第04話 歪みと軋み―”paradise lost”―
#4
――物語の時間軸を、数ヶ月前に巻き戻す。
此処は、古より秘匿されし、禁断の地。
自らを隠すように、大地に穿たれた大穴内に設えられた都市は、歪に建造物を絡み合わせ、時に蛇行させながら、異様な密度で、"機械仕掛けの怪物"じみた"発展"と"継承"を実現していた。
人類の感覚からすれば、奇異に思える形状の建造物と装飾は、先住生命体の遺した文明の残滓か。
幾重もの"概念干渉"により、外界から秘匿・隔絶された土地の名は、ラ=ヒルカ。
先住生命体の言葉で、"其処に在って其処にない"という意味の名を持つ、"創世石"を護りし都市である。
その都市に、二つの影が潜入する。
闇に紛れ、夜に隠れ、尖鋭なる、二つの意志が、古の、運命の秘地にその足を踏み入れる――。
※※※
「……ほう、このような場所に"客人"とは、珍しい事もあるものだ」
「"客人"などという行儀の良いものではないがな――」
透き通った、硝子の如き素材で構築された、立方体状の部屋――。
呟いた声に応えたのは、戦慄するような美貌だった。
麗句=メイリン。
"物質としての神"――"創世石"を護る地に降り立った、黒衣纏う美貌は、細い指で艶やかな黒髪を掻き上げ、自らの背後に立つ、もう一つの影へとその視線を送る――。
「……"出迎え役"としては、中々の手練れでした。私達の来訪は事前に察知されていたと見るべきでしょう」
抜き身の刃のような鋭さを秘めた、甘い声。
拭えぬ"気品"を孕んだ若く、澄んだ声が、麗句の目線に応え、担いでいた"出迎え役"の身体を、床へと放り投げる。
――シオン・李・イスルギ。
龍の貌を模した仮面で、端正な顔立ちを隠した、黒衣の青年は、麗句の前に足を踏み出し、剣呑な気配を漂わせる周囲へと鋭い目線を向けていた。
「……私達は此処での流血を望みません。私達の来訪を"予知"していたのであれば、その目的も把握しているはずです」
"剣鬼"が発する尋常ならざる重圧に、暗闇に潜む"影"達の気配がざわめく。
シオンは、腰に帯刀した剣の柄に指を絡ませながら、立方体状の部屋の奥に座する老人へと、刺突の如き、鋭利な眼差しを向けていた。
荒事は望まなくとも、彼の指が鍔を弾けば、この部屋が"血の海"となるのは明白であった。
「ふふふ……ラ=ヒルカの未来演算の精度はそこまで正確ではないサ。"想像する"事は出来るがね」
ラ=ヒルカの民族衣装である円形の帽子から垂れる布で顔面を秘匿した老人は飄々と告げ、被写体を図るように、指で作った四角形の中に、麗句とシオンを収める。
布に覆われ、秘匿されていても、布の奥でギラリと光る鋭利な眼差しが、麗句とシオンの肌を粟立て、確かにピリつかせる――。
「ふむ……大方、我等が奉り、護る"神"に関する事柄であろうが、もし、我等にその"神を明け渡せ"などという事であれば、それは正気の沙汰ではないナ」
老人の言葉を引き金として、部屋の四方から"殺気"が湧き立つのを、麗句の五感が察知する。
己を凝視する数十の気配を、平然と吟味しながら、麗句は老人の視線を受け止めるように、その足を一歩踏み出す。
「そうは思わぬか? "麗句=メイリン"。いや……ココはあえて"ミザリー・L・アルメイア"と呼んだほうが良いかナ」
「………」
己の名を、告げたはずもない"棄てた名"を語る老人に、麗句の美貌が険しさを帯びる。
己の脳髄の深層、臓腑の裏側まで覗かれたかのような不快感が、電流の如く身体を貫いていた。
「そして、奇縁よな。我等も"旧き柵"、"因縁"に縛られた類ではあるが、"皇"に到る血統とは初の邂逅となる。なぁ、シオン・李・イスルギよ。我等もその尊き"血"を流すのは本意ではないよ――」
