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第五章 運命の代償ーー未来のために

【新たな地、九州へ】


4人は昨日と同じ宿で夜を明し、

四国と九州を繋ぐトンネルの近くに来ていた。


千昌はトンネル前の状況を見渡す。


「ふぅ……あのトンネルしか、九州に行く方法がないんだけど……」


3人も同じ光景を見て、表情を曇らせる。


「いっぱいモンスターいるね……」


「ああ、いるな。」


「さすがに、あれは無理だねぇ。」


全員が同意見で、足が止まっていた。

千昌は静かに口を開く。


「しばらく様子を見て、

モンスターが少なくなった時に強行突破……

それくらいしかないよね?」


現実的な案ではあるが、それでは未来が危険に晒される可能性が高い。

そう考えた千晴が、意を決したように言った。


「俺が囮になろう。

弓の遠距離魔法で攻撃しながらモンスターを引き付ける。

俺と逆サイドからトンネルに入ってくれ。」


千昌はすぐに首を振る。


「そんなことしたら、千晴がどうなるかわからないよ。

そんなの、ダメ……」


それを聞いて、速芽が一歩前に出る。


「未来を無事に渡らせるには、それしかねぇって。

大丈夫だ、兄貴を信じろ。」


未来は手を少し震わせながら言った。


「私、大丈夫だから……みんなで行こ。」


千昌は一瞬、唇を噛みしめ、悩む。

そして、覚悟を決めたように顔を上げた。


「……未来。千晴の言う方法しかない。

千晴、引き受けてくれる?」


千晴は迷いなく答える。


「もちろんだ。上手く巻いたら、すぐ後から向かう。」


未来は申し訳なさそうに千晴を見る。


「千晴お兄ちゃん、ありがとう。絶対、無事で戻ってきてね。」


「ああ、任せろ。」


4人は千晴の作戦に同意し、二手に分かれて配置についた。


千晴は手を上げて合図すると、炎の矢を三、四発、入口に撃ち込む。

それに驚いたモンスターたちは、千晴目掛けて襲いかかる――


(五、六、七匹……もっと引き付ける……よし、入口が手薄になった。)


「いけ!!」


千晴の掛け声と同時に、三人がトンネルに飛び込む。


まず千昌が飛び込み、残っていたモンスター1匹に、

玄武の短剣で斬りかかる。


――迷いはなかった。


「邪魔よ!!」

一瞬で喉元を切り裂き、制圧する。


「未来! 速芽!」


その声を合図に、二人はトンネルへ飛び込む――。

未来が息を切らしながら言う。


「はぁ、はぁ……何とかなったね……って、えっ? 速芽おねえちゃん?」


速芽は振り返り、口を開く。


「あたいは後から兄貴と行く。二人は先に行きな!!」


未来が拒否しようとした瞬間、千昌が手で制した。

千昌は真剣な表情で言う。


「……速芽。千晴をお願い。未来、行くよ!!」


「速芽おねえちゃん……。絶対だよ。絶対、戻ってきてね。」


速芽は背を向け、刀を構え、手を上げて合図をした。


(……ごめん。千晴、速芽。必ず無事に戻って……)


先にトンネルを抜け、共に行くはずだった二人を残し、

千昌と未来は九州の地へと踏み出した。



【予期せぬ再会と抗えぬ代償】


千昌と未来は、二人が戻ることを信じ、一足先に目的地へ向かう。


「お姉ちゃん、次に行くところって、どんな所?」


未来の問いに、千昌は少し困ったような表情を浮かべる。


「実は私も、よく分かってないの。

でも、不思議な“石”の伝承があって、

それが二本の短剣と関わりがありそうなの。」


未来はきょとんとして、


「へぇ……高千穂(たかちほ)の祠……だったっけ。

日本って、不思議な場所がいっぱいあるんだね。」


千昌は優しい笑みを浮かべ、


「そうね。私のお父さんが、私たち兄弟……いえ、

その旅に関する資料を残してくれたの。それがなかったら、

どうすればいいか分からなかった。本当に感謝してる。」


未来は無邪気に笑う。


「すごいお父さんだね。感謝だね。」


「……そうね。」


千昌は優しく微笑み、そう答えた。

二人は少し足早に、目的地――高千穂の祠へと向かった。


千昌と未来は険しい渓谷を慎重に抜け、

しばらく進むと、祠が少し離れた所に見えてきた。


「お姉ちゃん、あれだね。やっと着いたぁ」


未来は少しはしゃぎ、無防備に駆け寄る。


「……もう、そんなに焦らな――っ!!」


渓谷の影から不意にモンスターが飛び出し、未来を襲う!


