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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第19話 輝きの兆―”signe”―

#19


「なっ……あっ……」


 驚愕が、息を飲む音とともに、周囲へと伝播でんぱする。


 同志である“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”の“心核コア”をえぐり出した、“処刑者エリミネーター”の奇行。その“処刑者エリミネーター”が剥ぎ取った聖骸布ローブの下にあったモノ。


 それらが、戦闘の最中にある人類ニンゲン達の思考を奪い、釘付けとしていた。


「な……なんだ、ありゃあ……」

「人形……? ミイラのようにも見えるけど――」

「少なくとも、生者、ではないな……」


 あまりの驚愕に、保安組織ヴェノムの面々の口から、呆けた声音がこぼれていた。


 “処刑者エリミネーター”が剥ぎ取った聖骸布ローブの下にあったモノ。それは、朽ち果てた、文字通りの遺骸――正確には“遺骸としか表現出来ないモノ”であった。


 血の一滴すらこぼれないような、干乾ひからびた四肢。額に、“心核コア”と思しき、紅の結晶を埋め込まれた頭蓋骨しゃれこうべ


 ――少なくとも、生命いのちの脈動はまったく感じられない。とてもではないが、“一体”とカウント出来るような状態モノではなかった。


「……フッ。諸君らの疑問、混乱は“もっとも”だ。確かに現状では、人類を救う聖人の御姿(すがた)とは言い難いであろうな――」


 そして、その、憐れな人類ニンゲン達の驚愕と混乱を察知したのだろう。“処刑者エリミネーター”は紅の装束を翻し、緊張に表情を強張らせる、“迷い子”達へと向き直っていた。


 同胞から抉り出した“心核コア”に、その掌を焼かれながら、“処刑者エリミネーター”は厳粛に、静謐に、自らの言葉こえを紡ぎ始める――。


「――元来、“模造されし背信レプリカント・の九聖者ナイン”とは、“破壊者ジーザス”を含めた、我等九体“のみ”で構成されている。この十体目は、言わば、その番外。最後の擬似聖人アルタネイティブ・クライスト――その“素体”となるべき存在モノだ」


 左手で頭蓋骨しゃれこうべを撫でながら、“処刑者エリミネーター”は、“心核コア”を抉り出され、倒れ伏した同胞と、“破壊者ジーザス”を始めとする擬似聖人アルタネイティブ・クライストの面々、その御姿すがたを見据える。


「我等は“人類ヒトの救済の為に産まれ、人類ヒトの救済の為だけに死ぬ”。その鉄の結束は神幻金属オリハルコンよりも硬く、奈落アビスの底よりも深い。憐れな人類オマエ達に、その強さを推し量る事など出来ぬ――」


 仮面から流れ出す血涙とともに、“処刑者エリミネーター”の手が“心核コア”を握り潰し、純粋なエネルギー体となった“心核コア”は、茨の如き鉄棘ソーンへと姿を変える……!


「故に、我等は血を流そう。誇り高く、呪わしい“畏敬の赤アームド・ブラッド”を――ッ!」

「……!」


 “処刑者エリミネーター”の手刀とともに、“番外”の遺骸へと撃ち込まれた鉄棘は、噴き出す“畏敬の赤アームド・ブラッド”の返り血をも吸い込み、新たな“心核コア”として、遺骸の内部で脈打ち始める――。


 そして、その尋常ではない“返り血”の量からも理解できた。やはり、これはただの遺骸ではない。高純度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”の塊と呼ぶべきものだ。


 その塊に、“心核コア”という更なる生命エネルギーを撃ち込んでいるのだ。――そこから派生するものが、尋常の存在であるはずがない。


「チイィ……ッ!」


 焦燥に、大地を蹴らんとした麗句の挙動を、“極闘者ウォーロード”の巨大な斧槍ハルバードが、当然のように阻む。


 更に、滅尽騎士ゼル・マギア破滅の凶事ゼルメキウスが当然のように、響達の前に立ち塞がり、進行する“処刑者エリミネーター”の“儀式”を、図らずも守護していた。


 さらに、響によって砕かれた滅尽騎士ゼル・マギアの半身は、“処刑者エリミネーター”の暴挙に気を取られた、わずかな時間で、ほぼ完璧に復元。その身が秘める、度し難い“再生能力”を自明のものとしていた。


