水の中で見たものはナニ?
学校にはプールがある。
夏はいつも楽しみにしていた。
だって水に入れるんだよ?暑いから冷たい水に入るのはさ。
今年もそんな時期がやってきた。
今日のプールの授業は1時間目。
ヤッタァ!
皆喜んでた。
だけど先生たちはあまり嬉しくないみたいだ。
そりゃあさ、プールの中には入れないからアスファルトの照り返しの日差しは応えてるんだろう。
まっ、かたっくるしいことはなしなし。
僕らはウォーミングアップして順番に水に入った。
「あーっ、気持ちいい。」
30人もいる生徒が一斉に入ると途端に窮屈さを感じたが、じきになれてきた。
それに泳ぐ授業もあるから一旦全員でなきゃだめなんだ。
出たら足元が暑くてヒリヒリしそうになった。
3人ずつプールに入る。
皆自由に泳いでと言われたので、各々が得意とする泳ぎ方で泳いでいった。
そして最後のグループ、僕を含めたグループだ。プールに入って泳ぎ出したのだが、ゴーグルをつけている為水の中が見える。
下の方に黒い塊のようなものがあった。
はじめは岩か何かがただ沈んでいるだけだと思っていた。だけど水が波打つとそれも動く。
黒いのに…何?
僕ら3人は泳ぐ方向を変えてそこへ向かって泳ぎ出す。徐々に近づくとそれは薄いものだった。
何かまではわからない。
でも触りたいとは思わなかった。気持ち悪いと思ったから。他の2人はビビって水面から顔を出して叫んだ!
「先生、何か沈んでる!黒い塊かなんか…気持ち悪いよー。」そう言って泣き出した。
僕も正直気持ち悪く感じたが、少しずつ近づくとそれはお面のようなものに見えた。
目が無く、髪の毛らしきものが漂っている。
これは…これは…人の皮膚か?
もしかして?
慌ててプールから上がった僕はガタガタと震えていた。先に上がった2人も同じ。
唇は真っ青になっていた。その様子を見た先生2人が慌ててプールの中の様子を見た。
確かにそれは薄いものだった。
真っ青になった教師の1人は慌てて職員室に向かった。警察に電話する為に。
もう1人は恐る恐る近づくも見た瞬間に驚いて腰を抜かした。
コレはこんな場所にあるはずのないものだった。
他の生徒達も騒ぎ出し、授業にならなくなった為皆をプールから出し、着替えさせると教室へと行くように叫んだ。
子供達は皆慌てて我先へと着替えに向かう。
そうこうしているうちにパトカーの音が聞こえ、警官が2人やってきた。
事情を説明し、現場を見てもらった。
確かに何かが沈んでいる。
1人の警官が無線で何か話していた。どうやらここに鑑識を呼ぶようだ。
現場保存の為、残っていた僕らはプール場から出されたが、気になって仕方がなかった。
でもすることは何もない。
こんなこと初めてだ。
しばらくして鑑識がやってきたので現場は慌ただしくなる。
プールの中に沈んでいるものを長い棒で引っ掛けて取り出すと、それはどうやら人の顔の皮膚らしきものだった。それは遠目でもなんとなく見えた。
何でそんなものが僕らの学校のプールの中にあったのか不思議でならなかったが、考えるだけ無駄だと思い、その日1日を過ごして夕方帰宅の途につく。
夕ご飯を食べてる時も、自室で勉強している時も常に頭の片隅であの映像が流れていた。
なんか考え出すと怖くなるからさっさとベットに入った。部屋の電気を消して目を瞑るとすぐに眠りについた。
でも夢を見ていた…。
僕はプールの中にいた。
プールの隅にはあの塊が沈んでいた。水飛沫が上がるたび徐々にその塊が僕の方へと近づいてくるのがはっきりと見て取れた。
黒いのはきっと髪の毛だろう。
ユラユラと揺られながら近づいてくる。
怖い…怖いよぉ!
僕はまだ小学生だよ?
きっと大人だってあんなの見たら怖いと思うに違いないって思うんだ。
何で夢なんか見ちゃうんだ?
コレが夢だってわかってるのに怖いよ。
ガバッと布団をめくると汗びっしょりとかいていて気持ちが悪かったから服を変えた。
時間は夜中の2時だった。
もう寝られそうもない。どうしよう…。
朝になったら早く学校に行ってどうなったか先生に聞こうと思った。どうせ詳しい事は警察からは聞かされないだろうけどそれでも知りたかった。
朝の7時になり、僕は真っ先に新聞を広げた。地方版を見ようと思ったんだ。
そしたら小さく記事が載っていた。
どこそこの小学校のプールに人の一部が沈められていたって。ただそれ以上のことは書かれていなかった。犯人まだ捕まってないんだと直感で思った。
どうせなら犯人も僕の見た夢を見てたらいいなと思った。だってすっごく怖かったんだもん。
当分プールの授業は無いと思う。
今年の夏はもう無しかなぁ〜?
暑いし入りたかったけど、多分警官の人が現場保存しますと言いそうだし…。最近のドラマは僕らが知らない事まで教えてくれるから良いんだけど、実際はそうならないで欲しかったりなんかするんだよね〜。
学校に行くと教室では昨日のプールの事が話題になっており、話しが広がっていた。
でも誰も本当のことは知らず、夢等見てはいない事を聞いて僕だけかとガッカリしていた。
何で僕だけ?
考えてもわからないのでどうしようもなかった。
今日の夜ももしかして…。
もしかしたらまた見ちゃうかもしれない。そう考えただけで震えが走った。
そうして今日の夜、頭から布団に入ると昼間の緊張等があった為かすぐに眠りにつく。
夢を見ていたんだ…。
多分そう。
だってまたあの場所に僕だけが立っていたから。
月夜に照らされて水場は月明かりを照らしている。
ただ1ヶ所だけ暗い場所が。
そう、それは人の皮膚?らしきものが沈んでいた場所だ。
何でまた?
するとプールの端っこの黒い部分が少しずつ動き出した気がした。
怖くて目が離せなかった。
体の震えが止まらない。
怖い。
怖すぎるよ。
周りを見ても人っ子一人いやしない。
怯えながらも背後に足を動かそうとした。
その時、スルスルスルっと何かが水面から出てきて僕の足首に巻き付いた。
僕はもう悲鳴を上げるどころではなくて、心臓がバクバクいって過呼吸になりかけていた。
巻き付いたものは徐々に僕の体をつたい首元まできた。涙を流しながらも怖くて堪らなかったけど何度も体を譲り続けた。
「何で僕に…僕が何したってんだ!」
それは怒りだった。
すると首元まで巻き付いていた黒いもの、多分髪の毛だと思うけど、それが解けていった。
元の長さにまで戻るとそれは水に沈み出した。
ついていたはずの皮膚も一緒に沈んでいく。顔はどう見たって能面だった。
それが尚更不気味さをあげる。
やがて沈みきったところでそれは突然消えた。
それが何だったのか、なぜ僕の夢の中に現れたのかはわからない。
でも夢ではなく現実でも突然変えてしまった為警察の人は大騒ぎだった。
「誰かがこっそり持ち出した!」とか「それ自体が動いて消えた!」とか。
警察官らしくない発言もあった為、緘口令が敷かれソレはお蔵入りとなった。
僕だけは知っている。
ソレは女性の人だった。
思いがあって成仏出来ずに彷徨っていると言う事を。
正直もう見たくないやって思ったよ。
本当に気持ち悪かったから…。
今でもふと思う時があるんだ。
あの謎の物はきっとあの場所のプールに今も取り憑いてるんだろうなって。