第72話 同じだけど違う
「西園寺さん、本気ですか?」
「うん。これで会議に出す。」
とある小説。西園寺さんのところまで上がってきて、承認された。
その次は編集会議に出される。
でも私は疑問に思っていた。
これ、面白くなくない?
西園寺さんの目を疑うわけじゃない。
きっと私が知らない何かが見えてるのもわかる。
でも、それでも。
「それ、通りませんよ。多分。」
「でも通さないと私だって顔が立たないのよ。」
そう、この構造がいけない。
社会がいけない。
西園寺さんもわかってる。この小説が承認されないって。
でも、ちゃんと働いていますよとアピールしなくちゃいけない。
でも通せるような小説は出てこなかった。
及第点。
だからそれで済まそうとしている。
そんなの私の直感に反する。
良いものを作って出していく、これが目的でしょう?
逆らえない上の機嫌を取るために時間を潰すなんて馬鹿げてる。
最高責任者なんか潰れて…
あれ。
なんか見たことあるな。
…。
ああ。
ごめん、鈴木さん。
こういう気持ちだったんだ。
ごめん。今気づいた。
そりゃ、私に呆気なく落とされたら嫌な気分になるよね。
人は感じたことのある痛みしか感じれない。
私もそう。
じゃあどうする?
私なら、どうする?
ここには私がいる。
出来ることはあるはず。
「西園寺さん、出す小説それじゃなくて、他のにしましょう。」
「私、探します。」
部長室を飛び出した。
「課長の方、来てもらえますか?」
「…はい。」
「これから上げようと思ってるもの、全部私に見せてください。」
「えっ?」
「私が策定します。」
仕事を奪ってることはわかってる。
でもこれが私に出来る最善。
私の目で見て、判断する。
数十と並んだ小説を目の前にする。
その日から選定を始めた。
朝イチに来ては帰るのは誰よりも遅い日が2週間くらい続いた。
そして見つけた。
「西園寺さん、お待たせしました。これならいけます。」
西園寺さんは私が選定したものを読んで、少し表情が柔らかくなった。
「一ノ瀬ちゃん、ほんとはこういうことしちゃダメよ?仕事奪ってることになるんだから。」
「はい、すみません。」
「でも、これなら胸を張って会議に出せる。感謝するよ、一ノ瀬ちゃん。」
颯爽と扉を開けて出ていった。
これで良かった、これで…。
これで…
わお、フラッとした。ちょっと無理しすぎたかも…。
2週間後。
「一ノ瀬ちゃん!」
勢いよく扉を開けて西園寺さんが入ってくる。
私は期待と不安混じりに…うそ、もう期待いっぱいになっていた。
そうして一言待った。
「企画、承認!!!」
来ました、これ。サイコー。