「未来!!」

(しまった! 油断した……間に合って!)


未来に襲いかかるモンスターへ、千昌が飛び込み、玄武の短剣で斬りかかる!


「くっ!」


なんとか短剣で攻撃を受け止めるが、

もつれ込み、渓谷の下に落ちて未来との距離が開く。


「おっ……お姉ちゃん!」


その時、別のモンスターが未来へと迫る。

千昌の胸に焦りが走る。


「くっ、どいて!」


短剣を振るうが、焦りで単調になった攻撃は当たらない。

その瞬間――


ドカッ!


(くっ……!)


腹部を蹴られ、千昌は後方へ飛ばされる。

モンスターは続けて追撃の構えを取る。


「お姉ちゃん!……えっ」


未来の背後にも、別のモンスターが忍び寄っていた。


「や……嫌……誰か……」


震えが止まらず、未来は動けない。


――もうダメだ。


二人がそう思った、その瞬間。


「未来から、離れろぉ!!」


怒号と共に、モンスターが一刀で斬り飛ばされた。


突然の出来事に呆然としながらも、その姿を見た瞬間、


……未来の目から涙が溢れ出る。


「お……おに……お兄ちゃん!」


そう――

未来を助けたのは、消えたはずの石守信二(せきもりしんじ)だった。


「未来! 無事か!」


信二が未来のもとへ駆け寄る。


「おっ、お兄ちゃん……あっ、今はそれより――」


そう言いかけた、その瞬間。

今度は千昌が、別のモンスターに襲いかかられる!


「――っ!」


それを見た信二は、反射的に叫んだ。


「助けろ!!隼人ぉぉ!!」


(ダメ……やられる……!)


千昌が覚悟した、その刹那――


「姉貴から、離れろぉ!!」


罵声と共に、並外れた速さで二条の斬撃が走る。

二刀の一閃が、千昌に迫っていたモンスターを斬り飛ばした!


千昌は、何が起きたのか理解できなかった。

だが、そこに立っていたのは――


後悔しても、悔やみきれず、

救えなかったはずの、一人の男。


「は……や……と……はやとぉ!!」


それは――

千昌の弟、御堂隼人(みどうはやと)

姉の危機を救った、奇跡の瞬間だった。


「姉貴、大丈夫か!」


隼人はそう言って、千昌の方へ振り返り、駆け寄ろうとした――その時。


「お兄ちゃん、後ろ!!」


未来が、悲鳴のように叫ぶ。


「――っ!」

(しまった! 間に合ったと思って、油断した!)


隼人は咄嗟に身をひねり、かろうじて攻撃を防ぐ。

すぐに体勢を立て直し、反撃に転じた。


「くっ……このぉ!」


一撃はモンスターを斬り飛ばす。

だが――その瞬間!


渓谷の上方から、二匹のモンスターが飛びかかり、

隼人の背中を強襲した!


「がっ!!」


無防備な状態で直撃を受け、

隼人は地面に叩きつけられる。

ダメージは大きく、身体が動かない。


信二が叫ぶ。


「隼人!」


(くそっ……ダメだ、遠すぎる……!)


モンスターは三匹。

反撃で倒しきれなかった一匹が残り、

意識が飛びかけて動けない隼人に、狙いを定めて迫る。


(えっ……嫌……ダメ!

それ以上攻撃されたら、隼人がまた死んじゃう!!)


その瞬間――

千昌の中で、何かが弾けた。


「えっ……何……?」


未来が千昌の方を見る。

そこには、光に包まれ、弓を構える千昌の姿があった。


千昌の思考は、止まっていた。

ただ一つ――

隼人を、もう二度と失いたくない。

それだけだった。


「……消えなさい!!」


叫びと同時に放たれた一矢が、朱雀の光となって迸る。

隼人に襲いかかろうとしていたモンスター三匹は、跡形もなく消し飛んだ。


「……おねえ……ちゃん?」


未来は、何が起きたのか理解できず、呆然と立ち尽くす。


隼人の命は――

朱雀の光によって、かろうじて繋ぎ止められた。


(……何……意識が……)


力を使い果たした千昌は、そのまま地に崩れ落ち――

静かに、意識を失った。


朱雀の弓が放った光に、その場は一時的に翻弄(ほんろう)されていた。

だが、信二はすぐに我に返り、状況を見極める。


「未来、話は後だ。二人を助けに――」


そう言いかけた、その時。

千昌のすぐ側、木陰に身を潜めていたモンスターが姿を現した。


千昌は、まだ気を失ったまま動かない。


「姉貴……、くそっ。」

隼人もまだ立ち上がれない……、


(くっ……距離がある。だが、俺が行くしかない!)

