第四章 背負う覚悟と歩み出す未来
【束の間の安らぎ】
未来を助け、避難所となっている家に戻った千昌。
千昌の部屋で、二人は布団に身を横たえた。
千昌は不思議な夢を見る――。
「ちあき……ちあき……」
(誰か私を呼んでる……だれ?)
「千昌。隼人は大丈夫。お父さんが導いてくれる。」
一瞬、声が遠ざかる
「だから……あなたは……」
(だれ?……お母さんなの? おかあさん!!)
千昌は母を呼ぶように目が覚めた。
(夢……でも……お父さんが、導いて……くれる? まさか……)
千昌は少し期待をしたが、すぐに現実に戻る。
(私が根拠の無い期待したら、ダメ。
隼人はもう居ない。しっかりしないと……)
そう気持ちを誤魔化すように、自分に言い聞かせた。
未来も千昌に救われ、ぐっすり眠っていた。
しかし、未来も失った瞬間の夢が浮かぶ――。
(おとーさん、おかーさん、嫌だ……行っちゃ嫌だ……)
未来の父と母は、何も言わず、とある方向を指差す。
(えっ、何? お兄ちゃん?)
その先には兄の信二がいた。
「……かならず……隼……帰……未来……」
(えっ……何、聞こえないよ、お兄ちゃ……)
「未来! 起きなさい!」
千昌の声で、未来は目を覚ました。
「あっ……千昌お姉ちゃん」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん、でも何かお兄ちゃんが何か言ってるような
……よく分からない夢を見た」
それを聞くと、千昌は胸がキュッと締まった。
「大丈夫。何かあったら私が守ってあげるから」
千昌はにっこり笑い、
「さぁ、ご飯を食べに行きましょ」
未来の前で、改めて気持ちを強く生きる決意をした。
千昌と未来は食事を取るため、リビングに移動した。
「おはよう。千昌、未来ちゃん。ゆっくり休めたかい?」
祖父の恒一は、二人を温かく迎える。
「おじいちゃん、おはよう。大丈夫。ありがとう」
千昌に続き未来もすかさず、
「おはようございます。よく眠れたよ」
それぞれ挨拶する。
「食事できてるから、ゆっくり食べなさい」
恒一はしっとりと話す。
「うん、いただきます」
前日までの出来事を無かったものにするように、自然に過ごしていた。
千昌は食事を終えると、恒一に聞いた。
「おじいちゃん。お母さんの部屋、入っていい?」
恒一は千昌の気持ちを察し、
「わしに聞く必要は無いよ。好きになさい」
「ありがとう。未来、先に部屋戻ってて」
「うん」
千昌は母、朱音の部屋に向かった。
心を強く持つため、辛さを和らげるため――
【朱音との思い出と日記】
部屋に入った瞬間、今でも懐かしい匂いがした。
いつ見ても変わらない母の部屋……
ここに来て目を瞑ると、母と過ごした日々が昨日の事のように蘇る……
…………。
『うぅ、全然当たらない。』
『千昌、弓はね、当てようと思っちゃダメ。
届けたいと思って射ってみなさい。』
『届けたい……か。よし!』
一呼吸おいて構え、矢を射る!
