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ASTRAY 歩き、未来に残すもの  作者: kc


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第三章 最果ての地の出会い。ーーそしてーー

【見知らぬ地での出会い】


隼人は、暗い闇に――

深く、深く沈んでいった。

意識は途切れ、遠くで微かに、波の音だけが残る。


「……えっ……ここは?」


ゆっくりと瞼を開く。

そこには、見慣れない景色が広がっていた。

見覚えのある植物と、見たことのない植物。

それらが違和感なく混在し、境目がわからない。


(……生きてる…のか?)


状況が理解できないまま、隼人は立ち尽くす。

そのとき、風に乗って、低い音が届いた。

――ざあ……ざあ……


「……波の音……?」


鼻をくすぐる、潮の匂い。


「……海……?」

導かれるように歩き出すと、視界が開けた。

砂浜の向こうに、大きく、果ての見えない海が広がっている。


「……」


言葉が、出なかった。


「……姉貴……」


胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。


「……すぐには……帰れない、か

 ……まずは、生き延びないとな」


理由は分からない。

けれど、その言葉は自然と口をついて出た。


隼人は、そっとため息をつき、

砂浜沿いの岩場を歩き出した。


「……姉貴なら、まず落ち着けって言う……よな。」


(……冷静に……冷静によく見るんだ……!)


自分に言い聞かせるように呟きながら、あたりを見渡す。


ふと、砂浜の真ん中に光るものが見えた。

そっと近づくと、そこにあったのは二本の短い短剣だった。


同じ意匠、同じ大きさ。


まるで一対であることを前提に作られたような、短剣。


(……なんで……こんな所に?)


どこから落ちてきたのかは、わからない。

だが、不思議とその短剣に引かれた。


「……おまえも、僕と同じで……落ちたのか?」


短剣を見つめ、そう呟く。

一瞬の沈黙のあと、微笑み、そっと息を吐いた。


「……一緒に行くか」

そう呟き、二本の短剣に手を伸ばした。


(これ以上は何も無さそうだな……内陸部を目指すか)

隼人は海とは、反対の木々の多い方に歩き出した。


少し進んだ、その時……。


「オイオイ!なんでこんなやつが居るんだ!」

 どこからか叫び声が響く……。


声のする方向を見ると、

見たこともない生き物に襲われている、

隼人とそう背丈の変わらない男の後ろ姿が見えた。


(人……?それに……、モンスター?……なんで?)


ふと不思議と拾った短剣が、少し光ったように見えた。

そっと1本ずつ両手に取り、短剣に語り掛ける……。


「……一緒に、アイツを助けようか?」

 そう呟き、襲っているモンスターを見据えた。


「行くぞ!」


掛け声と共に、一気に駆け出す。

浜辺で出会った短剣を迷い無く振り上げ、

二本をクロスさせて切り込んだ。


「ブォォ!」


鋭い一撃に、モンスターは大きな鳴き声と共に、

その場から逃げ去っていった。


モンスターが、居なくなった様子を見て、

そっと振り返り男の方を見る……


「あんた、大丈夫か? ……って」


「……えっ、まさか……、信二?」


そこにいたのは、親友、

石守(せきもり) 信二(しんじ)の姿だった。


「お……おまえ、隼人なのか? なんでこんな所に……」

 互いに驚きを隠せず、一瞬、言葉を失う……。


だが隼人は、なんとなく理解した。


「……信二も、あれに落ちたのか」


そう言って、少しだけため息をつく。


「でも、落ちて最初に会ったのが、おまえとはな……」


その姿に、隼人の胸にあった緊張が、

ほんの少しだけ溶けていった。


不思議な地で再会を果たした隼人と信二。


思いがけない知り合いとの出会いに、

胸の奥にあった不安が、

少しだけ和らいでいた。


ふと、信二が生えてる草に駆け寄る。


「にしてもここ、変なとこだよなぁ。

 この草なんか、

 沖縄とかに生えてるニガナってやつなんだけどよ、


……こっちの草は、なんだ?

