第57話 守るから
「…は?」
私よりも先に反応したのはつぐちゃんだった。
同時に私の気持ちも代弁してくれた。
えいじくんは言う。
「俺ら、そろそろ4年だぜ?就活あんだろ。バンドなんかしてる余裕ねーよ。」
就活…。そんなこと頭に無かった。
そうか、もうすぐ4年生か。
「あんた、ビビってるだけでしょ。逃げだよ、それ。」
つぐちゃんはすかさず答える。
「は?現実見ろっつってんだよ。」
えいじくんが一歩前に出る。
止められない。
「私はギターに…音楽に一生を賭ける覚悟でやってる。あんたは違うの?」
そんな威圧を跳ね返すような言葉の棘。
えいじくんは軽く嘲笑い、でかい声で言った。
「バカじゃねーの。バカ女がよ!ちっとも前見えてねーでやんの!」
こいつ…こんなヤツだったんだ。
もっとカッコよくて、周りを引っ張る人だと思ってたけど。
安心した。
これなら何言っても許される。
「私、気づかなかった。」
「あ?なんだ一ノ瀬。」
「私以外にも屑がいるんだって、気づかなかった。私もバカみたい。」
「自己を虚栄と欺瞞で偽る腐った脳みそと話すの、私、嫌いなんだ。」
単純に失望した、って言えば良かったんだけど。
こっちの方が私の言いたいことが伝わる気がした。
私の次に声を上げる者は誰一人おらず。完全に沈黙。
Insightは解散した。
「つぐちゃん、泣かないで。」
帰り道、ずびずび泣くつぐちゃんを見る。初めて見る。
「私…音楽が好きで…。」
こんな弱気なつぐちゃんも初めて。
「大丈夫だよ。」
こういう時の私なんだと思った。
自分の役割がわかった気がした。
支え合うってこういうことなんだなって、
生まれて初めて知った。
優しくつぐちゃんを抱きしめる。
秋の風が間を貫く。
「世界は最初から傷つくように出来てる。でも私がいるから。」
その日は家が近い私の家につぐちゃんも来た。
落ち着くかな、と思って温かいココアを出してあげた。
…お酒の方が良かったかな。わかんないや。
「ありがと。…ごめん。」
ようやく落ち着いたつぐちゃん。良かった。
「Insightだけが全てじゃないから。」
「でも私には全てだった。全ての一部だったの。」
…わからない。どう声をかけてあげればいいの?
ただ肯定するのが正解じゃないことは知ってる。
じゃあ、正解は?
「…慰めてよ。こういう時だよ。言わせんな。」
ああ…。なんだか少しずつ、人間になってる気がする。
私はそのまま、ゆっくりと目を閉じた。




