4章 5
翌日、昨日まで面倒な採取依頼で一週間働き詰めだったので、今日は休みにすることにした。
埃が溜まった部屋を簡単に掃除し、王都をぶらついて日用品を買い足しておく。買い物が済んだらいつものカフェで昼食を取る。
美味しいホットサンドとコーヒーを頂きながら、昨日の大地さん達との会話を思い出すが……なんだかんだ否定的な意見は少なかった気がする。渚さんはユルマズの年齢が気になってたみたいだけど。
俺は……ユルマズのことは友達としては好きだし、信頼もしているけれど、いきなり結婚となると戸惑ってしまう。
けれど、もしも付き合おう、と言われていたらどうだっただろうか。うーん、もしかしたら付き合うほうが難しいか?
なんか、ユルマズとデートしてキャッキャ、ウフフとか考えられない。
じゃあ結婚は? 多分、ユルマズと一緒に生活することはできる気がする。なんとなくだけど。俺がユルマズに慣れてだらけ過ぎたりしたら怒られそうだけど、真面目にやるべきことをやっていたらうるさいことは言わなそう。イメージだけど。
あと結婚といえば……二人で支え合って生きていく感じ。支え合う? ユルマズはめっちゃ強いからなぁ。一方的に支えられる未来しか見えない。
うーん、これ、ユルマズは俺と結婚することでなんかメリットあるのかなぁ。ホントに一生平民でいられることだけがメリットなんじゃないか?
ちょっと……ユルマズともう一度しっかり話しして見ようかな。
ユルマズの屋敷に行き、最早顔馴染みとなった門番さんに挨拶する。
「こんちはー、ユルマズさんいますかー?」
「先週よりフローリン共和国から副大統領が訪れていまして、ユルマズ様が応対することになりました。現在は副大統領と共にランドレス各地を回っています」
「あー、そうなんだ。わかりました、また来まーす」
「ユルマズ様のお帰りは三日後を予定されています。またのお越しをお待ちしています」
「はーい」
フローリン共和国はランドレス王国の南西、サリアマーレ帝国の南に位置する、人と獣人、更に魔族が共存する国だ。
しかし、うーん、もう何度も顔を合わせているから俺は砕けた言葉で話しかけるんだけど、門番さんは言葉遣いが丁寧過ぎて仲良く慣れる気配がない。
まあ、実を言えばこの門番さんは近衛軍である第四軍団所属の兵士だ。俺は軍人には受けが悪い。そもそも仲良くする気がないのかも。
ユルマズの屋敷を訪れてから三日が経った。ユルマズはもう戻ってきているはずだが、何日も外国の副大統領の相手をしていたんだから疲れているだろう、と今日はユルマズの屋敷に行かずにのんびりしていたのだが、驚いたことにユルマズの使いが俺の家までやってきた。
今日はあらかじめカフェのマスターからおすすめのお酒の情報を仕入れ、バラのエキスをふんだんに使ったお酒を用意している。ユルマズの体調は心配だが、使いが来たのなら行ってみることにしよう。
「こんばんはー」
お手伝いさんに案内されてリビングに入ると、ユルマズはソファの背もたれに体を預け、お休みモードだった。
「ユルマズさん疲れてるでしょ? 大丈夫?」
心配して聞くと、ユルマズは小さく笑って自身の左隣をポンと叩いて言う。
「問題ない。ここに座れ」
「はーい」
俺は素直にユルマズの隣りに座り、前回は右隣だったな、なんて思い出した。まあどっちでも良いのだろう。
俺はアイテムボックスからバラのお酒を取り出して聞く。
「えっと、これ買ってきたんだけど、飲む?」
疲れてる時にお酒飲むのは良くないんじゃないかなぁ、と思って聞いてみるが、ユルマズは表情を変えずに答える。
「もちろんだ。頂こう」
このお酒を買った店で、氷をたっぷり入れて炭酸水で割るのがおすすめだと言われた、と言うと、ユルマズは早速お手伝いさんに準備させた。
「いただきまーす」
「うん、いただきます」
以前ユルマズに「いただきます」の意味を聞かれ、簡単に教えるとユルマズも使うようになった。多分俺といる時だけだろうけど。
一口飲むと、口いっぱいにバラの香りと甘みが広がる。
「わぁ、甘いね」
俺は想像以上の甘さに驚いたが、ユルマズは許容範囲のようだ。
「ああ、確かに甘い。だがそれ以上に香りが良い」
ふむ、俺には甘過ぎてちょっと苦手だけど、ユルマズのために買ってきたお酒だからね、ユルマズが喜んでくれているなら良いか。
俺は一杯飲んだらお手伝いさんに頼んで紅茶に替えてもらい、残りはユルマズに上げた。
最近読んだ本や、初めて行ったレストランの話などをしてリラックスできたと感じた後、俺は切り出した。
「あの、結婚の話なんだけど」
「ああ、どうした?」
俺は十分にリラックスできていたと思ったが、結婚の話題を出そう、と考えた直後から口が強張り、強い緊張に襲われていることがわかった。
だが、ユルマズは平然としている。
「ちょっと時間があったから大地さん達にも相談して、色々と考えたんだけど。多分俺はユルマズと結婚すること自体は嫌じゃないと思う」
「そうか」
まだユルマズの表情は変わらない。
「ただ、俺はこれまでユルマズと結婚するとか、付き合うとか考えたことがなかったから、やっぱり急過ぎるかなって。もう少しお互いを知る時間があった方が良いんじゃないかな」
「ふむ……」
ユルマズは何か考える様子を見せるが、何やらニヤニヤしていて、あまり良い気配ではない。
「私はこれまで七、八年シローを見てきて、シローのことはある程度理解できていると思っていたんだが、シローは違うんだな。悲しいよ」
……そ、それを言われちゃうと。確かに一緒にいる時間は長いんだよなぁ。俺は素直に謝ることにした。
「正直、最初はこの世界の人には悪い印象を持っていたから、ユルマズさんのことも素直な目で見てなかったと思う。ちゃんとユルマズさんと向き合える様になったのは、カキンで仲良くなってからだと思う。ごめんなさい」
頭を下げると、頭の上にポンとユルマズの手が置かれる。やはり撫ではしない。
「大丈夫だ、わかってる。今のは少し意地が悪かったな、私も悪かった。でも今は私を見てくれているんだからそれで良い。少しずつ私のことを理解してくれれば良い」
「……うん、そうするよ」
俺が答えると、ユルマズは俺の頭から手を離し、口を開く。
「では少し話をしよう。お互いを知るために」
「うん」
「それでは……シローは私の趣味は知っているか?」
ユルマズは少し考えて俺に聞く。これはわかるかも。
「お酒と花?」
答えると、ユルマズは微笑んだ。
「そうだ、わかってるじゃないか」
「合ってて良かったよ」
俺はホッとして紅茶を飲み、ユルマズは続ける。
「それでは……私の年齢を当ててみろ」
「えー? 三十……三歳?」
「惜しいな、三十四だ」
「そうなんだ……俺で良いの? ユルマズから見たら子供だと思うけど」
思わず聞くと、ユルマズは微笑んだまま言う。
「問題無い。シローは信頼できる。長く生活を共にすることになるのだから、それが最も重要なことだ」
「……そっか」
そしてユルマズに言われる。
「シローも私に問題を出してみろ」
「あ、うん。じゃあ……」
俺達は夜遅くまで、楽しく問題を出し合った。
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