第21話 神威の迅雷、咆哮す―”ignition”―
#21
「いよぉっしゃあ!!!! いったれ響――っ!!!」
「ギィー!」
“観念世界”の深き、深き、底の底。
“深淵”の地で、青い瞳の少女と、そのゲル状の友人は、“創世石”を通じて、断片的に流れ込む情報に拳を握り、声の限りの声援を送り続けていた。
「ほら! ギィ太くんいくよ! せーの! “がんばれ〜”!」
「ギイッギー!」
傍目には、“部屋の隅にちょこんと座って、拳を振り上げている”、少し寂しい情景だが、声援の熱量と、熱を帯び、紅潮した彼女の頬が、懸命さを伝え、そんな寂しさを消し飛ばしていた。
その情景を眺め、硝子細工のような瞳を細めるのは、“神”――管理者“JUDA”である。
「……しかし“擬似聖人”め、“幻想世界”からの呪物の持ち込みなど、好き勝手やってくれる。複数の世界を無遠慮に繋げるなど、まったく……! 思慮の欠片もないな――」
ピンク髪を指に絡ませながら、溜息を言葉に乗せた“JUDA”は、“神”としての五感が観測した、現実世界の情景に、眉間の皺を深くする。
(だが、場合によっては、響……“黄金の守護者”もその“禁忌”に触れるか――。ラ=ヒルカも怖ろしい“契約”をするものだ)
現実世界に降臨・落着した、紅い鋼――“輝電人・雷威我”の仰々しく、精悍な機体を、その“神の視点”に観測しながら、“JUDA”はその紅色の唇を開く。
「輝界の“悪魔”と、ラ=ヒルカが産み出した“神威の遺児”。その性能と脅威、しっかり検分させてもらうよ――」
※※※
「何たる……何たる事だ……」
“処刑者”の仮面から、苦々しい呟きが零れる。
眩い黄金の煌めきを内部に秘めた、赤と銀の鋼で建造された、機械仕掛けの巨躯。
“彼”は剛腕と呼ぶに相応しい、巨大な鉄腕を威嚇するように持ち上げ、その鉄塊の如き脚を、地響きと共に前進させていた。
“輝電人”。
その仰々しく、精悍な機体は、全身から機械音の咆哮を轟かせながら、煌輝、月輝の鎧装と並び立ち、漲り、迸る電光とともに、その真価を発揮せんとしていた。
その頭部を雄々しく飾り立てる、前方に向けて伸びる銀の双角は、黄金の眼光とともに、標的へと向けられ、獰猛とすら呼べる、その戦意を露わとしていた。
煌輝の“制御翠核”の光輪が、眩く輝き、響の精神と輝電人の電脳が“直結”する――。
「いくぞ、“輝電人”……“輝電人・雷威我”!」
【――-―-――ッッ!!】
機械音が咆哮え、2つの鋼が変態を続ける“破滅の凶事”へと突撃を開始する……!
同時に、ゼルメキウスの脇腹から“生えた”パイプのような器官から霧が噴出し、その霧の中から鴉のような黒鳥の群れが出現。
嘴の内側に夥しい牙を生やした、悍ましき群れは、地響きを立て、粉塵と砂利を跳ね上げながら前進する輝電人へと、ミサイルのように突貫・殺到していた。
その危機に、輝電人と直結した響の頭脳が、選択すべき武装のデータを、脳裏に浮かび上がらせる――。
「“雷威我”ッ! “輝雷陣爆裂”ッ!」
【――−――−――!】
響の音声入力――言霊に呼応して、輝電人の胸部装甲、そして、武装化された避雷針の如き大型の肩部装甲が展開。強烈な雷撃が迸る……!
雷撃は黒鳥の群れを一瞬で殲滅。
岩盤を踏み砕き、右腕を砲塔のように構えた機体が、更なる追撃を予告する……!
起動する、その武装の名は――、
「“輝回転地獄突き”……ッ!」
輝電人の右腕、その拘束が解除され、回転とともに射出された腕部、その剛拳が、ゼルメキウスの顎先を撃ち抜き、その外骨格を破砕……!
