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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第22話 終焉の萌芽―”Sprout”―

#22


「……ついに起動しめざめたか、我等が神威かがく遺児―――“輝電人きでんじん雷威我ライガ”よ」


 ――一人の男が、眩い輝きの中にたたずんでいる。


 それは奇妙な、ある種、常軌を逸した光景であった。


 何処か薄汚れた印象を受ける、男の佇まいとは対照的に、“この世界”に在る、あらゆる物質はすべて煌々こうこうきらめき、吹き抜ける風すら黄金色こがねいろの粒子を纏っていた。


 “輝界ピプロ”。


 “畏敬の赤アームド・ブラッド”に連なる異世界の一つであるそれは、鎧装ヨロイを形成する“神幻金属オリハルコン”の精製地であり、自ら輝き、生命いのちすら宿すと言われる“輝神金属アーシウム”の源である。


 事実、この世界に光源となる太陽はない。この世界にある全ての物質・生命いのちの一つ一つが、内部に太陽を秘め、自ら輝く事で、己が世界を照らしていた。


 そんな桃源郷のような、神々しい景色の中で、“悪魔ダイモン”と綽名あだなされる、その男は、遥か遠くの“世界”を見透すように目を細め、感嘆の息をその口からこぼしていた。


 頭部をすっぽりと覆うフードに阻まれ、その表情を読み取る事は出来ないが、遠い過去に交した“約束”――その成就への感慨が、固く握られた拳に滲み出ていた。


 そして、


(……“雷威我ライガ”が目覚めた。ならば、我等との“契約”は果たされたという事か――)

「……! “大使”……」


 突如として、脳内に降り注いだ声に、“悪魔ダイモン”は頭上に煌めく、“輝界ピプロ”の黄金色こがねいろの空を見上げる。


 朧げな蜃気楼のように、あるいは重厚な絵画のように、虚空そらに浮かび上がるは、豪奢な銀の玉座――。


 その玉座に鎮座するのは、細微な機器パーツを折り重ねるようにして鋳造された、機械仕掛けの巨神ゴーレム


 全身を輝神金属アーシウムで構成する、黄金ひかりの“塊”であった。


 太陽なき輝界ピプロの太陽。黄金ひかり巨神ゴーレム大使マグナ”。


 この巨神ゴーレムに頭部はない。だが、“大使マグナ”の中で燃える生命いのちそのものが、溶岩マグマのように、胸部から噴き上がり、揺らめく焔のような“カヲ”を、そこに創り出していた。


 その“カヲ”は、低く、硬質でありながら、どこか甘い残響を秘めた声音で言葉を紡ぎ、眼下にかしずく“悪魔ダイモン”へと厳かに頷いていた。


 50mを優に超える巨躯は、立体映像ホログラムの状態であっても、絶大な圧力を有し、その黄金ひかりで、輝界ピプロ虚空そらを占拠していた。


「“大使”……我等が契約者、我等が盟友は、見事にやり遂げたのです。“天敵種”という災禍の種は、紡がれし奇縁えにしの糸によって変転。人類が歩むくらき道を照らす、“黄金ひかり”となった」

