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アームド・ブラッド―畏敬の赤―  作者: chiyo
第六章 終わる世界 繋ぐ光―Union―
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第01話 眩き黄金―”Bright hope”―

#1


「フフ……"創世石"と人類の守護者だと……?」


 "天敵種風情(ふぜい)が笑わせてくれる……"。


 (まばゆ)い"黄金(ひかり)"が舞い散る、荘厳(そうごん)な光景の中、"信仰なき男(フェイスレス)"の喉から、苛立(いらだ)ちに(ヒビ)()れた音声が()(こぼ)れる。


 異形の五指が、醜悪な仮面を、火花とともに掻き(むし)り、耳障りな金属音が、大気を(つんざ)く――。


 ……あってはならない。


 このような"想定外(イレギュラー)"は、あってはならない。


 虚無に満ちた両眼が、立ち塞がる"黄金の騎士"を見据え、その全身から"死の概念(ガス)"を(ほとばし)らせる……。


 同時に、液状化した"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"の粒子が、彼の掌の"聖痕"から滴り落ち、周囲の概念を歪めていく――。


 そして、


「ククク……アーハッハッ‼ いいねェッ‼ キマッてるじゃねぇか、"天敵種"ッ‼」

「……!」


 騒々しい声が、フェイスレスの焦燥を逆撫で、黄金(ひかり)に祝福された静寂を噛み砕く。


 我羅(ガラ)SS(ダブルエス)


 何者にも縛られぬ、その男。


 黄金の騎士――"骸鬼(スカル・オウガ)煌輝(キラメキ)"誕生の立役者ともなった彼は、歓喜に満ちた眼差しで、響の御姿(すがた)を眺めていた。


 (たかぶ)り、(たぎ)る血を整えるように、我羅は首の骨を鳴らし、凶暴な歯牙を剥き出しにして(わら)う。


「とっとと()ろうぜ、"天敵種"――(いや)、"好敵手"……ッ!」


「響……さん……」

「……大丈夫だ」


 己の腕に抱かれたガブリエルの声に(うなず)き、響は彼女の体をそっと地面へと下ろす。


 響の鎧装を彩り、闇を照らす黄金(ひかり)が、ガブリエルの身体を、優しく包み込む――。


「……もう、何も心配しなくていい」

「……はい」


 仮面越しにでも伝わる微笑。


 全てを預けられる力強い声に、ガブリエルはその意識を深い眠りへと落とす。


 抱き締めるように、全身を包み込む"黄金氣(マナ)"の影響か、不思議と苦痛はなかった。


 やり遂げた充足感と安堵だけが、彼女の心を満たしていた。


(……本当に、よく頑張ったな)


 "生きる"という戦いに挑み、勝利した彼女の髪を撫で、響は己を凝視する視線へと、その黄金の鎧装を相対させる。


「ここからのお前の戦いは……俺の戦いだ」

「"好敵手"ゥゥゥゥゥッ‼」


 我羅の咆哮が戦端を()じ開け、迎え撃つ金色(こんじき)が、(まばゆ)く闇夜に弾ける。


 歓喜と獰猛に満ちた我羅の突進を、響の操る大剣が受け止め、衝突した"力"の余波が、"黄金氣(マナ)"とともに粉塵を巻き上げる……!


 息継ぐ間もなく繰り出される我羅の"暴虐"を、轟然と舞う大剣が(ことごと)く迎撃し、我羅の高揚をさらに一段階引き上げる。


 己の全力に拮抗し、凌駕し得る力。


 いまだ全容を掴めぬ、未知なる"黄金"。


 これこそが極上の獲物――"好敵手"と呼ぶに値する"強敵"だ。


 その(たかぶ)る我羅の高揚を真っ向から受け止め、響は己が"未知"を解き放つ……!


「――"封印解除(シール・ブレイク)"――」

「オォオ……ッ!?」


 "黄金(ひかり)"が噴き出す。


 響が紡いだ言霊とともに、傍目(はため)には"大剣と思われていた"装備が鳴動・展開。


 過剰なまでの"黄金氣(マナ)"の奔流とともに、その"外装"を排除(パージ)していた。


 (あらわ)れたのは、金色の柄と鍔、妖艶な輝きを放つ白銀の刀身を持つ、一振りの長剣(ロングソード)


 ――輝醒剣(きせいけん)村雨(ムラサメ)


 大剣を模した"鞘"から解き放たれた、"煌輝(キラメキ)"の真なる得物である。


「"決着(きめ)"させてもらうぞ、我羅(ガラ)SS(ダブルエス)……」

(キョ)ォムラサメェェェェェ――ッ‼」


 黄金(ひかり)の中に(つるぎ)が閃き、我羅と凶暴な舞踏を踊る……!


 内に"獣性(ケモノ)"を封じた騎士の戦い様は、獰猛にして流麗。


 苛烈なまでの斬撃が、荒々しく我羅の鎧装を砕き、全身のバネを弾いたかのような、強烈な回し蹴りが、猛然と突進する我羅の巨躯を確かに後退させる……!