悍ましき巨躯を、昏倒せしめていた。
鎖で上腕と繋がれた剛拳は、鎖を引き戻す金属音とともに帰還し、本体と再接続。拘束とともに再び腕部としての機能を取り戻す。
戦意昂ぶる輝電人は、踏み砕いた岩盤を蹴り飛ばし、変態を完了しつつあるゼルメキウスへと、突撃を再開。禍々しく、毒々しい4本の腕とがっぷりと組み合う……!
【――-――-――-―――!】
【―――-_―――-_―――!!!!!!】
機械音の咆哮と、悍ましい“鳴き声”が絡み合い、両者の激突によって発生した力場が、周囲の瓦礫を吹き飛ばしてゆく。
力場の中で、輝電人の機体は眩く輝き、その鋼の内部に埋め込まれた砂金のような煌めきを、より強烈なものとしていた。
その光は、“処刑者”と、フェイスレスの視線を釘付けとし、彼等の口舌から苦々しい声音を吐き出させる――。
「“破壊者”……あの鋼は」
「……ああ、“輝界”の“輝神金属”。忌々しい“輝界”の“悪魔”、その神威の遺児に間違いない――」
“畏敬の赤”が凝固したかのような赤い瞳で、輝電人を凝視しながら、フェイスレスは虚空の遥か向う側――“別世界”に鎮座する存在を睨む。
「上位の世界を気取り、他世界に“契約”とともに神威を供与する、か。……下卑たメフィストフェレスめ、ラ=ヒルカとも“契約”を交わしていたか」
多くの世界線を渡り歩いた自分も、もう一人の自分も知り得なかった“契約”。
恐らく、この結果――“響=ムラサメという天敵種が守護者に反転する”という、この馬鹿げた結果に辿り着いた場合にのみ、履行・起動される契約だったのだろう。
それは異能によって、世界を繰り返し続けた自分達へのカウンターとして仕込まれた因果。滅びたラ=ヒルカが、自分達へと突き立てる牙――。
「ラ=ヒルカめ、大した――」
“役者だ”。
そう言いかけたフェイスレスの瞳に、銀蒼の閃光が走る――。
フェイスレスの意識が状況の観測から僅かに逸れた瞬間、一直線に間合いを詰めた銀蒼の鎧装が、輝蒼剣・真月壱型を、その首筋へと躍動させていた。
その美麗にして苛烈な斬撃を、“処刑者”が召喚した円輪状の武装が受け止め、“畏敬の赤”と“黄金氣”が交錯した、鮮やかな火花を散らす……!
「一跳びに“破壊者”を狙うとは、流石に増長が過ぎるのではないか? ブルー=ネイル――」
「……悪いが、聖人に頭を垂れる信条はない」
輪の中心に、“処刑者”の長躯を潜らせるような形で顕現している円輪状の武装は、凶暴な回転とともに、ブルーの真月壱型を弾き、迫る、その輝きを強制的に引き剥がす――。
続け様、“処刑者”が虚空を歪め、呼び出した聖槍の雨を、華麗なステップで躱し、ブルーは“処刑者”の懐に飛び込む……!
