「我々は“誘愛者ヴァンプ”、“征服者ドミネーター”、“絶滅者エクスターミネーター”、“祭祀者プレイヤー”4体の生命と引き換えに顕現させた“終焉ほろび人類ヒト”で、そのプロセスを早めたに過ぎない。それも、我々という“擬似聖人”を産み出す程に願い、祈った、お前達人類ニンゲンの招いた事だ――」


「だと……しても。だとしても……ッ!」


 己の迷い、惑いを切り裂くように、輝刀・村雨を舞わせ、響は立ち塞がる“破壊者ジーザス”へと突貫する……!


「俺は……俺達は……! それを認めるわけにはいかないッ!」


 破滅すくいに抗う、獅子の如き咆哮さけび


 そう、黄金の鎧装ヨロイを纏わずとも、響の他者ヒトを想う心が錆付く事はない――。


 だが、円盤群が射出した“種”――ソレが開花した“御使ミツカイ”の群れが、響達を包囲し、その剣閃を阻む……! そして、


「“女王クイーン”……!」

「……! お前達……!」


 『鎧醒アームド』を発動出来ず、生身のままの主を、ブルー、シャピロが援護……!


 麗句を護るように陣形を組んだ、ブルーの“蒼裂布ブルー・リッパー”と、シャピロの白輝槍びゃっきそうが、甲殻と荊棘いばらに覆われた御使ミツカイのボディを斬り裂き、瞬時にたおしていた。同時に、


「俺達だって認めませんよ! こんな事……!」

「ジェイク……!」


 響も鋭くひらめかせた村雨の斬撃で、御使ミツカイたちを両断。


 響の動きに素早く呼応し、駆け付けたジェイク・ミリィ・ガルドも、御使ミツカイを迅速にほふり、響が駆け抜ける為の“突破口”を抉じ開けていた。


 ――そうだ、人類ニンゲンの意志は挫けない。


 いかなる時も、自分達の使命は変わらない。


 この街の人々を、生命いのちを、命にえても護り抜く。


 それが――自分達、保安組織ヴェノムり方だ。


 決意を新たに、響はえぐれた大地を蹴る……!


 しかし、


「ストップだよ……! キョウ=ムラサメ!」

「……!」


 この災禍の元凶――“擬似聖人”の背後にある遺骸へと、一気に跳躍せんとした響を、シャピロの“白輝槍びゃっきそう”が制止していた。


 常に飄々としていたシャピロの表情カヲが、切迫した表情ものに変わっており、その制止が“抜き差しならぬもの”である事を示していた。


「どけ……」

「……ダメだね。言っただろう? いまアレを破壊しても意味はない。むしろ――」

「どけ――!」


 発火スパークする感情。


 無理矢理、突破しようとした響の村雨と、シャピロの“白輝槍びゃっきそう”が、精神感応金属ヒヒイロカネ同士が共鳴する鋭い金属音ねいろとともに、鍔迫つばぜり合う……!


「どけぇ……ッ!」

「……よく聞きたまえ! あの円盤群を召喚したモノ――擬似聖人アルタネイティブ・クライスト達が“終焉ほろび人類ヒト”と呼んだ存在は、まだ現実こちら側にはいない……!」


 激情とともに噛み締められた、響の歯牙が軋み、向かい合うシャピロのこめかみを一滴の汗が流れる。


 ――周囲の人間が思わず息を飲むほど、二人の対峙には“緊迫”があった。


「奴はあの遺骸……いや母体と呼んだ方が正確か。奴はあの忌むべき繭の中に形作られた“子宮”という別次元で、誕生の時を待っている状態なのさ。そして、ヘタに母体を破壊すれば――“別次元にある本体”を叩く手段を失う可能性がある」

「……!」


 シャピロが示した解答こたえに、響の噛み締めた歯牙に亀裂が走る――。


 それは現状、何も出来ない事を意味しているのではないか? この状況で何もするなという事ではないのか……?