アニメとかでしか見たことねぇような、

変な植物だぞ。意味わかんねぇ」


信二は元々アウトドアが趣味で、植物にも多少詳しい。

その観察眼に、隼人は密かに頼もしさを感じていた。


「とりあえず、人が居そうな所を探そう。

 このままじゃ、じり貧だ」


隼人の言葉に、信二はうなずきかけ――ふと足を止めた。


「……おっ。こんな所に変わった槍が落ちてるぞ。

 またあの変な生き物が出てきたら、素手じゃやられるだけだしな。

 持っていくか」


「えっ、信二。それ持っていくのか?

 ……まあいっか。」


信二は槍を手に取ると、探検ごっこでもしているかのように、

周囲を観察しながら歩き出す。


その背中を見て、隼人は思う。

――1人じゃない。


それだけで、今は十分だった。



【再戦、その後――】


二人は先に向かうとした。……静かに風が流れ、緊張が走る


「信二!」


「わかってる!」


二人の間に、さらに緩やかな風が流れる――。

呼吸を整え、気配のする方向を慎重に観察する。


……次の瞬間。

豚が立ち上がったような異形の生き物が、

唸り声を上げて飛び出してきた。


「来るぞっ!」


隼人の声と共に、信二は槍を正面に構える。


「さっきまでの俺とは……違うんだよぉ!」


迫る突進に合わせて踏み込む。

鋭く突き出された槍が、モンスターの勢いを殺し、身体を貫いた。


「ブォォッ!!」


妙な悲鳴が森に響く。


「よし!任せろ!」


隼人は一歩で距離を詰め、短剣を交差させる。

迷いのない一閃が、喉元を正確に切り裂いた。


息の合った連携は一瞬だった。

モンスターは傷口から血を流し、

崩れ落ちて動かなくなる。


「やったな、隼人!」

「……あぁ。」


二人は、確かに初めての戦いに勝利した。


だが、

胸の奥に湧き上がるはずの高揚感は、

どこにもなかった。


隼人は血の付いた短剣を見て、静かに口を開く、


「……殺したん……だよな。」


ぽつりと零れた隼人の言葉に、信二はすぐには答えなかった。

少しだけ視線を落とし、やがて静かに口を開く。


「……ああ。

 でもな、隼人。俺たちが生きていくためには、

 仕方なかったんだ。」


その言葉には、

命を奪うことの重さを知っている者の迷いと覚悟が滲んでいた。


「……そうだよな。」


隼人は短く息を吐く。


「……先を急ごう。」


二人は、それ以上何も言わず、

先に向かおうと足を進めた。


何を思ったか、信二は急に足を止めた。

そして……倒したモンスターの方を見る。


「待て、隼人!」


信二は隼人を呼び止めた。


「日も陰ってきたし、そろそろ何か口にしないと体が持たなくなる。

 ……さっきのモンスター、下処理して食べよう」


「えっ、食べるの!?」


隼人はオイオイと言わんばかりの顔で、引きつった。


「見た感じ、立てる豚だし……大丈夫だよ。……多分……。

 隼人、短剣2本貸して」


信二は、まるで普段から動物を捌いているかのように、

手際よく、そして丁寧にモンスターを裁いていく。


「隼人。枯れ木と乾いた枯草を集めてきてくれるか?」


隼人は感心した表情で手を上げ、答える。


「了解。集めてくるよ。」


乾いた枯れ木と枯草を、出来る限り集めてきた。


信二は短剣2本をこすり合わせ、火花で火を起こす――。

太い棒に肉を刺して焼く――その一連の動作に迷いはなかった。


「……これ、結構いけるな」

 隼人はそう言いながら、信二が一緒に居てくれたことに、心から感謝していた。


二人は焚き火に近すぎず、遠すぎない場所に腰を下ろした。


周囲は開けすぎていないが、背後を守れる岩がある。

信二はそういう場所を、迷いなく選んだ。


「火はこれくらいでいいな。

 目立ちすぎると、さっきの奴みたいなのが寄ってくるかもしれん。」


「……ほんと、慣れてるよな。」