「……」
挑み、探るような、老人の物言い。
それを、シオンは否定も肯定もしない。故に麗句もその情報は遮断し、聞き流す。
シオンが自分の識るシオンであれば、それでいい。過去や出自など麗句にとってはどうでも良い事だった。
だが、この老人が語る内容、把握している情報が"看過出来る段階"ではない事は確かだ。
「……猿芝居だな。"未来演算"とやらはよく理解らんが、その把握ぶりでは"組織"が"何を企んでいるか"知らない理由はあるまい。それで、その落ち着きぶり――ラ=ヒルカを束ねる"翁"とは理性の蒸発した阿呆か? あるいは人の理が通じぬ妖怪の類いか……?」
麗句の舌鋒は鋭く、硬い。
麗句達が此の地を訪れた理由は、僅かな余興すら許されぬ切迫した理由だ。
戯れ言で、時間を無駄にする訳にはいかない――。
「……そうさな、確かに、"誠意"を持って、此の地を訪れたお前達に、言葉遊びも猿芝居も不要であった。赦すがいい、"畏敬の赤"に選ばれし若人達よ」
飄々とした口調は鳴りを潜め、ラ=ヒルカを束ねる長としての硬質さが顔を出す。
麗句が"翁"と呼んだ人物は椅子から立ち上がると、その皺だらけの掌を壁面に翳す。
「……起動せよ、"運命の系統樹"」
「……!」
"奇蹟"が顕現する。
"翁"の声と連動するように、壁と床から、おびただしい量の光の粒が湧き上がり、まるで、星を敷き詰めた銀河のように、麗句とシオンの視界を埋め尽くしていた。
そして、その銀河はやがて、一つの形状を形作り、大樹のように屹立し、夥しい程に枝分かれした"図"を、麗句とシオンの前に掲示する。
「な、何だ、コレは――」
「これこそが、我等"ラ=ヒルカ"の"未来演算"の根幹にして、"先住生物"が遺した最大の遺物。度し難い――人の埒外にある代物サ」
大樹が枝分かれする"分岐点"には、理解の外にある"未知の言語"で何事かが刻まれていた。
内容を理解する事は出来ないが、その文字の羅列は、麗句の肌を粟立たせるような、異様な、"異常な気配"に満ちていた。
本能が囁く。"これを、理解してはいけない――"。
「"創世石"と連動する事で、この惑星総ての情報をリアルタイムで収集し、未来を、幾つかの分岐を、その幹と枝に記す演算装置。世界を統べる"煌都"であっても、これ程の"遺物"は持っておるまいサ」
"翁"は告げると、大樹の枝、その一部を指先で叩き、麗句達の眼前に"拡大表示"させてみせる。
「……お前達が此処に来る事も、お前達"組織"が我等の"神"――"創世石"の存在を嗅ぎ付け、総攻撃を謀っている事も、この"運命の系統樹"に既に記されている。……そして本日、それはめでたく"確定情報"となったわけだ」
「…………」
息を呑み、大樹を見つめる麗句の前へ一歩踏み出し、シオンは自らの『鎧醒器』を文字の前へと翳してみせる。
『鎧醒器』から溢れた"畏敬の赤"の粒子が、文字に接触する事で、視覚の中で文字が変容・融解。
その"意味"が、視覚を通じて、脳内に直接再構成される――。
「……"未知の言語"のように見えますが、正確には、幾重もの"概念干渉"により"認知出来ない"形に暗号化された文字のようです。この文字は"畏敬の赤"の粒子に触れる事で、初めてその意味を表す―――」
文字を"読む"のではなく"感じる"という奇妙な体験。
脳内に再構築された、その内容は、どれ一つとっても看過出来ぬものだった。これまでに"起きてしまった"事。これから"起きる"事。それらが適格に、精密に、そこには記されていた。
――何が"ラ=ヒルカの未来演算はそこまで正確ではない"だ。