 ――認められない。


 深い絶望と憤りが、響の肩を震わせ、その腹腔から獣じみた息を吐かせていた。


「ただ……待てと言うのか。そいつが出てくるのを」

「君達、天敵種の本能も感じているだろうが、“醒石”化は“死”ではない。生きているのであれば、望みはある――」

「…………」


 シャピロの言葉通り、響の体内の“壊音カイオン”は“醒石”化した人々に食欲を、“生体反応”を感知していた。確かに、死亡したわけではないのなら、元に戻す方法もあるかもしれない――。


「……ごめんよ。人でない僕には、人である君の焦りは理解出来ないのかもしれない。でも、人がその生命いのちと未来を繋ぐために――頼むよ」

「………」


 責められるはずもない。


 響の村雨を受け止め、語るシャピロの瞳には、“醒石”化した人をいたむ“痛み”があった。全てを解析する“眼”を持つが故に、響を止めざるを得ない“歯がゆさ”があった。


 それを無視出来る響ではない。


「……言え、対策を」

「ムラサメ……」


 対峙する響が静かに告げた応答こたえは、望む望まざるに関わらず、多くの情報を得てしまうシャピロにとって“救い”だった。


 自分の中に蓄積された絶望じょうほうを理解し、共に立とうとしてくれる響の意思に、シャピロは心から感謝し、うなずく。


「本体が“急いで出て来ざるを得ない”状況を作るしかない。円盤アレを一つ落とすとかね――」

「……大仕事だな」


 シャピロの言葉に、響が苦笑にも似た呟きをこぼした瞬間、円盤群が再び“光”を照射……! 絶望的な“破局”に抗う戦士達の身体を吹き飛ばす……!


【――“受ケれヨ”、“受ケれヨ”、“受ケれヨ”――】

「くっ……!」


 同時に、頭の中で鳴り響く“声”――。


 いま、“円盤死告御使リボルヴ・アンゲーラス”の仰々しく回転する巨体が、前進を開始し、世界各地でその暴威を振るい始めていた。


「お爺ちゃん……! お爺ちゃん……!」

「見んでいい……! お前は何も、見んでいい……!」


 赤い虚空そらから響いた“少女の声”に惹かれ、目を覚ましていた少女と祖父である老人の元にも、円盤群の暴威は押し寄せ、破滅の輪舞曲ロンドを奏でていた。


 祖父が孫娘に覆い被さり、必死に隠すのは結晶化し、消失ロストした祖母の姿。


 何が起こっているのかはわからない。理解出来るはずもない。


 だが、物心つく前に両親を失い、必死に寂しさをこらえてきた幼子が目にするには、あまりにむごい景色ではないか――。


「頼む、この子を連れて行かんでくれ。この子だけは真っ当に、生きさせてやってくれ――」

【――“受け容れよ”――】


 祖父が搾り出すような声で紡いだ祈りは、結晶化し、煌々こうこうとした光とともに砕け散る――。


「お爺ちゃぁん……!」


 結晶化した祖父に抱かれた少女の叫びが、赤く罅割ひびわれた虚空そらへと木霊こだまする。


 幾千の慟哭が、深き夜の底に満ち、聞くにえぬ嗚咽の波を、風の音が運んでゆく――。


 “悲劇的結末カタストロフィー”。……そう呼ぶに足る情景が、世界各地に死病の如く蔓延はびこり、人類の精神を奈落の底に落としつつあった。そして――、


「くそったれ……潰しても潰してもキリがありゃしねぇ! ゴキブリの類か、コイツ等……!」


 世界の中枢である“煌都”においても、その“悲劇的結末カタストロフィー”は拡大。


 “人柱実験体 第0号”・“蛇鬼ジャキ”に『鎧醒アームド』したカシウス・L・サイファーと、彼と背中を合わせたガイ=シンジョウが、拡がり続ける、その情景に足掻き、抗っていた。


 襲い来る“御使ミツカイ”の群れは、倒せば倒す程、“強化されて”よみがえり、カシウスと凱の体力をジリジリと削り落としていた。


 恐らくではあるが、“本体である円盤”を撃墜しない限り、この攻防に“終わり”はない――。


「……退け、凱=シンジョウ。不完全な『鎧醒アームド』のままでは、いたずらに消耗するだけだ。いま、お前がたおれては、状況の立て直しもままならん――」


 凱に纏わり付く“御使”を、拳の連打ラッシュで破砕し、カシウスは片膝を付いた凱へと忠告する。


 凱が纏う銀の“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”は罅割ひびわれ、破損した仮面マスクからは血に塗れた褐色の肌が覗いている――。


 そこから漏れ聞こえる呼吸音は荒く、彼の激しい消耗を物語っていた。


「……あそこに、でっかいタヌキみてーな像があるだろ」

「……?」


 だが、凱に退く素振りなど微塵もなく、彼は、掠れた声とともに、折れた膝を立ち上がらせていた。


「……公園だったんだよ、あそこ。サボって煙草ふかすにゃ絶好の場所よ。制服着てるとよくガキに絡まれてなぁ……鬱陶しいが、嫌いじゃあなかった」


 それが、奪われてしまった。


 一瞬で。唐突に。無慈悲に奪われてしまった。


 公園だった場所は、円盤群の進撃によって、瓦礫に埋もれ、避難途中であったと思しき人々の“結晶”を、そのあちこちに散りばめていた。


 自らを覆う装甲を砕く程に、強く握り締められた凱の拳が、飛びかかる“御使ミツカイ”を破砕し、無垢なほどに激しい怒りが、銀の“特機鎧装ヴァリアント・アーマー”を震わせる――。


