表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
124/172

第03話 凱歌―”The End”―

#3


「"決着(ケリ)を、つけよう……"破壊者(リ・イマジネイター)"」

「グッ……!」


 告げたはずもない、己が称号を語る響に、フェイスレスの包帯に覆われた表情(カオ)が鋭く歪む。


 推測するに、"補食"した"畏敬の赤"の粒子が、"共繋(リンク)"を生じさせ、多くの情報を彼に注ぎ込んでいるのだろう。


 全ての状況、フェイスレスを"進化(アップデート)"させる"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"さえ、(キョウ)=ムラサメの有利に働いている。


 まさに"危険因子(イレギュラー)"、"天敵種"。


 ――"救済者(セイヴァー)"。


Kuah(クゥアア)……ッ‼ 何故だ! 何故、我が"救済"を(はば)む!? 私には"聞こえる"……! "聞こえる"のだ……!」


 耳を塞ぐように、邪爪(クロー)で仮面を掻き(むし)り、フェイスレスは激情を、憤怒を吐き散らす。


 ――醜態であった。


 "救済"を目的とする自分の前に、"救済者(セイヴァー)"として立ち塞がる"黄金"に、"信仰なき男(フェイスレス)"は確かに狼狽(ろうばい)し、その心を乱していた。


「貴様の……! 貴様の心とて、私に懇願(こんがん)している……! 叫んでいる……! 早くこの地獄から自らを救えと! "解き放て"とな! そうでありながら貴様は…!」


 何故、その魂を鎧装(ヨロイ)で覆い、苦難(くるしみ)の中に繋ぎ止める……! 


 何故、この"負の連鎖のみが積み重なった"世界に、女々しい未練などを残すのだ……!?


 技術も糞もない、憤怒(いかり)(まみ)れた乱雑な攻撃が、響へと挑みかかり、響の操る輝醒剣(きせいけん)鎧装(ヨロイ)が真っ向から受け止める……!


 大地を砕きながら激突する二人の稀人(まれびと)は、互いの仮面(マスク)を衝突させ、破片を舞い散らせる程に、近距離で睨み合う。


「……()った風な口と、さっきお前は言っていたな」

「何……?」


 ジリジリと鍔迫(つばぜ)り合いながら、"煌輝(キラメキ)"の碧色(エメラルド)の眼差しと、フェイスレスの"畏敬の赤"に血走った眼光が絡み合う。


 "護る者"と"壊す者"。


 相容れね両者の魂が、交錯(こうさ)する――。


「……()らなかったさ。何も()らずにいた……ッ‼」

「ぬぅッ……!?」


 黄金一閃……!


 鞘から解き放たれた、輝醒剣(きせいけん)の白銀の刀身が、フェイスレスの両腕の"(ソード)"を紙のように裂いてみせる……!


 連続して叩き込まれる正拳――牙状の突起"煌獣刃(ブライト・エッジ)"が、"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の鎧装を砕き、その破片(かけら)を舞い散らせていた。


「グッ……この重圧(プレッシャー)! この損傷(ダメージ)! 貴様、人類(ヒト)の分際で、"獣王(キング)"に並ぶか……! (キョウ)=ムラサメ‼」

「……俺は、自分の目に映るものだけで手一杯で、彼女(ガブリエル)がどんなものを背負わされて、どんな痛みを抱えながら、此処(ここ)まで辿り着いたのか……"()ってやろうとする"事すら出来ていなかった」


 フェイスレスの血塊と恥辱に(むせ)ぶ賞賛を、少女(ガブリエル)への懺悔(ざんげ)で斬り捨て、響は鎧装(ヨロイ)(おお)われた拳を(きし)ませる――。


「……だが、いま俺の中には、彼女の生命(いのち)とともに、彼女の記憶・軌跡が刻まれている! 息づいている! この"赤"が、どれだけの"悲劇"を、"絶望"を産んだのかも理解している……」


 ――それこそが"赤"の禍根(かこん)。彼の愛する者達を巻き込み、翻弄(ほんろう)した因果の螺旋(らせん)


