表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
139/172

第18話 滅尽の使徒―”vulgar”―

#18


「やはり……休んでいる暇はなさそうだな」


 あかい翼を広げ、虚空を飛翔する血盟機から、くれないの粒子が羽毛のように舞い散る――。


 “誘愛者ヴァンプ”との烈戦を終え、状況を注視していた麗句の唇から、物憂げな、疲労を孕んだ吐息がこぼれていた。


 血盟機との連結で、鎧装ヨロイの治癒機能が増大した事もあり、“誘愛者ヴァンプ”との戦いで受けた、身体的な損傷ダメージは回復しつつある。


 だが、血盟機という“未知イレギュラー”を背負っての死闘、“誘愛者ヴァンプ”の精神との強烈な共繫リンクは、麗句の精神を確実に削り、摩耗させていた。


 本来であれば、わずかでも呼吸いきを整えたいところだが―――、


(まったく……“初陣”から無茶をするものだ。これでは先が思いやられるぞ、“女王クイーン”――)


 血盟機から血盟機のインターフェースとなっている“先人ヨゼフ”の、呆れたような声が響く。


 “誘愛者ヴァンプ”は掛け値なしの強敵だった。その全てを受け止め、勝利するために、麗句は本来切り札ジョーカーであるはずの“血剤”を連続使用。


 結果的に、血盟機の限界リミッターを振り切り、先人達も予期せぬ性能を引き出していた。


(――死地に飛び込み光明を拾う、無謀と紙一重の勇気と高潔さ。我等の力……その気高さ翼に託そう。麗句=メイリン) 

「……了解した」


 麗句が握り締めた“神を斃す右手”に、赤々とした粒子が滾る。


「……こんな酷使ものではすみませんよ。彼等が、相手であればね」


※※※


「これが、異世界の……怪物、かッ!」


 そして、滅尽騎士ゼル・マギアが振り下ろした特大剣を、響の輝醒剣が受け止め、ほとばしる黄金の粒子が、苛烈な滅尽騎士の連撃ラッシュを押し返す……!


 滅尽騎士が振るう斬撃は、獰猛残忍にして精緻。とても単なる怪物モンスターと侮れるものではなかった。


 技量もパワーも侮れぬばかりか、煌輝じぶんに匹敵するレベルに到達している。“黄金氣マナ”による筋力の底上げがなければ、特大剣の一振りで頭を割られていたかもしれない――。


「クッ……!」


 ――それは奇蹟と対峙し続けた者の直感、本能か。


 “滅尽騎士ゼル・マギア”との幾度目かの鍔迫つばぜり合いの後、響は生じた畏怖と違和感に、己の身体を後方へと跳び退かせる。


 己が手の握る輝醒剣の挙動が、僅かに重く、鈍い。これは――、


「……! なっ――」


 思考を貫く驚愕。生じていた事態は、想像以上の異常(モノ)だった。


 輝醒剣の刀身には、黒々とした膿――恐らくゼルメキウスの体組織と思しきもの――が絡み付き、“黄金氣マナ”の放出をいちじるしく阻害していた。


 そればかりか、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の捕食チャージも膿によって吸入口を塞がれ、機能を封じられている様子だった。


 鍔迫り合いの際に、流し込まれたのだろう。まるで、響自身、完全には把握出来ていない輝醒剣の構造をり尽くしたかのような“やり口”である。そして、


「隊長……ッ!」


 滅尽騎士の猛攻ラッシュは続く……!


 衝撃に一瞬、脚を止めた響を、ガルドの戦斧が護り、ジェイクの“蒼狼牙ウルフ・ファング”が鋭い踏み込みとともに、滅尽騎士の脇腹を裂く……!


 続け様、閃光ひかりの華が咲き乱れるように放射されたミリィの矢が、本体であるゼルメキウスへと殺到するが、それらは全て鞭のように薙ぎ払われた膿によって破砕されていた。


 矢一つ一つの軌道を完全に捉えた、正確・精密な迎撃に、ミリィの背に悪寒が走る――。


「隊長………! コイツは多分、私のような……いえ!私以上の“知覚強化端子”を持っています! 私達の動きも機能チカラも、コイツはきっと、既に“識り尽くして”る……!」


 ミリィのその報告さけびは、響達の精神に甚大な戦慄を走らせる。


「ミ、ミリィ以上ってオイ……!」

「……合点がいった。まさに」


 それは唾棄できぬ脅威。


 ミリィの知覚強化端子、その異能を知り、信頼するが故に、響は、響達は実感せざるを得なかった。


「まさに、“悪魔の瞳”というわけか――!」


 “破滅の凶事ゼルメキウス”という怪物モノの恐ろしさを。


 大地を破砕する程の、強力な踏み込みとともに放たれた斬撃が、防御ガードした輝醒剣ごと、響の身体を弾き飛ばす……!