『あ……、当たったぁ。お母さん、当たったよ。』
朱音は喜ぶ千昌の頭を撫で、優しく微笑む。
『千昌。あなたは優しい子だから何でも一人で頑張ろうとするけど、
それだけではダメ!』
『あなたには大事に思ってくれてる人がいる。その事を忘れてはダメよ。』
朱音は千昌の小さな手を、そっと握った。
『これは、私との約束だからね。』
…………。
(おかあさん、私、頑張るから…、
少しだけ、おかあさんの強さを貸してください)
部屋で母を感じながらゆっくり見渡すと、
ふと一冊のノートが、
机の下の隙間に隠されている事に気付いた。
不思議と気になり、そっと手に取って中を見ると――
(これ……、おかあさんの日記だ)
そこには、御堂家での母が体験してきたこと、すべてが書かれていた。
その中でも書かれていたのは、朱雀の弓に関することだった。
『朱雀の弓は、家の仏壇の部屋の裏の扉から入れる地下室に保管されている。
御神体の暴走を一時的に抑制出来る唯一の武器。
千昌は時が来れば必ず見つけ、使うでしょう。
朱雀は誰かを助けたいと願えば、必ず答えてくれる。
己の寿命と引き換えに……
朱雀の力は、文献には鍛錬で使いこなせると書かれていたけど、
私では制御できる力じゃなかった。
千昌はすごく心の優しい、自慢の子。
たとえ誰かのためだったとしても、朱雀を使わないでほしい。
真影、千昌と隼人をお願い……』
『……それでも、この子はきっと、誰かのために手を伸ばしてしまう』
日記を読み終えると、
(助けたいと願えば、必ず助けてくれる弓……)
(使わないでほしい、か……)
「地下室……」
千昌は朱音の部屋を後にし、地下室へ向かった。
【崩壊の原因と真実】
(仏壇の裏……)
仏壇を引っ張ると、日記の通り、地下室への道が現れた。
千昌は静かに階段を降りていく――。
(うっ……空気が重い……)
ライトを照らしながら、ゆっくりと階段を下りる。
そこには祭壇のようなものがあり、その上に古びた箱が置かれていた。
(これの中に……)
箱を開けると、深紅の色をした弓が収められていた。
さらに箱の隅には、一冊の本が入っている。
(これが……日記にあった文献?)
本を開くと、所々が傷んでいて、詳細までは読み取れなかった。
しかし――。
(最後のは……伝承かな? これだけはっきり読める)
千昌は、そこだけ思わず声に出して読んでしまっていた。
「二つの大地が一つに成りし時、
世界の秩序は壊れる。
心を写し、二つに分かれし剣、
朱雀の力を借りて、由緒ある岩に戻りし時、
再び、二つの秩序を正す」
(朱雀は分かったけど……剣って何の事だろ?
……まだ続きがある)
「二つの剣戻りし時、
朱雀の光、二本の剣と共に戻る」
(分からない事ばかりだけど……
由緒ある岩? あの大きな岩かな?)
――その時。
(……何か、見られてる……?)
千昌は小さく息を呑み、弓から目を逸らした。
文献を箱に仕舞い、弓をそのままにして箱を閉める。
千昌は祭壇の裏扉を閉めた。
(あれ……空気が、軽い……)
さっきまで胸にのしかかっていた重さが、嘘のように消えていた。
千昌は改めて、地下室が“普通ではない場所”だったことを思い知る。
そのまま振り返ると、祖父の恒一がそこに立っていた。
「千昌……あれを……見たんじゃな?」
千昌は問いかける。
「おじいちゃん。地下室にある、あの弓は何?」
恒一は観念したように口を開く。
「隠しておれば、自然に禁忌に触れる行為をするじゃろう。
……全て話そう」
恒一は、ゆっくりと御堂家の秘密――
朱雀の秘密を語りだした。
「あの地下室で見た弓は、朱雀の弓というものじゃ。
あの弓は、滅びの運命を拒むための、唯一の手段として用いられてきた」
「滅びの運命って……?」
「五年周期で起こっている、御神体から発されるエネルギー暴走のことじゃ。
暴走したエネルギーは、御堂家の者が朱雀の力を使い、
同質量の力で相殺することで、代々安定させてきた」
千昌はさらに尋ねる。
「御神体って……なんなの?」
「境内の先にある岩のことじゃ。
ただ、それが何なのかまでは、わしにも分からん。
じゃが――」
恒一は一拍置き、続けた。
「はっきり言えるのは、今、世界で起きた天変地異は、
御神体の暴走が引き起こした結果だということじゃ」
千昌は、かすかに震えながら問いかけた。
「つまり……今回、朱雀で相殺しなかったから……
隼人や……未来の家族は……」
辛そうな表情で、恒一は答える。
「……そういうことになる。
この役目は……朱音が担っておったからのぅ」
千昌は、抑えていた感情をぶつけるように問い詰めた。
「なんで……なんで私に言ってくれなかったの?
