第31話 崩れた積み木
「待って!」
「うっさい!こっち来んなカス!」
一生懸命追いかけた。
階段を駆け下りた。
息が上がる。苦しい。
でも走った。
「みやこちゃん!」
正門前でようやく呼び止められた。
顔をゆっくり私に向けるみやこちゃん。
メイクがぐしゃぐしゃになるくらい泣いている。
ごめんね、みやこちゃん。
私…なんでこうなったの。
私はただ…
周りを相対的に傷つけない選択肢をしてただけで…。
みやこちゃんを泣かせるつもりは無かったのに。
…。
ああそっか。
だから傷つけちゃったんだ。
一番傷つけちゃダメな人も、相対的に傷つけた。
バカな私。なんでこんなことに気づかなかったんだろう。
「ごめん、みやこちゃ…」
「触んなクソ!死ね。」
背中をさすろうとした途端、野生動物みたいな反応をされた。
ああ、どうしよう。
まずすべきことはなんだろう、なんだっけ。
あ、あ、謝らなきゃ。
「みやこちゃん、ご…」
「謝ったって無駄だから。ういといればいいじゃん。悪かったね貧乳で!」
ああ…。
ダメだ。
壊れちゃった。
みやこちゃんが遠ざかっていく。
物理的に?心理的にも。
行ってしまった。
ああ、どうしよう。
どうすればいいんだろう。
どうやって…。
どうやって、ここなちゃんに説明しよう。
頭の中はこれで埋め尽くされていた。
根本的に屑な私は、そんなことをただ考えていた。
私、高校卒業してもずっとみやこちゃんと一緒にいるつもりだったのに。
上手くやるつもりだったのに。完璧だったはずなのに。
どうしよう、ここなちゃんにこんなことがあったなんて…無理、言えない。
どうしよう、どうしよう。
こんなこと連絡できない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どうしようもない?
…。
いや。
わかった。
全部わかった。
ここなちゃんには付き合い始めたって連絡した。
でも私、言ってない。
”誰と”とは。
なーんだ。へへ。
答えは簡単じゃん。
これでみんな幸せになれる。
これで私も幸せになれる。
ういちゃんでいいや。
最初からういちゃんだったことにしよう。
みやこちゃんは最初からただの部活仲間。
そうすれば、みんな幸せ。
私は静かに美術室へと戻った。