 "守護者"の力を引き継ぎ、彼女(ガブリエル)の意志を託された自分が、断ち切るべきものだ。


「そんな因果(もの)はもう必要ない――! あの子が目を覚ました時、そこには穏やかで、温かな暮らしがあればいい。心を洗うような、美しい景色(もの)があればいいんだ」


 響の脳裏に希望(ひかり)が溢れる。


 あの日、放浪の果てに出逢った、輝く青い瞳。


 仲間達。父と呼べる人――。


 この街で己が出逢った希望(ひかり)の全てを、(まぶた)の裏に映しながら響は断言する。


「その為なら俺は、"自分自身の救い"など捨てられる……!」

「ぬ、う……」


 揺らがぬ響の意志を前に、"信仰なき男(フェイスレス)"はその身をグラつかせ、片膝を付く。


 撃ち込まれた"黄金氣(マナ)"――"生命(いのち)のエネルギー"そのものが、"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の内部に満ちる"死の概念"を蝕み、深刻な損傷(エラー)を生じさせていた。


(……我が"本来の鎧装(ヨロイ)"を召喚すれば、形勢は変えられる。だが……)


 他者の幸福の為に、己の救済(すくい)を放棄するという、(あわ)れなる、(おそ)るべき男。


 このような男を前にして、その選択は、その選択は、"敗北"でしかない――!


「そう、私が求めるのは"終焉(おわり)"という名の勝利ではない……! "創世(はじまり)"という名の"救済"だ……!」

「ま、不味(まず)い……! ムラサメ……!」


 弾かれる引き金(トリガー)


 フェイスレスの掌に凝縮された"死の概念(ガス)"が、筒状の物体を造り出し、その禍々しき"死"の気配に、麗句の喉が危機を叫ぶ。


 そうだ。アレは、"獣王(キング)"を葬った――、


黄金(ひかり)を閉ざせ……! ”我恒久を願い(オクシュゲニウム)総てを殺す(・デーストルークティオー)"……ッ‼」

「……!」


 "黄金氣(マナ)"を蹴散らすように、爆裂する"死"。


 フェイスレスが"創世石"の"加護(ブースト)"を失った影響で、威力・規模は縮小されているが、響一人に照準を定めたそれは、心臓を一突きにする槍のように、猛然と黄金の鎧装(ヨロイ)を蝕んでいた。


 猛々しく迫る"死"に(おか)され、"黄金氣(マナ)"を剥がされた一部の鎧装が、錆色に染まり、明滅する――。


「フン……! "生物としての神"である"獣王(キング)"を葬る程の"死"だ! 貴様の"黄金氣(マナ)"、"生命(いのち)"を喰らい尽くすまで止まらんぞ……!」

「ぐっ……おおおおおッ‼」

「ぬっ……!?」


 しかし、幾多の絶望と苦難の果てに誕生した、この"煌輝(きらめき)"に、対処する"術"が残されていない訳ではない――。


 自らを蝕む"死"に、響は輝醒剣(きせいけん)を逆手に持ち替え、左手の五指を虚空(そら)へと突き上げる。


「何の、足掻きを……ッ!?」

「此処に集い、闇を照らせ……! "千年王国に到(ラスト・ガーディアン・)る黄金の希望(クロス・ミレニアム)"……ッ‼」

「なっ………!」


 奇跡が、結実する。


 輝醒剣(きせいけん)を包んでいた大剣状の鞘。


 それを中心として、高濃度の"黄金氣(マナ)"――それらが物質化した無数の"欠片(かけら)"が、"亀甲"の如く結集し、強力な障壁となって"死"を()し戻す……!


「うおおおおお……ッ‼」

「なっ……あっ……?」


 それは障壁にして刃。


 幾重にも折り重なった"黄金氣(マナ)"が、十字(クルス)を描き、"死"の嵐を蹂躙して、フェイスレスへと叩きつけられる……!