私がおかあさんの代わりにやっていれば……
誰も……死ななかったのに……
……なんでよ!!」
恒一は涙を浮かべ、声を震わせながら答えた。
「そんなこと……わしには言えん……。
朱雀は、使用者の寿命と引き換えに力を与える弓じゃ。
千昌に……世界のために死んでくれ、などと……
言えるわけがないじゃろう……」
千昌は、はっと我に返り、呟いた。
「……ごめんなさい……」
謝罪の言葉だけを残し、千昌はその場を去った。
【旅立ちの決意】
千昌は、自然とある場所へ向かっていた。
朱雀の力で、代々抑えられてきた石――
「御神体」。
世界を壊し、未来の家族を奪い、
そして何より……隼人を奪った元凶。
それを、この目で見ないことには始まらない。
そう思ったからだ。
境内を抜け、街道との境付近に存在する御神体。
……恐れは、無かった。
長く伸びた草をかき分け、少し奥へ進むと、
御神体はその姿を現した。
「……なんだろう。
二か所の亀裂から、光が出てる……。
二か所……!?」
御神体は、力を失ったかのように、弱々しく見えた。
千昌の脳裏に、文献の一文がよぎる。
(もしかして……この亀裂に……!)
千昌は覚悟を決めた表情で御神体から離れ、
地下室へと向かった。
―――
千昌が地下室へ向かおうと仏壇の部屋に入ると、
そこには恒一の姿があった。
「……弓を、取るのかい?」
恒一は、静かに千昌へ問いかける。
「うん。でも安心して。
使うつもりはないから……」
その言葉を、あらかじめ分かっていたかのように、
恒一は一通の手紙と一本の短剣を差し出した。
「おまえの父、真影が
千昌にと残していったものじゃ。
持って行きなさい」
手渡された玄武の短剣と手紙。
手紙には、朱雀に関する手がかりが記されており……
その最後には、こう綴られていた。
(その短剣が、
千昌を守ってくれることを、切に願う)
「……おじいちゃん、ありがとう」
千昌は仏壇の裏にある扉を開き、
地下室へと向かった。
―――
千昌は地下室の祭壇に置かれた箱を開けた。
朱雀の弓は、不思議な気配を漂わせながら、
静かに箱の中に収まっていた。
千昌は、ゆっくりと手を伸ばし、
朱雀の弓を手に取る。
「これが……願いに応える……弓」
――何かが失われてしまいそうな、
そんな感覚が胸をよぎる。
「……この弓は、危険すぎる。
……でも……」
千昌は弓を袋に収め、背負った。
(これが……私の責任だから)
腰に差していた木刀を外し、
代わりに父から託された短剣を差す。
……そして木刀に向き直り、
「今まで、私と隼人を守ってくれてありがとう。
……ゆっくり休んで」
そう二本の木刀に語りかけ、
そっと朱雀の弓が収められていた箱の中へ戻した。
千昌は固い決意を胸に、地下室を後にした。
―――
千昌はそのまま簡単に身支度を整え、玄関を出た。
「お姉ちゃん!
どこ行くの?」
そこには、未来が立っていた。
「未来。
私、向かわなきゃいけない場所が出来たの。
だから留守番をお願い」
「嫌。
私も付いていく!!」
「わがまま言わないで!
この旅は危険なの!」
「……私は、お姉ちゃんの言うことなら何でも聞く。
……でも、これだけは譲れない!!
