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ASTRAY 歩き、未来に残すもの  作者: kc


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第六章 四神の力、託された想い

【決死の特攻――禁忌の力、再び――】


千昌たちは歩調を早め、黄泉の霊堂の近くまで来ていた。

しかし、霊堂の周囲は多数のモンスターに囲まれ、容易に近づける状況ではなかった。


信二が歯噛みする。

「……無理だな。数が多すぎる。正面突破は現実的じゃない」


隼人も視線を巡らせながら頷く。

「さすがに多勢に無勢だ。迂回も難しい……どうする?」


千昌は一瞬、唇を噛みしめ――そして、意を決した。

「朱雀の弓を使いましょう」


二人の視線が、一斉に千昌へ向く。

「この数を一気に排除するには、それしかない。今の状況を打開できる力は……」


信二はすぐに遮る。

「待て。その弓、本当に安全なのか?

玄武と同じ“代償”がある可能性は?」


千昌は、ほんの一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに笑ってみせた。

「……心配しすぎよ。未来みたいに、私が動けなくなったことがあった?」


信二はその笑顔を見つめ、低く言う。

「……ない。だが、それでも嫌な予感がする。

何か、隠してないだろうな」


千昌は一拍置いて、強い口調で返す。

「隠してないわ。

それより――急がないと。千引の霊石を未来に届けなきゃ。

あの子の身体、もう余裕がないの」


その言葉に、隼人が一歩前に出る。

「だったら、俺が囮になる。

あの集団に飛び込んで引きつける。その隙に二人で霊堂に入れ」


千昌が即座に否定する。

「ダメ! 危険すぎるわ!」


信二は短く息を吐き、決断する。

「……いや、それでいこう。

最悪の場合は俺がフォローする」


そして千昌を見る。

「朱雀の弓は、ギリギリの状況まで使うな。

俺は、あれが一番危ないと思ってる」


千昌はしばらく黙り、やがて頷いた。

「……わかった。

でも、二人が本当に危険だと判断したら――その時は使う」


信二は静かに答える。

「……その判断は、任せる」


隼人が短剣を構え、深く息を吸う。

「よし……行くぞ!!」


その声と同時に、隼人がモンスターの群れへ飛び込み、

二人がそれに続いた。


隼人は、尋常ではない速さで攻撃を繰り出しながら、モンスターの群れの中を駆け巡った。

翻る双剣が次々と傷を刻み、敵の視線が一斉に隼人へ集中する。


「今だ! 二人とも、行け!!」


その叫びと同時に、千昌と信二は霊堂へ飛び込んだ。


信二は入口で足を止め、振り返らずに言う。

「俺はここで食い止める。千昌、行け!」


千昌は一瞬だけ振り返り、叫ぶ。

「すぐ見つけて戻るから! 無理しないで!」


そう言い残し、霊堂の奥へ駆け出した。


「……無理するな、か」


信二は小さく苦笑し、迫るモンスターへ踏み込む。

一閃。二匹が同時に崩れ落ちた。


千昌は奥へ進み、祭壇と、その上に置かれた箱を見つける。

手にした玄武の短剣が、強く反応した。


(迷ってる時間はない……!)


千昌は躊躇なく箱を開けた。

緑色の光が溢れ、千引の霊石が姿を現す。


「……これが、千引の霊石」


震える手で霊石を掴む。

その脇に、封筒のようなものが置かれていることに気づいた。


(後で見る。今は――)


千昌は霊石と封筒を掴み、踵を返した。

(早く……二人のところへ戻らないと!)


