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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪党が世界を救う系の序盤の話

作者: 冬空

目の前に広がる万を越す軍勢。

人の軍勢じゃない。動物ーーいや、この世界ではこう呼ばれているんだったか。


“魔物”


動物でありながら、魔力を有する生物たちはみな、そう総称されている。

とある方向に向けて雑多な足取りで向かう魔物たちを、遠くから眺めながら俺はぼやく。


「これをなんとかしろって?無理だろ。いくら神様の願いとはいえ、だ。来たばかりの俺にどうしろってんだか」


頭をガリガリと掻く。

察した者もいるだろうが、俺ーー杉宮すぎみや  葛流くずるは転生者ってやつだ。

車に引かれたり、誰かを庇って死んだんでもない。俺の死因は単純に寿命だった。

むかし、とはいっても数年前だが。仕事で無理したのが祟って、寿命を削りまくった。辞める頃にはもう体はボロボロで、あと数年で死ぬだろうと余命宣告されたほどだ。

それからは短い余生を楽しむ日々を過ごした。働いていてはできないことを、やってみたかったことを沢山やった。

最期は身辺整理をして、いざあの世へ!と思って逝ったはずなんだけど、まさか神様と出会って世界を助けてくださいとお願いされるなんてな……。

俺、別に勇者したこともないただの悪党だぞ?ほんとうに良いのかと、何度も確認したのにお願いされるとか、どれだけ切羽詰まっているのかと思っていたが、まさかこれほど切羽詰まってるとは思っていなかった。

多すぎて遠くまでは見えないが、これ、森消えてないか?

いま、俺がいる場所ってどこもかしこも森ばかりで、軍勢がいる辺りにも森があるのに、そこだけが綺麗になくなっている。

争っている様子はないが、ここはまだ人の領域にいないのか?

一応、人がいるとは聞いているが、気がついていたら放置するはずがないんだけどな、と考えて嫌な予想が思い浮かぶ。

まさかだけど、全て滅ぼされたのか?………いや、ないだろ。まさか、そんなことは、な?

思い付いておきながら、ありえないと否定する。

人類もいなくなった世界で、この軍勢を倒したところで何も残らないじゃないか。

だからないない、と嫌な予想を振り切るように首を横に振る。


「ほんとどうすっかなぁ~」


まだ人類がいるとして、この万の軍勢に果たして勝てるかどうか。

総力戦ならどうにか勝てるか?

さすがに数の力ならまだ有利が取れるはずだし。ただ、基本的には有象無象でしかないからなぁ、人ってさ。

遠目に見えるだけでも強そうなのが何匹もいるし、戦う力も持たない一般人では瞬殺されるのが落ちか。


「はぁああああ。うだうだ考えても仕方ない。もらった力で頑張るしかないか」


言い訳したところで状況は好転しない。

無謀な挑戦をしたくはないが、やらなければ人類が滅ぶ。でなければ、神様がたかが人でしかない俺に頼るはずがないし。

おら、やる気を出せ俺。

やる気のない言葉で、逃げ腰になる心を叱咤する。

ゆうて、それでやる気が出る訳がない。

これはただ覚悟を決めるために言ってるようなものだ。

しゃがみから立ち上がり、軍勢に向けて右手をかざす。


「中2くさいことを30にしていうことになるなんてな」


思わずため息を吐く。いまから発動するのはこのためだけに神様から授けられた一発限りの魔法。あまりにも強力すぎて、魔物の軍勢以上の脅威になるからと、制限までかけられたとっておきだ。

それをなぜ、神様ではなく俺が発動しなきゃならないのか。

まっ、できないからだろうな。でなきゃ俺に頼まないって。

というか、こうしてる間にも進んでやがる。

嫌がってないでやるか。

1度大きく息を吸い、吐く。そして、ありったけの力を籠めて叫んだ。


「ーー神罰執行ジャッジメント!!」


唱えると同時、かざした右手から雷のごとき青白い光が軍勢へと向かいーー着弾。

視界を一瞬まっしろに染めたかと思えば、地面から生えた極太い雷が天に登り、空を蹂躙する。

ゴロゴロと、聞いているだけで身の毛もよだつような音の後に広がった光景に俺は絶句した。

明らかに空じゃない、異なる世界が空の先には広がっていた。

いくつもの白く、大きな羽根と絵画的な雲。そして、なによりパルテノン神殿を思い浮かべる神殿はまさしく神の住まう地。

ここからでも見える大きな神殿の門が開き、そこから現れたのは1人の女性。間違いなく俺に頼ってきた女神だ。

あの時はあんな泣きそうだったのに、なんだあれ。あの女神、あんな威厳あったか?

