第58話 残ったもの
学園祭から一週間が過ぎ。
私の大学生活の一部だったバンドは消え去った。
儚くも散った。
でも、私は後悔していなかった。
理由は単純でさ。
高校のやり直しは、もうとっくに出来ていたから。
それどころかギタボにまで転身しちゃってさ。バンバンザイだよ。
私に残ったのは、絵、音楽、ゲーム、そしてつぐちゃん。
充分?そうかもね。
逆に今までが多すぎたのかも。
就活…ねえ。
私はインターンで二度も失敗してる。
これって、社会が私を遠ざけてるんじゃないの。そうとしか思えない。
《お前、絵で稼いでんだろ?ゲームも当たれば金になる。》
マギカさんの意見は、そんな私の考えの背中を押した。
そう、たしかにそう。絵で稼いで、ゲームが売れたらお金は稼げる。
就職する意味は無い。
安定は保証されないけど。
そう、安定が無い。私の中でこれが引っかかっていた。
漠然と安定を求める私の思考回路が、就職をしろと信号を出し続けているのだ。
「やるだけやってみればいんじゃない?」
つぐちゃんはそう言う。やるだけやる、ねえ。
「なんでそんなこと言うの?」
「だって、新卒切符は一回キリだよ?ライブと一緒じゃん。」
「その瞬間を逃したらそれまで。」
なるほどね、とは思った。無駄にするのは好きじゃない。
…けど。
「つぐちゃんはどうするの?専門行って、大学も出て。ってかなんの専門だったの?」
話を脱線させてしまったけど、ふと気になった。
「ん、音楽のだよ。クソだったから大学来た。就活したくないし。」
…てことは?
「私はギターで食っていく。就職は考えてない。」
ああ、一貫してると清々しいな。魅力。
「つぐちゃんならいける。歌って歌えるの?」
「人並みにはね。」
「じゃあ、路上ライブからだね。」
「もうとっくにやってるよ。専門の時から。」
私はアドバイスする側ではないのかもしれない。
「つぐちゃん、ほんとかわいいしかっこいいし無敵じゃん。」
私に比べたら…。
「しょげてないでさ、あんただって良いもの持ってんだから。」
「見ようとしないのやめな、ちゃんと自分を見ろ。」
…見てるもん。見た上で悩んでるんだもん。
そのはずだもん。
…。
ほんとにそう…かな。
わかんない。自分のことなんて、影か鏡でくらいしか見えないし。
ベランダに出てライターを取り出す。
…はあ。一生こうやってぼんやりしてたい。
生きてるだけで偉い、でしょ?ネットではみんなそうやって言ってるよ。
じゃあ私も生きてるだけで偉いんだからさ、
こうやってタバコ吸ってるだけで生きる資格ちょうだいよ。
…。無理か。
そうやってぼんやーりしていたら、大学3年の3月は終わった。