そう強く念じながら、入口へと走り出した。


「――ここは、通さん!!」


信二は歯を食いしばり、迫るモンスターを切り伏せる。

四匹……五匹……六匹。


傷つきながらも体を動かし、攻撃する。軽傷では済んでいない。

それでも、手は止めなかった。


その時――

「信二!」


千昌が霊堂から飛び出してきた。

「ごめん、待たせた。霊石、手に入れた。行こう!」


その声を聞き、信二は一度だけ深く息を吸う。

「……よし」


一気に踏み込み、目前のモンスターをまとめて切り裂いた。

血と衝撃の隙間に、わずかな突破口が生まれる。


「千昌、行け! すぐに続く!!」


千昌は走りながら頷き、突破口を駆け抜ける――が、

一匹のモンスターが行く手を塞いだ。


「……どきなさい!!」


迷いはなかった。

玄武の剣の一閃。首が宙を舞い、その勢いのまま外へ飛び出す。


信二も続こうと踏み出した、その瞬間――

「隼人!!」


千昌の視界に映ったのは、

既に手遅れと言っていいほど囲まれ、必死に抵抗する隼人の姿だった。


「くっ……そ。俺はいい! 千昌、早く逃げろ!!」


「そんな……隼人! 隼人ぉ!!」


霊堂から信二が飛び出す。

「どうした、千昌――っ!」


一目で理解した。

「千昌! 俺が行く! おまえは先に離れろ!!」


信二はモンスターを切り捨てながら、隼人へ向かう。

だが――距離が、足りない。


(隼人……ダメ……)


(ダメ……ダメ!!)


その瞬間、千昌の中で“何か”が弾けた。

朱雀の弓が、意志を持つかのように光を放つ。


千昌は弓を構え、隼人の前に群がるモンスターを射抜く。

「――隼人の前から……消えなさい!!」


禁忌の一撃。

光炎が走り、次の瞬間――

モンスターの群れは、跡形もなく消し飛んでいた。


隼人は助かった。

だが、あまりに圧倒的な力に、ただ呆然と立ち尽くす。


(……くそ。あれを、使わせた)


信二は歯噛みし、叫ぶ。

「隼人!! ボーッとするな! 動け! 退却するぞ!!」


その声で我に返り、隼人は体勢を立て直して駆け寄る。


(……あ……れ……)


千昌の足が、崩れ落ちた。

「……やば……」


そのまま地面に倒れ、意識を失う。


「くっ……千昌!!」


信二は駆け寄り、千昌を抱き上げる。

そこへ隼人が合流する。


「隼人、行くぞ!」


「……ああ」


三人は、命からがらその場を離脱した。



【それぞれの気持ちと選択】


激戦の地を離れた三人は、近くの宿に入り、気を失っている千昌を寝かせた。


「隼人、ちょっといいか?」

二人は部屋を出る。


宿のロビーに座り、今後のことを話した。


「隼人、頼みがある。一旦、単独で霊石を持っておまえの家に戻ってくれないか?」


隼人は答える。

「……ああ。俺もそうしようと思ってた。

父さんの最期に言ってた地下室の文献の話、覚えてるか?」


信二は話を続ける。

「ああ、俺も覚えてるよ。だからこそ戻ってほしいんだ」


隼人は少し悩み、真剣な顔で話す。


「あの朱雀の力は尋常じゃない。

そんな力が、何の代償もなく使えるはずがない。

父さんが言ってた“困ったこと”って、このことだと思う。

……だから調べに行く!」


信二は少し微笑み、

「ありがとう。そっちは任せる。

千昌のほうは俺が守る。心配するな」


隼人は少し微笑み、

「おまえが一緒なんだ。心配なんかしてないよ、相棒。

それより、ほかに何か行くところがあるんじゃないのか?」


信二は話す。

「ああ。さっき霊堂から持ち出した手紙、悪いとは思ったが、見させてもらった。

生石おうこの洞穴に、真影おじさんから受け取ったこの剣を、

覚醒させる何かがあるらしい。

今後のため、一応手に入れておこうと思ってな」


――一瞬、間を置き。


「そこに、二本の剣の手がかりもあるかもしれないし……」


隼人は信二の様子の変化に気づいたが、何食わぬ顔で答える。


「りょーかい。じゃあ一旦、別行動だな。

姉貴が起きたら、その方針で話をしよう。

気取られないように話すのは、おまえに任せるぞ」


信二は少し困った顔で、

「善処するよ」


(手紙に書いてあった祭壇……)


