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4章 3

「……てことで、そろそろ邪神討伐に手を付けた方が良いのかなって迷ってるんだよね」


 ユルマズの屋敷を訪れて相談すると、ユルマズは正面から俺の目を見据え、


「シローが邪神討伐をする必要はないぞ」 

 

 と、真っ向から否定される。俺思わず驚き、「へ?」と間抜けな声を出してしまった。 


「俺って邪神討伐のために召喚されたんじゃないの?」


 そう聞いてみると、ユルマズは表情を買えずに答える。


「それはセイラム様が勝手に言っていることだ。聞く必要はない」

「セイラム様?」

 

 誰だっけ? 俺が首を傾げると、ユルマズが「はぁ」とため息をついて教えてくれる。


「セイラム・ローレンス・ランドレス様。ランドレス王国の国王だ。覚えておきなさい」

「ああ、そう言えばそんな名だったかも」


 俺は王様に会う機会はないし、王様の名を呼ぶ機会もないので、完全に忘れていた。


 ただ、


「王様が討伐しろって言ってるのに、無視して良いの?」


 そう聞くと、ユルマズは不快気な表情で吐き捨てる。


「構わん」


 思わぬ強い言葉に驚き俺は言葉に詰まるが、ユルマズは構わず続ける。


「当時のシローはほんの子供だった。幼いシローを有無を言わさずに異世界に連れ去り邪神討伐を命じるなど、人のやることではない。異世界召喚を献言したロットバイン殿、ロクタンズ殿、フラック殿も同罪だ」


 そこまで一気に言うと、ユルマズは紅茶を口に含んで一息つく。そして俺の目を見ると、少し姿勢を正して言う。


「当時の私は魔導研究所の副所長で一平民の、セイラム様に直言する機会も持たぬ若造だった。それを言い訳にするつもりはないが、異世界召喚を止めることができず、シローには辛い思いをさせてしまった。申し訳ない」


 そしてユルマズはテーブルに手をつき、額がつく程に頭を下げる。


 俺は少し驚きはしたが、それと同時に頭の中がシンと冷え、どこか冷静にユルマズの頭頂部を眺めている自分もいた。そして口を開く。


「ユルマズさん、俺は怒ってないよ」


 そう言うとユルマズは頭を上げ、どこか探るように俺の顔を見るので、俺は続ける。


「そりゃ当時はね、ユルマズさんにってことじゃなくて、何もかも、この世界の何もかもに怒ってたけど……もうこっちの世界の生活にも慣れちゃったしね」


 実際当時は……口に出すのは恥ずかしかったけど、俺は家族のことを愛していたのだろう。家族と二度と会えないと思うと涙が出てきたし、友達と会えなくなるのも寂しいし、真剣に打ち込んでいた野球ができなくなるのも辛かった。でも、それだっていつかは慣れるものだ。


 ユルマズは何か悩ましげに眉間にシワを寄せているので、更に言う。


「それにもう仲良くなっちゃったし。これで怒って仲悪くなっちゃう方が嫌だよ」


 そう言うとユルマズの表情も少し和らぎ、口を開いた。


「そうか……ありがとう」




 邪神討伐に関する話も一段落つき、のんびりおしゃべりモードに入る。「今日は飲み過ぎないようにな」とからかわれてしまった。


 ただそれも最初だけで、今日のユルマズは召喚されたばかりの頃の俺に触れたからか、少ししんみりモードだ。


「シローはまだ親を必要としている時期に無理やり引き離してしまった。その責任は間違いなく私達にある」

「ユルマズさんに責任はないと思うけどなぁ」

 