「……うむ」


 遥か彼方、数多の異世界を見透す神威チカラを共有し、永き時を共に生きてきた“盟友とも”の言葉を、黄金ひかりは受け止め、天を仰ぐ――。


「だが、神威の起動が契約の終わりではない。その神威チカラを振るう者は、与えられた神威チカラと引き換えに対価を、世界との契約を果たし続ける必要がある――」


 巨神ゴーレムの指が虚空そらをなぞると同時に、黄金色こがねいろの空に、輝電人と並び立つ黄金の騎士のビジョンが、鮮やかに映し出されていた。


 その黄金の騎士――煌輝キラメキの雄々しき翡翠エメラルドの眼差しを見据え、巨神ゴーレムは揺らめく“カヲ”から、厳かな声を響かせる。


「我が盟友ともよ、お前が雷威我の所有者に課した“契約”がいかなる契約ものか――今一度我に示せ」


 裁決を迫るような厳格な声音で、巨神ゴーレムは告げ、かしずいていた“悪魔ダイモン”は、毅然と立ち上がる。


 輝電人・雷威我が響=ムラサメに課す契約。それは――、


「“人類が存続に値する存在である”と、証明し続ける事――」


 “それが、彼の者が背負いし契約です”。


 そう“悪魔ダイモン”が告げると同時に、現実世界でまた一つ事態が進行する。


 いま、逃れられぬ人類ヒト運命さだめ――“黙示録アポカリプス”が始まらんとしていた。


※※※


「なっ……」


 紅く、紅く染まった虚空そらが砕け散る。


 “破滅の凶事ゼルメキウス”を打倒した響が見上げた虚空そらは、瞬く間に罅割ひびわれ、硝子片のようなその破片かけらを、戦場に舞い散らせていた。


 その異常に過ぎる事象に、その場にある全ての人類は絶句し、“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達は恍惚と虚空そらを見上げる――。


 “処刑者エリミネーター”によって、3体分の心核コアを埋め込まれた遺骸は、3つの心核コアから体内に循環する、超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”によって、その“真価”を目覚めさせつつあった。


 いま、遺骸の全身は、体内より生成された、おびただしいいばらに覆われ、虚ろに開かれた唇から、多量の“畏敬の赤アームド・ブラッド”を虚空そらへと放出し続けていた。


 力の放出にともなう音は、独特な旋律を持ち、賛美歌のように戦場へと響き渡る。


 現時点で、“攻撃”に類する事象は観測出来ない。


 しかし、聴覚ではなく、魂そのものに刻み付けられるような、不穏な旋律を体内から響かせる遺骸ソレが、不穏な鼓動を内部から響かせる遺骸ソレが、看過して良いもののはずはなかった。


「“雷威我ライガ”……ッ! “アレ”を破壊するぞ……!」

【--――--―ッ!!】


 例え、短慮であっても、災禍の火種となるものを放置する事は出来ない――。響は自らの直感に従い、“輝電人きでんじん雷威我(ライガ)”とともに、遺骸へと突撃する……!


 だが――、


「フン……“人柱”らしくにえとなるか、響=ムラサメ――」

「……!」


 荘厳にして、苛烈なる“赤”が、響の前に立ち塞がる。


 微塵の気配もなく、響の背後に現れたフェイスレス。その腕の一振りが、黄金の鎧装ヨロイを砕き、弾き飛ばしていた。


 大地を刳り、弾け咲く紅い衝撃。


 爆発と、超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”をともなう、その衝撃インパクトは、響の三半規管を一瞬で乱し、容易には立ち上がれぬ、前後不覚の状態としていた。


(やはり――“違う”……!)


 ――“違い過ぎる”。


 己が前に立ち塞がる“破壊者ジーザス”は、自分が斬り、たおしたフェイスレスとは何もかもが“違って”いた。


 完全に別次元にある“脅威”。


 それが、現在のフェイスレスだった。


「そんな程度(もの)か? そんな程度ものなら、“危険因子イレギュラー”の名には値しないな、響=ムラサメ――」

「クッ……!」


 輝醒剣を大地に突き立て、立ち上がらんとする響を、現実を硝子のように砕き割り、雨のように降り注ぐ“聖槍”が追撃……!


 ――しかし、その追撃にフェイスレスの意思は介在していない。


 それは彼が歩み、瞳を動かす……その、極些細な動作に追随する、些細な現象に過ぎなかった。


 そして、城壁のように、立ち塞がった“雷威我ライガ”が、その聖槍の雨を両腕で受け止め、展開した肩部装甲から放出した雷撃によって、粉々に破砕する……!