こんなものを"体験"してしまえば、彼等が"物質としての神"――"創世石"を所持・管理し、その力の一端を有している事実は明確だ。
――そして、"一端"でこの次元なのだ。
だからこそ、
「……では、お前達は"これだけの情報"を得ていながら、動かず静観していたというのか。何もせずに、全てを諦めたように……」
「"女王"……」
麗句の唇は憤りに震えていた。
シオンの制止も振り切り、彼女の軍靴は勢い良く床を蹴る。
「応えよ……! お前達の危機も、滅亡も、コレには記されている……! そうでありながら、お前達は……!」
"組織"が、"奪還戦"と称して此の地に総攻撃を仕掛けようとしている事も。その結果、此の地が滅びる事も。全て、全て――この"運命の系統樹"に克明に記されている。
どれも、此処で安穏としている理由にはならぬものだ。
此処で、座して話を聴いている理由にはならぬものだ。
「……そうさな。故にお前達は無駄な流血を回避するために、"警告"と"創世石"の回収を行うために、此処を訪れた。"組織"への背信となるリスクを負ってまで」
噛みつかんばかりの距離で、自らを睨にらむ美貌に、"翁"は"機械音"とともに顔を上げ、硬質な音声を響かせる。
"組織"内で"反逆"の権利すら与えられた、"選定されし六人の断罪者"の二人ではあるが、二人の行動は、"組織"から付け入られる"隙"に他ならない。
義心と憂いを持って実行に移した二人に、敬意を払いながら、"翁"は己の傍らに浮かび上がる操作パネルをタップ。
それと同時に"運命の系統樹"は、その枝をより分岐させ、その系統図を面妖に変化させる――。
「こ、これは……」
「"読めん"よ。この秘匿領域には、特別に"制限"を施している。これを解除出来るのは、我等が奉る"神"――"創世石"が放出する粒子のみ」
自らの『鎧醒器』を翳し、新たな“分岐”を読み解かんとする麗句へと“翁”は告げ、己が座する椅子を呻き声のように軋ませる。
……奇妙だった。
新たに分岐を示した枝は、明らかに異なる文字・内容を表示しながらも、既存の枝に折り重なるようにして、表示されていた。
既存のものと近似値の観測結果なのではないかとも考えたが、麗句が見たところ、既に事実として確定した部分は赤で文字が縁どられ、まだ未確定の部分は緑で文字が縁どられている。
だが、“翁”が“秘匿領域”と呼んだ、この新たな分岐では、未確定の部分に絡みつくように、“確定した結果”が複数表示されている。
まるで、アベコベである。これは――、
「そう、赤で縁どられし文字は、“運命の系統樹”が演算し、“創世石”が観測した“事実”。“既に起きた出来事”だ。そして、その内容に従えば、このラ=ヒルカは既に“九度ほど滅びている”――」
「なっ……」
絶句する麗句の軍靴が、僅かに後退る。
理解を拒むように、己の瞳が“秘匿領域”から視点を逸らすのを、麗句は確かに認識した。
「“物質としての神”足る“創世石”に障害が発生するとは考え難い。正確であるが故に、厳格であるが故に、“運命の系統樹”はこう記したのだと、我等は考える。……故に、我らはこう結論する。この世界は数度、少なくとも九度、“繰り返されている”。ラ=ヒルカは確かに“九度滅びた”のだと」
「そんな馬――」
“馬鹿な事”。そう告げようとして、麗句は思い直す。
確かに“馬鹿な事”だ。だが、自分達が所持し、対峙する異能は、そもそも“馬鹿げた”ものではなかったか。
あらゆる概念に干渉し、書き換える“畏敬の赤”の異能。
自らが所持する“麗鳳石”単体では不可能だが、機能を増幅させる何らかの手段があれば、時間を巻き戻す事も、世界をやり直す事も、あるいは――、
