第55話 香水の匂い
「…え、えっと。つぐちゃん?」
顔を真っ赤にしてる。初めて見る顔。
タバコの吸い殻が机に落ちた。
「つぐちゃん…つぐちゃん、私のこと好きって言った?」
「…。」
居酒屋のざわめきなんてノイズキャンセリングされて、
ただ正面に座ってるつぐちゃんしか見えない。
私に惚れた?
こんな、私に?
こんな、だから?
り、理解が追いつかな、ない。ん?待てどういうことだ。全然わかんないよ。どういうこと?
たしかに私はつぐちゃんのこと好きだよ?
でも、つぐちゃんも私が好き?
ヤバい、手震えてきた。これって…。
両想い?
耳が熱くなるのを感じる。え、嘘…。
うそー!!!!!!!
やば、めっちゃ胸キュンキュンする。つぐちゃんかわいすぎてしんどい。
つぐちゃん…。
「つぐちゃん?」
普通のフリしてビール飲み始めた。かわいい。
「…ごめん、口滑った、忘れて。」
口を拭いながらそんなことを言うつぐちゃん。かわいい。
どっちも好きなんだったらさ、答えは一つしかないよね。
私は逃さないよ、このチャンスを。
運命を。
「つぐちゃん、私は誤魔化されないよ、知ってるでしょ?」
「…ッ知ってる。」
「つぐちゃん、私と付き合って。」
産まれて初めて、素の満面の笑みが出来た気がする。
つぐちゃんは震える手でタバコに火を付けた。
ひと吸い。もうまたひと吸い。深呼吸をするようにひと吸い。
「あんまり調子に乗ったことしたら別れるからね。」
ああ…手に入れた。
3年間の片思いが成就した瞬間のカタルシスに溺れる。
「すみません、お会計お願いします!」
奢ってあげた。気分が良いから。へへ。
「…ちょっと葵、どこ行く気?」
私が駅から遠ざかるのを見てつぐちゃんは足を止めた。どこってそりゃ…
「ホテルだけど。」
そういう流れじゃないの?今まではそうだったけど。
私の答えを聞いて、やれやれと言わんばかりに首を振る。
そして答えた。
「あんたのぶっ壊れてる部分、全部私用に改造してやるから。」
そう言って頭を優しく撫でられた。
…よくわからないけど、心地良い。
「とりあえずホテルは行かん。今日は帰る。」
「えーなんでよ。」
「付き合ったらすぐそういうことすんのは違うから。やるならTinderでやっときな。」
やっぱりよくわからない。
けど。
つぐちゃん専用の私に改造されちゃうのは、なんだかゾクゾクした。
学園祭も迫る中、つぐちゃんとの心の距離は一気に縮まった。
これはきっと演奏にも出る。
だって、
心で繋がったんだから。
へへ、大好きだよ、つぐちゃん。




