4章 6
翌朝、リビングで一緒に朝食を取り、少し話をする。お互い今日も仕事があるのでそんなに長くは話せない。
ユルマズに聞かれる。
「シロー、今のシローは結婚に対して否定的ではないと思って良いのかな?」
「え? あ、うん、そうだね。もうちょっとお互いをよく知ってからの方が良いと思うけど」
答えながら顔が熱くなってくるのがわかる。
ユルマズは俺の顔が赤くなっているのに気付いているだろうが、まるで気にしていないように聞く。
「では、今受けている依頼が片付いたら、私に時間をくれないか?」
「うん、わかった」
まあそれぐらいならね。
翌日の夕方、仕事が片付いたのでシャワーを浴びてユルマズの屋敷に。
「こんばんはー」
「良く来たな」
今日のユルマズは顔色が良く見える。ちょっと元気になったのかな。
俺が夕食を食べてないと言うと、お手伝いさんに指示をして軽食を用意してくれた。ユルマズさん、お手伝いさん、ありがとうございます。
夕食後、いつものようにお酒を飲みながらのおしゃべりタイムだ。
「受けてた仕事片付いたよ」
時間できたよ、と告げると、ユルマズは小さく微笑む。
「そうか、それなら明日……は早いか。明後日まで待ってもらっても良いか?」
「大丈夫だよ」
そう答えると、ユルマズは笑みを浮かべて礼を言う。
「ありがとう、助かるよ」
「どういたしまして」
ふむ、まだ何をするのか聞いてないが、まあ良いか、ユルマズに任せておけば。
その後のんびりとおしゃべりしている中で、ユルマズから提案があった。
「シロー、私達も仲良くなってから随分と経っている。そろそろシローも私のことを名前で呼んでも良いんじゃないか?」
「……なるほど」
まあ確かに、ユルマズとはカキンの駐屯地で仲良くなってから二年が経った。ユルマズも俺のことは昔から名前で呼んでいるし、それもありか?
「じゃあ、ローテムさん?」
試しに名前で呼んでみると、ユルマズ……もといローテムさんは満足げに頷いて言う。
「ああ、それで良い」
正直苗字で呼んでいたのを名前で呼ぶようにしたところで、俺の中では何かが変わった、ということはないんだけど、まあローテムさんが喜んでるなら良いか。
翌日は依頼を受けずに休みにし、更に翌日。ローテムさんとの約束の日。俺は朝からローテムさんの屋敷に向かう。
「おはようございまーす」
「ああ、おはよう」
ローテムさんはテーブルの方に座っている。
「紅茶を用意している。飲んでから行こう」
「いただきまーす」
美味しい紅茶を頂き、まったりしたいところだが、ローテムさんは立ち上がり俺に言う。
「そろそろ行こう」
「はーい」
俺は素直に立ち上がる。
ローテムさんの屋敷を出ると、門の前に馬車が準備されていた。
「乗るの?」
「ああ、お先にどうぞ」
俺が先に馬車に乗り、ローテムさんが俺の対面に座ると、馬車はゆるりと動き出す。この世界の馬車は魔法の力なのか、揺れはするがそんなに酷くない。お尻が痛くなる程ではない。
どこに行くのかなぁ、と外を眺めてみるが……これは間違いない。王城に向かってる。
王城の入口の少し手前で馬車が止められ、俺とローテムさんが出ると馬車は移動する。
俺はローテムさんにエスコートされ、あれよあれよと言う間に王城の中を進み、二階の一室に入った。その部屋の中には、ノールさんとクリス、大地さんとフラックさん、第二軍団から第五軍団の軍団長が揃い踏みしていた。
「おー、こんちはー」
「おう」
「おう、来たか」
「おはよ」
「ユルマズ殿、おはようございます」
挨拶をすると、フラックさん以外は全員挨拶を返してくれた。そしてローテムさんはみんなに丁寧にお礼を言う。
「皆さん、私事のために足を運んで下さり、感謝します」
「おう、問題ねえよ」
「いえいえ、お祝いごとですから」
「ええ、おめでとうございます」
「ええ……誠におめでたいことと……」