 高火力の一撃で、一気に仕留めなければ、完全に消滅させる事は難しいかもしれない――。


「フッ……見事なものよ。想定外イレギュラー想定外イレギュラーを重ねるお前達の“足搔き”。“処刑者エリミネーター”殿も、随分と肝を冷やした事であろう――」

「クッ……!」


 畳みかけるように響く、“極闘者ウォーロード”の闊達な口調が、麗句の神経をザワザワと逆撫でる――。


 麗句が幾度、全推力(フルパワー)での突撃を試みようとも、竜巻のように襲い来る斧槍(ハルバード)の乱舞が、それを阻止。


 血盟機に匹敵、いや――凌駕する戦力ポテンシャルが、“極闘者ウォーロード”の一挙手一投足に、満ち満ちていた。


「だが――その程度で(くつがえ)せるほど、我等の計画は杜撰ではない。いまだ盤石も盤石。“こらがたき犠牲”を強いたとしても、計画された救済への道筋は何一つ揺らいではいない――」


 有無を言わせぬ“圧”があった。


 一語一語に、足首を地面にうずめるような、強い圧力プレッシャーがあった。


 容易には飛び越えられぬ一線。“極闘者ウォーロード”は正しく、絶対的な防衛ラインとなって、そこに立ち塞がっていた。そして、


(……当然といえば当然だが、“こういうタイプ”も存在するか)


 麗句の目は、対峙する“極闘者ウォーロード”が、他の擬似聖人アルタネイティブ・クライストと“明確に異なる特性を持つ”事を、既に看破していた。


 他の擬似聖人と同様に、奇蹟の塊でありながら、この擬似聖人はその攻撃、能力の発揮に、“奇蹟の行使を必要としない”。全て彼の肉体フィジカルと技量によって繰り出されている。


 あらゆる奇蹟を封殺する“神を斃す右手”にとっては、己の特性を無効化する、最も厄介な相手だと言える。肉体フィジカルと技量のみでの対決となれば、体格的にも、麗句の不利は否定できない――。


「クッ……!」


 豪然と迫る極闘者ウォーロードの巨躯が、麗句の視界を塞ぎ、巨大な斧槍ハルバードが凄まじい速度で唸りを上げる……! だが、


「ヌッ……!?」


 極闘者ウォーロードと麗句。両者の間に割り込んだ鎧装ヨロイが、麗句を押し退け、唸りを上げる斧槍ハルバードの隙間を縫うように、鋭利な斬撃を交差させていた。


 麗句の肢体を裂かんとしていた斧槍は、乱入者が放った絶技に、即座に反応。その軌跡を防御のためのものに変えていた。


 金属の鈍い衝突音とともに、“極闘者ウォーロード”は半歩後退し、現れた乱入者へとその目をみはる。その、鎧装ヨロイは――、


「“剣鬼シオン”……!」

「“選定されし六ジャッジメント・人の断罪者シックス”は貴女一人ではありませんよ、“女王クイーン”」


 “この擬似聖人アルタネイティブ・クライストは、私が引き受けます”。


 鮮やかなる乱入者――“暗夜征く剣鬼(ダーク・ブレイダー)”への『鎧醒アームド』を完了したシオンは、両手に握る二刀を構え、涼やかに言葉を紡いでいた。一撃を阻まれたカタチとなった“極闘者ウォーロード”は、巨大に過ぎる斧槍ハルバードを肩を担ぎ、首筋をポリポリと掻いてみせる――。


「ほう……貴公、“剣鬼ブレーダー”、だったか。わらべのようなナリで、その技巧。人類ヒトの身で、なんともやるものだ」


 一瞬、交差したシオンの剣技の残滓、その軌跡を目で追うように、空間を見つめながら、“極闘者ウォーロード”は呵呵かかと告げる。顎に指を乗せながら、シオンを観察する様は、彼の技能・体幹を分析し、値踏みしているかのようだった。