 斬撃を受け止めるごとに、輝醒剣に絡み付く膿の量も増加してゆく。――このまま防御ガードに徹するのは得策ではない。


「ならば……ッ!」

「……!?」


 響のその“選択”に、滅尽騎士の動きに驚愕が満ちる。


 稲光のように閃く機転。


 響は煌輝キラメキという存在システムの根幹たる、輝醒剣を躊躇いなく投げ捨て、空となった己が手刀で、滅尽騎士が振るう特大剣の猛威を受け止めていた。


 ――“白刃取り”。


 古武術に伝わる技巧が、特大剣を絡め取り、叩き折る……!


 ゼルメキウスの悪魔の瞳でも読み取れぬ、人間が磨き上げ、繋いできた技巧。


 それが、滅尽騎士の牙たる、巨大な刀身を破壊していた。


「オォオオオオオオオオオッ!」

「――!?」


 刹那! 激しい咆哮を轟かせる黄金の鎧装ヨロイが、大地を蹴り、渾身のナックルを滅尽騎士へと叩き付ける……!


 腹部をえぐる衝撃に後退……! 体勢を崩した滅尽騎士へと、響が両掌の中で練り上げた、“黄金氣マナ”の奔流が直撃する。


 “守護者”としての本能に導かれ、放たれし御業わざである。


 放射された黄金ひかりの渦は、閃光とともに“矢”となり、滅尽騎士を射抜く……!


「塵となり還れ……! 貴様の世界に!」


 黄金ひかりが滅尽騎士の巨躯を木っ端と砕き、その破片が、響の周囲を舞い散る。


 右半身を吹き飛ばされ、文字通り、皮一枚で身体に繋がる頭部、その瞳が、ゆらりと虚ろな光を宿していた。


 そして、


【――――――――】

「……ッ!?」


 滅尽騎士の顔面バイザーが展開! 内部から、天使を想起させる、美麗なる偶像が顔を出す。

 

 刹那――その紅く腐敗した唇から奏でられた“歌”が、響の五感を、全神経を搔き乱していた。


「これ、は……骸羅无ヤツの……!?」


 骸羅无の機能ウタ


 当然といえば、当然である。


 滅尽騎士は骸羅无の残骸から造られたのだ。


 その機能が受け継がれていたとして、何の不思議もない。


 ――その上、滅尽騎士ゼル・マギアに叩き込んだ拳には、膿状の体組織が執拗に絡み付き、“黄金氣マナ”の放出を著しく阻害していた。


 この滅尽騎士ゼル・マギアが、骸羅无ガイラム以上に、自分の“天敵”である事は、もはや疑いようがない。そして、


(――ここは私が引き受ける……! 下がれ、ムラサメ!)

「……! “女王クイーン”!」


 虚空より急降下した紅の翼が、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の放出とともに、“神を斃す右手”を滅尽騎士ゼル・マギアへと叩き付ける……!


 その一撃は、奇蹟ではなく、純然足る“生物”である滅尽騎士ゼル・マギアを消滅させるには至らない。しかし、物理的な破壊力のみでも、滅尽騎士を足止めするに足る威力を有していた。


 滅尽騎士の頭部に、鉄爪を突き立てたまま、麗句は凛とした声音を響かせる――。


「災禍は一気に消し飛ばす! 罪過のカイン――」


 だが、


「――ッ!?」


 横腹から叩き込まれた衝撃に、紅い翼はきりもみしながら、滅尽騎士ゼル・マギアから引き剥がされる……!


(新手の“擬似聖人アルタネイティブ・クライスト”か……!)


 斧槍ハルバードを地面に突き立てることで、その場に踏み止まり、麗句は新たな脅威を捕捉する。


 の在り様は不遜にして、唯我独尊。


 衝撃の主――聖骸布ローブを纏ったままの、その擬似聖人アルタネイティブ・クライストは、麗句を吹き飛ばした、その無骨な手で、“拍手”を奏でていた。


 その悠然とした挙動は隙だらけのようにも思える。


 だか、その場にいた響達、麗句に察知されることなく、麗句を一撃した“事実”を思えば、表面的な隙などアテにならない――。


「フッ――鮮やかなものよ。“誘愛者ヴァンプ”に挑み、屠り、尚も衰えぬ、その気迫、闘志。“女王クイーン”というより英傑と呼ぶべきそれよ」


 “擬似聖人”は呵呵かかと笑うと、自らの聖骸布ローブを掴み、愉しげに剥ぎ捨てる……!