絶対に付いていく!!」
「……未来……。
……もう、しょうがないわね。
分かった。ちゃんと言うこと、聞くのよ?」
「うん!」
千昌は未来と共に、西へ向かって歩き出した。
その背中を、恒一は――
姿が見えなくなるまで、
ただ静かに見守っていた。
【旅路の戦い、新たなる地へ】
二人は西の方角へ、海岸線沿いを歩いていた。
「お姉ちゃん、そういえば聞いてなかったけど、
どこに向かってるの?」
未来の問いに、千昌は答える。
「お父さんが残してくれた手紙に、
不思議な力を持つ短剣の手掛かりが書いてあったの。
今はそこに向かってる」
未来は首をかしげる。
「短剣?それを見つけて、どうするの?」
「家の地下室にあった古い文献にね、書いてあったの。
その短剣があれば、壊れた世界を直せるかもしれないって」
未来は目を見開いた。
「えっ……こんな、むちゃくちゃなのに、直せるの?」
「あくまで可能性よ。かのう――っ!」
その瞬間だった。
犬のような姿をしたモンスターが、行く手を塞ぐ。
(……二、三匹。厄介ね。)
「お姉ちゃん……」
千昌は玄武の短剣を構え、静かに呼吸を整える。
「未来、私の後ろに」
「うん。わかった」
一瞬、沈黙が落ちる。
風が抜けた、その刹那――
二匹が同時に跳びかかった。
千昌は紙一重でかわし、続けざまに二度、斬撃を放つ。
一瞬だった。
二匹の首は落ち、そのまま絶命する。
それを見た残りの一匹は、怯えたように踵を返し、逃げ去っていった。
(……この剣、すごく使いやすい)
「お姉ちゃん、すごい! 無敵じゃん!」
千昌は、わずかに震える手を押さえながら言った。
「何、馬鹿なこと言ってるの。行くよ」
「はーい」
(未来に何事もなくてよかった……お父さん、ありがとう)
千昌は父の短剣に感謝を込め、二人はその場を後にした。
暫く西に向かって歩いていると――、
千昌と未来は、とある海岸線に辿り着いていた。
「お姉ちゃん、ここって……」
未来の声に、千昌は答える。
「未来も知ってるかもしれないけど、
ここは四国に繋ぐ橋があった場所よ」
未来は複雑そうな表情で海の先を見る。
「……一応、橋はあるね。あのへんな橋、渡るの?」
そこには、鉄筋とレンガが入り混じった橋が架かっていた。
千昌は小さく苦笑して、
「通りたくはないけど……通るしかないね。
覚悟決めて行こっか」
二人は橋のたもとから入り、慎重に足を進める。
「もう少しで渡れそうだね……えっ?」
対岸の出口に、モンスターの姿が現れた。
「……そう上手くはいかないか」
千昌は玄武の短剣を構え、一気に踏み込む。
鋭い一閃が走り、モンスターの首元を切り裂いた。
「未来! 今よ! 走って抜けなさい!」
「うん!」
未来は迷わず橋を駆け抜ける――
その背中を確認し、千昌もすぐに後を追った。
「……何とか渡れたわね。先を急ぐよ」
未来は少し申し訳なさそうに、小さく頷く。
「……うん」
二人は手紙に記された、伝承の地へ向かった。
【新たな運命の出会い】
橋を渡り切った先には、小さな町があった。
「未来、ここで一泊しましょ。情報も集めたいし」
「うん、いいよ。お姉ちゃん」
町に足を踏み入れると、近代風の建物とファンタジー風の建物が入り混じっていた。
統一感がなく、どこかちぐはぐな、不思議な光景だった。
宿らしき建物を見つけ、千昌は声をかける。
「すみません。二人、泊まれますか?」
「いいよ。素泊まりなら、タダでいい。こんな状況だし、お金なんて取れないさ」
「ありがとうございます。じゃあ、少しだけお世話になります」
そう礼を言うと、二人は荷物を置き、町を少し見て回ることにした。
散策をするように街中を歩いていると――
千昌は、前から感じていた違和感の正体に気づいた。
「ねえ未来。なんか、人少なくない? こんなに大きな町なのに……」
「そーかな? 普通がわかんないから、よくわかんない」
「人はともかく……四国に入ってから、
ファンタジーっぽい建物ばっかり目につくの、気のせい?」
「あっ、それはそうかもー。もしかしてさ、あの天変地異って、
ゲームの世界と繋がっちゃったとか?」
「いやいや、それはさすがにアニメの見過ぎよ……」
千昌はそう否定したが、
未来の予想があながち間違いでもないことに、
どこか引っかかりを覚えていた。
さらに先へと歩き、
町外れへと差しかかった、その時――
「……っ!」
『……や……っ!』
遠くから、何かがぶつかり合うような音と、戦闘らしき声が聞こえてくる。
「未来!」
「うん。私は大丈夫だから」
二人は顔を見合わせると、音のした方向へ向かって、
速く、しかし慎重に歩き出した。
千昌と未来は音が聞こえた近くまで移動し、木陰で隠れ様子を見る。
「お姉ちゃん、何かタヌキみたいなモンスターと戦ってる。
苦戦してる!」
その様子を見ながら、千昌は呟く。
「……刀とクロスボウかな? あれじゃ不利ね」
「あの弓。火を出してるよ。
刀からは電気? わぁ、ファンタジーだぁ」
「……もう、めずらしがってる場合じゃないでしょ!」
戦闘している知らない男女の二人を見て、千昌は他人のように感じなかった。
(……少しは隼人の動きを見習うかな)
「未来、私が飛び込むから、あの二人を下がるように誘導して!