「……恐れ入ります。神の子アル・ホワイトを狙っていた三体の疑似聖人は、“あのような有様”ですので、貴方に標的を変えさせていただきました」


 “聖人”と呼ぶには、いささか“武”に偏った方のようですが――。


 内臓を鷲掴みにし、嘔吐を誘発させるような圧力プレッシャーを噛み殺し、シオンは毅然と言葉を紡いでゆく。


 シオンもまた、“極闘者ウォーロード”という未知数を凝視・観察し、“己の肉体フィジカルと技量のみを強さの拠り所とする”、その特性を看破していた。そして、徐々に増幅する、五感を軋ませる圧力プレッシャー、肌を粟立たせる“予感”が、鎧装の下の四肢に汗を滲ませる――。


「フゥハッハッ! 確かに私は、他の八体と違い、“聖人”と呼ばれるような存在ではない。どちらかと言えば、天に唾する、神に刃を向けるような存在であったかもしれん――」

「天に唾する、だと……?」


 豪放に笑う“極闘者ウォーロード”のこたえに、麗句の表情が怪訝に曇る。


 痛みの、祈りの集合体と言うべき“誘愛者ヴァンプ”と対峙し、打倒した麗句にとって聞き流せる言葉ではなかった。この“極闘者”が天に救いを求めた者ではなく、天に唾する者だとすれば、その存在は――、


 得体の知れぬ予感に、身を震わせる麗句を横目に、“極闘者ウォーロード”は斧槍ハルバードを構え直す。


「しかし、“我等”は崇められ、奉られた。人類を救う九体の一つに選ばれるほどに」


 “例えば”、


 告げる“極闘者”の兜から人骨で編まれた蛇腹状の髪飾りが伸び、その機械的メカニカル仮面マスクが禍々しい“赤”の光を宿す。


「“呂布奉先りょふほうせん”」

「――!」


 語られた名に、シオンが目を見開いた瞬間、振り上げられた斧槍ハルバードが、シオンの身体を鎧装ごと舞い上がらせていた。


 まるで、宇宙が爆裂したかのような衝撃だった。


 “ただの一振り”で、まるで、風船のように宙を舞う己の身体と、四肢を痺れさせる衝撃に、シオンは“極闘者ウォーロード”の味付けのない“純粋な強さ”を確信する。


 聖人の域に達するまでに、その“強さ”を人類に崇められた者達の疑似聖人アルタネイティブ・クライスト


 それが――この”極闘者ウォーロード”という疑似聖人。正しく、“武を極め、奇蹟に至った”存在……! そして、

 

「シオン……ッ! 受け取れ……ッ!」

「……! “女王クイーン”ッ!?」


 死闘を確信・覚悟したシオンは、凛とした麗句の叫びと同時に、手首に強い“熱”を覚える。


 生じた熱は高濃度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”とともに、新たな鎧醒器アームド・デバイス――“血盟の腕輪ブラッド・アンクレット”となって、シオンの手首に装着されていた。


 それは“血盟”の証であり、異能チカラの根幹。


 “血盟機XⅢブラッド・サーティーン”を統べる操縦機コントローラ


「ーー契約テスタメントッ!」


 理解したシオンが、契りの言霊を放つと同時に、麗句の鎧装に装着されていた“血盟機XⅢブラッド・サーティーン”が、シオンの鎧装へと転送・鎧醒装着がいせいそうちゃくされる。


 元々、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の適正者達を対象に契られた“血盟”である。状況に応じた、“使用者の変更”は、合理的かつ、当然の運用といえた。


【“双翼紅醒剣ファルケン・シュヴェールト”・連結コネクトーー灼熱化ヒート


 剣技など接近戦を主体とするシオンの戦闘スタイルに合わせ、血盟機もまた、地上戦用に自らの在り方をアップデート。


 背部鎧装バックパックの双翼が排除パージされ、シオンが握る二刀と融合。新たな超常の武装となって、夜闇に紅い光を刻み付ける――。


 高濃度の“畏敬の赤アームド・ブラッド”を充填し、熔岩マグマのように赤熱化した2つの刀身は、シオンの鮮やかな剣舞と相まって、“極闘者ウォーロード”をその場に釘付けとするだけの圧力プレッシャーを生み出していた。