「……一笑にふせれば、どれだけよかったであろうナ。だが、我等、“畏敬の赤”に関わる者にとっては、度し難く、正視せざるを得ない“現実”ダ。受け入れ、認めねばなるまい」
“翁”は重々しく告げ、立ち上がると、自らの背に、星を敷き詰めた銀河の如く展開する“運命の系統樹”の輝きを背負い、次なる言葉を紡ぐ。
「……故に、我等は変えられぬ事実として、“滅亡”を受け入れる。“希望”を、惑星の未来を照らす“希望”を世界に遺すために、我等は此処に滅びるのだ」
「馬鹿な……ッ! 貴様は何を口にしているのか理解しているのかッ!? 此の地に生きるのは、“創世石”に関わる者だけではあるまい……! それを貴様は……ッ!」
両者間の空気が緊迫し、張り詰める。
“滅亡”を是とする“翁”の断言を、麗句の舌鋒が撃ち、憤りに躍動した脚が椅子を蹴り飛ばす。
このラ=ヒルカに潜入する際に、麗句も確かに視認している。此の地に生き、健やかに暮らす無辜の民の姿を。それを、長たるこの男は――、
「“見棄てる”というのか……っ! 自らの民を……! 命を……ッ!」
「……“石を転がす”時が来たのだ。我等が奉る“神”――“創世石”は停滞を望まず、次の段階に移行する事を渇望している」
にじり寄る麗句の美貌を見据え、“翁”は冷徹に結論を告げる。
「そうだ、”願望機”としての自身を進化させるために、袋小路に行き着いた、この状況を打開するために、“神”は我等の血を望んでいる――」
故に――、
「――”我等は我等の血を流す”のだ」
「貴様……っ!」
激昂した麗句の革手袋が、“翁”の襟首を掴み、彼女の左手に握られた『鎧醒器』が、煌々と“赤”の粒子を漲らせる。
この立方体状の部屋には、“観念世界”への接続を妨害する何らかの処置が施されている。だが、麗句の憤りと連動し、いまにも“臨界”に達さんとする粒子の昂ぶりは、その処置を凌駕し、超常の鎧装を室内に召び出さんとしていた。
「ク、“女王”……!」
「貴様の御託はもはやどうでもいい……! 幾度も“世界が繰り返されている”のだとしても、幾度も此の地が滅びているのだとしても、此処で私が“創世石”を手に入れれば、此度の“組織”による"奪還戦”は阻止出来る……!」
麗句は明らかに冷静ではない、平静ではない。
だが、此処で数百の敵を一人で相手にする事になるのだとしても、それが此の地で生きる民の生命を救う手段となる。――“権力者”の勝手な理屈で失われる生命の痛みを、嘆きを、“堕ちた聖処女”……“黒衣の魔女”は理解りすぎる程に理解していた。
退けぬ、理由があるのだ。
「鎧醒――」
「……感謝する。麗句=メイリン」
“……!”
未知の衝撃が、激しい“電流”が、麗句の身体を弾き飛ばし、数メートル後方まで、後退させる。
稲光を纏い、『鎧醒』を阻んだ“赤い影”は、その猛々しい人型の輪郭を、“翁”の前に立ち塞がらせていた。
“『鎧醒』した人間”……ではない。
人型と呼べる形態ではあるが、内部に在る人間の骨格を想定出来る形状ではない。恐らくはラ=ヒルカが造り出した“兵器”・“兵装”の類か。
「“輝電人・雷威我“。これも、ラ=ヒルカが世界に遺す”希望“の一つ。コレは”観念世界“に待機させている本体の影のようなものであるが、お前の片腕ぐらいなら奪える代物だヨ」
(確かに、な……)
“翁”の言葉は、“慢心”からくるものではない。
麗句の思考が瞬時に、平静に戻る程、“赤い影”――“輝電人”と呼ばれた存在が秘める“力”の気配は強大だった。
……片腕どころか、こちらが『鎧醒』する前に、首を捻じ切る事も可能だろう。
「“輝電人”の本体が、物質世界で真価を発揮するのは、“創世石”を託すに足る守護者が現れ、袋小路のこの世界の終焉と対峙する時――。絶望の果てに紡がれた“黄金”に、この輝きが寄り添い、共に駆ける事を我等は願う」