隼人の言葉に、信二は肩をすくめる。


「キャンプ好きなだけだって。

 まさか、こんな形で役立つとは思わなかったけどな。」


短剣を膝に置き、隼人は火を見つめる。

刃に映る炎が、わずかに揺れている。


「……なあ、信二。」


「ん?」


「ここ、本当に日本だと思うか?」


信二はすぐには答えなかった。

焚き火に小枝を足し、火の様子を見てから、空を見上げる。


「……星、見たことない並びだな。

 少なくとも、俺の知ってる夜空じゃない。」


その言葉に、隼人は何も返せなかった。

胸の奥で、言葉にしたくない感覚が静かに形を持ち始める。


「……それでも、絶対に帰る。」


信二は強い決意の後、あえて軽い声を出した。


「まあ、絶望する必要はないだろ。

 生きてる。武器もある。二人だ。」


信二の言葉が、妙に重く、そして温かかった。


「……ああ。俺もだ。……必ず帰る!」


隼人は短剣を少し強く握り、

持っていたハンカチで丁寧に血を拭う。


……不思議と、刃は冷たさを失っていなかった。


「交代で見張りな。先に俺が先やる。」


「何言ってんだ。俺がやるよ。信二が休めって。」


「ダメだ。主戦力が寝不足になると詰む。隼人が先に休め。」


信二は即答だった。


「……わかったよ。」


隼人は素直に従い、横になる。

それでもすぐには眠れなかった。


(姉貴……必ず……)


決意を胸に、静かに目を閉じた――



【信二の思い、現実との接点】


信二は焚き火を見つめたまま、

あの時を思い出していた。


(……親父……お袋……。

あの時、何で事故なんか起きたんだ。)


戻る事の無い状況を思い出し、焚火をつつく棒に力が入る。


(……未来、なんとか亀裂から離したけど、無事でいてくれ。)


信二は祈るように上を向き、改めて夜空を目にした。


「……星の並びが違う、か。」


確かに、その時点で日本――いや、

少なくとも自分の理解の範疇を越えた場所に居る可能性が高い。


考えたくはなかったが、信二は冷静に分析する。


「でも……違う点が多いけど、沖縄の植物は確かにあった。

 日本であると言えるものが確実に存在する……」


小さく息を吐き、笑みを浮かべる。


「あきらめるには、まだ早い。」


(どんな手を使っても、必ず隼人と二人で帰るんだ。

……未来……)


焚き火の音だけが、夜に溶けていく。


……ほどなく時間が過ぎ、見張り交代後、横になった。


(太陽の位置関係で方角を割り出す。明日は、慎重に動こう。)


そう心に決め、信二はゆっくり目を閉じた……。



【隼人の思い出、母の願い】


(……千昌の事を……お願い。隼……)

「……隼人。そろそろ起きてくれ。交代だ。」


「……ああ信二、ごめん。交代だね」

 隼人はゆっくり起き上がり、信二と交代で焚火の前に座る。


(起きる直前に見た夢、あの時のかあさんだ。)


隼人は焚き火を見て、少ない母との記憶を思い浮かべた。

5年前、模擬戦後に軒下で座って話した時の思い出を……。


―――。


『いてて。また負けた。千昌は強すぎなんだよ!』


『隼人、あなたは千昌と一緒で優しいから、

 本気で打ち込めないんでしょ。』


『えっ、そ…そんなこと無いって。千昌は普通に強いよ。』


朱音は優しく微笑み、ゆっくり話す。


『千昌はね、確かに強い子だけど、

 辛い事も我慢してしまう子なの。


だから…ね、

隼人、お母さんのお願い、聞いてくれる?』


『なんだよ、改まって。母さんの頼みなら何でも聞くよ。

 ……出来る事ならね。』


『優しい隼人にしか出来ない事よ。

 ……千昌がもし、辛いのに我慢してる事があったら、

 ……助けてあげて。お願い。』


―――。


母、朱音の事を思い出し、気持ちを強くする。


(…母さんはこうなる事、分かってたのかな?