手紙に気になる部分はあったが、その場はそう答えた。


二人は千昌が目を覚ますまで、しばしの休息を取った。


程なくして時間が過ぎ、千昌は目を覚ました。

(代償の影響……。

 根本的な何かが失われているような感覚。

 

お母さんは、こんなものをずっと耐えていたんだ。

 私と隼人に悟らせないよう、隠しながら……)


起き上がり、ベッドの縁に腰掛けて考え込んでいると、

信二と隼人が部屋に戻ってきた。


「千昌、気づいたか。身体は大丈夫か?」


信二は心配そうに声をかける。


「ごめんね。もう大丈夫。

 これを使うと、力が強すぎて反動で意識が飛んじゃうみたいなの」


千昌は少し言葉を選びながら続けた。


「お母さんの日記に書いてあったの。

 鍛練たんれんすれば制御できるって。

 ……私が未熟だっただけ。心配かけてごめんね」


母の日記にあった記述を思い出し、

千昌は“もっともらしい嘘”を口にした。

皆を安心させるための、精一杯の優しい嘘だった。


「制御できる力なら、そこまで心配はいらないな」


信二は納得したふりをする。

そうでなければ、隼人を一人で家に向かわせることができないからだ。


そこで隼人が切り出した。

「姉貴、ちょっと話があるんだけど、いいか?」


その様子に千昌は眉をひそめる。

「なによ、改まって。

 まさか私を置いていく相談を、二人でしてたんじゃないでしょうね?」


鋭い指摘に、隼人は信二を見る。


“分かってる”と言わんばかりに、信二が話し始めた。


「相談してたのは本当だ。

 隼人を、霊石を届ける役として先に家へ帰すことにした」


千昌はすぐに反対する。


「みんなで帰ればいいじゃない。

 どうして隼人を一人で行かせるの?」


もっともな意見だった。


信二は筋が通るよう、言葉を選んで説明する。


「千昌が霊堂から持ち帰った手紙を読んだ。

 そこに霊石の危険性が書いてあったんだ」


信二は続ける。

「霊石は、そばに置いておくことで代償緩和の助けになる。

 だが――武器で割ると、人知を超える力を引き起こすらしい。

 それ相応の代償と引き換えにな」


千昌は血の気が引いた。

「じゃあ……これ、取らないほうが良かったってこと?」


「違う」


信二はすぐに否定する。

「“割ったら”の話だ。

 だから隼人と相談して、こっそり未来のそばに霊石を置いておこう、

という結論になった」


千昌は少し安堵し、状況を察した。


「なるほどね……。

 だから隼人なのか。

 私や信二だと、また一緒に行くって言い出すかもしれないし」


「隼人なら、ひっそり保管するようおじいちゃんに頼める。

 ……仕方ないわね」


隼人は意地悪そうに笑う。


「そういうこと。

 でも姉貴も、二本の短剣のことを信二と別行動で調べてもらうぞ。

 休んでる暇はない」


千昌は小さく息を吐き、頷いた。


「分かったわよ。で、信二。私たちはどこへ行くの?」


「それは地図を見て説明するよ。

千昌、真影おじさんから受け取った地図を出してくれるか?」


千昌は頷き、鞄から地図を取り出して広げた。


それを見て信二は、今後の動きを説明する。


「とりあえず千昌と二人で向かうのは、兵庫県の西側にある生石の洞穴だ。

 家からもそう離れていない。何かあっても、後で合流もしやすい」


「家の近くにこんな遺跡があったのね。全然知らなかった」


千昌は一度見たことのある地図を、改めて見返す。


「でも遺跡付近は危険な可能性があるから、そこにずっとはいられない。

