第42話 君の味
「ごちそうさんしたー。」
ガヤガヤとした居酒屋を出る。外の風が寒い。
「あ~気持ちいい風。ちょっと涼んでかない?」
つぐちゃん、正気?…と思ったけど酒で火照ってるんだろう。
…今抱きついたらあったかいのかな。
そんなことを考えながら、ふらふらと目的もなく。
適当に見つけた公園のベンチに座った。
真っ白の電灯が1つだけの、小さな公園。遊具は危ないからって取っ払われてる。
寒いなあと思っていたら、左から思いも寄らない音が聞こえてきた。
カチッ。カチッ。
思わず顔を向けてしまった。
その音だけでつぐちゃんが何をしているかは予想出来たんだけど。
意外だった。
白い棒の先端を燃やしたかと思えば、口から文化人の煙を吐き出した。
なぜだかその姿は目が離せず、甘美で妖艶な空気を醸し出していた。
つぐちゃん、かわいい。
「吸うんだね、つぐちゃん。」
「ん?うん。元カレが吸っててさ。18ん頃から吸ってる。」
「全然アウトじゃん。もしや酒も?」
「…酒は好きだから飲んでる。」
嘘が下手、私と一緒じゃん。
やっぱりつぐちゃん、魅力的。
美しくて、かわいい。
毒々しさに惹きつけられる。それは多分、私自身も毒だから。
さっきは振られたけど…まだチャンスはあるよね。
だから今二人きりでいてくれるんだよね。
「つぐちゃん、私と付き合うの、やっぱり考えてくれない?」
気づいたら言葉にしてた。静かな公園で私の声を遮るものは無い。
つぐちゃんはちらっとこちらに目を向けると、手に持っていたタバコを咥えた。
そうして箱をトントンと叩き、出てきた1本を私に突き出した。
「これ、1本吸えたら考えてあげる。」
…乗り気じゃん。タバコなんて余裕でしょ。吸って吐くだけ。
吸って…
「ゴッホゴホ!うえ~、なんじゃこりゃ!まっず!」
「いい反応するじゃん。」
なんの、次は…
「オエッ。やば、クラクラする…。」
私はつぐちゃんに告白したい一心で、棒の先端を燃やし続けた。
5回目くらいからは段々と慣れてきて、落ち着いて吸えるようになった。
…まずいのは変わらないけど。
「ほら!全部吸った!つぐちゃん好き、付き合って!」
私は吸い殻になったタバコを捨て、目を輝かせてつぐちゃんを見た。
…なにその顔。ニヤニヤとこっちを見て。
「ほんとあんた、面白いね。またういちゃんのこと忘れたわけ?」
あ、ういちゃん…。もういい、忘れるような人のことなんかどうでもいい。
「わかった、別れる、別れてくるから。そしたら付き合ってくれる?」
つぐちゃんは2本目のタバコを取り出した。
「はい、これ。足りなくなってきたっしょ?」
…また吸うの。
…。へへ、面白いじゃん。いいよ吸ってやるよ。
そうしてつぐちゃんに答えを出させるために、1本、もう1本と吸い続けた。
味を覚えるくらいに。
「じゃ、またサークルでねー。」
駅でつぐちゃんとは別れた。
私には、1つの答えも残って無かった。
ただ手元に残っていたのは、
残りのタバコが入った箱。
…ういちゃん。
…ういちゃんと別れよう。