 ……そんなわけ、ないか。)


そっと、空を見上げ、呟く。


「絶対、姉貴の元に帰るから。母さん、見ていて。」


夜空に向かい、母へ語りかけた。


程なく時間が過ぎ――翌朝。


「隼人、おはよう。」


焚き火の跡を片付けながら、信二が続ける。


「……昨日考えたんだけどさ、太陽の位置で大体の方角は分かるよな。

 それに、沖縄の植物が生えてたって事は、陸地は北に伸びてる可能性が高い。

 まずは、そっちに向かってみよう。」


隼人は少し驚いたような表情を見せてから、苦笑する。


「信二……おまえ、本当に頭回るよな。

 考える事はおまえに任せるよ。」


そして、少し照れたように言った。


「……頼りにしてるぜ、相棒。」


信二の示した方角――北へ。


二人は歩き出した。



【過ぎた力】


道中、隼人は手にした短剣に違和感を覚えていた。


(……これ、やけに馴染むな。)


握り直すと、

刃の重さも、

間合いも、


まるで最初から自分のものだったかのように自然だった。


(昨日と……何か違う?)


短剣を見つめると、

現実と夢の境目が曖昧になるような、

妙な感覚に包まれる。


――目覚めてから、何かが少しずつ“変わり始めている”。

隼人は、まだその正体を知らなかった。


隼人の違和感は他所に、

信二と隼人は、北へ向かって移動を続けていた。


隼人はモンスターの気配に、信二は地形や自然の痕跡に、

それぞれ注意を払いながら進む。


その時――

前方に、誰かが争ってる声が聞こえた。


「隼人!」

「ああ!」


阿吽の呼吸で足を止め、慎重に近づく。


見えたのは――


モンスターに囲まれ、

必死に抵抗している一人の女の子だった。


「ちっ、マズいな……って、おい!隼人!」


信二の制止より早く、隼人は動いていた。


「……姉貴!」


あり得ない速さで駆け出し、モンスターの懐へ飛び込む。


一瞬だった。


千昌の姿と、目の前の少女が重なる。


助けたいという思いが、そのまま動きになり――

短剣が正確に、首元と急所を貫いた。


三匹のモンスターは、抵抗する間もなく倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……」


隼人は、自分の手を見つめる。


「……あれ?

俺が……倒したのか?」


思いが、そのまま結果になった。

初めての感覚だった。


信二は駆け寄る。


――本来なら、無謀だと叱るべき場面だった。


だが、言葉が出なかった。


目の前の隼人から感じたのは、

頼もしさではなく――危うさ。


(……これは、ただの成長じゃない)


信二は、説明のつかない不安を胸に抱いたまま、

隼人を見つめていた。


隼人は、倒れ込んでいる女の子に近づいた。


「……大丈夫?」


そう声をかけ、手を差し伸べる。


――その瞬間。


女の子の肩が、ビクッと跳ねた。

そして、反射的に一歩、下がる。


「えっ……」


隼人は思わず言葉を失う。

伸ばしたままの手が、微かに震えていた。


(……怖がられた?)


その空気に気づいたのか、女の子はハッと我に返り、

慌てて頭を下げた。


「……た、助けてくれて……ありがとうございます」


形式じみたその言葉が、

かえって距離を突きつけるように感じられた。


その時――

信二は、ふと視線を上げる。

遠くの茂みの奥。


別のモンスターが、こちらの様子を窺っていた。


「隼人……」


警戒を促そうとして、信二は言葉を止める。


(……今、声をかけるべきじゃない)


隼人はまだ、

“自分がどう見られているか”を、理解しきれていない。


信二は槍を強く握り、

無言で周囲を警戒することを選んだ。


隼人は、女の子のこの様子を見て、

何も言わずその場から離れた。


その様子に信二は、何も言えず、

そのままついていく。


「行こう、北へ」


二人は、静かにその場を離れた。



【二人の絆――懐かしき出会い】


二人は方角を定め、北に歩き続けた。

すると最初に居た場所とは違う海辺が、うっすら見えてきた。


「信二、あれって海だよな?」


「ああ……、海だな。まいったな、これは……」


二人の希望とは裏腹に、対岸の海に出たのだ。


(このまま二人で彷徨ったら状況的に詰んでしまう

 ……どうする?)