「ハァア……」


 成すべき事は全て"理解"していた。


 自分に補食され、自分の一部となったガブリエルの"欠片"が声となって、この鎧装の全てを響に伝えていた。


 白銀の刀身が、響の左腕部――その手首に(しつら)えられた牙の如き突起へと差し入れられ、最大の一撃への布石を"発火"させる。


「ほぉう……」


 突貫する我羅が息を飲み、恍惚と笑む。


 勢いよく牙の如き突起――"輝獣刃(ブライト・エッジ)"から(つるぎ)が引き抜かれると同時に、響の左腕は碧色(エメラルド)(ほのお)を纏っていた。


 その(ほのお)は、ガブリエルから受け取った(ほのお)


 響の中で輝く、彼女の生命(いのち)そのもの。

 

 黄金の仮面(マスク)、その碧色(エメラルド)の眼光が、真っ向から迫り来る標的を見据える――。


「オォオッ‼」

「グッ――!?」


 疾風の如く、迅雷の如く、大地を蹴った黄金(ひかり)が、碧色(エメラルド)(ほのお)を纏った鉄拳を、我羅の胸部へと叩き込んでいた。

 

 我羅の、凶暴極まる渾身の拳が、黄金の仮面(マスク)を掠めていたが、カウンターとして撃ち込まれた響の拳は、より深く、より速く、我羅の胸部を撃ち抜いていた。


(強ぇ……コイツは……)


 衝撃に天高く舞い上がりながら、我羅は全身を貫く痛みに酔う。


 嗚呼、これ程の痛みは、これ程の"圧倒"はいつぶりだろうか――。


 心地好く、"美しい"。


(コイツは……俺の……生涯の獲物だ)

「ウオオオオ……ッ‼」


 斬。


 大地蹴り、天翔(あまかけ)黄金(ひかり)。その剣閃が、落下する我羅の黒鎧を斬り裂き、この決闘は決着する。


 意識を喪失した我羅の巨体は、真っ逆さまに大地へと落下。そして、その衝撃を相殺するかのように、"毒蠍(スコルピオ)"の黒鎧は粉々に碎けちっていた。


 着地した響は、その様を一瞥(いちべつ)し、剣に再び大剣を模した鞘を纏わせる。


(……感謝する。アンタが相手でなければ、俺は前に進めなかった)


 "この結果には辿り着けなかった"。


 我羅という"強敵"への敬意を胸に呟き、響は"真に(たお)すべきもの"へと向き直る。


 全ての禍根の元凶たる、"信仰なき男(フェイスレス)"へと。


「……イレギュラァァァッ‼」


 想定だにしなかった、看過出来ぬ"危険因子(イレギュラー)"へと、フェイスレスは()え、その(かいな)をワナワナと震わせていた。


 虚無の中に激しい憤怒が噴き出していた。


 ――彼とて、ただ無為に、目の前の"黄金"を眺めていた訳ではない。


 だが、観測()えなかったのだ。


 この危険因子(イレギュラー)の妨害を受けずに、"赤い柱(アル・ホワイト)"へと辿り着ける"世界線"が。


「フン……!」

「なっ……!?」


 それは謀略にして暴虐。


 フェイスレスの憤怒(いかり)に震える(かいな)が、()り糸を手繰(たぐ)るように突き出されると同時に、幾重もの概念干渉に秘匿された"(くだ)"が、"麗鳳石(れいほうせき)"と"鬼哭石(きこくせき)"から力を吸い上げていた。


「こ、こいつ……!」

「我々の、石から……!」


 (わず)かな、一瞬の隙であった。


 麗句とシオンが、雄々しき"黄金(ひかり)"に見惚(みと)れた、(わず)かなその隙に、二人の醒石に吸着した"(くだ)"が、力を吸い上げ、まるで"輸血"するかのように、フェイスレスへと注ぎ込んでいた。


 二つの異なる"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"を吸収した"死邪骸装(イーヴィル・デッド)"は、一部が黒く変色し、頭部は投影性格検査(ロールシャハ・テスト)のインク染みのような、ドス黒く歪な鉄仮面を形成していた。


「カァァ……ッ‼ "創世石"の加護(ブースト)には劣るが、貴様を倒す"応急処置"にはなる。これより訪れる人類(ヒト)の"救済"に、"守護者"など不要だ……!」


 フェイスレスの焦燥と激情を示すように、彼の鎧装の隙間から、人の悪意を凝固させたかのような、黒々とした汚泥と、人の願い、祈りを可視化したかのような、眩い光の羽根が溢れ、(こぼ)れていた。


 確かにそれは自らの悪意・邪心に溺れながらも"救済"を求める、人の"足掻き"と"闇"、ソレそのもののようにも思える――。


 それを真っ向から見据え、響は大剣状となった輝醒剣(きせいけん)を構える。


「ならば、俺はその"人間(ヒト)の闇"を斬り裂く。"(アル)"を、人間(ヒト)を、この"黄金(ひかり)"が照らし、護り抜く……!」


 全てを()ぎ払うように吹き荒れる"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"を、"黄金(ひかり)"が抱擁し、(きら)めく鎧装が"黄金氣(マナ)"とともに闇を照らす――。


「"赤"の禍根は――ここで断つ」


NEXT⇒第02話 我は煌輝(きらめき)―"FENCER OF GOLD"―

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