第62話 スタンスだから
「て、ことで。ミリンさんとサナさんと、メリッサさん。」
「ミリンさんがイラスト担当、サナさんはモーション担当、メリッサさんはシナリオ。」
《おん。》
「私は抜けちゃうけど、3人とも腕のある人だから。」
《おん。》
「安心して、最終監修くらいは出来るはずだから。」
《おん。》
ゲーム制作をやめたとは言った。
でも捨てたとは言っていない。
私はマギカさんを捨てない。
完璧超人の私…いや、それが私のスタンスだから。
「ごめんね、代替ってことになっちゃって。」
《まあしゃーないわ。俺も時間かけすぎたとは思ってたし。》
《イチノセの就活のこと1ミリも考えなかったのが悪い。》
《良いものを作ろうとするばっかりにボリュームが増えすぎた。》
淡々と話すマギカさんは、なんとか落とし所を見つけているようにしか聞こえなかった。
…ごめん。代替なんて出来ないの知ってる。
でも、これは私の人生だから。
「これからも通話とかゲームとか、しようね?」
《ん?どゆこと?》
「いや、これで関係が終わったら嫌だなって。」
《終わらないって。》
マギカさんはそれ以上言わなかった。
そのため息混じりの一言が、なんとなく私を安心させた。
「合格通知いつ来るんだっけ?」
「一週間から二週間だって。てか合格とは限らないでしょ。」
いつもの飲みの席でつぐちゃんと。
面接をしてたらあっという間に12月に突入してた。
冷えた身体を温めるための酒。
冷えた心を温めるためのつぐちゃん。
…なんか忘れてるかな、私。
すっかり、この走馬灯みたいなのに飲み込まれてた。
なんか…なにか忘れてない…?いや、わかんない、なんだろう…。
「なにぼーっとしてんの、もう酔った?」
「ああ、いや…。」
私の正史に、つぐちゃんっていたっけ?
この温もりって、あったっけ?
みやこちゃんも、ういちゃんもそう。
私の正史に2人はいなかった。
…ここなちゃんが生きてるから?
ねえ…つぐちゃん…。
「つぐちゃん、そこにいるよね?」
「何言ってんの、まじ酔いすぎ。」
つぐちゃんもいなかった。
私…無意識だったけどさ、
つぐちゃんを守るための就職
ってことにしてたよね。
正史では違ったけど。…というか西園寺さんもいなかった。
私は普通に面接で別の大企業に就職した。
待って、混乱してきた…。けど…。
今の方向性って、間違ってないよね?
ここなちゃんを救って始まったこの分岐は正しいよね?
だって、今心があったかいから…。
「つぐちゃん、私ってさ。」
「ん~?」
「幸せになって、いいのかな。」
絞り出した言葉がこれだった。つぐちゃんの表情は読めない。
居酒屋はまるで誰一人話していないかのような静寂だった。
そんな中つぐちゃんの声だけが聞こえる。
「当たり前じゃん。私とね。」
ああ…。わかった。
全部わかった。
これが正しい。正しかった。
私は変われたんだ。
居酒屋は空気を読むように、またガヤガヤし始めた。