「ヌゥ……ッ!」

「私の“武”と、血盟の加護――存分に振るわせていただきます! “極闘者ウォーロード”ッ!」


 軌跡すら追えぬ紅い斬撃が、闇を乱舞し、深紅の薔薇のように咲き乱れる。そして、


【―――――――――】

「グッ……ウッ……またこの“歌”かッ!!」


 立ちはだかる障壁はいまだ高く、厚い。


 自らの神経を、五感を掻き毟る“歌”を、掻き消すように咆哮し、響はその黄金の拳を“滅尽騎士ゼル・マギア”へと叩き付ける……!


 しかし、滅尽騎士ゼル・マギアと接触した五指には、膿の如き体組織が絡み付き、接触毎に、“黄金氣マナ”の放出・充填を阻害。


 もはや、相手を仕留めきれぬ、安易な攻撃は、ただ自らの攻撃力を減少させるだけの愚行と成り果てていた。


「隊長……! クッ……!?」


 しかも、ジェイク達が援護に入ろうにも、ゼルメキウスによって放射される膿の弾丸が、“正確に急所を狙って“絶え間なく飛来。もはや援護どころか、自分達の防御すらままならない状況であった。


「くッ――ふざけるな……ふざけるナァァッ!」


 “歌”に蝕まれる己の肉体を鼓舞するように、咆哮した響の、煌輝の鎧装ヨロイから黄金氣マナが噴出す……! 滅尽騎士ゼル・マギアの特大剣による乱撃ラッシュを、拳の乱打で押し返し、響は黄金の鎧装を、破滅の凶事ゼルメキウスへと向け、僅かにだが前進させていた。


 しかし、一瞬で両腕の筋肉組織を肥大化させた、滅尽騎士の渾身の一撃が、防御ガードした両腕ごと、煌輝の鎧装を再び後退させる。


 それでも、それでも響の脚は前進を諦めず、精神と神経を搔き乱す“歌”の中、彼は滅尽騎士の猛撃に抗う。


 ――自分一人の身体、力ではない。ガブリエルの生命いのちを喰らってまで生き延びた命、力なのだ。


 こんなところで――足踏みをしていていいはずがない。無為にしていいはずがない。そして――、


【……“護る者”よ……】


 黄金の輝きの中で、より強く光る響の意志を見据え、“獣王キング”の喉が、太い弦を革手袋で擦ったかのような唸り声を響かせる。


 五獣将とともに、“殺戮者スレイヤー”と対峙していた彼は、かつての“旧敵”が遺した黄金ひかりと、それを託された者の雄姿すがたに、僅かにその目を細めていた。


「フッ……この“殺戮者スレイヤー”を相手にしながら余所見とは不遜だな……! “生命いのちとしての神”――!」


 五獣将の連携を掻い潜り、飛びかかる“殺戮者スレイヤー”の長槍を、巨尾の一振りでいなし、“獣王キング”はその口顎を大きく開ける。


 刀剣ブレードの如き背鰭せびれの発光が告げるのは、全てを薙ぎ払う“蒼き熱線”の放出……!


【……受け取るがいい、護る者よ】

「ヌッ……!?」


 熱線が飲み込み、弾き飛ばしたのは、響が投げ捨てた輝醒剣……!


 機能を阻害していたゼルメキウスの体組織は、熱線によって滅却。輝醒剣はより磨き上げられたかのように、新たな輝きを手に入れていた。


「なっ……?」


 その輝きは、響と滅尽騎士ゼル・マギアの間に割入るように飛来し、響の手に握られる。“生命いのちとしての神”の力を注ぎ込まれた、新たな重みに、響の両腕は僅かな痺れを覚える。


重輝醒剣じゅうきせいけん……“玄武ゲンブ”」


 脳裏に、“誰か”が呟いた名を、気付けば口にしていた。元々、大剣状の輝醒剣はその名を持っていたのだろう。輝醒剣に残る蒼いほのおに、響は“獣王キング”と“誰か”のえにしを感じる――。


「……感謝する、“獣王キング”。やはり、俺は此処ココで止まるわけにはいかない――」


 重輝醒剣を手に、前進する響を“歌”と滅尽騎士が阻むも、“黄金氣マナ”の放出量を取り戻し、底上げされた響の筋力が、滅尽騎士の特大剣を弾き飛ばす……! 


