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【2】記憶

「とにかく食べようか。お腹空いてるんでしょ?」

 

アンが死んだ兎を指差す。

 

そんなアンの質問に答えたのは言葉ではなく腹だった。


グーッと音が鳴り、締め付けられるような痛みが胃を襲った。

ハッとして顔を上げるとアンは愉快そうな表情で笑った。


頬にじんわりと熱が帯びる。


「……ありがとうございます」


「そんなに畏まらないでよ。あたしたちもう友だちなんだから」


「……友だち」

 

そんなことを言われたのはいつぶりだろう。


面と向かって言われると嬉しさよりも恥ずかしさが勝る。

熱を帯びた頬がさらに熱くなった。


「敬語も使わないで。なんか距離を感じる」


「……はい」

 

視線を背けてこくりと頷いた私を見てアンが笑う。

その様子を見て、自分の返事がおかしいのだと気がついた。


「まあいいや。よろしくね、アイ」


「うん……よろしく……ね」

 

私の言葉を聞くとアンは満足げな表情で首を縦に振った。

 

鼻歌を歌いながら兎に手を伸ばすアンの背中をじっと眺める。

 

切れ長の目とシュッとした輪郭、眉の少ししたで綺麗に切り揃えられた髪の毛に口元のホクロ。

右腕にはじんわりと光を放つバングルをしている。

背丈に比べて体重は軽い。

 

私は一度、この女を……アンを見たことがあった。

 

敵国の兵士から逃れるため村を抜け出した日の夜のことだ。

 

目を閉じて奥底に眠っている記憶を掘り起こす。

 

私に抱えられたアンはうっすらと目を開いて力ない表情をしていた。

腹部から流れる血は止まることがなく、息をするのが難しいのか呼吸は不安定だった。

 

すべてこれから起こりうる未来の記憶だ。

 

数日前に見た予知夢の中に、アンの死は存在していた。

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