1章 4
ノックをすると「入ってくれ」と返事を受けたので、遠慮なく会議室に入る。
案の定ユルマズからの挨拶はないが、気にせずユルマズの対面に座ると、ユルマズから口を開く。
「こんな時間にすまんな」
「大丈夫ですよー」
まあ良く……はないけれど、たまにはこういうこともある。
ユルマズは書類を三つ、俺の前に並べる。
「指名依頼が二つと緊急依頼が一つだ」
俺は何も言わずに、まず一番左の依頼書を手に取った。
ふむふむ……隣国、『サリアマーレ帝国』との国境に近い町に、モンスターを誘引する薬剤を撒いてモンスターに襲わせろ? 阿呆か。却下だ。
誰だ、依頼者は。ウィリアム・ロットバイン……宰相? こいつら本気で戦争しようとしてんのか? どうせ帝国のせいにして攻め込もうってんだろ? 大人しくしてろよ。
次に真ん中の依頼書。さてさて……今度は国境に最も近いサリアマーレ帝国の町の水源に毒を撒け? もしや……やっぱり宰相か!
俺はこの二枚の依頼書を放り捨てるように机に置くと、ユルマズに聞く。
「なあ、このウィリアム・ロットバインってのは馬鹿なの?」
ユルマズは首を横に振って答える。
「宰相は馬鹿ではなれない」
「じゃあこのクソみたいな依頼は何?」
俺はこんな依頼書には触れたくもない、と二枚の依頼書を指差して聞くが、ユルマズは一切表情を変えずに言う。
「その依頼は受けたくなければ受けなくても構わん。問題はこっちだ」
そう言うとユルマズは右端の依頼書を左手で俺の方へズイと押す。受け取って目を通すと、王都より南方三十キロ程の距離に位置する『ルシオ』の救援とある。
ルシオは副都とも呼ばれ、ランドレス王国の中でも特に重要な都市の一つだ。ただ、ルシオは都市とはいっても実情は要塞だ。
王都は北を巨大な湖、東西を峻険な山岳という自然に守られた天然の要害であるが、更に南方に巨大な要塞のルシオを建設したことで、王都を攻めることは非常に難しくなった。
王都を攻めるには南方からとなるが、ルシオを無視して王都を攻めればルシオから援兵が出てきて挟まれるし、ルシオを攻めようとすれば王都から兵が出てくる。その上、ルシオには戦闘用の魔道具や武器も豊富に用意されているし、そそり立つ外壁も何やら工夫されているようで、王都からの助けがなくてもルシオ単体での防衛力も非常に高いそうだ。
副都は王都の防衛のためになくてはならない重要な都市だが、防衛力に全力を注いでいるため、食糧事情がよろしくない。畑などは最低限の数しかないし、酪農、畜産などは全く行われていないようだ。
しかしその食糧事情を解決したのが、ルシオ近くに点在する三つのダンジョンだという。この三つのダンジョンからは肉や魚に野菜など、豊富な食料が取れるそうだ。だが、最近ダンジョン内のモンスターを倒しても、どうもアイテムドロップしなくなってしまったようだ。
このままでは要塞としてのルシオを維持できず、ルシオに駐屯している兵達を引き上げなければならない。が、問題は兵達ではない。ルシオには兵達のために飲食店や雑貨屋、武器屋や洋服屋など、多くの店が存在する。しかも、彼等の多くは誘致されて出店したという。兵達が引き上げてしまうと、国に請われて出店した彼等が路頭に迷ってしまう、ということだ。
俺はもちろんこの依頼を受けた。
夜の七時を過ぎていたが緊急依頼ということで、俺はそのまま王都を出た。
軍人に鍛え上げられた俺は、三十キロぐらいなら日が変わる前に踏破できるのだが、現在ルシオは食糧事情に問題を抱えている。俺はルシオから二キロ程手前にある郊外の町で一泊してからルシオに向かった。
早朝にルシオに着くが、俺は街の中には入らずダンジョンに直行した。やはり入口の前に門番がいるが、依頼書を見せて依頼を引き受けたことを告げて中に入る。
俗に牧場とも呼ばれるこのダンジョンの最上層は平原エリアで、鶏のようなモンスターが地面を啄み、角持ったウサギや羊が草を食んでいる。
