第6話 初めての感情
え、誰だっけ。
ごめんだけど、全く覚えてません。ソーリー。
「記憶は前の小学校の人たちで全部上書きされちゃったみたい…ごめん。」
隣の席の女子は私のそんな返答にかわいらしく笑った。
「あっはは。葵ってそんな感じだったっけ?変わったね。」
「面白いねっ。」
目を細めて笑う彼女の笑顔は、どうしてだか私の鼓動を早めた。
初めての感情。
多分、恋?ってやつ。
私は転校してた2年間、正直散々だった。良いことももちろんあったけどね。
それが私を内側から変化させて、この女子の面白ろセンサーに何か深く刺さったのかもしれない。
いや、突き刺さったのは私だ。
「えっと、名前聞いてもいい?」
「あ、そか。全部置いてきちゃったんだもんね。私、ここな。どう?名前で思い出した?」
いえ、全く。
「あ~なんとなく思い出したかも。2年って大きいね。」
「小学生の成長は顕著だからねえ。葵も例外ではないけれども。」
ちょっと変わった喋り方をする子。今になって思う。
そんな出会いだった。隣の席だっていうこともあって話す時間は自然と長くて、私は思った。
幸せかも。って。
今までは学校にも行けてなかったけど、ここではそんな過去を知ってる人は誰もいない。
新しくやり直せる。
戻ってきたこの場所でやり直せるんだ。
しばらくここなちゃんを観察して得た情報。
彼女はよく固定の2人と仲良くしてる。
みすずちゃんと、はじめくん。
真っ先に思い浮かぶ。
どうすれば輪に入れる?
ここなちゃんが好きだってこと、バレたくない。そうなったら…。
「はじめくん、はじめまして。」
「えっと…転校してきた…」
「葵。一ノ瀬 葵。私、あなたに興味があるの。」
私ははじめくんを利用することにした。
毎日はじめくんを見たら挨拶。絡みに行くし、お話もたくさんする。
はじめくんと仲の良いここなちゃんとみすずちゃんは、自然とその中に入ってくる。
ここなちゃんが形成した輪は、私が形成した輪にすり替わった。
誰もこのことには気づかない。悪いことは何も無い。そうやってここなちゃんといる時間も長くなった。
私は幸せを掴んだ。自分の手で。
少なくとも卒業するまでの2年間、こうやって過ごしていければって思ってた。
思ってた、というのは。そうは過ごせなかったということ。
事件は起きた。
「葵…そんなにくっつかれると僕だって…好きな気持ちが抑えられなくなるから…。」
は?




