第69話 お勉強させてください
2ヶ月が経った。
基本的には同じ作業。
選定して、フィードバックを返す。
でも西園寺さんの指示で、雑誌とか漫画以外も見た。
ジャンルが変わると見方も変える必要がある。
大変だけど面白かった。
そして、新入社員たちが各部門に配属された。
「これから編集部門に入る新人ちゃんたちで~す!」
ズラッと並んだ新入社員たち。その中に見たことのある顔があった。
「一ノ瀬さん!私、ちゃんと来たよ!」
星野さん。もう完全に忘れてたよ。
「よろしくね。」
まあ、関わること無いと思うけど。
そうしてまた2ヶ月経った。
気づいたんだけど、社会人って時間経つの早くない?もう真夏なんだけど。
そしてもう一つ気づいた。
企画立案するの、ちょっと楽しそう。
本来はそのステップを踏んで今の立場に立つわけだけど。
私は飛ばしてきちゃった。
考えられたものを選別する側。これも悪くないけど…。
今の私は力があっても責任が無い。
これに空虚を感じている。
贅沢な悩みだよ、ほんと。
落ち着く…喫煙所…。
「一ノ瀬さん!」
「はい。」
「今日部門の飲み会あるらしいんだ。来ない?」
「誰が来るの?」
「課長までの人たち!」
…私行っていいのか?
「大丈夫、一応新卒歓迎会でもあるんだから!」
じゃあいいか。
「わかった。」
1週間後。19時開始だったけど、仕事が残っちゃって20時くらいに店に到着。
みんなもういい感じになってそう。
「でさあ、部長補佐で就いた一ノ瀬があ!」
「漫画読み直してこいって!いやいや、どの口が言ってんだよ!ガキのくせにってよ!」
「ほんと言ってやりたかったわ。」
鈴木さんのバカでかい声のお陰で、店員さんに聞かなくても席がわかった。
やっぱ私いない方が良かったでしょ、これ。
周りは笑い声。
「私も頭使ってください、仕事ですよって言われてショックでした…。」
「俺、正直西園寺さんのやり方って権力振りかざして好き勝手やってるようにしか見えないっす。」
再び笑い声。
おーい、新卒歓迎会じゃないのかい。
…と、思ったけど。共通の敵がいると結束しやすくなるのは事実か。
「あの…今日一ノ瀬さん来るってこと忘れないでくださいね?」
「え?どーせ遅れるっつってバックレんだろ。」
星野さんが止めに入ってる。酔っ払いの介護…大変だよね。
あと私はバックレないぞ。
「ったく調子に乗りやがって…。目の前に居たら説教してやるわ!」
「すみません、生一つお願いしまーす。」
しれっと席に座る。場が凍りついた。はは、面白い。
さて。
「どんな説教してくれるんですか、鈴木さん?お勉強させてください。」
そのこわばった顔は、完全に酔いが覚めているようにも見えた。