 それは、大きな破壊力を(ともな)衝撃(もの)ではなかったが、圧倒的な"生命(いのち)"が、黄金(ひかり)が、フェイスレスの"死"を飲み込み、その身体(カラダ)を後退させていた。


 耐え難い"恥辱"と"敗北"が、"信仰なき男(フェイスレス)"の肩を震わせる――。


「この私に……この私に、"十字(クルス)"をぶつけるか……ッ‼  響=ムラサメェ……ッ‼」

「……アンタの軌跡(ナカミ)は、朧気(おぼろげ)にしか見えない。だが」


 脳裏に朧気(おぼろげ)に映る、その道筋に響は呟き、己が(つるぎ)に言葉を重ねる。


「その旅路も、此処(ここ)で終わる」

「ク……ク、ククク、フハハハハハハハハッ……!」


 気の触れた、気の触れたような(わら)いが、フェイスレスの喉を震わせていた。


 嗚呼(ああ)(たお)す。


 この男は、間違いなく"私を(たお)す"だろう。


 確信が思考に満ちる。


 嗚呼(ああ)、まるで、悪魔が紡いだかのような酷い冗談だ。


 "救済"へと到る"最善の因果"のみを集積させ、繋いだ"世界線"で、このような最悪の"想定外(イレギュラー)"が誕生するとは。


 そして、"煌輝(アレ)"は人類(ヒト)にとっての"福音"などではない。


 あの"黄金(ひかり)"は、地獄の窯を抉じ開ける。全ての人類を奈落に落とす。


 ――"私が敗ける"という事は、そういう事だ。


「で、あるならば……」


 "赤"き決断が、フェイスレスの虚無に満ちた両眼を見開かせる……!


「であるならば……私は今一度"罪過を背負おう(やりなおそう)"。響=ムラサメェッ……!」

「……!」


 それは乾坤一擲の一打と言えた。


 泥。


 大地から噴き出した、黒々とした汚泥が、"煌輝"の黄金を飲み込み、その輝きを負の暗黒の中に捕らえていた。


 それは、響の呻き声一つ外部に漏らさぬ、"封印"に等しい処置。勝利の見えぬ戦闘の中、フェイスレスが仕掛けた"(トラップ)"の一つであった。


「……それは私を構成する一部。人の悪意・慟哭・憤怒……"総ての悪"を凝縮した泥だ。尋常の者であれば、触れただけでも発狂は(まぬが)れん。貴様の馬鹿げた異能(スペック)を前にしても、足止め程度にはなろう――」


 語るフェイスレスの体躯は、己の一部を"切り離した"影響か、一回り小さくなっているかのように感じられた。


 ……約30%のパワーダウン。手痛い出費だ。だが、


「"やり遂げる"には、充分に過ぎる……!!」


 噴き出す"畏敬の赤"。


 フェイスレスの邪爪(クロー)が、自らの胸を貫き、荊に覆われた心臓の如き物体――"心核(コア)"を(えぐ)り出していた。


 その鼓動が次第に早まり、大気中の"畏敬の赤"が渦を巻いて"心核(コア)"へと集中する。


 "奇跡(ナニカ)"が起こる。(おそ)るべき"奇跡(ナニカ)"が。

 

 突然の"黄金"の消失に、麗句とシオンも言葉を喪失し、呆然と状況を見つめているように見える。


 ――そうだ、それでいい。


 人類(ヒト)はただ祈り、待てばいい。


「賞賛するぞ、響=ムラサメ。お前は確かに私を凌駕(りょうが)した」


 集積された人の悪意、人類(ヒト)の暗部そのものを煮詰めたかのような"黒泥(ドロ)"の中、確かに足掻(あが)く"黄金(ひかり)"を見据え、フェイスレスは屈辱に(むせ)ぶような賛美を響かせる。


「だが、我が秘儀により、この世界線は"破棄(リセット)"され、私は新たな世界線へと"転臨(リープ)"する! "これまでと同じように"!」


 フェイスレスの掌中にある"心核(コア)"は、神々しくも毒々しい"畏敬の赤"の粒子を吸収。薔薇(バラ)花蕾(はなつぼみ)であるかのように、その外皮を開き、"奇跡"を解き放つ――。


「発動せよ‼ "血に染まり(カーマイン・)転臨する世界(リィンカーネーション)"! 総ての因果は逆流し、総ての生命(いのち)と宿縁は、我が掌中で、時間(とき)の中を流転する! これこそが――!」


 "世界"そのものに干渉する秘儀。罪過そのものと呼ぶべき禁断。


 "畏敬の赤"の粒子を注がれた、(いばら)に覆われた"心核(コア)"が、血濡れの(つぼみ)を開き、"奇跡"の薔薇を咲かせる……!




