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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第02話 我は煌輝―”FENCER OF GOLD”―

#2


「"赤"の禍根(かこん)、か。……随分と()ったような言葉を吐くものだな、"危険因子(イレギュラー)"……」

「…………」


 "麗鳳石(れいほうせき)"と"鬼哭石(きこくせき)"の力を吸い上げ、強引に強化を(ほどこ)した"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の鎧装は、多くの追加鎧装を構築し、その進化(アップデート)を、完了させつつあった。


 投影性格検査(ロールシャハ・テスト)のインク染みのような(いびつ)な鉄仮面は、白い外骨格によって整えられ、荘厳な印象を与える端正な仮面(マスク)へと、その形状(フォルム)を変えていた。


 そして、大型の肩部追加鎧装(ショルダー・アーマー)は、パラボラアンテナのような形状となり、その先端から(なまめ)かしく、無数の"(くだ)"を伸ばしている――。


 それは、響との決闘に敗れ、意識を喪失している我羅(ガラ)の"羅剛石(らごうせき)"、乱戦の中、回収し損ねている"獣王(キング)"の"揮獣石(きじゅうせき)"にまで、その(きっさき)を伸ばさんと、(あや)しく(うごめ)いていた。


 その様はあまりに禍々しく、おぞましい。


「……理解(わか)りかけてきましたよ、フェイスレス」

「……! "剣鬼(ブレーダー)"――」


 息も絶え絶えといった様子でありながら、この状況に鋭く斬り込まんとする、"剣鬼(シオン)"の言葉に、フェイスレスの"畏敬の赤"に血走った両眼が(うごめ)く。


 自らの剣を杖のように大地へ突き刺し、かろうじて身体を支えているような状態であったが、シオンは"力"の吸引に屈する事なく、フェイスレスを見据え、口を開く。


「……整理してみれば、当たり前の事です。"適正者"でないものが、物理的に直接"接続(パス)"を繋いだだけで、"創世石"の力を扱えるわけがない――。だが、アナタはそれを成し、我々の石からも"力"を奪ってみせる。まるで、"同じ型の血液を輸血するように"容易(たやす)く」


 であるならば、貴方は――、


「"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の……」

「フン……!」

 

 言葉は衝撃に(はば)まれた。


 フェイスレスが(かざ)した(てのひら)から放たれた波動が、シオンの身体を弾き飛ばし、血の海の中に沈ませていた。


「がっ……」

「シオン……! ぐっ……」


 シオンに駆け寄らんとした麗句もまた、膝から崩れ落ち、苦悶に(あえ)ぐ。


 それぞれの"醒石"が著しく"力"を奪われた事で、"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の加護で塞いでいた傷口、誤魔化していた消耗が(あらわ)となり、麗句とシオン――二人の勇士はその身を汚泥(おでい)の中に這いつくばらせていた。


 ――立ち上がる術も、余力も残されてはいない。


 その命は、もはや"風前の灯"と言えた。


「フン……下手に動かぬ事だ。(けい)らの身体は既に、"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の加護がなければ、瀕死の状態。"余計なお喋り"も、命取りとなるぞ――」


 冷徹に告げ、フェイスレスは対峙する黄金の騎士へと、"赤"に染まった両眼と、精製した"死の概念(ガス)"を向ける――。


「これで"一対一"だ。……足掻(あが)くな、(ひざまづ)け。我が"救済"の(いしずえ)となれ、"危険因子(イレギュラー)"」


 "死"の概念を凝縮した"邪気"が満ち、有無を言わさぬ"圧"が、強化された"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の鎧装から(ほとばし)る。


 だが、


「……断るッ‼」

「ぬっ……!?」


 (しか)して、湧き出でる"黄金(ひかり)"。


 立ち込める"死"の臭気を吹き払うように、響が大地に突き立てた、大剣状の輝醒剣(きせいけん)から、多量の"黄金氣(マナ)"が放出され、周囲半径数十メートルに、黄金の絨毯(じゅうたん)のように敷き詰められる。