信二は悩み、次どうするかを考える。


「なぁ、信二」


そんな信二に隼人は話す。


「俺はこういう時、役に立たないけどさ、

 出来る事があったらさ、遠慮せず何でも言ってくれ。」


信二は少し驚いた表情の後、優しい笑みを浮かべ答える。


「なんだよ、改まって……。分かってるよ。

 俺だっておまえが居なければ今頃……いや、何でもない。」


信二は何かを言いかけて……


「必ず……二人一緒に帰ろうな。」


二人は静かに歩き出した。


新たにたどり着いた海岸沿いに立ち、海を見る。


「なあ、隼人。やっぱここ沖縄なんじゃないかな?

 地形とか変わってるけど……海が近くて生えてる植物とか考えると……」


「つまり……日本って事?」


「ああ……まあ希望的観測も入っちゃってるけどな。」


「ただ……それにしては妙なんだよ。

 いくらあの天変地異が凄かったとはいえ、

 近代物がまともな状態で一つも残ってない……」


隼人は感心してしまう。

「おまえ、ホンと凄いよな。

 何でそんな的確に変化を分析出来るんだよ。」


「俺はお前とは別の形で必死になってるだけさ。

 戻りたい気持ちは、お前と同じだ……」


それを聞いて隼人は、

心から信二が居てくれてよかったと改めて感じた。


海岸線を見渡すと、右手の少し遠くに気になる石のような物が見える。


「信二!あそこ……」


「ああ、行ってみよう。」


隼人が先に行き、

信二は周囲を観察しながら後に続く。


言葉が無くとも、

いつの間にかそれが普通になっていた。


二人は海岸線を移動し、

少し大きい石のような物の前に着いた。


隼人は首を傾げる。

「なあ信二、これ、何か見覚えある?」


信二はじっくり観察するが、

「なんだろな?見たことあるような……無いような……」


せっかくの手がかりだったが、何も確証が出来ない。


隼人が何か妙なオレンジ色の石が落ちていることに気付く。


「これは……」


隼人が石を手にしたその時――


「それは、太陽の石だ!」


その声に二人は驚き、すぐさま振り返る。

なんだ!全く気付かなかった!いつの間に……!


そこにはフードを被った二人の背丈より少し高い、

スラッとした体型の人物が立っていた。


二人は武器を構える。

一分の隙も見えない様子――ただ者じゃない!


「あんた……誰だ!!」


隼人は腕を振るわせ、啖呵を切る。


「隼人!気持ちは分かるが落ち着け!」


緊張で額に汗を滲ませ、信二が隼人を静止する。


そのやり取りを見て男は少し微笑んだ。


――そして、口を開く。


「大きくなったな。隼人。」


そういうと、男は被っていたフードを外す。


そこには、とても懐かしく……

そして心から信用できる男が立っていた。


(何で隼人の名前を知ってる!)


