第01話 眩き黄金―”Bright hope”―
#1
「フフ……"創世石"と人類の守護者だと……?」
"天敵種風情が笑わせてくれる……"。
眩い"黄金"が舞い散る、荘厳な光景の中、"信仰なき男"の喉から、苛立ちに皸割れた音声が漏れ溢れる。
異形の五指が、醜悪な仮面を、火花とともに掻き毟り、耳障りな金属音が、大気を擘く――。
……あってはならない。
このような"想定外"は、あってはならない。
虚無に満ちた両眼が、立ち塞がる"黄金の騎士"を見据え、その全身から"死の概念"を迸らせる……。
同時に、液状化した"畏敬の赤"の粒子が、彼の掌の"聖痕"から滴り落ち、周囲の概念を歪めていく――。
そして、
「ククク……アーハッハッ‼ いいねェッ‼ キマッてるじゃねぇか、"天敵種"ッ‼」
「……!」
騒々しい声が、フェイスレスの焦燥を逆撫で、黄金に祝福された静寂を噛み砕く。
我羅・SS。
何者にも縛られぬ、その男。
黄金の騎士――"骸鬼・煌輝"誕生の立役者ともなった彼は、歓喜に満ちた眼差しで、響の御姿を眺めていた。
昂り、滾る血を整えるように、我羅は首の骨を鳴らし、凶暴な歯牙を剥き出しにして嗤う。
「とっとと闘ろうぜ、"天敵種"――否、"好敵手"……ッ!」
「響……さん……」
「……大丈夫だ」
己の腕に抱かれたガブリエルの声に頷き、響は彼女の体をそっと地面へと下ろす。
響の鎧装を彩り、闇を照らす黄金が、ガブリエルの身体を、優しく包み込む――。
「……もう、何も心配しなくていい」
「……はい」
仮面越しにでも伝わる微笑。
全てを預けられる力強い声に、ガブリエルはその意識を深い眠りへと落とす。
抱き締めるように、全身を包み込む"黄金氣"の影響か、不思議と苦痛はなかった。
やり遂げた充足感と安堵だけが、彼女の心を満たしていた。
(……本当に、よく頑張ったな)
"生きる"という戦いに挑み、勝利した彼女の髪を撫で、響は己を凝視する視線へと、その黄金の鎧装を相対させる。
「ここからのお前の戦いは……俺の戦いだ」
「"好敵手"ゥゥゥゥゥッ‼」
我羅の咆哮が戦端を抉じ開け、迎え撃つ金色が、眩く闇夜に弾ける。
歓喜と獰猛に満ちた我羅の突進を、響の操る大剣が受け止め、衝突した"力"の余波が、"黄金氣"とともに粉塵を巻き上げる……!
息継ぐ間もなく繰り出される我羅の"暴虐"を、轟然と舞う大剣が尽く迎撃し、我羅の高揚をさらに一段階引き上げる。
己の全力に拮抗し、凌駕し得る力。
いまだ全容を掴めぬ、未知なる"黄金"。
これこそが極上の獲物――"好敵手"と呼ぶに値する"強敵"だ。
その昂る我羅の高揚を真っ向から受け止め、響は己が"未知"を解き放つ……!
「――"封印解除"――」
「オォオ……ッ!?」
"黄金"が噴き出す。
響が紡いだ言霊とともに、傍目には"大剣と思われていた"装備が鳴動・展開。
過剰なまでの"黄金氣"の奔流とともに、その"外装"を排除していた。
顕れたのは、金色の柄と鍔、妖艶な輝きを放つ白銀の刀身を持つ、一振りの長剣。
――輝醒剣・村雨。
大剣を模した"鞘"から解き放たれた、"煌輝"の真なる得物である。
「"決着"させてもらうぞ、我羅・SS……」
「響ォムラサメェェェェェ――ッ‼」
黄金の中に剣が閃き、我羅と凶暴な舞踏を踊る……!
内に"獣性"を封じた騎士の戦い様は、獰猛にして流麗。
苛烈なまでの斬撃が、荒々しく我羅の鎧装を砕き、全身のバネを弾いたかのような、強烈な回し蹴りが、猛然と突進する我羅の巨躯を確かに後退させる……!