信二は千昌に向かって、全力で駆け出した。


モンスターが跳躍し、千昌に襲いかかる――!


「えっ、ウソ……嫌だ、嫌だ……お姉ちゃん!」


未来の声は震え、喉が裂けるほど叫ぶ。


「誰か……誰か、お姉ちゃんを守って!!」


信二の足は――間に合わない。


その瞬間――

未来は、祈った。


すると、玄武の短剣が淡い緑の光を放ち始める。


その光は共鳴するように千昌の短剣へと流れ込み、

緑の輝きとなって千昌の身体を包み込んだ。


「ぐがぁぁっ!」


千昌に攻撃を仕掛けたモンスターは、見えない壁に弾かれ、

宙を舞って吹き飛ばされる。


そこへ、信二が駆けつけ、飛び込んだ。


「――死ね。」


孤高の長剣が閃き、一閃。

モンスターは、真っ二つに断ち切られ、地に崩れ落ちた。


その場から、モンスターの気配は完全に消える。

――危機は、去った。


「お姉ちゃん……よかった……」


安堵の息を漏らした、その直後。


「……あれっ……何……?」


未来の全身を、力がすっと抜けていくような、奇妙な感覚が駆け抜けた。


未来は、ゆっくりと渓谷を下りていく。

足元は安定しているはずなのに、どこか身体が重い。


(……なんか、足が重い……気がする。でも……)


その違和感を振り払うように、未来は小走りで千昌の元へ向かう。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」


未来の声に、千昌は薄く目を開いた。


「……未来。無事で……よかった……」


かすれた声でそう言い、千昌は小さく息を吐く。


(……これが、朱雀の……)


一方、信二は隼人の元へ駆け寄っていた。


「隼人。ほら、大丈夫か? ……油断しやがって」


信二の手を借り、隼人はゆっくりと立ち上がる。


「悪い……ドジった。

姉貴を助けるつもりが、助けられるなんてな……」


苦笑混じりの声に、信二は肩をすくめる。


「まあ、過ぎたことはどうにもならん。

とりあえず、二人の所に行って状況を整理するぞ」


「……ああ。信二、ありがとう」


二人は歩調を合わせ、千昌と未来の元へと向かっていった。



【武器の危険性と秘密】


4人はようやく合流し、互いの無事を確かめ合った。


「姉貴! 身体、大丈夫なのか?」


「隼人……もう大丈夫よ。それより、あなたの方が重傷でしょ……。

でも、生きててよかった」


千昌は涙を浮かべながら、にっこりと笑った。


信二は未来に声をかける。


「未来も、怪我はないか? なんでこんな危険なところに……」


「お兄ちゃん……死んだと思ってたのに……。

生きてた……。生きてるなら、すぐに帰ってきてよ!!うわぁぁ……」


緊張の糸が切れ、未来は大泣きする。


信二は慌てて言った。


「わっ、わるかったって。これでも、めいっぱい急いで帰ってきたんだよ。なぁ、隼人」


隼人は少し表情を曇らせ、


「ああ……そうだな。……父さんのお陰で……だけど」

静かに答えた。


その後、信二が提案する。


「ここは危険だ。とりあえず、あそこの祠に入ろう。

あれは太陽の石に縁のある祠だと思う。

多分、中は安全だ」


未来はきょとんとして言う。


「たいようのいし? なにそれー?」


千昌が答えた。


「太陽の石は、この朱雀の弓に力を与えてくれるものよ。

お父さんの資料に書いてあった」


隼人は少し驚いたように言う。


「……父さんの? そっか。じゃあ、とりあえず祠に行こう」


4人は祠に向かって歩き出した……が、

その瞬間、未来がふらついた。


信二がすぐに声をかける。


「未来! 大丈夫か?

急にあんな戦闘になって、疲れたんだろ。

無理するな、ゆっくり行こう」


未来は強がって笑った。


「もう、お兄ちゃん。だいじょーぶだよ。でも、ありがとね」


(……未来?)