 同時に、“畏敬の赤アームド・ブラッド”の粒子が爆発的に吹き荒れ、その嵐の中、“擬似聖人”は、赤みがかった紫紺パープル漆黒ブラックに彩られし、自ら異貌すがたあらわす――。


「その美貌つよさ、この“極闘者ウォー・ロード”が相手をするに相応しい」


 “極闘者ウォー・ロード”と名乗った擬似聖人アルタネイティブ・クライストはそう告げると、鎧装に覆われた巨躯をゆらりと前進させ、機械的メカニカル仮面マスクの下にある眼光を鋭利に砥ぎ澄ます。


 そのが、虚空に穿たれた穴ワーム・ホールより顕現させた得物は、奇しくも麗句と同じ斧槍ハルバードである。


 だが、その身の丈サイズは麗句のそれの倍以上。言うなれば、巨大な戦斧と斬馬刀を組み合わせたかのような異形の兇器であった。


 それを振るうかいなは神殿を支える石柱の如く太く、鎧装ヨロイの上からでも、強靭な骨格や、隆々と盛り上がる筋肉を想像させるに足るものだった。


 “味わった”のは一撃のみだが、“奇蹟”によるトリッキーな異能チカラではなく、己の技量、肉体フィジカルのみで“充分に闘える”タイプである事は、容易に想定出来る。


 更に、この“極闘者ウォー・ロード”も、“誘愛者ヴァンプ”と同様に、“聖極ウルティマ”などの切り札を隠し持っていると仮定すれば、容易ならざる難敵である事は、疑いようがない――。そして、


【クゥ……アァァ―――――――――ッッ―――――――――ッ!!!!】

「……!」


 “極闘者ウォー・ロード”の出現に刺激されたのか、滅尽騎士ゼル・マギアの後方に控えるゼルメキウスの腹腔から、兇暴な咆哮が吐き出されていた。


 その凄絶な憎悪と敵意は、響達や麗句だけでなく、“擬似聖人”達にも向けられているように思えた。


いななくな、“破滅の凶事ゼルメキウス”。いまは我が傀儡に堕しているとはいえ、そもそもは対なる“滅尽の蒼ルーインズ・ブルー”の申し子。やはり、我等“擬似聖人”の存在は癇に障るか――」


 この凶悪無比にして最悪の堕慧児おとしごは、いつまでも自分達の制御下にはないだろう。


 “処刑者エリミネーター”は呟くと、僅かに目を伏せ、“決して違える事の出来ぬ”計画の履行へと思考を移行させる。


 ――その傍らには聖骸布ローブを纏ったままの、三体の“擬似聖人”の姿もあり、彼等は、“処刑者エリミネーター”の意図を、これから始まる“儀式”を察したように跪き、その頭を垂れていた。


「“征服者ドミネーター”、“祭祀者プレイヤー”、“絶滅者エクスターミネーター”。……遺憾ながら、我等は“プランB”を実行せざるを得ない状況となった――」


 そう告げる“処刑者エリミネーター”の声音は、厳粛でありながら、沈鬱な残響を持って周囲へと響いていた。


 “誘愛者ヴァンプ”が命を賭して遺した萌芽。それは必ずや“救済”という華となり、紅く世界に咲き乱れる――。


 その祈りが、誓いが、“処刑者エリミネーター”の仮面に、紅い雫を、血の涙を流させる――。


「――amenそうあれかし

「なっ……」


 ――その刹那、鮮血が、毒々しくも神々しい“畏敬の赤アームド・ブラッド”が舞い散っていた。


 己が身を濡らす“返り血”に、道化師を想起させる“処刑者エリミネーター”の仮面は、泣き笑いの表情カオを浮かべる。


「き、貴様……何を、何をしているッ!?」


 響く麗句の怒号。


 ――驚くべき事に、“処刑者エリミネーター”の腕が、跪く“擬似聖人”の胸を貫き、その“心核コア”を容赦なくえぐり出していた。


 紅く、熱く輝く“心核ソレ”は、自らを抉り出した“処刑者エリミネーター”の五指、掌を焼き、そこに秘められたエネルギーの強大さを誇示していた。

 

「我等のもたらす“救済”に、躊躇はない。妥協はない。慢心など持てるはずもない。精密に、抜かりなく、“終焉ほろび人類ヒト”という夜明けは来る――」


 血涙を、悲嘆ナミダこぼしながら、“処刑者エリミネーター”は語り、フェイスレスの背後に控えていた、最後の“擬似聖人”の聖骸布ローブを剥ぎ取る――。


「なっ……あっ……」


 其処ソコに、聖骸布ローブの内部に秘められていたモノに、その場にある全ての人類が息を飲む――。


 世界の終焉――人類ヒトの試練たる儀式が始まる。


NEXT⇒第19話 輝きの兆―“signe”―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