 音声入力がなくとも、響と電脳を直結(リンク)した“雷威我(ライガ)”には、『護まもるべきもの』と『斃たおすべきもの』が、完全に理解出来ていた。


「フン……私と鍔迫(つばぜり)合ってみるか、“輝電人”」

【--――--―――――――!!】


 値踏みするような眼差しとともに、フェイスレスは雷威我ライガへと、水面の上を歩むような、厳かな足取りで前進する。


 斃すべきものを迎え撃つ為、轟く機械音の咆哮。


 雷威我の胸部装甲から迫り出したバルカン砲が、毎秒数百発の“輝神金属アーシウム”の弾丸を、前進するフェイスレスへと炸裂させる……!


 だが、弾丸とフェイスレスの間に生じた、“赤い障壁”が弾丸を飲み込み、破砕。異世界の悪魔――“破滅の凶事ゼルメキウス”の鎧装を削り取り、意思を挫いた弾丸も、“破壊者ジーザス”には届かず、消滅という虚無へと落ちていた。


「……悪くはない。私の前に、防御の“現象”が発生するなど、滅多にない事だ。輝界ピプロ神威かがく、やはり侮れぬな――」


 フェイスレスは、弾丸の嵐の中、事も無げに雷威我ライガへと歩を進め、その輝神金属アーシウムを撫でる――。


 振り払う雷威我の剛腕をかわすと、フェイスレスはその掌を雷威我の胸部へとかざし、握る。


 それだけの、それだけの動作で、バルカン砲の砲身は歪み、砕けていた。


「……理解したな、“輝電人”。お前が下手に前へと出れば、煌輝あるじは死ぬ――」

「……!」


 その“警告”で、響は理解する。


 ――この交錯は戦闘ですらなかった。これは、言うなれば、雷威我に響の守護を最優先させるための“演出パフォーマンス”。


 余計な手間を省くための、効率を優先した遊戯に過ぎない――。


「見上げるがいい……我等の悲願、その成就の瞬間を……! 慈悲なき“救済”の始まりを……! 割れた虚空そらに潜む“御使い”どもが喇叭ラッパを吹き鳴らす、その様を……!」

「なっ……」


 フェイスレスが歌い上げるように奏でた言葉とともに、割れた虚空そらの狭間から“円盤状の何か”が、僅かにその巨躯を覗かせる――。


 虚空そらの割れ目に垣間かいまえるのは、超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”を撒き散らしながら回転する、無数の円盤。彼等は、全長50m程度の巨躯を現実世界へと進撃させるべく、その禍々しき回転で、罅割れた虚空そらを鳴動させていた。


「こ、この後に及んでUFOのご登場だと……!?」


 響の援護を試みたものの、フェイスレスの腕の一振りで蹴散らされたジェイクの喉から、心底呆れたような声が零れる。


 ――しかし、あれが“空飛ぶ円盤”程度の存在、脅威であるはずがない。


 その場にある人類全員の緊張が臨界に達し、全員の意識が、超常の根幹たる“遺骸”へと集中する。


 アレが放出し続ける、超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”。それが円盤の群れをこの現実世界に呼び込まんとしているのは確かだ。


 だが――、


「……!」


 意を決し、突貫を試みた総員の意志を、“破壊者ジーザス”の指の一弾きが挫く。


 フェイスレスが指を弾くと同時に生じた、“畏敬の赤”の障壁は、突貫する鎧装ヨロイを尽く弾き返し、遺骸を防護。フェイスレスに敗れ、倒れ伏した銀蒼ブルー鎧装カラダだけが、その内側にあった。


 状況は停滞。――生殺与奪の権はいまや、完全に“破壊者ジーザス”の掌中にある。


「クッ……みんな……」


 乱れた三半規管を立て直し、立ち上がった黄金の騎士は、輝醒剣を構え、その鎧装ヨロイを、“圧倒的な差”を認識したフェイスレスへと向け直す。


 どれほどの差があろうとも、勝機が微塵もないのだとしても、“天敵種”であり、“人柱実験体”である自分が、この局面でさじを投げるわけにはいかない――。


 黄金の中にたぎ翡翠エメラルド眼光ひかりが覚悟を語り、高濃度の“黄金氣マナ”が厳かに吹き荒れる。


 ――そんな響の“足掻き”に、フェイスレスは虚無を湛えた双眼を細め、嗤う。


「……そうだな。その輝醒剣つるぎであれば。“もう一人の私”をたおした、その輝醒剣つるぎであれば、この障壁も、奇跡の残骸である私自身も斬り裂けるだろう――」


 “その剣には、畏敬の赤アームド・ブラッドの奇跡の結合を絶つ性質があるようだからな――”


