第10話 完璧超人の私
「みんなおはよー!」
今日も元気に挨拶。
「葵おはよー。」
「一ノ瀬、今日国語の教科書見せてくんね?」
クラスメイトからの元気な返事。
転校生の私はこのクラスに完全に馴染んでいた。
今日も完璧な朝の挨拶。
「で~あるからして…」
(葵、さっきのところノート見せてくれる?)
全く、みんなこの先生の授業苦手だなあ。
(いいよ。後でね。)
隣のこの子も、後ろのあの子も、みんな私のことを見てくれてる。
みんな私を必要としてる。
愛されてる。
「一ノ瀬、その首の痣どうしたんだ?」
…え?痣。
「あ、あはは…これは…別になんでも…。」
笑った。必死に笑顔を作った。
知られたくない。知られちゃいけない。
知られたら、
全て壊れる。
尋ねて来た男子はなぜか担任の先生を呼んだ。
「一ノ瀬くん、どうし…えっ…?」
口元に手を当てて驚く先生。止めて。そんな目で見ないで。
「保健室行く?」
行かない。行く必要ない。
「俺連れていきますよ!」
やめろ。必要ない。
「じゃあお願いできる?酷い跡…。なんでも先生に相談してくれていいからね。」
うるさい。
「俺にも出来ることあればなんでもやるぜ!絆創膏貼ってやろうか?」
うるさい。
「私も葵のこと心配だよ~。大丈夫?」
「うるさい!ほっといてみんなどっか行ってうるさいうるさい!うるさい!!」
教室を飛び出した。
一直線に向かう先なんて思い浮かぶはずもない。
私はトイレの個室に駆け込んだ。
みんな…私を憐れみの目で見てた。
やせ細った野生動物を憐れむ目と同じ目だった。
私はそんなんじゃない。
私は完璧。
同じ目で見るな。
誰の助けだって必要ない。私は、私は…。
それから小学校6年生の終わり頃まで、周りはなんとなく私に近寄らなくなった気がした。
私の何がいけなかったんだろう。
謎、謎、謎…。
「葵、中学校どっち行くか決めなさい。この地域は中途半端だからどっちか選べるって。」
とある日の夜。そんなことをお母さんから聞いた。
別にどっちでも良くて決めかねてた。距離はほぼ変わらない。
「私は佐枝中にするよ。制服かわいいから。」
休み時間中、机に突っ伏してたらそんな声が聞こえてきた。
「え~ここながそっち行くなら私もそうしようかな。」
小学校も卒業間近、私の中学校も決まった。