千昌は、胸の奥に小さな違和感を覚えた。


4人はゆっくりと祠へ向かい、その中へと入っていった。


祠の中は、一面が畳敷きの大部屋のようになっていた。

部屋の中央には祭壇がある。……が、その祭壇を覗き込んだ瞬間、


「えっ……祭られてる太陽の石……割れてる」


それを見た千昌は、血の気が引くのを感じた。


それに気づいた信二が、静かに口を開く。


「……やっぱりか。この石は、あの海岸から俺たちと一緒に転送されたんだ」


千昌は戸惑いながら聞いた。


「転送……って、どういうこと?」


隼人が一歩前に出て、口を開く。


「空間の割れ目に吸い込まれた後のこと……全部話すよ」


隼人は語り始めた。

沖縄へ飛ばされたこと。


そこで信二と合流したこと。

太陽の石を拾ったこと。


そして、その直後に父と再会し、

父の導きによってこの祠へ転送されたこと。


――そして、

父とは、もう二度と会えないという代償のことも。


(……代償)


その話を聞くにつれ、千昌の表情は少しずつ曇っていった。


信二は、割れた太陽の石が乗せられている祭壇を、隅々まで調べ始めた。


「あの時、真影おじさんは離れた位置から石を取った瞬間、

太陽の石だって断言した。でも、ここは縁の祠で、

元々ここに祭られていたはずだ。つまり……やっぱりな」


そう呟きながら、祭壇と台座のわずかな隙間に指を差し入れ、

紙のようなものを引き抜く。

それは一通の封筒だった。


「これは……俺が読むべきものじゃない」


信二はそう言って、そのまま封筒を千昌に差し出した。


「ありがとう」


千昌はそう答え、手紙を開いて読み始める。


『この手紙を読んでいる時には、既に太陽の石は割れているだろう。

太陽の石が無ければ、朱雀の代償を緩和できない。

だから決して朱雀の弓は使ってはいけない。』


(……使ってはいけない、か。でも……)


千昌は一度言葉を飲み込み、続きを追った。


(……まだ、続きがある)


『玄武の双剣、その起源の石の在処をここに記す。

起源の緑の石、千引の霊石は玄武の代償を緩和する。


だが玄武は、文献に記された二本の剣とは異なる。

しかし、使用する事で変化が起きる可能性もある。

だから、違うと断定はできない。


四神の武器が、世界を正す剣へと導いてくれることを切に願う』


(四神の武器……。

でも、お父さんですら文献の短剣は見つけられなかった。

一体、どこに……)


千昌は、複雑な表情を浮かべた。

(……玄武の短剣にも、やっぱり代償が存在するんだ。)


その様子を見て、隼人が尋ねる。


「姉貴、何が書いてあったんだ?」


千昌は、手にしている短剣をそっと見せながら言った。


「この短剣の……起源の石の在処が、書いてあった」


そう答えながら、

朱雀の弓と玄武の双剣の代償についての内容だけは、

伏せたままにした。


千昌は皆を集め、地図を広げて次の目的地を示す。


「玄武の縁の石――千引の霊石は、島根県のここ。

黄泉の霊堂にあるらしいの。お父さんの話では、

この玄武の剣の力を正しく使うには、この石が必要なんだって」


それを聞いて、隼人が問いかけた。


「探すのはいいけどさ、なんでそれが必要なんだ?

さっきの話だと、世界を正す“短剣”を探してるんだろ。

玄武の剣は違うみたいじゃないか」


隼人は相変わらず、こういうところが鋭い。


「……お父さんも、

文献にある短剣が何なのかまでは分かってなかった。

だから、関係がありそうなものを一つずつ探して、

手がかりを集めるしかないの」


千昌はそう答えた。

――玄武の縁の石に、別の目的があることは伏せたまま。


隼人は少し考えてから言う。


「まあ、そういうことなら仕方ないか。

俺たちも一緒に行くし、大丈夫だろ」


千昌は少し困ったように微笑んだ。


「やっぱり、一緒に来るのね……。

本当は、隼人に危険な旅はしてほしくないんだけど……」


それに、隼人は即座に言い返す。


「それは俺も同じだ!

だからこそ、姉貴がそんなところに行く必要があるのかって思ったんだよ!」


千昌は真っ直ぐに答えた。


「その剣を探すのは、私の責任。

それだけは、曲げられない」


隼人は真剣な表情で続ける。


「なら俺も同じだ。

ここで千昌を助けないと、父さんがしてくれたことが無駄になる。

何を言われても、付いていくからな!」


そこに、信二が口を挟んだ。


「お前らが行くなら、俺も付いていくぞ!

