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1章 6

 配達業者からの依頼を終え、再び読書と訓練の日常に戻るが、数日するとユルマズがルシオから戻りお呼びが掛かる。


「お疲れ様でーす」


 会議室に入りユルマズを労うが、ユルマズは相変わらずニコリともしない。そして口を開く。


「シロー、良くやってくれた。お前のおかげでルシオの住人も助かった」

「はあ、どうも」


 ユルマズは案外良く人を褒める。ただ、人を褒める時も表情が一切変わらないので、なんか褒める必要があるから褒めてる、みたいな感じでそんな嬉しくないんだよね。

 

 俺は適当に受け流したつもりだったが、ユルマズは更に続ける。


「ルシオの三つのダンジョンは連動していることが判明したが、三つのダンジョンを特定の順番で攻略すると隠しエリアに入れることがわかったんだ」

「へえ」

「そこはモンスターハウスになっているんだが、そんなに強いモンスターは出て来ない。そして全てのモンスターを討伐すると、食材だけではなく貴重な薬草も手に入ることができた」

「なるほど」


 まあ兵士達は大喰いだから食材はいくらあっても良いだろうし、貴重な薬草はいくらあっても良いものだろう。


 良かったねぇ、なんてのんきに考えているとユルマズが意外なことを言う。


「依頼主のルシオから特別報酬が出た。今回の殊勲はシローだ。遠慮なく受け取ってくれ」


 俺は考えるまでもなく反射的に断った。


「いや、いらないっすよ。俺はダンジョン歩いて変なとこ見つけただけだし。ダンジョンコア直した人達がもらった方が良いでしょ」


 だがユルマズは首を横に振る。


「ダンジョンのマナの流れを見るというのは誰でもできるものではない。シローが依頼を受けてくれたから解決したんだ」

「いや、ユルマズさんだって見れるでしょ」


 多分クリスだって見れるはずだ。


「ああ、私は見れる。だがマナをの流れを見れる程の腕を持つものは、それなりの立場についているものが多い。そう簡単に依頼を受けてダンジョンに足を運ぶことはできないんだ」

「あー、あれだ。あの時来てくれた……あの助っ人の人に上げて下さいよ。俺行きますね」


 面倒になって立ち上がろうとするが、はぁ、とため息をついたユルマズは手を上げて俺を止める。


「少し待て、報酬の件はもう良い。別の話だ」

「はあ」


 再び席につくとユルマズは続ける。


「シローに会いたいという人がいる。彼等と会ってくれ」

「……はあ、良いですけど」

「今から連絡する。一時間も掛からないだろう。研究所内にいてくれ」

「資料室にいますよ」


 俺は今度こそ席を立って会議室を出た。


 資料室で本を読みながらメモ帳に気になったことを書き込んでいると、職員に呼ばれる。お客さんが来たようだ。


 職員に案内されて応接室に入ると、そこには二人の男女がいた。


「へ?」


 二人の男女を見て、俺は少し間抜けな声を漏らしてしまった。なぜなら、そこには欧米風の人達がひしめくこの世界において、希少な黒髪黒目の和風な男女が俺を待っていたからだ。