"翁"の声と連動するように、"輝電人"はその輪郭をまた虚無の中に還していた。
その"力"の残り香が、麗句の背筋に悪寒を走らせる。
「……麗句=メイリン。お前の慈悲には、心から感謝する。我等が民の生命に対する、その憤り・想いもまた、間違いなく世界の“希望”として輝くものであろう。だが――」
「……!」
“翁”が合図を送るように片腕を上げるのと同時に、四方の壁面にラ=ヒルカ市街の映像が、その街に生きる民達の姿が、映し出される。
彼等は一様に、真っ直ぐな瞳で“こちら”を見ていた。
その姿に麗句は直観する。
彼等は聴き、識っているのだ。此処で起き、語られた事を全て――。
「我等が民は、その全てが“創世石”と共に生き、共に戦う“同志”である。お前が無辜の民と見た者達も、健やかに生きながら、“運命”を理解し享受している。“組織”の“奪還戦”とやら、“組織”の勝ちとも限らぬぞ――」
“翁”は告げると、麗句が蹴飛ばした椅子を起こし、再び腰掛ける。
――飄々とした動作の中に、確固たる決意が見て取れた。
「……“組織”の勝ちにならずとも、戦禍によっては“創世石”の流出もあり得る。それも想定の上か」
その決意に、麗句はあえて問い掛ける。
どうしても、問わねばならぬ事だった。
「“石を転がす”時が来た。そう語った通りだヨ。“運命の系統樹”に刻まれたループを断ち切るのに、手段を選ぶ事は出来ないサ」
「“創世石”が流れ着く先が――“煌都”でもか」
麗句の声音が鋭さを増す。
それは、麗句にとって、是が非でも阻止しなければならぬ事だった。
「勿論ダ。世界の統治機関という劇薬もまたループを断ち切る力に――」
「もういい……ッ!」
翁の言葉は鋭利な“赤”に遮られた。
麗句の『鎧醒器』の先端から伸びる、高濃度圧縮された“畏敬の赤”のブレードが、翁の顔を覆い隠す布を切り裂いていた。
「……残念だが、貴様等が“創世石”を預けるに足りん存在である事は理解出来た。それが“運命”であるというのなら、全力で私が叩き潰してやる」
麗句は告げ、踵を返すと、一人部屋を去る。
シオンは、裂かれた布の下にあった“翁”の顔を一瞥。
何かを察したように俯くと、剣の柄に添えられていた五指を解き、その若い声を響かせる。
「そこまでして命を繋ぎながら、“滅亡”を選ぶというなら……私も迷いません」
「……それでいい、“皇”の子よ。其方もまた、“希望”である事を願っているぞ」
裂かれた布の下にあった“翁”の顔は、単眼が忙しなく動く、完全に“機械化”を施された、面妖な容貌であった。
元の人体がどれ程残されているのか、想像するだにおぞましい有様であった。――恐らく純粋な生体は5%にも満たない比率でしか存在していない。
延命に延命を重ねた、業深き足掻きが、その異貌からは見て取れた。
シオンは幾ばくかの憐れみを、その瞳に滲ませながらも、踵を返し、ラ=ヒルカから立ち去る。
大部分を機械化された拳に頬杖をつきながら、その背を見送る“翁”の単眼から“赤”い光が零れ落ちる――。
(……サクヤ、ガブリエル。お前達に多くを背負わせる。赦せ……)
率直に言って、ラ=ヒルカの選択・在り方は歪であろう。
幾度も繰り返された世界の軋みがそうさせたのか、あるいは初めからそうであったのか。
機械に自意識の欠片を張り付かせて、永い時間の中、問い続けてはみたが、答えはついに得られなかった。
己に、此の地に絡み付く呪縛を飄々と、淡々と見据え、“翁”はその時を待つ。
その先に未来が――“黄金”が在ると信じて。
そして、
NEXT⇒第05話 勝利の残滓―“Relief”―