 そこで、遺跡捜索の動きとして、茨城県にある“鹿島の祭壇”を目指す。

 隼人は未来の安全を確立できたら、祭壇に向けて動いてくれ。

 その道中で合流しよう。その場所への目的は、その時に説明する」


隼人はその動向説明を聞き、感嘆(かんたん)のため息をつく。


「そういうところは、さすがだな、相棒。

了解した。未来のほうは任せろ」


それを聞いた千昌は、すぐに立ち上がる。

「じゃあ動きも決まったし、さっさと準備して向かいましょ」


宿で簡単な支度を済ませ、

三人はそれぞれの目的地へと動き出した。



【最後の旅路――想いを胸に――】


――時は戻り、本州に入り、三人と別れた後――


千昌たちと別れた未来たち三人は、

家のある兵庫県へ向かい、瀬戸内海沿いを移動していた。


「わぁ、海きれいだなぁ。

あ……あの海の上にある鳥居って、

厳島神社にあったやつだよね。

初めて見たぁ」


未来は、まるで観光に来たかのようにはしゃぎ、無邪気に笑う。

千晴と速芽に、これ以上心配をかけないために――。


その様子を見て、二人は言葉にできない気持ちを抱えていた。


千晴が、静かに声をかける。

「未来。元気なのはいいが、無理はするな。しんどくなったら、いつでも言え」


速芽も続ける。

「そうだぜ。身体を壊したら、千昌たちが帰ってきた時に迎えられなくなるからな」


未来は少し拗ねたように頬をふくらませ、

「はーい、わかってるよ。でも、二人が一緒にいてくれるから安心なんだもん」


その言葉に、二人の胸はじんわりと温かくなり、自然と優しい笑みがこぼれた。


道中、弱いモンスターとの戦闘はあったが、

誰かに守られているかのように、

危険な状況になることもなく、

三人は無事に家へとたどり着いた。


玄関で、未来が声を上げる。


「ただいまー……あっ、おじいちゃん」


恒一は、未来を優しく迎え入れる。

「未来ちゃん、お帰り。疲れただろう。

すぐ食事の用意をするから、千昌の部屋でゆっくりしなさい」


「ありがとう、おじいちゃん」


恒一は千晴と速芽の方を向き、

「未来ちゃんを守ってくれてありがとう。

自分の家だと思って、ゆっくりしていきなさい」


千晴はその言葉に心から感謝し、答える。

「ありがとうございます。少しの間、お世話になります」


速芽も続き、

「おじいちゃん。ほんとに助かるよ。ありがとう」


それぞれ話した後、三人は、未来を先頭に家の中へ入っていった。


恒一は、未来と、見知らぬ二人を、何も尋ねることなく受け入れた。


まるで――すべてを分かっているかのように。


食事を終え、風呂に入り、夜を迎えた未来は、布団に入っていた。

だが目は冴え、どうしても眠れない。


そっと起き上がり、一人、境内へ出られる廊下の軒下に腰を下ろす。

夜風に触れながら、静かに空を見上げた。


すっかり変わってしまった世界――。

それでも、夜空の輝きだけは変わらず、未来を包み込んでくれていた。


満天の星を見つめながら、未来は小さく呟く。


「お姉ちゃん、無事に家に戻ったよ。

 だから……早く帰ってきてね。

 いつまでも……いつまでも、待ってるから」


その言葉を夜空に預けるように、

未来は、ただ黙って――遠くの空を見つめ続けていた。



【長剣の秘密と二人の想い】


隼人と別れた信二と千昌は、生石の洞穴へ向かっていた。

歩きながら、千昌がふと思い出したように口を開く。


「ねえ信二。そういえば聞いてなかったけど、生石の洞穴には何があるの?