全員笑顔で返すが、やはりフラックさんだけは何か含んでいるものを感じる。まあ良いけど。
まあでも、お祝いごととか、おめでとうございますとか、
「もしかして、結婚の発表をするとか?」
ローテムさんに聞いてみると、うむ、と頷く。
「結婚ではなく婚約だがな」
「はー、そうなんだ」
俺が言うと、ノールさんは呆れたように言う。
「なんだ、当事者のお前が知らされてなかったのか?」
「うん、今日はデートかと思ってた」
そう言うと、みんな笑った。
「シローらしいな」
クリスは俺の肩を叩いて言う。そしてローテムさんは逆の肩を叩いて言う。
「デートはまた今度だ。時間をたっぷり取ってのんびりしよう」
「良いね」
おしゃべりをしていると、やがて王様の使いが来て呼ばれる。
ついていくと、何やらシックな家具が置かれた落ち着いた部屋に案内された。大地さん曰く、ここは賓客を招くための部屋だそうだ。
へぇ。そう言われてみると、落ち着いた雰囲気の中にも豪華な額縁に入れられた大きな絵があったり、敷かれている絨毯も滑らかで、とても質が良さそうだ。
最初、王様の使いはローテムさんの隣にはノールさんを座らせようとしたが、ローテムさんが「ここにはシローが座る」と言って俺を座らせた。
王様の使いは何やら難しい顔をしていたが、流石に宰相様には逆らえなかったようだ。
全員が席につき、少しすると王様がやって来る。
使いが王様到着の先触れを出すと全員立ち上がるので、俺も真似してみた。
そして王様が部屋に入ってくるが、ローテムさん達の様子は変わらなかった。頭を腰まで下げたりするのかな? と思ったが、そこまではしなかった。まあこの世界は案外進んでいるからね、そこまで王様に絶対服従って感じではないのかな。
王様は席に座ると、俺達に対して鷹揚に手を振る。
「よい」
王様の言葉でみんなが席についたので、俺もローテムさんの隣りに座った。
すると、王様は俺のことをじろりと見据えて言う。
「誰か余に教えてはくれまいか。なぜこの男がここにいる」
ホント、こいつ自分勝手に人を異世界からさらって良くこんな態度が取れるな、と内心呆れてしまう。が、ローテムさんは顔色を変えることなく優雅に席を立ち、俺にも立ち上がるように促す。
俺がよっこらせ、と立ち上がるとローテムさんは王様に説明を始める。
「私、ローテム・ユルマズはシロー・シマモトと婚約致しましたことを我が王、セイラム様に報告します」
そう言ってローテムさんは膝を折る。俺はペコッと頭を下げる。
ローテムさんは丁寧に礼を尽くしたが、委細構わず王は立ち上がり、つばを飛ばして喚き立てる。混乱しているのかもしれない。
「何を言っている、ユルマズ! お前がこんな男と婚姻するなど、許すわけがないだろう!」
だがローテムさんは涼しい顔で聞き流し、聞き分けのない王様に説明する。
「セイラム様、あなた様は何か勘違いしておられるようです。私は許可を取りに来たのではございません。婚約をした、と報告に来たのです」
「な、何を……お前は……こんな……」
王様は何やら呻くように口を動かすが、ノールさんが立ち上がり、俺達を祝福する。
「ユルマズ殿、シマモト、婚約おめでとう。シロー・シマモトはこれまで、長きに渡って王国民のために体を張って戦い続けてきた信頼できる男です。少々若いが、良い婚姻だと言えるでしょう」
「な……」
ノールさんの言葉に王様がどう返すかと迷っていると、クリスが立ち上がって祝福の言葉を述べる。
「ユルマズ殿、シロー、婚約おめでとうございます……」
その後も大地さん、フラックさんが入れ替わり、立ち替わりに祝福し、王様の反論は全て潰され、俺達の婚約はめでたく国にも認められた。
まあこれは俺でも理解できた。外堀が完全に埋め尽くされたことを。
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