「これは……」

「この、光は――」


 その"黄金氣(マナ)"は、麗句とシオンの瀕死の肉体に染み渡り、途絶えそうだった生命(いのち)を繋いでいた。


 精神を荒ませ、肌をヒリつかせる戦場の中で、その"黄金(ひかり)"だけは、どこまでも温かく、優しかった。


「貴様……」

「俺の目の前で、もう誰一人死なせやしない……!」


 開戦。


 黒と紅に彩られた邪爪(クロー)とともに叩き込まれる"死の概念(ガス)"を、大剣状の輝醒剣ではね除け、響は強烈な正拳で、フェイスレスを後退させる。


 "進化(アップデート)"した"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"に対抗するように、"煌輝(キラメキ)"もまた、その鎧装に纏う"黄金氣(マナ)"の(きら)めきを、より(まばゆ)いものとしていた。


 邪爪(クロー)と大剣が火花を散らしながら激突し、二人が疾走(はし)りながら交差させる斬撃は、耳障りな衝突音とともに、その余波で大地を砕く。


 その最中、抜け目なく発動される、フェイスレスの"世界線移動(ワールド・イズ・マイン)"。


 だが、彼の観測する、その"黄金(ひかり)"の中に、己が勝利する"世界線"は見えない――。


「おのれ……イレギュラアァァァァッ‼」


 フェイスレスの両腕部の鎧装が展開し、物質化する程に高濃度圧縮された"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"が、(ソード)として顕現(けんげん)


 あらゆる物質を、概念を斬り裂く、凶暴な剣閃が空間を乱舞し、その禍々(まがまが)しき舞踏を、響の大剣が(さば)き、受け止める……!


 襲い来るのは、"麗鳳石(れいほうせき)"と"鬼哭石(きこくせき)"のエネルギーを上乗せした、凄まじい"出力(ゲイン)"。


 だが、それと真っ向から鍔迫(つばぜ)り合う大剣が、(つば)に埋め込まれた碧石(エメラルド)を輝かせ、フェイスレスの"(ソード)"を押し返す……!

 

「……素人だな。踏み込みも足りなければ、太刀筋も(あら)い……!」

「ぬぅ……!?」


 返礼するは、流麗なる剣舞。


 師範が手本を見せるように、響が鮮やかに閃かせた大剣が、"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"の白い鎧装の一部を切断し、闇夜に舞い散らせる。


 ……拮抗している。(いや)、凌駕している。


 戦闘技術の差が大きく作用する程、いま"煌輝(キラメキ)"の力は、フェイスレスを確かに凌駕し、圧倒的なまでの"黄金(ひかり)"で、"畏敬の赤"を塗り潰していた。


 その(きら)めきは、まるで暗黒の夜に輝く太陽であった。


 闇の深淵を照らし、邪悪を焼き尽くす(ほのお)であった。


 恍惚(こうこつ)と目を見張るシオンは、疲弊しきった身体(からだ)を起こし、その荘厳なる黄金を()に焼き付ける――。


(しかし、あの"黄金氣(マナ)"の総量……()れるどころか、その勢いを増している。まるで――)

「"鎧装そのものから湧き出でているかのよう"、か」

「……!」


 虚を突かれた視界に、美貌が微笑む。


 シオンの思考を言い当てた麗句は、いまにも崩れ落ちそうな彼の身体を支えるように、自らの肩を貸していた。


 麗句自身も重傷を負っている。だが、響から"黄金氣(マナ)"という温情を受けた以上――座して状況を見守るつもりはなかった。


「……最初(はじめ)は、憐れんだよ。"天敵種"である男を愛してしまった彼女を」

「"女王(クイーン)"……」


 威風堂々と立つ、眩き"黄金"を見据え、麗句は告げる。


「……だが、違うのだな。"天敵種"という己の(サガ)を"守護者"なるものに昇華してしまう黄金(ひかり)――彼女の青い瞳は最初(はじめ)からそれを見ていた。曇った瞳では見つけることの出来ない、彼という黄金(ひかり)をな」