信二はさらに警戒する。


だがその姿を見た隼人は、

剣を落とし、張り詰めていた物が崩れ……

自然と涙が溢れ出た。


次の瞬間、隼人は泣きながら男の懐に飛び込んでいた。


「父さん!」


これまで我慢していたものが溢れ出て、わんわんと泣き崩れた。


そこには、隼人の父、

御堂真影みどう まえいの姿があった。



【つかの間の安らぎ――父の違和感】


真影と再会した隼人と信二は、

大災害が起きて空間の亀裂に落ちたこと、

そして手探りで戻る方法を探していたことを話した。


「そうか……亀裂に落ちて“生きてる”のは、幸いだったな」


「父さん。早く戻って姉貴を助けたいんだ。

 何か戻る方法は無いかな?」


隼人の問いに、真影は答える。


「景色は変わってるが、ここは沖縄だからな。

 普通の状況なら飛行機か船でって、簡単なんだが……なぁ。」


「やっぱりそうだったんですね。よかった。」


信二は、戻れる場所であることに心底安堵する。


「でも、場所的に異世界とかと状況が何ら変わらんぞ。」


真影の言葉に二人は言葉を失う。


真影は一瞬、

微かに共鳴した太陽の石と信二の槍に気付き、


……少しだけ視線を伏せてから、口を開いた。


「……まあ。何とか、ならなくもない」


「どうやって?」

二人は同時に叫ぶ。


「次の目的地に着いたら教える。

 とりあえず……海岸線を南下するぞ!」


隼人はくすっと笑い、

「分かったよ、父さん」


真影が居ることで、隼人と信二は心底安心できた。


三人は海岸線を移動していた。

一見、安全そうに見える道だった、


――その瞬間。


影からモンスターが躍り出る。

不意を突かれた刹那、真影が動いた。


「――はっ」


刃が一閃する。


言葉よりも速く、空気が裂け、

モンスターは真っ二つになって崩れ落ちた。


「……凄い……」


隼人と信二は息を呑む。


たった一振り。それだけで、圧倒的な差が分かった。


「ボーッとするな!周りをよく見ろ!」


真影の声に、二人ははっとして周囲を見渡す。


いつの間にか、さらにモンスターが迫っていた。

隼人と信二はすぐに体勢を整え、臨戦態勢に入る。


「こっちの三匹は俺が――」


言い終わる前に、刃が走った。

気づいた時には、

真影の前にいた三匹はすでに斬り伏せられていた。


「……おいおい、ありゃ強すぎだろ」

 信二が思わず呆然と呟く。


「そんなの、見なくても分かるだろ」

 隼人もそう返しながら、迫る敵に集中する。


その時――


「っと、ヤバ……!」


信二が距離を詰められ、攻撃を受けそうになる。


だが次の瞬間、


「やらせるか!」


隼人の短剣が、まるで意思を持ったかのように反応した。

躊躇のない一撃が走り、モンスターを切り刻む。


戦いは、すぐに終わった。


静寂の中で、真影は二人の姿を見つめていた。


隼人の短剣――

そして、信二の動きと構え。


(……信二君の間合い……隼人の短剣の反応……)