これまでの経緯から考えると、四神武器か、起源の石だとは思うけど」


信二は手にした長剣を軽く掲げて答える。

「この剣は、千昌の父さん――真影おじさんから受け取ったものだ。


この剣に関わる“起源の石”が、そこにあるらしい」


千昌は少し考え込むような表情になる。


「起源の石、ねぇ……。

四神武器以外にも、そんな石があるんだ。

てっきりお父さんは、四神武器を手がかりに、

二本の剣が繋がると考えてたのかと思ってたけど……」


信二も頷く。

「言われてみれば、確かにそうだな。

これだけ、直接の関連が見えないのも不自然だ。

……まあ、行ってみれば分かるだろ」


千昌は少し驚いたように信二を見る。


「信二って、もっとしっかり調べてから動くタイプだと思ってた。

意外と、楽観的に動くこともあるんだね」


信二は肩をすくめて答える。


「確かにそうだけどさ。

人知を超えたものを、理屈だけで全部解決するなんて無理だろ。

たまには隼人を見習って、直感で動くのも悪くない」


その言葉に、千昌は少し微笑む。

「……そっか。

そういう信二の一面、見られてちょっと安心した」


信二はわずかにふてくされたように、

「何が安心なんだよ。はぁ……」


そんなやり取りを交わしながら歩いていると、

やがて二人は、生石の洞穴の前にたどり着いた。


洞穴の前には、モンスターが二匹、うろついていた。

その様子を見て、千昌はわずかな違和感を覚える。


「今までの四神関連の場所と違って、モンスターが少ないね。

……なんか、かえって嫌な予感がするんだけど」


信二も真剣な表情で頷く。

「同感だな。静かすぎて不気味だ。

でも、行くしかない。覚悟を決めるか」


千昌は短く頷く。

「そうね。じゃあ、一匹ずつ。私は左担当で――行くよ!」


二人は同時に踏み込み、剣を振るう。


――一閃。


拍子抜けするほどあっさりと、モンスターは倒れ伏した。


「……よし、入るぞ」


信二はそう言い、洞穴の奥へと進んでいく。


洞穴の奥には、これまでと同じように祭壇があり、

その上に一つの箱が置かれていた。


信二が箱を開けた瞬間――

(……なんだ? 急に、音が聞こえな……)


足を動かしたわけでもないのに、

意識だけが暗闇へ落ちていくような感覚に襲われる。


「……しんじ、信二!!」


千昌の声が、深く沈みかけた意識を強く引き戻した。


箱の中には、やはり真影の手紙が入っていた。

二人は並んで、その文面を読む。


『この石――水の碑石は、とある剣と共鳴することで、

白虎の剣を生み出す。


白虎は“心を貫く剣”。

だが同時に、心を壊す危険な剣でもある。


玄武と白虎はいずれも剣だ。

文献に記された二本の剣と、まったく無関係とは言い切れない。


だから、ここに書き残す。


私は、誰かが誤った選択をしないよう、剣を持ち出した。

これを読んで、もし私が持ち出した剣を手にしているのなら――


世界を元に戻すためだけに使ってほしい。

力を使えば、人を捨てることになる……』


(真影おじさんが持ち出した剣……。

おそらく、この剣だ)


千昌は、信二の手にある長剣を見る。

「……信二の剣、お父さんが持ち出した剣ってことよね」


信二は静かに頷く。

「ああ。

千昌、このことは隼人と未来には黙っていてくれ。

あの二人なら、絶対に“手放せ”と言う」


千昌は思わず声を荒らげる。

「私だって言うわよ。

そんな危険な剣、持っちゃダメ!」


信二は一歩も引かず、真っ直ぐに答える。

「それでもだ。

この世界を元に戻せる可能性があるなら、手放せない。

白虎にするタイミングは、

もう一本の剣を指す“その瞬間”だけにすればいい。

そうすれば、危険は最小限で済む」


千昌は首を振る。

「それでも危険だよ。

そんなこと、させられない」


信二は、少しだけ悲しそうに微笑んだ。

「……未来が、安心して暮らせる世界に戻したいんだ。

それは、千昌も同じだろ?」


千昌は言葉に詰まる。


「危険なのは分かってる。

だから、その時が来るまで――この石は千昌が持っていてくれ。

それなら、共鳴は起きない。頼む……」


長い沈黙の末、千昌はゆっくりと頷いた。


「……わかった。

ただし、これを使う時は、私がそのタイミングを決める。

いい?」


信二は深く息を吐き、答える。

「ああ。千昌……ありがとう」


千昌は水の碑石をしまい、

二人は静かに洞穴を後にした。



【再会と真実への追及】


隼人は二人と別れ、霊石を持って一人、兵庫県の実家へ向かった。

家に近づくと、嫌でも目に入る。


(この岩……御神体か。……ここから始まったんだ)


