【6】失う夢
うっすらと明けつつある夜に満月が浮かぶ。
立ち込める煙と地面に散らばった矢。
倒壊した建物の壁の周囲にはかつて人だったものの肉片が散らばっている。
目の前で倒れている男は腹部に大きな傷をつくり、呼吸をするので精一杯な様子だった。
そばにはアンがいて、肩で息をしながら憔悴していく男をじっと見ている。
戦争だ。
そしてこれは現実ではない。
やけに景色が鮮明だが、過去の記憶とこの状況が一切繋がっていないことから夢であることを自覚する。
これは私に降りかかる将来の出来事だろう。
また一人、大切な人を失うことになるみたいだ。
まだアンが生きていることから、アンを失うよりも前の未来であることが予測できる。
彼らと一緒に戦ったからか私の身体にも血液が付着している。
刀を握った手は驚くほど震えていた。
グラグラと視界が揺れて視点が定まらない。
足に力が入らず、身体のバランスを取ることすら難しかった。
意識を保っているのが精一杯だ。
ズキズキとした痛みが頭を襲っている。
強く頭を打った時の痛みと似ていた。
「……アイ、ごめんね」
アンが私を見上げて言う。
「仕方ないよ。だって」
自然と溢れた言葉を聞いたアンが目を背ける。
「だってこうする以外になかったでしょ?」
私はそう言って周囲を見たあと、服の先で付着した血を拭って刀を鞘に収めた。
ふらりと目眩を感じて咄嗟に地面に膝を突く。
額に手を当てて大きく深呼吸をしてみたが体調は悪化するばかりだ。
喉の奥から迫り上がってくる吐き気をグッと堪える。
いっそ意識が飛んだ方が楽になれるのではないかと思うほどだった。
辺りを取り巻く喧騒が遠のいていく。
体力の限界なのだろう。
先ほどまでは認識できていたはずのアンの表情もぼやけてよく見えない。
「アイッ!」
暗転していく視界の奥から切羽詰まったアンの声が聞こえた。
刀が引き抜かれる音と迫る足音。
背後から誰かが近寄ってきているらしい。
敵兵だろうか。
抵抗する余力は残っていない。
「絶対に許さない」
背後からなにやら聞き覚えのある声が反響していた。