俺の見間違いかと疑う間にも女神は魔物の軍勢に向けて手を翳す。

瞬間。辺り一帯。いや、世界そのものが沈黙した。

なにかが起こる。言わずとも理解した。俺だけじゃなく、この世界にいる全てが。

その予感は当たる。女神の手が光り、それを握り潰す。

たったそれだけ。なにも特別なことはしていない。

なのに、世界そのものがぐらつくほどの震動が襲う。


「はは……」


俺は思わず乾いた笑い声を漏らす。

目の前、さきほどまで万の軍勢がいたその地は今ーーー楕円状の大きな穴が広がっていた。

思わず尻餅をついて、木に寄りかかる。


「これ、俺いる必要あったか……?」

「必要だから呼んだんですよ!」

「うおっ!!急に現れるなよ!?」


あわてて声のした方に振り向けば、そこにいたのは綺麗な金色の髪をもった長髪の女性。さきほど神罰なるものを放ち、目の前の惨状をつくった女神さまご本人だ。


「ほら、見てください!まだ生き残ってる個体がいるでしょ?!」

「はあ?そんなのいるわけ……」


女神が指さすさきを見れば言った通り、傷を負いながらも立ち上がる魔物の姿が。

ばけもん過ぎんだろ、あいつら。え?俺、今からあれ()と戦わないといけないのか?


「いや、むりむり!!あんたの一撃食らって生きてる奴と俺を戦わせんなって!!というか、下界にはこれないんじゃなかったのかよ!?」

「それは貴方の放った魔法のお陰で一時的に降りれているだけです!またすぐ帰らないと行けないので後はお願いしますよ!」

「ちょっ!?あっ!待て!!」


言い終わるや否や消え去る女神。残ったのは中途半端に腕を伸ばしかけた俺だけ。

前を向けば、生き残った魔物たちが何故か(・・・)俺に視線を向けている。

気のせいかと思い、体を左右に動かしてみるが、それでも着いてくる視線。

これは確実に目をつけられたな。

いまから、あの化け物たちと戦わないといけないのか?

これ死ぬな、と思わず遠い目をして空を見る。

あんなことあったのに空もう元通りでやんの。

元気だな~。俺に、その元気分けて欲しいくらいだ。

目線を戻せば、生き残った魔物たちが俺に向けて駆けていた。

あと数分もしないで着く距離だ。

嫌だ嫌だと思うが、戦わないことには殺されるだけだ。

ほんと、悪いことはするもんじゃないと。過去のことを悔いながら俺は立ち上がる。

唯一の相棒だったナックルを構えて、俺は叫ぶ。


「さあ、勝負といこうぜ、ばけもん共!言っとくがなあ、俺はこれでも最強を名乗ってたんだ!!楽に勝てると思うなよ!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

襲いくる魔物。先に攻撃を仕掛けたのは獅子の上半身に、鷹の下半身、尻尾は蛇で背に生えるのは山羊の頭をもつキマイラ。

伝説的な存在を前に、震える体を拳を強く握ることで抑える。


「さっすが女神の一撃を食らって生きてただけあるな。初手がキマイラとか、俺ほんと勝てるのかよ。いや、勝たなきゃ生き残れないんだけどさ」


敵を前に余裕綽々だと思うじゃん?これが違うんだよなあ。

一撃でも食らえば死にそうな相手が何体もいるだぜ?言葉だけでも気楽でいなきゃやってられないって。

それにさ。俺の倍はある巨体が迫るのは、たとえ弱くたって恐ろしいに決まっている。

それがいま、俺に向けて突撃からの噛みつきを繰り出している真っ最中だ。


「っ!!」


反射的に下がると同時。さっきまで俺がいた場所で閉じられる口。ガチン!と甲高い音が鳴る。


「ははっ……これ軽く死ねる。転生してすぐにやられるとか何の冗談だよ」


あれ、一撃でも食らえば耐える間もなく死ぬ。

死にそうじゃなくて、死ぬ。いま確定した。

攻撃を回避されたことに不機嫌そうに鼻を鳴らし、敵意の目で俺を見るキマイラ。

前足で地面を掻き、次なる攻撃を放とうと準備万端みたいだ。

おしっこチビりそうなんだが?