この牧場ダンジョンは中規模ダンジョンで、第一層、二、三、四、五層と別れていて計……何階だったかな? 多分四十階ぐらいになるはずだ。
俺はポータルから少し離れると索敵スキルを使った。特に怪しいものは見当たらないのでポータルに戻り、第二層に向かう。二層に移動した俺は再び索敵スキルを使った。
俺は索敵スキルは念入りに鍛えているので、上下四、五階ぐらいは索敵できる。まあこのやり方ではどうしたって見落としが出るけれど、今日はスピードを重視して調べることにした。
なぜなら食糧事情に難があるからだ。俺もアイテムボックスに食料を多めに詰めてきたけれど、あまり長引かせるのは不安がある。
二層、三層と怪しい点はなかったが、四層で気になる点があった。
気になる点に向かうとそこは広間になっていて、取り巻きを連れたオークジェネラルがいた。
索敵スキルを使うと取り巻きの中に一体、聖属性の使い手がいた。多分ヒーラーだろうな、と思い、まずは不意打ちでヒーラーを落とす。オークたちは突然仲間が倒され動揺しているので、その隙にもう二体の取り巻きを倒す。
ただのオークか。
三体の取り巻きを倒してそう判断した俺は、速攻で残りの取り巻きも切って捨てた。残ったジェネラルも、巨体の割りには動きも早く防御力も高いが、魔法も使って戦えば余裕を持って倒すことができた。
そして、やはり報告通り食材のアイテムドロップはなかった。オークジェネラルからは良く脂の乗った美味しい豚肉が落ちるはずだったから、少し残念だ。
戦闘後、もう一度索敵スキルを掛けると、やはりこの広間が気になった。何か、この広間でマナの流れが断ち切れているように感じるのだ。ただ、おかしいのはこの広間以外にマナの流れが切れている場所がないことだ。
本来この広間のマナの流れが繋がっている場所があるはずで、ここの流れが切れているのならそちらも切れていなければならないのだが、この広間以外にマナの流れが切れている場所が見つからない。
索敵スキルを全力で掛けてみるが、やはり上下階にも見当たらない。
うーん、と考えてみるが答えは出ない。そうこうしているとバッファローの群れに襲われたので、移動することにした。どうせここで考えててもわからないものはわからないしね。ポータルで第五層に移動して索敵スキルを掛け、なにもないことを確認すると俺は先に進んだ。
索敵スキルと、気配を消すことができるアサシネイトモーションを活用し、戦闘は最低限の数に留めて先を急ぎ、最終階のダンジョンボスのボス部屋の前に辿り着く。
このダンジョンのボスは大量の取り巻きに守られた『カオストレント』だ。
一般的に、ボスは取り巻きの数が少なければ少ない程強い個体となる。
その例で言うと、大量の取り巻きに守られているカオストレントは弱いということになるが、何せ取り巻きの数が尋常じゃない。
俺は魔法や魔道具、更には爆弾や結界などの探索アイテムも大いに活用して取り巻きを片付け、カオストレントはサクッと討伐した。
そしてドロップアイテムを見ると、やはり食材は見当たらない。
まあ良いや、と先に進む。俺の目当てはこの先にある。
ダンジョンの最終階にいるダンジョンボスを倒すと、その先にはダンジョンを管理しているダンジョンコアが安置されている小部屋がある。
小部屋の中央には眩いほどのマナに包まれた、バレーボールぐらいの大きさの球体が浮かんでいる。
角度を変えながらダンジョンコアを観察するが、目に見えるような傷はない。索敵スキルを掛けても異変は感じられない。
「よし」
俺は誰にともなく呟くと、ダンジョンコアに近付く。ダンジョンコアにはポータルの機能も具わっているので、俺は第一層に移動してダンジョンから脱出した。
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