第9話 お母さん、大好き
私のお母さん、りこお母さん。
すっごく美人で、お話上手で愛され上手。
私のことをずっと考えてくれてて
私のために働いてくれてる。
お母さん、大好き。
会社には勤めてないけど、それでもお金をたくさん稼いでるらしい。
詳しくは知らないけど、きっとこれが才能、ってやつ。
私のお母さんはすごい。
私のことをずっと考えてくれてて
私のために働いてくれてる。
お母さん、大好き。
最初のお父さんは、私のことを殴ったり蹴ったりしたんだって。
お母さんが言ってた。
だから離婚して、私を守ってくれたんだって。
でも私が寂しくないようにって、いつも頑張ってお父さんを連れてきてくれる。
私のことをずっと考えてくれてて
私のために動いてくれてる。
お母さん、大好き。
私は愛されてるんだって、この身でそう感じるの。
お母さんの温かい包容。
いつも酔っ払って帰って来て、私のことをぎゅーって抱きしめてくれる。
お酒くさい。でも、とっても温かい。
大好きだよ、ってそういう時に言ってくれるの。
だから私も、
お母さん、大好き。
私は出来ない子だから、忘れ物が多いの。
ごめんね、お母さん。
お母さんはそんな私をちゃんと怒ってくれる。
どうして出来ないの、って。
言ってわからないならって身体に教えてくれる。
私は出来ない子だから、そうやって覚えるしかないの。
でもごめんね、私それでも忘れ物しちゃって。
お母さん、大好き。
ママ友?ってやつをいっぱい家に呼んでくれるの。
知らない子がたくさん家に来て。
何回か遊んだらまた別のママ友がやってくる。
ママ友って作るの難しいみたい。
みんな自分勝手なんだって。嫌だよね。
私はそんなお母さんの味方だよ。
お母さん、大好き。
お母さんは私のことを考えすぎて、たまにおかしくなっちゃうの。
私のせい。ごめんなさい。
叩いたり、蹴ったり…こうなりたくないだろって、腕の線を見せてきたりする。
あれ、なんなんだろう。
そうやっておかしくなっちゃったお母さんは止められない。
でも私はお母さんが大好きで…
だから受け止めるの。
私…私、何してたんだっけ。
温かい。
目が覚める。お布団の中にいる。なんか変な感じがする…。全部夢だったのかな。
ふらふらと洗面所に向かって鏡を見た途端、血の気が引いた。
首に赤黒い輪っかがついてる。
なに…これ。
昨日ってたしか…。
ああ、夢じゃなかったんだ。
「葵、おはよう。よく寝れた?」
リビングに戻ると、台所からお母さんの穏やかな声が飛んでくる。
昨日あったことは現実だったの?
今の私でも怖くて聞けなかった。手が震えてるのを感じる。
「早く学校行く準備しちゃいなねー。」
そうだ、学校行く準備しなきゃ。
お母さんを困らせちゃいけないから。今日も、ちゃんと笑って。
「いってきます!」