 ――だが、


「な、に……?」

 

 "奇跡"は起きない。


 "禁断"は世界を歪めない。


 咲き誇らんとした"奇跡"の薔薇は、"予期せぬ衝撃"に散らされ、(はかな)く消失していた。


(馬鹿、な……)


 ――あり得ない。


 自らの胸は、鎧装(ヨロイ)ごと背部から貫かれ、無様に血塊を吐き散らしていた。


 ……驚愕に見開かれた両眼は、自らの背後に、信じ難い現実(モノ)()る。


【……虚を突かれた、か。"壊す者"よ……】


 徐々に修復される口顎が、明瞭な人語で告げる。


 完璧に葬ったはずのソレが。細胞片一つ残さず消滅させたはずの生命(いのち)が。


 "揮獣石(きじゅうせき)"を(コア)として立ち上がる――黒き"王"が告げる。


【……我が名を唱えよ、"信仰なき男(フェイスレス)"】

(ガッ)――」


 返答は、蒼き焔に飲まれる。


 蘇った"神"の口顎から放射された熱線が、フェイスレスの半身を撃ち貫き、消し炭に変えていた。


(まさ、か……)


 幾つかの推測(ビジョン)が、フェイスレスの脳裏に浮かび上がる。


 そうだ。決着の前、苦し紛れに地底に潜った"王"の足掻きが、"己の細胞片を地中に秘匿する"ためであったとしたら。


 "守護者"が発動させた障壁が、"人類"とその"細胞片"を護るためのものであったとしたら。


 そして、響=ムラサメが大地に敷き詰めた"黄金氣(マナ)"を、その"細胞片"が吸収し、爆発的に再生を開始。そのあげくに、"揮獣石"を再び取り込んだとすれば――この"奇跡"は成立する。


 嗚呼(ああ)……なんという事だ。かつて、己が告げた言葉通りに、


「……"死"を、超越するか、我が"同胞(とも)"……神璽羅(ガンジラ)"よ」

【…………】


 "信仰なき男(フェイスレス)"の呼び掛けに、"神璽羅(ガンジラ)"は応えない。


 左半身を喪いながらも、フェイスレスは(たお)れず踏みとどまり、"獣王(キング)"へと再び"死"を見舞うべく、"死の概念(ガス)"の凝縮を再開させる――。


 再度の"決着"の為に。"救済(すくい)"を(はば)む、調停者(ルーラー)との因縁を清算する為に。


 だが、


【……多くを託され、多くを背負う"分不相応の黄金"よ】

「……!」


 その"死"は、もはや"神璽羅(ガンジラ)"の興味を惹く事すら出来なかった。


 "王"の視界に、既にフェイスレスという"難敵"は映されていない――。


 "王"の眼差しが捉えるのは、人類(ヒト)という黒泥(ドロ)の中でもがく、微かな輝き。


 一人の青年が託され、(にな)う"黄金(ひかり)"である。


【……その輝きを我に示せ、"()らう者"――(いや)、"(まも)る者"よッ……!】

「なっ……‼」

((ウオオオオオオオオッ……!!))


 希望(ひかり)が、立つ。


 猛々しい咆哮(うぶごえ)が響き、鮮やかに閃いた"黄金"が黒泥(ドロ)を斬り裂く……!