千昌と離れ離れになる元凶となった御神体。

思うところはあったが、目的を果たすため、隼人は足早に家へ向かった。


すっかり形は変わっていたが、懐かしい境内。

そこを抜け、家の玄関に立つ。

少し緊張しながら、声をかけた。


「ただいま」


その声に気づき、恒一こういちが玄関に出てくる。

恒一は優しい顔で、一言だけ言った。


「隼人……お帰り」


隼人はすぐに聞く。


「じいちゃん。帰って早々ごめん。未来は帰ってる?」


恒一は静かに頷いた。


その様子に何かを察したのか、未来が玄関へ出てくる。


「あっ……隼人お兄ちゃん。お帰りなさい。

……あれ? 信二お兄ちゃんと千昌お姉ちゃんは?」


その反応は当然だった。

続いて、千晴と速芽も出かける前の格好で姿を見せる。


「隼人、戻ったのか? 信二と千昌はどうした?」


隼人は千晴に答える。


「二人は、別の遺跡に次の手がかりを探しに行ってる。

俺は、ちょっと用事があって一人戻ってきたんだ」


千晴は鋭く聞き返す。


「……千昌たちは、今どこにいる?」


「すぐ近くの、生石の洞穴に向かってる。

二人は……また力を貸してくれるか?」


千晴は迷いなく答えた。


「当たり前だ。未来との約束だからな」


その言葉に、隼人は素直に礼を言う。


「ありがとう。助かる。

それなら先に洞穴へ向かって、二人と合流してくれないか?

すぐに行けば、そこで合流できると思う。


その後、そのまま東へ移動するはずだから、

俺も調べ物が終わったら、次の目的地にすぐ向かう」


「分かった。準備はできている。

速芽、先に行くぞ」


「りょーかい、兄貴。

未来、隼人、またな」


二人はそう言い残し、千昌たちの元へ向かった。


未来は隼人を見上げる。


「隼人お兄ちゃん。用事って、なに?」


隼人は未来の頭を軽くポンと叩き、恒一の方を向いた。


(早く……調べないと)