 幾度も、執拗に“再生”を繰り返していた、もう一人のフェイスレスを一閃で斬り裂き、たおした輝醒剣である。確かに、この“破壊者ジーザス”の体を斬り裂く事も出来るだろう。


 ――しかし、それは斬り裂くだけの力と技を、響が有していればの話だ。


 この“破壊者ジーザス”が易易とそれをさせるわけがない。


 そして、


(それだけじゃない、コイツは――)

「フッ……そうだ。私の“畏敬の赤アームド・ブラッド”は“天敵種きさま”であっても捕食出来ぬ。この純度のものを捕食すれば――“壊音なかみ”はともかく、人間ヒトである貴様は死ぬ」


 そのフェイスレスの言葉は、響の思考をそのまま言い当てていた。


 遺骸やフェイスレスが放つ超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”は、輝醒剣でも、壊音カイオンでも捕食・消化出来ず、防御に徹するしかない代物だった。


 捕食者の歯牙をはばむ、硬いからを持つ果実のように、内に秘めた毒で、捕食者をおかす甘い果実のように、それは食糧でありながら食糧に成り得ぬものであった。


 だが……それを知っても尚、響は“破壊者ジーザス”との対峙を放棄しない。


 複雑な因果の果てに掴んだ“黄金ひかり”を無為なものにしないためにも――人間・響=ムラサメは前へと進み続けるのだ。


「……無駄に足掻くな、人類ニンゲン。黙して受け入れれば、恒久の安息がお前達の魂に訪れる――」


 嘆くように呟き、フェイスレスは包帯と黒革に覆われた掌で、“胎動”を始めた遺骸、その髑髏しゃれこうべを撫でる。


 遺骸から伸びるいばらは、木の根の如く辺り一帯の大地を侵食。そして、そのいばらは、屹立する“誘愛者ヴァンプ”の残骸へと執拗に絡み付き、一体化――。


 “誘愛者ヴァンプ”の遺した、“聖極(ウルティマ”という蜜を吸ったつぼみ萌芽ほうがし、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の薔薇が咲き乱れる“苗床”とする。


 紅く、煌々と、妖艶に輝くそれは人類の視線を釘付けとし、麗句の唇は、無意識に恍惚とした息を漏らしていた。


 理性を超えて、魂を直接照らすようなあでやかな光――。人の意識を吸い寄せ、徐々に“安楽”へと侵食する、その妖光ひかり性質タチの悪い麻薬のように、人類ニンゲン達の脳を侵しつつあった。


「クッ……」


 妖光ひかりの影響か、輝醒剣を持つ右手が震えているのを認識しながら、響はフェイスレスへと重い一歩を踏み出す――。


 “雷威我ライガ”が諫めるように、巨腕を響の前に突き出すも、響はそれを押し退け、煌輝じぶんに出来る最大出力での突貫を決意。


 虚無を湛えた“破壊者ジーザス”の双眼に、自身の翡翠エメラルドの眼光を真っ直ぐにぶつけていた。


「……憐れな。だが、よかろう。いまは塵芥ちりあくたに等しくとも、貴様のような未知数イレギュラー、早々に滅せるのであれは、“救済”の発動はより確実なものとなる――」


 そして、


「散るがい――」


 衝撃が、“畏敬の赤アームド・ブラッド”が乱れ咲く……!