今さら水くさいこと言わせないからな!」


未来もすぐに割って入る。


「そーだよ! 私だって行くからね!

これだけは譲れないって、言ったもん!!」


千昌は、ついに観念したように息を吐いた。


「……みんな。もう、分かったわ。

好きにしなさい。……でも、無理だけは絶対にしないで」


隼人は少し呆れたように言う。


「はいはい。千昌もな」


未来がすかさず言った。


「お兄ちゃん、足引っ張っちゃダメだよ」


それを聞いて、信二が少し怒ったように返す。


「おいおい、今それ言うかぁ?」


そのやり取りに、皆の表情が自然と和らいだ。


そして千昌が口を開く。

「じゃあ、近くで宿を探して、一泊してから行きましょ」


少しの不安を胸に残しながらも、

次の目的地――黄泉の霊堂へ向かうため、彼らは宿へと歩き出した。



【戻せない現実――未来のために】


四人は高千穂の祠を出て、周囲を警戒しながら慎重に宿へ向かっていた。

――その途中。


未来の様子が、どこかおかしい。


「未来。少しキツそうだけど、大丈夫?」


声をかけられて、未来は強がって答える。


「だいじょーぶ。ちょっと疲れてるだけ。

宿まで頑張るよ。休んだら回復するし」


それでも、千昌は不安そうな表情を崩さない。


「キツかったら、すぐ言いなさい。

ペースを落とすか、休憩するから」


未来はさらに明るく振る舞う。


「ありがと、お姉ちゃん。

ほんとに大丈夫だから」


その言葉を聞いても、千昌は立ち止まった。


「隼人、少し休憩にしましょ。

未来、座りなさい。――これは命令よ」


チームの動きが止まる。


未来は不服そうに口を尖らせた。


「はーい……。もう、大丈夫って言ってるのに」


そう言いながら、未来は信二の方へ近寄った。


「……信二、ちょっといい?」


信二が少し驚いたように反応する。


「!? ……ああ」


千昌は信二を未来と少し離れた場所へ連れ出した。

そして、低い声で問いかける。


「信二、教えてほしいの。

あの戦闘の時……私が気を失っていた間に、

未来、何かしなかった?」


真剣な表情で尋ねる千昌に、信二は記憶を辿るように答えた。


「あの時は……

俺がモンスターから千昌を助けに入ろうとしたけど、間に合わなくて。

そしたら、急に緑色の光が千昌を包んで、モンスターが弾かれた」


少し間を置いて、信二は続ける。


「……あれ、未来がやったのか?」


千昌の顔から、血の気が引いた。


「……いや。未来がやった、ううん……やってない。

……ごめんなさい。正直、分からないの。

ただ……少し、気になって」


信二は真剣な表情のまま、はっきりと言った。


「もし未来が何かをしていたとしても、それは俺のせいだ。

俺が間に合わなかった。何か分かったら、必ず教えてくれ」


千昌は、静かにうなずいた。


「信二……ごめんなさい。

でも、ありがとう。何か分かったら、相談するわ」


信二は少しだけ微笑み、二人は休憩している皆の元へ戻った。


休憩の後、ほどなくして宿に着いた四人は、

簡単な食事を済ませ、早々に休んだ。


――夜が明け。


未来は目を覚ました。

だが、身体が不思議なほど重い。


(あれっ……私、どうしたんだろ。

自分の身体じゃないみたいに……重い……)


同じ部屋で目を覚ました千昌は、その様子を見て胸騒ぎを覚えた。


「未来、大丈夫?

……調子、悪いんじゃない?」


未来は無理に笑顔を作る。


「おはよ、お姉ちゃん。

大丈夫だよ、元気元気!」


その様子に、千昌は一瞬だけ考え込んでから言った。


「そう……。

じゃあ未来は、もう少し休んでいなさい。

私は食事の手配をしてくるから」


そう言って、部屋を出た。


――ロビー。


「隼人、信二、ちょっと話が……って、あれ?」


声をかけようとしたその時、見覚えのある二人の姿が目に入った。


「千晴! 速芽!