……知らない人だけど……多分大丈夫」
「うん。お姉ちゃん、気をつけて」
二人は飛び出した!!
その時、モンスターが男女二人に襲い掛かる――
戦っていた男の子が、
「くっ、早い。攻撃が当たらない」
女の子は同調する。
「このままじゃ……どうする、兄貴」
千昌は叫ぶ。
「下がって!」
モンスターの動きを読み、
素早い動きで攻撃を当てる……が、
「……っ!浅い!」
同時に未来が、
「二人とも下がって。お姉ちゃんが何とかしてくれるから」
「君たち、一体……?」
「考えてる暇無いよ、下がって!」
「わっ、わかった。兄貴、任せよう」
未来と二人は距離を取る。
(こいつ、ちょこまかと……でも!)
左・右と跳び跳ねた後、モンスターが飛び込んで来る。
(よく見て……交わす!)
攻撃を紙一重で交わす。
(今!!)
千昌はカウンターで斬撃を当てる!
モンスターが宙に舞う……
「今よ!」
「行け!!」
それを見逃さず、男の子が炎の矢をぶつける!!
モンスターは沈黙した。
「やったー、さすが千昌お姉ちゃん」
とりあえずの危機は去り、緊張の胸を撫で下ろした。
モンスターを倒した千昌は、先ほどの二人の元へ駆け寄った。
「大丈夫だった?」
男の子が答える。
「あぁ、大丈夫だ。問題ない。ありがとう」
「……あんた、強いねぇ。何者だい?」
女の子の言葉に、未来が胸を張る。
「すごいでしょ。千昌お姉ちゃん、無敵なんだもん」
千昌は少し呆れたように、ため息をつく。
「未来……もう。
私は御堂千昌。あなたたちは?」
男の子が名乗った。
「僕は裏辻 千晴。こっちは妹の速芽だ」
「改めて、助けてくれてありがとう」
――この時、二人はまだ知らなかった。
これから先、千昌たちと深く関わることになるという事を。
【頼もしき仲間、遺跡へ――】
千昌は二人に尋ねた。
「どうして、ここで戦っていたの?」
「まあ、戦闘自体はたまたまモンスターに出くわしただけだけど……」
千晴の言葉を継ぐように、速芽が答える。
「こないだの天変地異でさ、家がどっか行っちゃってぇ。
だから探して歩き回ってたんだ」
千昌は複雑な表情になる。
(御神体のせいだ。でも……家が、無くなるなんて……)
未来が無邪気に提案する。
「お兄ちゃんたち、じゃあ、みらいたちと一緒に行こうよ。
行くとこ無いんでしょ?」
千昌は慌てて制する。
「こ、こら未来! もう……。ごめんなさい。
事情も知らないのに、未来が勝手なことを言って」
速芽が肩をすくめる。
「いや、別にいいぜ。一緒に行っても。
助けてもらった恩もあるし……なあ、兄貴」
千晴も頷いた。
「ああ。家が消えた以上、手掛かりも無いしな。今は行く宛も無い」
千昌は少し驚いたように目を見開き、
「本当にいいんですか……?