 お互い挨拶をして自己紹介をし合う。


 男性の方は兄で『菊池大地』さん。召喚される前は大学生で、俺より四つ年上で二十歳だそうだ。女性の方は妹の『菊池渚』さん。渚さんは十八歳で、高校生だったそうだ。


 俺は索敵スキルを使っても彼等のことを見つけられなかったのに、こうして彼等の方から会いに来てくれたことに驚いていたが、実は彼等は別の方向に驚いていたそうだ。


 なんと、彼等は召喚されてから暫くの間俺の存在を知らされてなかったそうだ。


「俺達は『ロクタンズ』さんに面倒を見てもらってたんだけど、シローくんのことは全く聞いたことがなかったんだ」


 大地さんが少し不満げに言う。ロクタンズか。


 ロクタンズは第四軍団の近衛軍の軍団長だ。近衛軍の軍団長を務めるだけあってロクタンズは強烈な国王至上主義で、国王に批判的な俺のことを蛇蝎のごとく嫌っている。


 そして俺のことを知った経緯を渚さんが教えてくれる。


「魔導研究所の職員さんに魔法の基本を教えてもらってたら、彼等がポロッとシローくんのことを漏らしたんだよね」


 ほう、誰か知らんけどグッジョブだな。渚さんはお茶目な表情で付け足す。


「シローくんも私達ぐらい素直だったらなぁって言ってたよ」

「えー、俺素直ですよ。嫌なことは嫌って言ってるし」


 俺が不満を示すと大地さんが笑う。


「あはは、確かに素直だね」


 渚さんも笑い、兄弟揃って一頻り笑い、落ち着くと渚さんがポツリと言う。


「なんか久しぶりに笑ったかも」


 その一言で俺も大地さんも口を閉じた。俺は召喚される辛さが痛い程わかるゆえに。そして大地さんを見ると、彼は何か決意を秘めたような眼で渚さんを見つめていた。


 俺はポンと、優しく手を叩いて言った。


「それじゃあ、いつまでもこんなとこで話しててもナンですし、場所変えて話しませんか?」




 俺は二人を気に入りのカフェに案内する。ここは、この辺りでは一番サンドイッチが美味しいと思う。ケーキが美味しいカフェは別にあるが、今は小腹が空いていた。


 顔見知りの店主に、魔道具を見せて小声で聞く。


「ちょっと人に聞かれると困ることもあって、防音結界張っても良いですか?」

「うん。じゃあ、あの奥の席使って」


 店主は他の客と離れた奥の席を指差した。


「ありがとうございます」


 席につくと渚さんが言う。


「こういう雰囲気のお店始めて来たね」

「そうなの?」


 結構庶民的な店だけどね。不思議に思って聞くと、大地さんが説明してくれる。


「こっちに来てからは五つ星みたいな店ばっかり連れてかれるんだよ」

「ああ、ロクタンズか」


 あいつは貴族でエリート意識が高いからね。クリスなんかは貴族でもこういうお店も好きなんだけど。


「息詰まっちゃうんだよね」

「俺達庶民だからマナーだってわかんないし」

「あはは、そうですよね」


 なんて話してると店員さんがお冷とメニューを持って来てくれるので、みんなで飲み物と軽食を頼んだ。




 俺達は色んな話をした。その結果、大地さんと渚さんもランドレス王国に対して俺と似たような不満を持っていることがわかった。また、彼等もやはりまずは地力をつけることが最優先だと判断しているようだ。


 お互いの現状などを報告しあい、話が途切れたところで渚さんに不意に質問される。


「シローくんって休みの日とか何してるの?」

「ああ、なんだろ。大体本読んでのんびりしてます」


 俺が答えると、ナギサさんは少し考えてから言う。


「……ぼっち?」

「こら」


 大地さんが軽く注意する。俺も苦笑いして答える。


「あはは、まあそれもあるんですけど、うーん、何ていうか……」


 ちょっと言い辛いんだけどなぁ……まあ良いか。


「えっと、恥ずかしい話なんですけど、俺中一で召喚されたから小卒で学がないんですよ」

「あ……」


 二人は流石に言葉に詰まった。そうだよなぁ。実際今時中学も卒業してない日本人がいるとは思わないだろうし。


「やっぱりちょっとコンプレックスなんで、できるだけ勉強するようにしてるんです」

「そうか……」


 俺の言葉を聞いて大地さんはコーヒーカップを手にして思案した後、顔を上げると勢いよく言う。


「よし、わかった! 俺はついこの間まで大学に通ってたんだ。時間がある時はシローくんの勉強を見ることにするよ」

「へ?」


 俺は突然の言葉に驚いてしまうが、渚さんも大地さんに続いた。


「良いね、それ! 私も手伝うよ!」

「へ? あ、あの、ありがとうございます?」


 俺は突然の展開に驚きながらもなんとかお礼を言うことができた。


 こうして、俺の無知をきっかけに三人の仲は深まっていった。

































 



読んでいただきありがとうございます

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