フェイスレスが“擬似聖人”の首魁であるなら、この“処刑者”は司令塔。どちらかを仕留めれば、彼等の動きは止まる――。
瞬時に判断したブルーは、輝蒼剣、その鋒を“処刑者”の喉元へと躍動させる。
だが、
「……成程。垂れる頭はないか、“人柱実験体”」
「……!」
その鋒は割り込んだ“指一本”によって、直進を阻まれ、宙空に静止していた。
細い、包帯と黒い革に覆われた指は、輝蒼剣の刺突を、容易く受け止め、蜘蛛の巣のように“捕獲”していた。
“畏敬の赤”が凝固したかのような赤い瞳が、銀蒼をその視界に捉え、僅かに細められる――。
「ならば、地に伏して“救済”を求めよ――」
「……!」
視覚する事は愚か、その“攻撃”を認識する事すら出来なかった。
ブルーが気付いた時には、既に、銀蒼の鎧装は大地へと叩き伏せられ、ブルーの蒼眼は、過剰に過ぎる“畏敬の赤”の放出で、空間を、世界を“紅”に染める“破壊者”の姿を仰ぎ見ていた。
「クッ――!」
思考よりも先に、本能に弾かれ、闇雲に跳ね上がったブルーの身体は、輝蒼剣を閃かせる事で、“処刑者”が放った追撃の“聖槍”を撃墜。二体の“擬似聖人”から間合いを離す。
抑制された感情を突き抜けて、四肢を震わせる畏怖と戦慄――。
呑まれかける己を鼓舞するように、ブルーは輝蒼剣の柄に設えられた引鉄を弾く……!
「“銀蒼連結”・“参之型”……!」
連結していた柄と柄が離れ、柄の内部に仕込まれていた鎖が、鎌のようなフォルムに変形した2つの輝双剣を繋ぐ。
輝蒼鎌・真月参型。鎖鎌を操つるように投擲された、その鎖は、立ち塞がる“破壊者”の腕に絡み付き、不遜なまでに締め上げる――。
「“破壊者”……!」
「……儀式を続けよ、“処刑者”。このような些事、我等の大義の前では問題にすらならぬ――」
鎖から伝播する“黄金氣”を、高濃度の“畏敬の赤”で弾き、フェイスレスはその指先から、高濃度過ぎるが故に液状化した、“畏敬の赤”を滴らせる――。
対峙するブルーを侮蔑するような物言いだが、フェイスレス自ら“足止め役”を引き受けるという事実そのものが、“月輝”という脅威への、最大級の評価であると“処刑者”も理解する。
そうだ。この危険因子どもは、僅かな間に度し難く力を増す。
己の為すべき事を再認識した“処刑者”は、厳かに囁く。
「“amen”」
「“amen”」
細やかな、そして確かな意思疎通を終えた、二体の“擬似聖人”はそれぞれに行動を開始する。
フェイスレスが、液状化した“畏敬の赤”を滴らせた大地は朱い水面を形成――。
その水面から、フェイスレスが召喚した、艶かしい肢体と顔面を呪符で包んだ、紅い“踊り子”達が這い出す。
彼女たちが繰り出す、何かに取り憑かれ、四肢を繰糸に吊り上げられたかのような、その奇妙にして精緻な舞踏は、高度な連携を伴った体術となって、銀蒼の鎧装へと襲いかかる……!
そして、
「援護するぜ……! 青いの……!」
「……!」
――奇縁が、また一つ結ばれる。
“踊り子”達の前へと、高速で滑り込んだ、紺青の鎧装が、その右腕の“蒼狼牙”で踊り子の演舞を受け止め、激しく鍔迫り合っていた。
続けて、後方からミリィが連射した矢が、踊り子達の胸部、頭部を撃ち抜き、衝撃に動きを止めた踊り子達を、ガルドの戦斧が木っ端と砕く……!
(兄と縁故の“強化兵士”達か……)
彼等の掩護によって、障害が取り除かれたと同時に、ブルーはフェイスレスの腕に絡んだ輝蒼鎌の鎖を強く引き、彼――“破壊者”との対決の意思を新たにする――。
「業腹だが……“人柱実験体”の役目、果たさせてもらう――!」
「フン……」
銀蒼と赤の苛烈な激突が始まる中、がっぷり四つに組み合っていたゼルメキウスと輝電人の熾烈な争いにも進展が訪れる。
【―――_-――-_――――!!!!!!】
「むッ……!?」
ソレは、言うなれば“鎧醒”と近似の事象。
――“再現”と言ってよい事象だった。
ゼルメキウスの声帯が、耳障りな音色を奏で、その“言霊”が、別次元から禍々しく、仰々しい“鎧装”を喚び出す……!