二人きりだと心細かったので、助かります」
未来が調子に乗って笑う。
「やったあ。よろしくー」
「未来……もう。改めて、よろしくお願いします」
こうして、千晴と速芽は千昌たちと同行することになった。
二人との出会いの後――
千昌たちは宿に戻った。
「同じ宿だったんですね。よかった」
千昌の言葉に、速芽が答える。
「この辺じゃ、ここしか泊まれるとこ無かったんよ」
千晴が改めて問いかける。
「それで、聞いておきたいんだが……どこへ向かうつもりなんだ?」
千昌は正直に答えた。
「私のお父さんが調べてくれていた遺跡を巡っているんです。
今は、この先にある剣山塔へ向かおうと思っていて」
千晴は少し安心したように、穏やかな表情で頷く。
「そうか。じゃあ、明日はそこへ出発だな」
速芽が軽く手を振る。
「オッケー。じゃあ、また明日ねぇ」
「うん。お兄ちゃんたち、よろしくね」
二人の存在が、思った以上に頼もしく感じられた。
そのおかげで、千昌と未来は少しだけ気持ちを軽くし、
久しぶりに落ち着いて休むことができた。
――そして翌朝
朝起きて身支度を済ませると、四人は目的地である剣山塔へ向かった。
その道中、未来は前から気になっていたことを、躊躇いなく口にする。
「ねえお兄ちゃんたち、こないだ武器から炎とか雷とか出てたよね。
あれって、魔法?」
(ちょっ、ちょっと未来!そこど直球に聞く!?)
千昌の内心の心配をよそに、千晴はあっさり答えた。
「ああ、あれは魔法だ。珍しいか?
……まあ、確かに使える奴は限られてるけどな」
速芽も続ける。
「あたしらも魔法具がなきゃ使えないぜ。
魔法は体力使って発動させるから結構疲れるし。
別に良いもんでもないよ」
「えー、そうなんだ。でも魔法かぁ……いいなぁ。
私も使ってみたい」
千昌は慌てて止める。
「未来!……もう、ごめんなさい」
「いや、全然気にしてない。大丈夫だ」
マズいことを聞いてしまったと思った千昌だったが……
そんな心配を他所に、
千晴たちはそれを当たり前のことのように受け止めていた。
4人は目的地に向かい、歩き出す――
山岳地帯を登り、しばらく進むと剣山塔が見えてきた。
(……あれが、父さんの手紙に書いてあった剣山塔)
千晴は千昌に尋ねる。
「なあ、あそこには何があるんだ?」
千昌は答えた。
「実は、私も厳密には分からないの。
ただ、あそこには今の世界を直す短剣の手掛かりが、
あるかもしれないって……」
驚いたように千晴は言う。
「この崩壊した世界を直す?
そんな現象、どんな魔法具でも到底考えられない力だぞ。
そんなものが……」
千昌は言葉を補足する。
「うん。あくまでも伝承であって、
可能性があるってだけなんだけどね」
――その時、モンスターが近づいてきた。
速芽がそれを見て声を上げる。
「兄貴、今回はこの前の礼もあるし、あいつらは二人でやろうぜ!」
千晴はすぐに応じた。
「そうだな。千昌たちは先に剣山塔へ行ってくれ。
あの程度なら、すぐ片付けて追いつく」
千昌は一瞬考え、うなずく。
「……わかったわ。でも、無理はしないでね」
そう言って、千昌は未来と一足先に剣山塔へ向かった。
【双剣の秘密】
千昌と未来は、剣山塔の前に立っていた。
「これが、剣山塔………っ。何!?」
千昌の手にした短剣が、何かに反応したように微かに光を放つ。
未来が不思議そうに覗き込む。
「お姉ちゃん、なにこれ?
この塔……お姉ちゃんの背中の袋、ちょっと光ってるよ?」
「……えっ。まさか……」
千昌は、朱雀を納めた袋を見る。
短剣ほどではないが、
確かに――ごくわずかに光っているように見えた。
(この塔の“何か”に反応してる……。ここ、危険だ!)