「アイツ等が、あの子が何をした……? こんなことがあっていい、あっていい理由わけがないだろうが……!」

ガイ=シンジョウ……」


 護るべきものを護れなかった、凱の悔恨。その胸を掻き毟る痛みに、カシウスは“蛇鬼ジャキ”の牙を軋ませ、御使の体液に濡れた拳を握り締める――。そして、


「フン……!」

「がっ……!?」


 突如、胸部を襲った衝撃が凱の身体を吹っ飛ばし、強制的に戦線から離脱させる……!


 街路を転がり、たまらずむせる凱を、殴り飛ばした本人であるカシウスの視線が追う。


「お、おい……! 何すんだ、サイファーの旦那ァ!」

「……早く他の『PEACEピース MAKERメーカー』と合流しろ、ガイ=シンジョウ。いまは失ったものよりも、まだ護れるもの、救えるものの事を考えろ」

「うっ……」


 カシウスの言葉に、凱は喉から飛び出しかけた抗議をグッと飲み込む。


 確かに――いまは、感情にまかせて闘う時ではないのかもしれない。


 この“煌都”には、自分達のように“結晶化”を免れた人々が、まだ、いるのかもしれないのだから。


「この“煌都(こうと)”にとって、お前の生命いのちはお前が思う以上に重い。そして、お前達“四人”であれば、どのような難局も打ち砕ける――」

「……そう、かもな」


 己の成すべき事に意識を向けた凱の背を押すように、耳を劈くような轟音が市街地に鳴り響く。


 何処からか撃ち込まれた砲撃が、円盤群の一機に直撃し、罅割ひびわれた虚空そらに轟音を轟かせたのだ。


「フッ……諦めない馬鹿者どもが、まだいたか。煌都十六戦団、その気概を無駄には出来んな――」

「……確かにな、此処で死ぬわけにはいかねぇか――」


恐らく、結晶化を免れた団員達が、遺跡技術を介さない、旧式の都市防衛用武装を起動させたのだろう。


 ――そうだ。諦めず、戦い続ける者たちがまだ、この“煌都”にいる。


 その事実が、凱の心を、神に抗うべく精製された“人柱実験体”、“蛇鬼ジャキ”の(かいな)(たぎ)らせる。


 そして、


「……!」


 鮮烈な黄金ひかりが、二人の視界を流れる……!


 瞬くような刹那、 眩い黄金の光が、流星のように虚空(そら)に閃き、円盤群の一機の巨躯を、僅かながら揺るがしていた。


 現在いまーー煌都の、世界中の罅割ひびわれた虚空そらにも、世界各地の惨状。その“悲劇的結末カタストロフィー”は映し出されている。


 だが、その黄金ひかりは、その悲劇を否定するように、塗り潰すように虚空そらを流れ、世界中に同時に存在する“円盤死告御使(リボルヴ・アンゲーラス”を一撃……!


 一瞬の内に、全世界の視線まなざしを、その眩さに集めていた。


 それはーー、


「ん……!?」

「この、声は……」


 そして、黄金ひかりと共鳴するように、穏やかな、澄んだ乙女の声が、虚空そら全体から鳴り響いていた。


 その声は、数時間前に、全世界に響いたものと同じ声――。


 虚空そら黄金ひかり疾走(はし)らせた青年が心より想う、“青い瞳の少女サファイア・モルゲン”の声である。


「サファイア……」


 円盤群の放つ光に、何度、身体からだを弾き飛ばされても立ち上がる男。


 罅割ひびわれた虚空へと黄金氣マナを放った男――“人類の守護者”である響=ムラサメは、その想い人サファイアの声に天を仰ぎ、同時に倒すべき円盤群ターゲットを鋭く見据える。


 ――そう、人類の心と尊厳カタチを砕く破局の中、人類ニンゲンの心はまだ、折れてはいない。

 

 “悲劇的結末カタストロフィー”を覆すための足掻き――自らの願望ねがいとの“血戦けっせん”が、いま始まろうとしていた。


NEXT⇒第27話 僕等はいま、此処に立つ―“Pray! The next new world”―

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