凍り付くような、冷え冷えとした神々しさと、多くの毒物をかけ合わせ、混ぜ合わせたかのような毒々しさを併せ持つ、“蒼”に染められた鎧装はゼルメキウスの全身に装着され、その輪郭を大きく変貌させる。
甲殻類の外殻のようでもあり、機械的でもある仮面は、ゼルメキウスの悪意に満ちた意思を眼部に灯し、蛇のように蜷局を巻く下半身は、大地を削りながら、唸りを上げ、雷威我の巨躯を弾き飛ばす……!
「信じられん……。『鎧醒』まで学習したというのか……!?」
儀式を止めるために、“極闘者”の猛撃を潜り抜けていた麗句の唇から、半ば呆れたような声音が零れる。
援護に向かいたいが、“極闘者”の技量と異能は、血盟機と契約した“剣鬼”と麗句二人を相手にして、劣勢どころか優勢に立っている――。
呂布奉先だけではない。恐らく、畏れ、崇められた、多くの猛将・英雄の魂が、あの紫紺の鎧装の中に鎮座している。
“極闘者”は正に、容易には突破出来ぬ“赤壁”であった。
――そして、驚愕とともに眉を顰めたのは、麗句だけではなかった。遥か遠い、底の底……“深淵”においても、管理者“JUDA”が、“破滅の凶事”の馬鹿げた能力に、嘆きの息を零していた。
「……“滅尽の蒼”側の観念世界に漂う暗黒金属を召喚し、己を強化する鎧装に書き換えたか――。“魂”のない、残骸に等しい状態でよくやるものだ」
“流石は、高次元暗黒存在と言ったところか”。
指先に巻きつけていたピンク髪を解き、“JUDA”は、度し難い絶望と対峙する“黄金”の鎧装を見据える――。
「気張って、生き延びてくれよ、“黄金の守護者”。ソイツを斃した、“幻想世界”の戦いを無意味なものにしないためにも――」
「クッ……!」
ゼルメキウスの背部から伸びる腕二本――その拳が打ち鳴らされると同時に、幾重にも重なった円輪状の衝撃波が、雷威我と煌輝へと襲いかかる……!
衝撃波は、その威力で煌輝の鎧装、雷威我の輝神金属を砕きながら吹き荒れ、その脚をジリジリと後退させる。
「貴様の、貴様の好きにやらせるか……! なぁ、“雷威我”!」
【―-――-――-――-――!】
輝電人と響の繋がりの深化を示すように、煌輝の額の円輪が眩く輝き、機械音の咆哮が轟く……!
連続して放たれる、円輪状の衝撃波を、再び外殻を纏い、大剣状となった、重輝醒剣で防ぎ、響は、重輝醒剣が放出する、“黄金氣”を結界のように前面に展開する。
同時に、雷威我の足裏から飛び出した突起が大地を刳り、その巨躯を“砲台”のように、大地へとガッチリと固定。
反撃の狼煙のように、雷威我の機械音の咆哮が、凄絶な電光を帯びる――。
「“双輝回転地獄突き”……ッ!」
ゼルメキウスの波状攻撃を、“黄金氣”の壁が堰き止める中、響の咆哮と同時に、意思を繋いだ雷威我の両腕が轟然と射出……!
凶暴な回転とともに、紅の双腕が、ゼルメキウスの背部から伸びる腕を砕き、壊す……!
【――――------_―――_-----――――――ッ!!!!!】
轟く、ゼルメキウスの絶叫。
看過できぬ損傷に咆哮し、狂乱する魔獣へと、黄金の騎士の剣閃が疾走る……!
響の剛腕により、重輝醒剣ごと叩き付けられた“黄金氣”が、ゼルメキウスの胸部鎧装を粉砕。
憤怒と憎悪に震える、悍ましき巨躯を怯ませる……!
そして――、
「“速射迅雷破壊砲”……!」
【――――------_―――_-----――――――ッ!????】
響の言霊に応じ、雷威我の胸部鎧装が展開。内部から迫り出した大型のバルカン砲が、毎秒数百発の弾丸を、ゼルメキウスへと叩き付ける……!