よかった……無事だったんだ!」


千昌は駆け寄る。


千晴が苦笑しながら答えた。


「ちょっと切り抜けるのに苦戦したけどな。

何とか速芽がうまく立ち回ってくれて、二人でここまで来られた」


隼人が小声で千昌に尋ねる。


「……知り合いか?」


千昌はうなずき、これまでの経緯を隼人と信二に簡単に説明した。


――その後。


千昌は、信二の方を見て深く息を吸った。


「信二……本当にごめんなさい。

未来は……多分、玄武の力を使ってる」


信二が息をのむ。


「……本人も分からないまま、

身体に異変が起きてるんだと思う」


千昌は歯を食いしばりながら続けた。


「……力を使った代償によって」


その言葉に、その場の空気が一気に重くなる。


千晴が声を荒らげた。


「千昌……代償って、なんだ?

未来に、何があった!」


千昌は、これまでの出来事を一つひとつ話した。

高千穂での戦闘、緑の光、そして未来の異変――。


そして、話し終えた後、千昌は頭を下げた。


「……これは、私の勝手なお願い。

千晴と速芽は、ここで私たちと別れて、

未来と一緒に家へ帰ってほしい」


千晴は一度考え、落ち着いた声で答える。


「それは構わない。

だが……千昌たちは、どうする?」


千昌は迷いなく答えた。


「……代償は、もう取り消せない。

だからこそ、千引の霊石を探しに行く」


全員の視線が集まる。


「霊石は、玄武の双剣の代償を緩和する媒体。

それがあれば、未来の代償を和らげられる可能性がある。

……必ず、手に入れてくる」


信二が真剣な顔で口を開いた。


「千昌。言いたいことは分かった。

でもこれは……あの時、間に合わなかった俺の責任だ。

おまえが一人で背負う必要はない」


隼人もすぐに続く。


「信二、それは俺が油断して、姉貴を守れなかったせいだ。

俺にも背負わせろ」


その二人を見て、千昌は首を振った。


「二人とも、何言ってるの。

これは私の……ううん、三人の問題よ」


少しだけ微笑んで、続ける。


「三人で未来を守りましょ。

そうじゃないと、誰も納得できない。……ね?」


信二と隼人は、複雑な表情のまま――


「わかったよ!」


と、同時に答えた。


千昌は千晴たちに向き直る。


「今から未来を連れてきて、話をする。

……その時、二人にも同席してほしい」


速芽が即座に言い返す。


「何、水くさいこと言ってんだい。

前にも言っただろ?

あたしたちはもう仲間だって」


千晴も静かにうなずいた。


「遠慮はいらない。任せろ」


二人の姿は心底頼もしく、千昌は胸の奥から感謝を覚えた。


――そして。

千昌は未来を呼びに、部屋へと向かった。


部屋に入ってすぐ、未来に声をかけた。


「未来、ちょっと来てくれる?

……会わせたい人がいるの」


未来はきょとんとした表情で言う。


「会わせたい人? ……いいよ」


そう言って、千昌と共に部屋を出た。


ロビーには、信二と隼人、そして――

見慣れた二人の姿があった。


「千晴お兄ちゃん! 速芽お姉ちゃん!」


未来は満面の笑みを浮かべ、駆け寄る。


「よかった……無事だったんだ。

ほんとに……」


心からの安堵と喜びが、その声に滲んでいた。


――そして。

千昌は静かに、本題を切り出す。


「未来。正直に言って。

……身体、よく分からない感じの異変が起きてるでしょ?」


未来の表情が曇る。


「そんなこと……ないもん」


千昌は、胸を締めつけられるような思いで続けた。


「未来、ごめんなさい。

その不調は……玄武の力を使った代償によるものなの。

だから……正直に教えて」


未来は少し血の気が引いたように、小さく問い返す。


「代償……って、なに?

どういうこと?」


千昌はゆっくり説明する。


「未来に、玄武の短剣の片割れを渡したでしょ。

あれを揃えて願うと、人知を超えた事象を起こせるの。

……何らかの代償と引き換えに」


(……あの時だ)


未来は、はっきりと思い出していた。

そして、静かに、でもはっきり答えた。


「そうなんだ。

それで……あの時、千昌お姉ちゃんが助かったんだね」


小さく笑って続ける。


「私、お姉ちゃんを助けられたんだ。

よかった」


千昌は、思わず声を荒げた。


「何言ってるのよ!

