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1章 3

 王国軍には、大まかに分けて五つの軍団がある。国王自ら率いる軍団に国王を守るための近衛兵。最前線に攻め込んで切った張ったをする軍団に、騎馬隊などが充実した機動力が高い遊撃軍。更には我らがマケンが大きく関わる魔導軍。


 更にその部隊の中から連隊だの師団だのと別れていくようだが、俺はその辺は詳しくない。ただ、国王を抜きにして、どの軍団も束ねる長は中々のバケモノだ。


 今日は遊撃軍の軍団長の『クリストバル・トーン』と手合わせをしたが、彼も当然バケモンだ。クリスはスピードタイプで手数が多いタイプだが、俺とは違ってアサシンスタイルではない。


 クリスの得意武器は槍で、スピードと魔法を使って適切な距離を保ちながら槍で攻め、距離を詰められたらもう一つの得意武器である格闘術で打ち倒す、というスタイルだ。


 同じスピードタイプだからかクリスとは噛み合う部分があり、今日は中々良い勝負ができた。だが、最後は下半身を崩され何とか魔法で対処して立て直そうとしたが、格闘術で投げられた後マウントを取られて降参した。


「ちぇっ、まだ届かないか」

「あはは、今日は結構ヒヤッとしたけどな」


 俺が上半身を起こして悔しがると、クリスは俺の正面に胡座をかいて笑う。


 実を言うと、クリスは貴族にしては珍しく異世界からの召喚には否定的で、俺とも親しくしてくれている。


 だから、手合わせ後に談笑した後、最後にクリスは王宮の秘事を俺に告げて去っていった。


「シロー、一昨日異世界召喚が行われた。召喚されたのは男女二名の兄弟だ。確かニホンと言ったか? お前と同郷のようだ」


 クリスは周りに聞こえないように俺の耳元で囁くと、足早に訓練場を出ていってしまう。


 クリスに異世界召喚の件を聞かされた俺は、一瞬頭が真っ白になり、その後燃えるような怒りに身を包まれた。俺は踵を返すと、まずは王国軍の寮に向かうことにした。




 どうも俺が暮らす『ランドレス王国』は結構攻撃的な国のようで、アサシンスタイルの俺には隣国の要人の暗殺依頼なども届く。


 だが俺が調べた限り邪神が顕現している今、他国は余計な争いを作らないようにしているようだ。それなのにランドレス王国はいらぬちょっかいをかけようとしているので、俺はそのような依頼は尽く断っていたし、貴族の催事に誘われても全て断っていた。


 実際、十六歳のガキが軍団長と良い勝負をしているのだ。しかも成長チートを付与されているのだから、数年したら国内で最強になる可能性もある。貴族としては繋がりを持ちたいのだろう。だが、貴族はおろか王族にすらなびかない俺を疎ましく思うものも多い。


 特に王族は顕著で、あいつは邪神さえ倒してくれればそれで良い、と考えているのが素直に伝わってくる。そして、言うことを聞かないシロー・シマモトに代わる手駒を召喚しよう、という考えに至った、と想像できる。俺は異世界召喚をそんな簡単に何度も行えるとは思っていなかったので、正直驚いた。


 また俺に隠していたのは、多分反抗的な俺に感化して王族の命令を聞かなくなったら困るからだろう。


 何とか召喚された兄弟と接触したいが、彼等がどこに匿われているのかわからない。まずは情報収集のために王国軍の寮に向かうことにしたのだ。


 ただ、平の兵士が召喚者の情報を持っているとは思えない。かといって軍団長レベルは寮には住んでいない。できるだけ秘匿レベルが高い情報も持っていて、なおかつ未だに寮で生活をしている兵士を探したい。


 本当は王宮か城に忍び込めればそれが一番早いんだけど、それはまだ俺には難しい。何せ王宮と城にはユルマズが直々に結界を張っているからだ。

 

 まだユルマズの結界を掻い潜って情報収集できる自信はない。まあクリスが知っているということは、他の軍団長も知っているだろうし、多分ユルマズも知っているとは思うけれど、ユルマズから召喚者については何も聞かされなかった。