えっ、どうして俺ごとき塵芥に敵意をむけるんだよ?簡単に殺せるんだから見逃してくれたって良いだろ?

さっきの発言が気に食わなければ謝るからさ。あれ、言ってみたかっただけなんだよ。


「グルルル」


はい、ですよね、無理だよね。


「ああ!もう!!どっこらでも来い!!」

「ガアアアアアーーーー!!」


俺の発言を機に襲いかかるキマイラ。

右足から繰り出される斜め切りを回避しながら、キマイラの弱点を探る。

とはいうが、何も情報が無さすぎるし、時間もない。ないない尽くしといったところか。

こうなると分かっていたら神話の勉強でもしとけばよかった!

いま心の中で愚痴ってる間もずっと攻撃を回避し続けているが一向に弱点が見つけられない。

背後から攻撃しようにも蛇が邪魔をするし、死角から攻撃しようにも山羊から情報を共有されているのか、攻撃が避けられる。

これぞ無理ゲー。どう攻略しろってんだよ!!


「って、うおっ!!」


ブオン!と耳を掠める音。次いで鳴る地面を砕く震動に体勢を崩しかけ、体勢を整えると同時に犯人を見れば、単眼で巨大な棍棒をもったギガンテスみたいな魔物が武器を振り下ろした状態で俺を見ていた。

正直いって、恐怖よりも興奮が勝った。

だって、あのギガンテスだぞ?ドラクエといえばなキャラの登場に興奮しない者はいるか?いないだろ?

たとえ居たとしても、ここにいるのはいま俺だけだ。だから俺が正しい。異論は認めない。

で、これどうしよう?

興奮であれやこれや言っていたが、絶体絶命であることには変わらない。

隙を見せない程度に遠くを見れば、まだ駆けてくる魔物の姿が。で、左右を見ればキマイラとギガンテス。

絶望に絶望をかけて、とんでもない絶望の中。唯一、この状況から助かる方法がある。

だが、それはあまりにも無謀な賭けだ。

俺の読みが外れていたら賭け失敗だ。

だけど、やるしかない。

襲いくる攻撃を右に左と回避しながらタイミングを狙う。

いつ死ぬかも知れない状況で神経を勢いよく磨り減らし続けながら、あえてキマイラの前に移動する。

好機とみとったキマイラが噛みつきを繰り出す瞬間、俺は笑い顎下を潜る。

獲物を見失い困惑するキマイラ。その上から大きな影が迫り、ドン!!と強烈な衝突音を響かせる。


「同士討ちってな」


首から先を失い、赤い染みを作るキマイラだった物を前に俺はそう呟いた。

きっかけはギガンテスの一撃だ。あの時、ギガンテスの一撃はキマイラに掠りかけていた。

味方相手にそんなギリギリなことをするのかと思ったんだよ。

そもそもの話、こいつら敵味方の区別ついてるのかよ?

たぶん本来、相容れないもの同士なはずだ。今のような状況を除けばな?

だから、同士討ち。もしくは殺し合わせることができるんじゃないかと思った訳だ。

咄嗟の思いつきではあったが、上手くいったことにほくそ笑む。

仲間を殺したというのに困惑を見せないギガンテスは再度、俺を襲おうとするが、俺は避けない。


「なあ、避けないとやられるぞ?」


逆に忠告してやるんだから、俺はなんて優しいやつか。

なのに、その忠告を無視して棍棒を振り下ろすギガンテスだが、次の瞬間、上半身が吹き飛ぶ。

もちろん、犯人は俺じゃない。

さきほど背後から迫っていた魔物が犯人だ。銀色の毛並みを持った狼。キマイラ、ギガンテスに続くとしたらフェンリルか。

神殺しを冠する化け物が相手では、ギガンテスといえど敵うはずがない。

これで敵が2つ減った。あとは二体。

さあ、次はどうしようか。

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