そのせいで、もう戻らない代償を受けてるのよ!」


未来は、にっこりと笑った。


「私、死んでないよ。

それでお姉ちゃんが助かったなら、それでいい」


千昌の目に、涙が浮かぶ。


「未来……ごめんなさい……」


未来は、すべてを察したように言った。


「……それで、私だけ家に戻したいんだよね。

いいよ。私、足手まといになりたくないから」


千昌が言おうとしていた言葉を、未来は先に口にしていた。


千昌は苦しそうに、それでも正直に答える。


「未来……私は、未来にずっと側にいてほしい。

……でも、未来は大切な妹だから……

ありがとう」


――妹――


その言葉を聞いた瞬間、未来の表情がやわらいだ。


「お姉ちゃん。

私を妹って言ってくれて、ありがとう」


そして、はっきりと言う。


「先に家に戻ってるね。

お姉ちゃんたちが無事に帰ってくるの、待ってる」


千昌は、震える声で答えた。


「未来……ありがとう。

必ず、未来のところに戻るから……」


そう言ってから、千晴と速芽の方を向く。


「千晴。私の大切な妹のこと、お願いします」


千昌は深く頭を下げた。

千晴は真剣な表情で応える。


「千昌。未来は必ず、無事に家に帰す。約束する」


速芽も力強く続けた。


「何があっても、あたしが守る。安心しな」


二人は、心から頼もしかった。

千昌は隼人と信二に向き直る。


「すぐ準備して、向かいましょう」


信二は未来に声をかける。


「千昌のことは俺に任せろ。

だから、安心して帰れ」


未来はきっぱり言い返した。


「お兄ちゃん。

絶対、お姉ちゃんを守るんだよ。

お姉ちゃんに何かあったら――

一生、口きかないからね!!」


信二は少し困ったように笑う。


「未来……俺には容赦ないよな。

……まあ、言われなくても分かってるよ」


こうして、これからの行動に全員が納得し、

それぞれが、それぞれの道へ向かう準備を始めた。


――宿を後にする、その時まで



【守るべき者のために】


5人はそれぞれ準備を終え、宿を後にした。


千昌は千晴に声をかける。


「千晴、九州を出る途中までは進む方向が同じだから、

千晴たちは少し距離を取って、後ろからついてきて」


それを聞いた千晴は、すぐに理解したようにうなずいた。


「なるほど。おまえたちが露払い役になるわけか。わかった」


千昌たち3人は先行して歩き出す。


その直後、信二が口を開いた。

「隼人、いいか。

安全を最優先で露払いをする。理由は……分かるな」


隼人は真剣な表情で答える。

「当然だよ。俺たちが万一ピンチになったら、

未来が玄武を使うことになるからだろ」


その言葉に、千昌も続ける。

「そう。今回は未来のために、危険な状況を作れない。

特に隼人、そこは気をつけてね!」


隼人は少し苦笑いを浮かべる。

「姉貴は痛いとこ突くよなぁ。

言われなくても分かってるって」


そんな会話を交わしながら進んでいると――

前方にモンスターが3匹、姿を現した。


信二が即座に状況を確認する。


「大丈夫だ。気配的にも、あの3匹以外はいない」


その言葉を受け、千昌が指示を出す。

「隼人は左、私は右をやる」


隼人が即座に動く。

「了解。姉貴、同時に行くよ!

