第5話 友達らしい
「ふーん、それで学校行けなくなっちゃったんだ。」
あかりちゃんは私と一緒で絵を描くのが好き。一緒のスケッチブックに、好きなキャラを描いたりして遊んだ。
「私、また来るね!プリント届けに。それじゃまた来週ね!」
毎週金曜日。私のためにあかりちゃんが家に来るようになった。
あかりちゃんはすっごくお喋り。それでもって、私みたいなのに対しても平等に接してくれる。
「え!葵、めっちゃ絵上手くなってない!?」
「そうかな、全然だよ。」
「なってるなってる!もっと自信持ってこ?」
私とは正反対に明るい。眩しかった。
でも不思議と嫌じゃなかった。
私の人生に明るみを足してくれているのは紛れもなくあかりちゃんだった。
そんな生活が続いたある日。
「葵、外で遊ばない?お母さん夜まで帰ってこないんでしょ?」
あかりちゃんは無邪気にそんなことを言ってきた。
私は…私はルールがあったらそれを破ったりはしない。
今あるルールは、家から出ちゃいけないってこと。
あかりちゃんは目を輝かせてこっちを見てる。
私はルールを破ったりはしない。悪い子になりたくないから。
あかりちゃんがこっちを見てる。
「えへへ、それじゃ公園行こ!」
眩しく笑う彼女を見て、私はゆっくりと頷いた。
私、悪い子。
家から10分くらいの公園。初めてだった。友達との公園…。
待って。私とあかりちゃんは友達?
ただプリントを届けてくれてるクラスメイト?
義務でやってるだけ?
「あかりちゃん。」
今なら聞ける。あかりちゃんは、私のことどう思ってたんだろう。
「あかりちゃんは、私の友達なの?」
私は真剣に聞いたんだけど、偉くきょとんとされた。困らせたかな。
「何言ってんのさ、当ったり前じゃん!葵は私の友達!」
胸の奥からジワジワと何かが上ってきて、目頭が熱くなった。
友達らしい。
それからは2人で目一杯遊んだ。鬼ごっこをした。初めて。かくれんぼをした。初めて。
初めてがたくさんだった。ずっとずっと、こうしていられればいいのに。
「それじゃ、また遊ぼうね、葵!」
「うん、またね、あかりちゃん。」
私、今すっごく幸せ。
どれくらい幸せかっていうと、大きなコップいっぱいに水が溢れるくらい。溢れるのがもったいないなって思うくらいこぼれちゃって、それで…
わかりにくいか、へへ。
別にわかってもらわなくていい。だって、私が幸せだっていうことを否定することは出来ないんだし。
また来週の金曜日、あかりちゃんと鬼ごっこをするんだ。へへ。
「葵、引っ越すよ。あとお父さんにはもう会えないから。」
あれ、私の幸せどこ行ったのかな。
昼下がりの光がカーテンの隙間からふわっと消えていった。
小学校4年生の3月。進級のタイミングで私は引っ越すことになった。
まだお別れ出来てない…誰にも。まだあかりちゃんにさようならって言えてないのに。
私は車に乗せられ言われるがまま、引っ越し先に向かった。
また知らない土地か、なんて思ってたら。
戻ってきたのは地元の小学校だった。
「私のこと覚えてる?東京どうだった?」
隣の席の女子に話しかけられた。