 無惨――。斬り裂かれた肩口は、陰惨な傷口を晒し、部分的に“塩”と化していた。


 だが、


「なっ……」


 それは“響=ムラサメが負った損傷ダメージ”ではない。


 強大なる“破壊者ジーザス”――フェイスレスが負った損傷ダメージである。


 ――フェイスレスの肩口を貫いたのは、輝蒼鎌・真月参型。“破壊者ジーザス”の足元に倒れ伏した、ブルーの得物である。


「ブ、ブルー!?」

「……ふん、小癪な餓鬼オトコよ、正面からでは私に敵わぬと察し、乾坤一擲を狙ったか――」


 ――倒れ伏したままのブルーの意識はまだ回復していない。しかし、その腕は、指先は、輝蒼鎌を繋ぐ鎖を精緻に操り、この“奇襲”を成功させていた。


「確かシオン・李・イスルギが似たような小細工をしていたか……表層の意識とは別に体を動かす“自己催眠”。あえて失神状態に自らを追い込み、強制的に無我の境地へと到ったか」

「なっ……」


 見守る煌輝の仮面から驚愕の息が漏れる。


 ――フェイスレスの推論は的を得ていた。


 一瞬の交錯で、フェイスレスとの力量差を悟ったブルーは、あえて敗れ、フェイスレスの僅かな隙に輝蒼鎌を叩き込む様、自らの鎧装カラダに託していた。


 殺気なく、気配なく、このおそるべき“破壊者ジーザス”を強襲するにはそれしかなかった。


「だが……それも“失敗”した。紙一重の“失敗”だが、同じ手は2度とは通じぬ――」


 僅かに、己が“心核コア”を掠めた輝蒼鎌を肩口から引き抜き、フェイスレスはその刀身を凝視。微かな溜め息をこぼす――。


「……この武器も煌輝おまえ輝醒剣つるぎと同じ特性を有している。どうやら精神感応金属ヒヒイロカネ黄金氣マナが交わる事で、度し難い変質が起こるらしいな――。”七罪機関セブン“やラ=ヒルカがどこまで計画していたかはわからんが、厄介な事だ」


 煌輝を凝視したまま、輝蒼鎌をぞんざいに投げ捨て、フェイスレスは肩口に負った損傷を瞬く間に復元修復リフレッシュさせる。


 “畏敬の赤”の奇跡を絶つ刃であっても、只の一撃では、現在のフェイスレスを倒すには到らないという事か――。響の意識に、改めて焦燥が噴き上がる。


 そして、


「……“破壊者ジーザス”、お下がりを。御身は我等“倣されし背信レプリカントの九聖者・ナイン”の要。万に一つの事もあってはなりませぬ――」

「“処刑者エリミネーター”……」


 フェイスレスが投げ捨てた輝蒼鎌を拾い上げ、前へと進み出た“処刑者エリミネーター”は、響と輝電人、凶事を為したブルーを忌々しげににらみ、喘ぐような呼吸音を漏らしていた。


 3つの“心核コア”を抉り出した負荷によって、“処刑者エリミネーター”の赤を基調とした鎧装ヨロイは激しくかれ、部分的に融解。


 見るも無惨な、満身創痍の状態となっていた。


「……無理をするな、“処刑者エリミネーター”。“誘愛者ヴァンプ”、“征服者ドミネーター”、“祭祀者プレイヤー”、“絶滅者エクスターミネーター”――既に多くの同胞が犠牲となった。……これ以上は、看過出来ぬ」

「“破壊者ジーザス”……」


 僅かに目を伏せた、“破壊者ジーザス”の表情には、確かに沈鬱なものがあった。


 恐らくフェイスレスが自ら、響と雷威我ライガの迎撃に動いたのも、同胞を屠る業を背負い、満身創痍となりながらも儀式を断行した“処刑者エリミネーター”への労りであり、敬意であったのだろう。


 “処刑者エリミネーター”もそれを察し、本来の自らの役割を果たすべく前へ出る。


 あらゆる宇宙、あらゆる平行世界、あらゆる異世界を含めても「9名」しかいない、数少ない同胞。


 その絆と信頼が、並び立つ二体の背中に滲み出ていた。


 “破壊者ジーザス”は“処刑者エリミネーター”へと短く頷くと、黑の外套マントを翻し、倒れ伏したままのブルーへとそのてのひらかざす――。


「……そして、まずは、だ。油断ならぬ障害を排除しておくか」

「クッ……ブルー!」


 いまにも放出されんとする超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”。


 たまらず駆け出した響を、麗句とシオン、我羅を突破してきた“叛逆者リベレイター”、“極闘者ウォーロード”の剛腕が取り押さえる……!