その後、信二――真ん中のやつを頼む!」


信二は短く答えた。

「任せろ!」


3人の息は完璧だった。

それぞれが役割を理解し、迷いなく動き、

危なげなくモンスター3匹を討ち倒す。


誰一人、油断はしない。

無駄な力も、無茶な動きもない。


――すべては、

未来が禁忌を侵さずに済むようにするため。


「あの3人……すごいな。一分の隙もない」


未来は少し誇らしげに胸を張る。

「すごいでしょ。お姉ちゃんたちは強いんだから」


それを聞いた速芽は、目を見開いて正直に言った。

「いや、マジですげーよ。

あたしたちじゃ、あそこまでは無理だ」


その言葉を聞いた未来は、ほんの一瞬だけ表情を曇らせる。

そして、意を決したように二人を見る。


「千晴お兄ちゃん、速芽お姉ちゃん……

無事に家に帰れたら、私のお願い、

聞いてくれる?」


速芽は少し驚きつつも、すぐに柔らかく笑った。

「なんだい、改まって。

あたいらにできることなら、何でも言いな」


未来はその言葉に小さくうなずき、静かに願いを口にする。


「……お姉ちゃんたちと合流して、手伝ってあげてほしい。

私はもう……お姉ちゃんたちの力になれないから……」


千晴は、未来の頭にそっと手を置き、優しい表情で答えた。

「わかった。大丈夫だ。もう一度合流して、

あの3人が無事に帰れるまで、ちゃんと見届ける」


その言葉に、未来は安堵したように微笑む。

「ありがとう。約束だからね」


こうして千晴たちは、

危険のない道を選びながら、


別れの地――九州北部へと向かうのだった。



【運命の岐路――そして】


6人は九州の北、本州へと繋がるトンネルの前に到着していた。

その入口を、2匹の敵が塞ぐように立ちはだかっている。


それを見て、信二が口を開いた。


「これは……不意打ちは難しそうだな。

千昌、一つ聞くが――その弓、

使えないのか?」


千昌は一瞬言葉に詰まり、少し動揺した様子で答える。


「えっ……それは……。

この弓、かなり強力だから……使うと周囲への被害も大きいの。

簡単には使えないわ」


その言葉を聞いた信二は、静かにうなずいた。

「そうか……確かにそうだよな。

あれを使った時の威力、尋常じゃなかったからな」


千昌は困ったように、わずかに苦笑いを浮かべる。


(……使えない。簡単に使うわけには……)


(……姉貴?)


会話自体は自然な流れだった。

だが隼人は、その様子に微かな違和感を覚えていた。


そして――隼人が前に出る。


「信二。俺が先に切り込んで、あの2匹を撹乱する。

その隙に、二人で止めを刺してくれ」


その提案に、信二は短く答えた。


「それしかないか。

瞬間的な速さは、隼人が一番だからな。

ただし……絶対に無理はするな」


隼人は当然のようにうなずく。


「分かってるよ。

ここを越えたら、未来と別れる。

だからこそ、確実に切り抜けて――

俺たちは離れても大丈夫だって、示さないとな」


その言葉に、千昌も静かにうなずいた。

「そうね。隼人……お願い」


3人は互いに視線を交わし、同時にうなずく。


そして隼人が叫んだ。

「いくぞ!!」


次の瞬間、隼人は一気に飛び出した。

並外れたスピードで駆け抜け、

両手の短剣が、2匹のモンスターを同時に襲う。


予想外の速い攻撃にモンスターたちは怯み、体勢を崩した。


その一瞬を逃さず、

千昌と信二が左右分かれて飛び込み、

別々の敵を確実に制圧する。


――見事な連携。

すべては、一瞬の出来事だった。


戦闘後、信二が後方の千晴たちに合図を送る。

それを確認し、6人はそれぞれトンネルを抜けていった。


トンネルを抜けた所で、一度集まった。

ここから先は、千昌たちと千晴たちがそれぞれ別行動になる。


千昌は未来に歩み寄り、優しく声をかけた。


「未来。ここで一旦お別れだね。

いい? ちゃんと千晴と速芽の言うことを聞いて、

無理せず家に帰るんだよ」


未来は少し拗ねたように口を尖らせる。


「お姉ちゃん、分かってるよ。無理はしない。

……でも、必ず戻るって約束、

ぜーったい忘れちゃダメだからね!」


千昌は微笑み、真っ直ぐに未来を見る。


「分かってる。必ず帰るから」


未来は次に、信二と隼人の方へ視線を向ける。


「なに“我関(われかん)せず”って顔してるの。

お兄ちゃんたちもだからね!!」


突然矛先を向けられ、二人は慌てる。

信二が苦笑いしながら答えた。


「わっ……分かってるって。心配するな。

千昌は、俺たち二人で必ず守る。な?」


未来は呆れたように息をつきながらも、念を押す。


「ほんとだからね。必ず……だよ」


信二は優しい表情でうなずいた。

「ああ。だから安心して待っていろ。

……じゃあ、行くか」


そう言って、信二たち3人は黄泉(よみ)霊堂(れいどう)へ向けて歩き出した。


少し離れたところで、千昌が足を止め、振り返る。

「必ず……帰るから。

だから、何があっても諦めちゃダメだからね」


未来は涙を浮かべながら、声を震わせる。


「……分かってる。お姉ちゃんとの約束。

絶対守るから……だから、

必ず戻ってきて!!」


千昌たちは背を向け、目的地へと歩いていった。


未来は、かつて千昌に言われたあの言葉――


『生きなさい!!』


その一言を胸に刻みながら、

姿が見えなくなるまで、三人を見送り続けた。


それが――

未来が見た、


千昌と信二の、最後の姿だった。



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