 己と対峙し、己を救った少女の無垢な眼差しが、その心根が、(よど)み、(すさ)んだ胸に清々しい風を吹かせる――。


 そうだ。彼女のような、彼のような人間(ひと)がいるから、憂いと悲しみに満ちた人の世を、光あるものと信じられる。


 希望(ひかり)ある世界を、諦めずにいられる。


「……見届けよう。道を踏み外した我等には、(まぶ)しすぎる光を。彼等が辿り着き、掴んだ希望を――」


 麗句達の想いを受け止めように、響が(たずさ)え、操る大剣が、鮮やかに(ひらめ)く――。


 眩き黄金を舞い散らせ、その(きっさき)をフェイスレスへと叩き付ける大剣が、その実、"大剣を模した(サヤ)"である事は、先程の戦闘で示された通りである。


 ……だが、これがただの"鞘"である訳がない。


 戦場で、一度抜刀した(つるぎ)が鞘を(まと)う道理はない。


 ならば、"理由"がある。


 ――すなわち、この大剣を模した"鞘"だけに与えられた"役割"が。


「"出番"だ……! 刺し貫き、喰らえ……! "禍喰らい(フェンサー・)希望紡ぎし黄金(オブ・ゴールド)"……!」

「ぬ……う……ッ!?」


 衝撃。


 フェイスレスの肩口を貫き、暗闇を煌々(こうこう)と斬り裂く大剣が、周囲に渦巻く"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の粒子を吸収……! ――"補食"していた。


「なっ……馬鹿な、このような……!?」


 僅かに展開した先端部が、その鳴動とともに"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の粒子を吸い込み、大剣の中心部に(しつら)えられた、三角形の刻印(ゲージ)碧色(エメラルド)に輝かせる。


 そして、大剣内で浄化・精練された"畏敬の赤"は、無尽蔵の"黄金氣(マナ)"に変換され、"煌輝(キラメキ)"の鎧装へと充填されていた。


 それは完成した"円環(メビウス)"。すなわち、


「……彼自身が言うなれば"永久機関"に準ずる存在(モノ)……! 無から有を産み出すに到らなくとも、周囲に"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"が()る限り、無限に"力"を産み、循環させる、まさに――」

「……"救済者(セイヴァー)"……」


 "天敵種"。そう続けようとしたシオンの呟きを、麗句の震える声が上書きする。


 その完成された異能(システム)に、眩き黄金の円環に、麗句は、遠き日に読み解いた教えに登場した、"保全する者"、"救いを担う者"の名を、無意識に呟いていた。


 ――そして、これは彼だけの"力"ではない。


 全ての"畏敬の赤"を統べる、"創世石"の複製(レプリカ)である少女(ガブリエル)の命。


 "守護者"が託した、"黄金氣(マナ)"とそれを統べる力。

 

 彼自身の"天敵種"としての特性。


 ――それらが三位一体となり、この"黄金の騎士"は誕生した。


 そうだ。彼こそが、無限に喰らい、無限に生み出す"魔獣"にして、"救済者(セイヴァー)"。


 "創世石"と人類(ヒト)を守護し、"救う"者。


(キョウ)=ムラサメ……」


 "信仰なき男(フェイスレス)"の喉が畏怖を込めて、その名を呟く。


 ――違う。


 この男は、"危険因子(イレギュラー)"などという程度(レベル)で括れる存在ではない。より"己と等しく"強大な――、


「……"封印解除(シール・パージ)"」

「……!」

 

 言霊とともに、フェイスレスの肩口から引き抜かれた大剣は、"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の返り血とともに闇を舞い、真なる"抜刀"の刻を迎える――!


「……決着(ケリ)を、つけよう」


 鞘を排除(パージ)し、解き放たれるブレード。


 ――"赤"の禍根が、いま断たれる。


NEXT⇒第03話 凱歌ー"TheEND"ー

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