真影は何かに気づいたように……目を細める。


戦闘は終わっていたが、

その表情には、わずかな――複雑さが残っていた。



【父の厳しさと優しさ】


戦闘を終えた三人は、その場を離れた。

真影は周囲を一瞥し、少し内陸へ進む。


「……この辺でいい。一度休むぞ」


三人は木陰に入り、腰を下ろした。

張りつめていた空気が、わずかに緩む。


沈黙を破るように、真影が口を開く。


「率直に言うが――二人とも、危なっかし過ぎる!」


即座に隼人が反応する。


「父さんが強すぎるんだって。

 普通、あんな動き出来ないだろ」


真影は小さくため息をつき、隼人をまっすぐ見据えた。


「戦いに“普通”なんて無い!!」


「生きるか、死ぬかだ」


その言葉に、隼人は言葉を失う。

冗談でも、叱責でもない。


ただの“事実”だった。


「いいか。次は、お前たちに足りないものを

 ――実践で教える」


そう言うと、真影は信二に視線を向ける。


「信二くん。槍を預かる。

 その代わり――これを使え」


真影は、先ほどまで手にしていた剣を差し出した。


「えっ……それ受け取ったら、おじさん戦えないんじゃ……」


一瞬の躊躇。

だが真影は、迷いなく言い切る。


「なら――お前たちが守ればいい」


その言葉に、二人の背筋が自然と伸びる。


「行くぞ」


真影はそう言い放つと、振り返ることなく歩き出した。


隼人と信二は顔を見合わせ、

そして何も言わず、その背中を追った。


道中、真影は歩きながら信二に語りかける。


「いいか、信二君。攻撃力を最大にするのは、力じゃない。

 重心移動と、間合いだ」


信二は真剣な眼差しで耳を傾ける。


「それは槍でも剣でも同じ。相手をよく見ろ。

 重心が崩れない動きで交わし、踏み込む瞬間を逃すな。

 “当てにいく”な。“入る”んだ」


その時――

地面を這うように、異様な気配が広がる。


次の瞬間、触手を持つモンスターが姿を現し、

距離を保ったまま襲いかかってきた。


「来るぞ!!」


反射的に、隼人が前へ出る。

だが――


「隼人ッ!!」


真影の怒声が飛ぶ。


「感情に任せて剣を振るな!!

 お前は――何がしたいんだ!!」


「だって……!」


隼人の動きが一瞬、止まる。


「いいか。お前は一人じゃない」


「仲間を信じろ!自分を含め、

 皆を守るために剣を振るうんだ!」


隼人は戸惑い、言葉を失う。


「そんなこと言われても……」


真影は、間髪入れずに言い切った。


「自己犠牲じゃ、誰も救えない」


「それだけは――忘れるな!」


その瞬間、信二が前に出た。


(よく見て……重心を……)


触手の軌道を読み、間合いを詰める。

交わし、踏み込み、剣を走らせる――


一撃。


遅れず、隼人も続いた。


(皆を……自分を……守る!)


力を込めすぎない斬撃が、無駄なく走り、

二人の刃が重なった瞬間、モンスターは崩れ落ちた。


静寂。


真影はゆっくりと二人に近づき――

何も言わず、軽く頭をポン、と叩いた。

それだけで、十分だった。



【父の優しさと覚悟】


三人は、目的地の海岸へと辿り着いた。


「……父さん。ここは、僕と信二が飛ばされた場所だ」


「戻ってきたけど……どうするの?」


真影は、やはりな、と言いたげな表情で頷いた。


「隼人。俺と会った時に手に入れた太陽の石を出してくれるか」


「分かった」


隼人は迷いなく、石を差し出す。


「二人とも、その浜辺に並んで立て」


言われるまま、隼人と信二は肩を並べる。


「今から、故意に空間亀裂を起こし、転移させる」


二人は息を呑んだ。


「……そんな事、出来るのか?」


「ああ、出来る」


真影は静かに続ける。


「だがその前に、隼人」


「なに? 父さん」


「もし、千昌の事で困った事が起きたら……家の地下に文献があるはずだ。

 必ず、それを読め!」


真影は、太陽の石を二人の正面の砂浜に置いた。


「……え? 何を言ってるんだよ?」


真影は、青竜(せいりゅう)の槍を両手で握る。


「この太陽の石はな」


「青竜の槍を刺す事で、会いたい者の元――

 その近くの遺跡へと繋がる空間亀裂を生み出せる」


一瞬、間を置き。


「……ただし」


真影は槍を大きく振り上げた。


「使った本人は……送った者と、永遠に会えなくなる。

 その代償と引き換えにな!」


「な……なに言ってるんだよ!!

 やめてよ! 父さん!! 父さん!!」


青竜の槍が、太陽の石を貫く――

空間に、鋭い亀裂が走った。


「隼人。信二くん。

 俺とは、ここでお別れだ」


「……いや……嫌だ……」


「そんな顔をするな。死ぬわけじゃない」


真影は信二を見る。

「信二くん。隼人の事……後は頼んだ」


「……はい」


そして、隼人へ。

「隼人。これだけは覚えておけ。」


「何があっても――」


「諦めるな!」


「……強く、生きろ!!」


「嫌だ……父さーん!!」


叫びと同時に、光が二人を包み込む。


――隼人と信二は、


千昌のいる場所へと転移した。

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