 響を護らんとする“雷威我ライガ”の四肢は、“処刑者エリミネーター”が召喚した鎖によって拘束され、“雷威我ライガ”は“処刑者エリミネーター”との“綱引き”を余儀なくされた、一種の膠着状態へと陥っていた。


 そして、その状況が図らずも、“儀式”を完遂し、戦闘に専念する事が可能性となった“処刑者エリミネーター”の実力が、あの“破滅の凶事ゼルメキウス”を凌駕する領域レベルにある事を証明、雄弁に物語っていた。


幸福しあわせな男だ、辿り着いた“無我”のまま、痛みなくけるのだからな――」

「ブ…ブルー……ッ!」


 喧騒を横目に、胸で逆十字を切った“破壊者ジーザス”は、掌に集中した“畏敬の赤アームド・ブラッド”、その内なる引鉄トリガーを弾く。


「さらばだ、ブ―――」

(そうは……いかないよ)


 しかし――、


「……!」


 張り巡らされた障壁を斬り裂き、落着した“獣”。


 その石柱を想起させるような両腕が、放出された“畏敬の赤アームド・ブラッド”を防御ガードし、白夜の如き眩い“輝き”を舞い散らせる……!


 龍の白骨を鎧装に仕立てたかのような獣面は、威嚇の咆哮を轟かせると、肩部にある球状の器官から、紅紫色マゼンダの熱線を放射。大地を刳る爆炎と共に、“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達をブルーから引き離す――。


「あ、あの姿は……」

「嘘だろ――」

「えー!? 真似っ子!? ヤダー!」


 爆炎に、戸惑いの喧騒が重なっていた。


 現れた獣の異貌すがたに反応を示したのは、“超醒獣兵ギガ・インベイド五獣将ごじゅうしょう”の面々。


 ……無理もない。


 その獣は、“彼等5体を繋ぎ合わせたかのような”異貌カタチをしているのだから。


 ラズフリートの龍の頭骨を想起させる鎧装。


 ザンカールの超視覚を司る六つ目。


 アーロウが持つ球状の生体レーザー放射器官。


 ヴェガンの強靭な巨躯と、背部に折り畳まれたティターンの巨翼。


 獣はそれらを統合した一個体として、度し難く――そこに存在していた。


(やれやれ……ここまで“畏敬の赤アームド・ブラッド”と真っ向からぶつかるなんて、僕の“人生設計”にはなかったよ、“模造品の救世主(メシア)”さん――)

「貴様……」


 超高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”による障壁を斬り裂き、“破壊者ジーザス”の一撃を凌いでみせた獣は、軽口を響かせ、徐々にそのシルエットを人のカタチへと変えてゆく――。


 現れたその容貌すがたに、ブルーの救援に疾駆していた麗句の声が上擦る。


「シャ……シャピロ!?」

「やっ! お待たせ、僕等の“女王クイーン”。“女王の誇りクイーンズ・プライド”、これで全員集合だよ」


 綺麗に切り揃えられた黒髪(ボブカット)血風かぜに揺れる――。


 飄々とした笑顔を浮かべた青年は、主である麗句へと手を振ると、その手指で銃のジェスチャーを形成。


 細いその目と銃口が見据えるのは、対峙する、おそるべき“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”達である。


「――Bangバァン


 青年の舌が引鉄を弾くと同時に、細い目の奥に、白い焔が揺らめく。


 ――彼の名はシャピロ・ギニアス。


 “未知なる亡霊グレイ・ファントム”と呼ばれる、人柱実験体の一人である。


NEXT⇒第23話 白夜纏うグレイ―“white knights”―

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