「ハァア……」
成すべき事は全て"理解"していた。
自分に補食され、自分の一部となったガブリエルの"欠片"が声となって、この鎧装の全てを響に伝えていた。
白銀の刀身が、響の左腕部――その手首に設えられた牙の如き突起へと差し入れられ、最大の一撃への布石を"発火"させる。
「ほぉう……」
突貫する我羅が息を飲み、恍惚と笑む。
勢いよく牙の如き突起――"輝獣刃"から剣が引き抜かれると同時に、響の左腕は碧色の焔を纏っていた。
その焔は、ガブリエルから受け取った焔。
響の中で輝く、彼女の生命そのもの。
黄金の仮面、その碧色の眼光が、真っ向から迫り来る標的を見据える――。
「オォオッ‼」
「グッ――!?」
疾風の如く、迅雷の如く、大地を蹴った黄金が、碧色の焔を纏った鉄拳を、我羅の胸部へと叩き込んでいた。
我羅の、凶暴極まる渾身の拳が、黄金の仮面を掠めていたが、カウンターとして撃ち込まれた響の拳は、より深く、より速く、我羅の胸部を撃ち抜いていた。
(強ぇ……コイツは……)
衝撃に天高く舞い上がりながら、我羅は全身を貫く痛みに酔う。
嗚呼、これ程の痛みは、これ程の"圧倒"はいつぶりだろうか――。
心地好く、"美しい"。
(コイツは……俺の……生涯の獲物だ)
「ウオオオオ……ッ‼」
斬。
大地蹴り、天翔る黄金。その剣閃が、落下する我羅の黒鎧を斬り裂き、この決闘は決着する。
意識を喪失した我羅の巨体は、真っ逆さまに大地へと落下。そして、その衝撃を相殺するかのように、"毒蠍"の黒鎧は粉々に碎けちっていた。
着地した響は、その様を一瞥し、剣に再び大剣を模した鞘を纏わせる。
(……感謝する。アンタが相手でなければ、俺は前に進めなかった)
"この結果には辿り着けなかった"。
我羅という"強敵"への敬意を胸に呟き、響は"真に斃すべきもの"へと向き直る。
全ての禍根の元凶たる、"信仰なき男"へと。
「……イレギュラァァァッ‼」
想定だにしなかった、看過出来ぬ"危険因子"へと、フェイスレスは吠え、その腕をワナワナと震わせていた。
虚無の中に激しい憤怒が噴き出していた。
――彼とて、ただ無為に、目の前の"黄金"を眺めていた訳ではない。
だが、観測えなかったのだ。
この危険因子の妨害を受けずに、"赤い柱"へと辿り着ける"世界線"が。
「フン……!」
「なっ……!?」
それは謀略にして暴虐。
フェイスレスの憤怒に震える腕が、操り糸を手繰るように突き出されると同時に、幾重もの概念干渉に秘匿された"管"が、"麗鳳石"と"鬼哭石"から力を吸い上げていた。
「こ、こいつ……!」
「我々の、石から……!」
僅かな、一瞬の隙であった。
麗句とシオンが、雄々しき"黄金"に見惚れた、僅かなその隙に、二人の醒石に吸着した"管"が、力を吸い上げ、まるで"輸血"するかのように、フェイスレスへと注ぎ込んでいた。
二つの異なる"畏敬の赤"を吸収した"死邪骸装"は、一部が黒く変色し、頭部は投影性格検査のインク染みのような、ドス黒く歪な鉄仮面を形成していた。
「カァァ……ッ‼ "創世石"の加護には劣るが、貴様を倒す"応急処置"にはなる。これより訪れる人類の"救済"に、"守護者"など不要だ……!」
フェイスレスの焦燥と激情を示すように、彼の鎧装の隙間から、人の悪意を凝固させたかのような、黒々とした汚泥と、人の願い、祈りを可視化したかのような、眩い光の羽根が溢れ、零れていた。
確かにそれは自らの悪意・邪心に溺れながらも"救済"を求める、人の"足掻き"と"闇"、ソレそのもののようにも思える――。
それを真っ向から見据え、響は大剣状となった輝醒剣を構える。
「ならば、俺はその"人間の闇"を斬り裂く。"弟"を、人間を、この"黄金"が照らし、護り抜く……!」
全てを薙ぎ払うように吹き荒れる"畏敬の赤"を、"黄金"が抱擁し、煌めく鎧装が"黄金氣"とともに闇を照らす――。
「"赤"の禍根は――ここで断つ」
NEXT⇒第02話 我は煌輝―"FENCER OF GOLD"―