 雨のように降り注ぐ黒泥(ドロ)の中、眩き希望(ひかり)が、暗黒(くらやみ)を煌々と照らす太陽の如く輝いていた。


(キョウ)……ムラサメ……」


 畏敬に震える声が、名を紡ぐ。


 真っ直ぐな碧色(エメラルド)の眼差しが、フェイスレスを射抜き、その鎧装(ヨロイ)に覆われた腕が"輝醒剣(きせいけん)"を力強く構えていた。


 ()希望(ひかり)の名は"煌輝(キラメキ)"。


 再起動した、その黄金の騎士は、何一つ(けが)れる事なく、その無垢なる輝きをフェイスレスの虚無に満ちた両眼に突き立てていた。


「馬鹿な……馬鹿なッ! 黒泥(アレ)は、"私に集積された"人類が抱える"悪意"の総て! 醜く(ただ)れた"暗部(やみ)"そのものだ! ソレに飲まれておきながら、こうも容易(たやす)く……!?」

「……確かに多くのおぞましいものを見た。多くの悪意をこの身に刻まれた」


 黒泥(ドロ)は確かに、響の脳裏に様々な情景を注ぎ込んだ。


 反吐を込み上げさせるような醜悪なる下劣。


 憤怒(いかり)に身を()くような理不尽。


 ――踏み(にじ)られる祈り。


 どれも人類(ヒト)に絶望して余りある情景(モノ)だった。


 だが、


「だが――あんな現実(モノ)は、俺が見る"希望(ひかり)"の(かげ)に過ぎないッ……!」

「……!」


 自らの軌跡を、出逢った多くの光を誇りとして、響は躊躇(ためら)いなく断言する。


 いま彼を突き動かすのは倫理という理屈ではない。


 どうしようもない暗闇を抱えながらも、心に光を宿す人間の誇り――人と人の想いが繋ぎ、紡いできた生命(いのち)の歌が、黄金の鎧装を、響を突き動かしていた。


 人を想い、心を繋ぎ、奏でる生命(いのち)の凱歌。


 例え、対峙する相手が"神"であったとしても、その黄金(ひかり)を、(けが)す事など出来はしない――。


「断て……」


 その気高き輝きに、麗句は熱い胸から声を絞り出す。


 そうだ。この暗闇を! 悲劇を!


「断て……ッ! ムラサメ――ッ!」

「うおおおおお……ッ!!」


 発火する黄金(ヒト)の意志。


 "輝獣刃(ブライト・エッジ)"に差し入れられた"輝醒剣(きせいけん)"が引き抜かれると同時に、"煌輝(キラメキ)"の左腕部は、碧色(エメラルド)の焔を纏い、最大の一撃の発動を予告する……!


(憐れなる人類(ヒト)よ……)


 咆哮が響き、炸裂する"黄金"。


 力強く大地を蹴った黄金(ひかり)が、身を(かわ)す余力すら失ったフェイスレスの胸部を、全霊の拳で穿(うが)ち、(えぐ)る――。


 "死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の鎧装は千々に砕かれ、衝撃にフェイスレスの長躯(カラダ)は、天高く舞い上がっていた。


(そうだ……どれ程の絶望も、哀切(かなしみ)も、人類(オマエ)達の足を止める要因とはならない……)


 どんな苦難(くるしみ)を前としても、お前達は歩む事を止めない。


 可能性という名の無限地獄の中、成長・発展という円環にその魂を囚われ続ける。


 宙へと弾き飛ばされ、もはや指一つ動かせぬ"敗北"の中、フェイスレスは、自らへと飛翔する黄金に、目を細める。


 "救い"の手をはね除け、自らの力で翔ぶその輝きは、腹立たしいが――美しい。


(響=ムラサメよ――)


 憐れみの血涙(ナミダ)をその両眼から滴らせ、フェイスレスは呟く。


(だからこそ……お前達は"私に勝つべきではなかった")


 ――"決着"。


 "輝醒剣(きせいけん)"。


 "畏敬の赤"の異能(チカラ)そのものを断つ白銀の(ブレード)


 それがフェイスレスの長躯(カラダ)を横一文字に斬り裂き、無限に再生を繰り返した"死を許されぬ(カラダ)"に、"終止符(ピリオド)"を刻む。


(人類(ヒト)に……幸あれ)


 最期の言葉は、呪いではなく願いであった。


 毒々しい黒泥(ドロ)と、神々しく輝く光の羽根を舞い散らせながら、落下する長躯(カラダ)はやがて塩の塊となって、虚空の中の塵と化す。

 

 "人類"は勝利した。


 ――そして、世界の終焉(おわり)はこうして始まった。


NEXT⇒第04話 歪みと軋みー"paradise lost"ー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