絶えず着弾する、弾丸の嵐は、暗黒金属の鎧装をガリガリと削り取り、その内部に秘匿されていた、膿状の腐敗した体組織を露わとしていた。
雷威我の体内で生成される、輝神金属の弾丸の威力は凄まじく、狂える魔獣の突進の意思を挫き、破砕。
混乱するゼルメキウスの“悪魔の瞳”が、突破口の解析・分析を試みるも、“輝神金属”と“黄金氣”の輝きが、“瞳”の精度を大きく乱し、その解析機能を著しく阻害していた。
「“雷威我”……! “輝獣形態”……ッ!」
【―-――-――-――-――ッッッ!!!!!!】
勝機を見極めた響の言霊が、輝電人の鋼に凶暴なまでの“変化”をもたらす――。
響が、重輝醒剣を大地へと突き刺し、雷威我の背に飛び乗ると同時に、雷威我の四肢は、四足獣のように折り畳まれ、後方へスライド。
迫り出した胴体からは、紅い焔が噴き出し、それは雷威我の頭部と融合するように燃え盛ると、紅い鬣を持つ、獅子の貌を、新たに顕現させていた。
そして、輝獣への“転生”を果たした雷威我は、猛る獅子の咆哮とともに、重輝醒剣の柄を銜え、轟然と大地から引き抜く……!
黄金の騎士を背に乗せた、紅の獅子は、輝神金属の四肢で大地を蹴り、鎧装を喪失した破滅の凶事へと、凶暴な疾走を開始していた。
「“封印解除”――!」
【―-――-――-――-――ッッッ!!!!!!】
背部で自らを制御する煌輝の言霊に、野獣の咆哮で応え、雷威我は外殻を排除された輝醒剣を、その牙に銜えたまま、断つべき災厄へと疾駆する……!
「“咆牙迅雷閃煌斷”……!」
【――――------_―――_-----――――――ッ!????】
煌輝の額の円輪が雷光を放ち、響の言霊とともに、“黄金氣”を纏った獅子の斬撃が、ゼルメキウスの巨躯を、横薙ぎに両断する……!
眩い、黄金の閃光となって、禍を断った獅子は、背より飛翔した黄金の騎士へと、銜えていた剣を投げ渡す――。
「これで……凶事も終焉だ!」
【――――------_―――_ッ!?-----――――――ッ!????】
“黄金氣”と“畏敬の赤”の焔に、膿状の体組織を焼き尽くされ、苦悶するゼルメキウスの額へと、突き立てられるは輝醒剣……!
そこから流し込まれた“黄金氣”が、魔獣の体内に満ち、眩い輝きとともに爆ぜる……!
破滅の凶事は、悍ましい断末魔とともに木っ端と砕け、迸る黄金の輝きが、飛び散ったその細胞を、一つ残らず滅却していた。
――異世界より持ち込まれた災厄はいま、完全に“根絶”されていた。
「フン……見事だ、見事なものだ。危険因子……」
「……!」
だが、
「しかし……少し、少し“遅かった”な。破滅の凶事は、その名の如く、役目を果たした」
決着を見届けた“処刑者”は、密やかに、厳かに嗤う――。
同胞3体の心核を抉り出し、その全身を返り血に灼かれた“処刑者”は、赤く染まった仮面を、泣き笑いの道化師の仮面を、虚空へと向けていた。
「“儀式”は完了した。これより“世界の終焉”を、“救済”を開始する……!」
「……!」
感極まった“処刑者”の絶叫に肯き、フェイスレスは“一撃で”撃ち倒した銀蒼の鎧装を、自らの足元へと投げ捨ててみせる。
“叛逆者”、“殺戮者”、“極闘者”。残る他の擬似聖人達も、完遂された儀式に陶酔したかのように、虚空を仰いでいた。
「なっ――」
――紅く染まった虚空が裂ける。
世界の終焉が、始まる。
NEXT⇒終焉の人類―”ADAM”―