 絡み付く膿状の体組織も、重輝醒剣に残る蒼き焔に焼き尽くされ、“攻撃する事のリスク”は完全に消滅していた。そして、


(――べ――)

「……! な、何だ……?」


 響の脳裏に、“別次元”からの呼び声は鳴り響く。


 それは、煌輝キラメキ鎧装ヨロイと共鳴するように響の五感、精神に響き渡り、次元を超えた“雷鳴”を周囲へと轟かせる――。


(――べ、“黄金ヒカリ”を掴みし勇者よ――)

「勇者、だと……?」


 次第に大きくなる呼び声と連動するように、煌輝の額に埋め込まれた“制御翠核エメラルド・コア”が眩く輝き始める。


 稲光とともに、脳裏に、そして、虚空に浮かび上がるのは、紅い、人型の輪郭――。


(あ、あれは……)


 麗句は、その人型に見覚えがあった。麗句は、かつてその人型と対峙している。あのラ=ヒルカで。


 それは、創世石を託すに足る“黄金ひかり”に、与えられる力……!


べ、ムラサメ……! いまのお前ならべるはずだ……!」

「“女王クイーン”……?」


 麗句の声に、響が振り向き、僅かに意識を逸らした瞬間、虚空に穿たれた穴から3体の“ガラクタ”が落下……! 骸羅无ガイラムの“歌”と同様の旋律を、凄絶なまでの音量で奏で始める……!


「ぐっ……ああああああああッ!?」

「……巫山戯ふざけている。あまりに巫山戯ふざけている。無礼ナメるな、人類ニンゲン。これ以上の“想定外イレギュラー”は御免被る」


 儀式を一時中断した“処刑者エリミネーター”の怒気を孕んだ声音と指先が、“ガラクタ”達の“歌”をより凶悪に調律し、響の心身を蝕む――。


 “ガラクタ”達は、未完成品の骸羅无ガイラムと思われ、ほぼフレームだけの姿で、いびつな“歌”を奏でていた。本来であれば、実戦投入は想定されていない“欠陥品”――。だが、その“欠陥品”は確実にいま、響を追い詰め、その精神を発狂寸前にまで追い込んでいた。


 しかし、


「――――――!?」


 蒼い閃光ひかり


 虚空より舞い降り、駆け抜けた、蒼い閃光ひかりが、“ガラクタ”達を一蹴し、黄金を封じる“合唱”を終わらせていた。


 布状の刃――“蒼裂布ブルー・リッパー”を風になびかせながら、目の前に立つ、その蒼い鎧装ヨロイは、響が、麗句が、良く知る鎧装ヨロイ


 ――よく知る男の鎧装ヨロイだった。


「想定外だ。……到着して最初に救うのが、“女王クイーン”でないとは、な」

「お、お前……」


 抑揚の少ない、だがどこか安堵の感情いろを感じさせる声が耳朶を撫で、響は“彼”の到着を実感する。


 それは、自分と互いの血と骨を砕く、死闘を演じた男。


 それは、血を分けた、実の――。


「ブルー……!」


 響の呼び声に応えるように、蒼鬼ブルー・オウガの仮面、そのスリットが碧色エメラルドの光を宿す。


 新たな役者キャストの登壇とともに、戦闘という舞台(ステージ)もまた新たな局面へと突入する。


 いま、月灯つきあかりを纏う蒼き闇が、“擬似聖人”との戦場に蒼い爪痕ブルー・ネイルを刻まんとしていた。


NEXT⇒第20話 月輝―“MOON SHINE DANCE”―

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