千昌は一瞬、思案し――決意する。
「みらい。この塔、嫌な感じがする。……私ひとりで行く」
思わず否定しようとした未来に、千昌は父の短剣を差し出した。
「この塔には、父の短剣を持って行けない。
……大切なものだから。未来、これを持って、ここで待っててほしい」
わずかに光る短剣を見つめ、未来は小さくうなずく。
「……うん。わかった。でも、絶対に無理しないでね」
千昌は軽く微笑んだ。
「ありがとう、未来。……行ってくる」
そう言って、千昌はひとり、剣山塔の中へと足を踏み入れた。
千昌は静かに塔の中へ入り、背後で静かに扉を閉めた。
(……っ。空気が……重い。
……家の地下室に、似てる……。でも、行かなくちゃ)
塔の中央には、箱のようなものが置かれていた。
まるで導かれるようにそれをどけると、地下へと続く階段が現れる。
朱雀の弓の反応も、わずかに強まった。
(塔なのに……地下。
……この先、さらに……)
重い足を動かし、千昌は階段を下りていく。
――そこには。
(……なに、これ。
祭壇……それに、箱?
家の地下と同じ……ってことは、この箱の中に……)
千昌は、息を詰めるようにして箱を開けた。
(……えっ!)
その瞬間、朱雀の反応が、すっと消えた。
中にあったのは――父の短剣と、まったく同じ形をした短剣。
千昌は、そっとそれを手に取る。
「……これに、反応してたんだ。……ん? 手紙……?」
箱の中に残されていた書き置きを読む。
『この玄武の短剣は、二つで一つの双剣。
だが、伝承の短剣ではない。
しかし、揃うと危険な物。
できれば、使われない事を切に願う。』
「……父さんの字だ。
……だから、ここに着いた時……」
改めて箱の中を見ると、さらに一冊の本が入っていた。
(朱雀の時と……同じ……)
本を開くと、不穏な感覚が全身を過る。
所々文字が擦れてまともに読めず、
拾えるのは断片だけだった。
――玄武の対……剣……
――互いを思う……守る……
――永遠……失う……
(……失う!なにを……?)
さらに視線を走らせる。
――四神……武器……
――引かれ……集う……
(集う……。
朱雀も、ここに来た時反応してた。
伝承の剣はここに無い……けど、この剣は……必要なんだ)
――危険な剣。
それでも……。
千昌は箱の中の短剣を取り、腰に納めた。
得たものの意味を理解出来ぬまま、
静かに、地下を後にした。
【優しき心、新たなる旅時へ】
千昌は、地下へ続いていた階段を塞ぐように箱を元の位置へ戻し、
塔の外へ出た。
――その瞬間。
玄武の短剣が、互いに引き合うように反応した。
「……ん?」
「……あっ、お姉ちゃん!」
未来が気づき、駆け寄ってくる。
その途端、玄武の双剣の反応は、すっと消えた。
千昌は、どこか複雑な表情を浮かべる。
「……剣、光らなくなったね。お姉ちゃん、これ……」
未来が預かっていた短剣を差し出そうとした、その時。
「ごめん。未来。
それ……未来が持っててほしい」
未来は、少し驚いた表情で千昌を見つめる。
そして視線を落とすと、千昌の腰に
――見慣れない短剣が差されているのが目に入った。
「……うん、いいよ。預かっとく。
でも、必要になったら、すぐ言ってね」
未来は何も聞かなかった。
理由も、事情も問わず、千昌の願いをそのまま受け入れた。
その姿に、千昌の胸が、きゅっと締めつけられる。
(……ごめんなさい、未来。
……ありがとう)
――その時。
モンスターを相手にしていた千晴たちが、こちらへ駆けつけてきた。
「千晴、速芽、ありがとう。何事もなくて良かった」
駆けつけた二人にお礼を言う。
「あれぐらい問題無い」
「あたしら、これでも結構強いんだぜ」
それを聞き、千昌は優しく微笑む。
しかし、その様子を見て千晴が違和感を覚える。
「千昌、……いや、……俺たちはもうおまえたちの味方だ。
手が必要な時は、遠慮せず行ってくれ」
「そうだよ。出会って間もないけど、
あたしら、ホントに感謝してるんだから」
千昌の心が、その優しさにきゅっと締まる。
「ありがとう、頼りにさせてもらうね」
未来は無邪気に笑いながら、
「さぁ、次の目的地に出発だよ。……行く場所しらないけど」
その姿に、思わず笑いが生まれる。
「もう、未来ったら。
次はね、九州の遺跡に短剣の手掛かりがありそうだから、向かうわよ」
四人は、九州の地に向かうのだった。
その選択が、どのような運命になるのかも知らずに――