 マケンの所長は魔法が使える貴族ってだけで、大した使い手ではない。ただ、所長は自身の実力を良く見極めていた。その上ユルマズの良き理解者で、ユルマズのやることを決して邪魔することはないし、ユルマズの邪魔をするものには貴族の権力を容赦なく使う。俺に協力はしないだろう。




 アサシネイトモーションを使って忍び込んではみたが、正直どこから手を付けたら良いのかわからない。


 まず誰が偉い立場にあるのかわからない。この人偉そうかなぁ、と当たりをつけて部屋に忍び込んでみても何も怪しいものは見つけられない。


 そりゃそうだよな。そんなトップシークレットを書面に残しているとは思えないし。かといって、兵士の好感度が低い俺が正面から聞いて答えてもらえるとも思えない。


 まあ、クリスだけは仲良くしてくれるから、もしかしたら遊撃軍の兵達は協力してくれるかも知れないけど、それはそれで気が引ける。


 俺のやり方次第で彼等も罪に問われる可能性もある。罪に問われなかったとしても出世争いに関わるかも知れないよね。


 俺は一旦寮を出て、目に付いたカフェに入って喉を潤しながらどうしたもんかと考える。


 とりあえず家捜しでは無理っぽい。でも、召喚者を鍛えるために兵士達と訓練はしてるはずだから、兵士を探るのは悪くないと思ったんだけどなぁ。


 うーん……一昨日召喚された、か。まだ正式に住む場所は決まってない可能性もあるのか。


 確か俺の時は最初王国軍の寮に入らされ、その二日後にマケンの所長の家に三日程泊まらされ、その後にマケンの寮で生活することに決まった。


 結構点々としてるけど、それは俺が当時反抗的だったせいでもある。今では俺も丸くなり素直になったものだ。嫌なものは嫌だと素直に言うように心がけている。


 新たに召喚された兄弟が素直だった場合どうだろう? まあここらへんは考えてもしょうがないか。どこまで考えても推測の域は出ないし。


 カフェを出ると、俺は貴族達が屋敷を構える地域に足を向ける。なんとなく、貴族が匿ってる可能性もあるかなって。


 俺はこれまで召喚者は俺以外には見たことがない。俺の索敵スキルは魔力の動きも感じ取ることができる。自身の魔力は感じ取れないのでわからないけれど、もしかしたら召喚者の魔力には何か特徴がある可能性もある。


 何もしないよりはマシだろう、と索敵スキルを掛けながら貴族街を歩き回ってみるが、やはり変わったものは感じ取れない……というか、貴族街なんて普段来ないので、以前とどこか違う部分があっても良くわからない。


 それにまだ夕方前だ。彼等はどこかで訓練をしたり、こちらの文化を勉強したりしているかもしれない。その場合こんな場所を索敵していても無意味だ。当てもツテもなく探るのは無理があるな、と思い俺はマケンの寮に戻ることにした。


 


 寮に戻ったらシャワーを浴びた。極少量の魔力で発動できる、俗に生活魔法とも呼ばれる『クリーン』を訓練後に掛けてはいたが、やはりシャワーを浴びた方が気分が良い。


 王族が再び召喚という名の人さらいをしたことや、召喚者を見つけることができず少し心がささくれていたけれど、体がさっぱりすると少し心もさっぱりし、俺はベッドに寝転がり資料室で借りてきた本を読んで過ごした。


 気付くと夜の七時を過ぎていたので、晩飯どうしようかなぁ、なんて考えていると、ドアが控えめにノックされる。


「どうぞー」


 俺が答えるとドアが開き、そこには予想通りメイドさんがいた。


「ユルマズ様がお呼びです」

「会議室?」

「はい。第一会議室でお待ちです」

「あいよ」

 

 まあメイドが来る時はほぼ間違いなくユルマズに呼ばれている時だ。稀に所長に呼ばれている場合もあるけれど、一年に二回あるかどうかだ。


 本に栞を挟んで置くと、俺は会議室に向かった。

 



読んでいただきありがとうございます

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