 俺はユルマズの横顔を見ながら言う。今日はココに座れ、とユルマズの右隣を指定された。また一つ仲良くなれたのかもしれない。


 ユルマズは俺の言葉を無視して続ける。


「だから私は……できる限りシローの家族のような存在でありたいと思っていたんだ」

「……そうだったんだ」


 なんとなく、言われてみれば納得できるような気もする。ユルマズはいつも俺のことを気にかけていてくれたから。


 だがユルマズはふっと小さく笑って言う。


「だが私は感情を表に出すのが得意ではないからな、冷たい女に見えただろう」

「そんなことないよ。ユルマズさんが俺のことを理解しようとしてくれているのは、いつも感じてたよ」


 そう言うとユルマズは驚いたようで、少し目を見開いた。そして笑う。


「そうか、それなら良かった。シローは優しい子だな」

「うーん、ユルマズさんの方が優しいと思うけどね」


 ユルマズは一瞬優しい表情になるが、すぐに普段の顔に戻して続ける。


「だから、ダイチ達には申し訳ないが、彼等が召喚されたのは結果としてシローには良かったと思っている」

「ああ、大地さん達か……」

「私はシローの家族にはなれなかったからな」


 まあ大地さん達はこの世界でただ二人だけの同じ日本生まれ、日本育ちだからね。どうしたって特別な絆が生まれるよね。


 まあイガラシは気にしない方向で。あいつは結局、魅了解除させたらスキル封印の魔道具を付けてアート・ラディンに送り返したそうだ。


 もしかしたら、またぞろ向こうで魅了を使って悪さをする可能性はあるが、次は容赦なく殺すと言ってある。実際ユルマズやノールさん達は、遠慮することなく殺すだろう。


 ユルマズは少ししょんぼりしているように見える。でもユルマズが俺の家族になれなかったのは、ユルマズの責任ではないと思う。それは召喚された当初、何もかも、誰も彼もを拒絶していた俺に責任がある。だから、俺はユルマズを元気づけたいと思った。


「大地さん達は同じ異世界出身だから、少し特別なんだ。でも、俺はユルマズさんのことは大地さん達の次ぐらいに仲が良い友達だと思ってるよ」


 ユルマズは驚いたようにパチパチと二度瞬きすると微笑み、ポンと俺の頭に手を置く。撫ではしない。


「ありがとうな、シロー」

 

 正直頭の上に置かれた手は少し気になるけれど、今は気にせず口を動かす。


「あの、家族はやっぱり特別な存在だから、まだユルマズさんを家族だと思うのは少し難しいんだけど、でももうユルマズさんは特別に仲が良い友達の一人だよ。もしかしたらクリスより仲良いかも」


 しょんぼりしたユルマズを見た俺は、何故だか必死になって口を動かしていた。なんとなくだけど、やっぱりユルマズは冷静沈着に、ちょっと偉そうに振る舞うぐらいが丁度良いと思うんだ。


 ユルマズは俺の頭に置いた右手はそのままに、左手でウイスキーを一口飲んで何やら考え込出す。


「むぅ……家族とは……だが……ならば……うぅむ……」


 邪魔をするのも悪いし、俺も紅茶を飲む。今日は飲み過ぎないぞ、と決意し、ウイスキーは二杯飲んだら紅茶に変えてもらった。


 紅茶を飲む際頭が動くが、ユルマズの手は吸いついたように離れない。気になって頭を前後左右に動かしてみるが、やはりユルマズの手は俺の頭にくっついたままだ。


 俺は諦めて背もたれに体を預け、紅茶をゆっくりと楽しんだ。


 そして、しばらくすると考えがまとまったのか、ユルマズは俺と目を合わせて言う。


「シロー、今日はお互いアルコールが入っている。今日は泊まっていきなさい。話は明日にしよう」

「……はーい。それじゃあ今日もお世話になりまーす」


 俺は素直にユルマズに従い、お手伝いさんに客間に案内してもらい、お酒の力も働きぐっすりと眠った。




 翌日。昨日は飲み過ぎないようにしたので、今日はユルマズに起こされる前に起きることができた。


 まあこの世界にはテレビも動画投稿サイトもなく、お酒をあまり飲まない俺は普段から早寝早起きなので、普段通りに起きただけのことではある。


 トイレや歯磨きなど、朝の支度を済ませてリビングに行くと、やはりユルマズはすでに席についていた。


「おはようございまーす」

「おはよう、シロー」


 俺が席につくと、


「まずは朝食を済ませよう」


 と言われるので、言われるままに軽目の朝食を頂く。そして朝食を終えると、ユルマズから聞かれる。


「シロー、お前は今現在交際している人はいるのか?」


 

読んでいただきありがとうございます

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