「じいちゃん。父さんから聞いたけど、家に地下があるんだよね。

場所、教えて」


恒一は驚いた顔をする。


「……おまえも、その存在を知ってしまったか」


恒一は少し目線を落とし、そっとため息をつく。


「分かった。ついてきなさい」


未来が慌てて言う。


「待って、私も行く!」


隼人と未来は、恒一に導かれ、仏壇のある部屋へ向かった。



【朱雀の弓の秘密と未来との約束】


隼人と未来は、恒一に連れられ、仏壇の部屋へ向かった。


「この部屋、母さんに無事を報告してた場所だ。ここに……」


恒一は静かに頷き、仏壇の裏板に手を掛ける。

軋む音とともに裏板が外れ、その奥に地下へと続く階段が現れた。


「隼人、知りたいことは箱の中の文献に書いてある。

じゃが、この地下室は普通の場所とは違う。

気をつけて、行きなさい」


「ごめん、じいちゃん。行く前にちょっと……」


隼人は恒一に、未来に聞こえないよう耳打ちする。


『玄武の起源の石を、弓が入っていた箱にこっそり入れる。

未来が箱に触れないよう、注意してほしい』


恒一は、にっこりと笑みを浮かべ、黙って頷いた。


隼人は恒一から離れ、そっと微笑む。


「ありがとう、じいちゃん」


隼人が階段を下りようとした時、


「……待って。私も行く」


未来が一歩踏み出し、隼人の後に続いた。


地下を降り切った先には、小さな祭壇と一つの箱が置かれていた。

空気は澱み、音が吸い込まれるように静かだった。


「……ここ、なんか変」


未来が小さく呟く。


隼人は頷き、祭壇の上の箱を開ける。

中には二本の木刀と、一冊の古い文献が収められていた。


「あっ……この木刀」


未来が息を呑む。


「千昌お姉ちゃんが、ずっと持ってた木刀……」


隼人は一本を手に取り、しばらく見つめてから言った。


「こっちは俺のだ。模擬戦で折った跡がある……」


もう一本を見て、静かに続ける。


「姉貴が、持ち続けてたんだな」


未来は小さく頷いた。


「旅に出る前も、ずっと……。

私も、その木刀で助けられた」


隼人はわずかに表情を緩め、木刀に向かって呟く。


「……守ってくれて、ありがとう」


その瞬間だった。


隼人の腰に差していた短剣が、淡く光を放ち始める。

驚いて短剣を抜いた刹那、短剣と木刀が互いを引き寄せるように震え、


――一つの光に包まれた。


眩い光が収まった後、隼人の手の中には、形を変えた双剣があった。


未来は、その光を見つめたまま動かなかった。

――なぜか、知っている気がした。


「……現始の双剣」


思い出すように、その名を口にする。


隼人は驚き、未来を見る。


「未来、今……」


未来は首を振り、静かに双剣を受け取ると、隼人に差し出した。


「聞こえた、っていうより……知ってた気がする」


そして、微笑む。


「隼人お兄ちゃん。これで……千昌お姉ちゃんを守って」


隼人は一瞬だけ剣に視線を落とし、覚悟を固めるように息を吐いた。


「……ああ。約束する」


隼人は、現始の双剣を受け取った。


それもまた、世界を変える力であり、

まだ誰も、その代償を知らない剣だった。


隼人は、箱の中に残されていた文献を手に取った。

ここに来た理由は、これを読むためにここまで来たのだから。


「……かなり古いな。所々、文字が欠けてる」


「なにが書いてあるの?」


未来が不安そうに覗き込む。

隼人はページを慎重にめくりながら、拾える言葉を繋げていく。


「朱雀の弓……光……撃つ……」


指が止まる。


「……願い……叶える……」


一拍置いて、声が低くなる。


「……代わりに……命……奪う……」


未来の顔から血の気が引いた。


「それ……代償、だよね」


声が震える。


「命を奪うって……どういうこと……?」


唇を噛みしめて続ける。


「お姉ちゃん……この前、弓……使ってた……」


隼人は本を閉じ、額に手を当てた。


「……断定はできない」


だが、目を逸らさずに言う。


「でも、命に関わる“何か”を削ってる可能性は高い。

願いの代償としてな!」


未来は一歩前に出て、必死に言った。


「隼人お兄ちゃん……お願い」


声が涙に滲む。


「お姉ちゃんを助けて……

お姉ちゃんが死ぬなんて、嫌……」


隼人は迷いなく未来の目を見た。


「未来。約束する」


静かだが、揺るがない声。


「姉貴は、俺が守る。

どんな手を使ってでもだ」


拳を握る。


「弓を使う状況になる前に、俺が全部倒せばいい!」


「そうなれば、代償を払う必要もない!」


未来は、まだ不安そうだった。


「……でも……」


隼人は、先ほど手にした双剣を見下ろし、そして握り直す。


「未来が渡してくれたこの剣、

多分これは……そのために生まれたんだ」


未来は涙を拭い、小さく頷いた。


「……うん。お兄ちゃんを信じる。

……絶対、だよ!」


隼人は短く頷いた。


文献を、“千引の霊石”が入った袋とともに箱に戻し、

朱雀の箱を静かに閉める。


二人はそれぞれの想いを胸に、地下室を後にした。


――この約束が、



後に隼人自身を追い詰めることになるとも知らずに……。


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