4章 1
イガラシは翌日に目が覚め、ユルマズとノールさん、それにクリスが入れ替わり立ち替わりで話を聞いた。
最初は所属している国など口を割ろうとしなかったが、二日目の夜には早くも陥落した。
やはりイガラシはアート・ラディンで召喚された異世界人で、魅力を利用してカキンとキュージャンを支配することが、本当にアート・ラディンのためになると信じて実行したようだ。
イガラシって多分俺の倍以上生きてる人だと思うんだけど、純粋すぎるというかなんというか。よその国の人の精神をスキルでいじって支配して、それが良いことのわけがないだろうに。
ユルマズとノールさん、それにクリスはかなり忙しそうだった。復興作業についてはキュージャンの王族や政治家との交渉も必要だし、復興作業は鬼が更地にした周辺だけではなく、イガラシ軍との戦いで破壊された防衛機能の修復も必要だ。それに、防衛機能が働いていない現状、イガラシ軍はおろか、どこぞの賊に襲われても危険なので、しばらくは第二、第三軍で協力してアイガラを守る必要がある。
その反面俺は、全くやることがなかった。イガラシは王国軍で確保しているし、交渉事を手伝えることなんてできるわけがない。復興作業は手伝おうと思えば手伝えるけど、それも王国軍で十分に手は足りているし、俺は軍人には好かれていないので、余計なことをして和を乱したくもない。
そのため、俺はユルマズやノールさん達に相談し、一足先にランドレス王国に帰らせてもらうことにした。
無理に急がずにゆっくりと王都に帰り、翌日に大地さん達に会いに行き、一緒に夕食を頂く。
お店は最近大地さんが見つけたレストランで、シチューがとても美味しかった。話を聞くと、大地さんが最近お付き合いを始めた彼女さんから教えてもらったお店らしい。
カキンとキュージャンでの顛末を話し終えると、結構な時間が経っていたので一旦店を出て、行きつけのカフェに向かった。
美味しいコーヒーとケーキを頂きながら、大地さんがしみじみと言う。
「第二軍団ってすごいんだなぁ」
「どうしたの?」
突然どうしたのかと聞くと、第二、第三軍団がカキンとキュージャンに行っている間、大地さん達率いる第四軍団と、国王率いる第一軍団の一部が国民から寄せられる依頼を引き受けていたのだが、それが本当に大変だったようだ。
「モンスターの討伐から護衛依頼、ダンジョン調査やら採取依頼、本当に色んな仕事があってさ、どの仕事もできないじゃ駄目なんだ。やらなきゃ駄目で、依頼に合わせて部下を振り分けなきゃいけないし、広く様々な知識と経験が必要だってことが良くわかったよ」
渚さんを見ると彼女もうんうん、と頷いている。そして大地さんは少し笑って言う。
「まあでも、良い勉強になったよ。第四も大きく成長できたと思う」
渚さんも同意する。
「そうだね。第四は基本的に王族や王都、王城を守るのが仕事だから、やることが決まってるんだよね。色んな経験が積めたのは良かったと思う」
なるほどなぁ。そう言われてみればそうか。正直一般庶民からすると、第四軍団は馴染み薄いもんな。
まあ俺も王都に戻ってきたし、
「また俺も手伝うよ。適当に依頼回して」
と言うと、大地さんは「助かるよ」と言って笑った。
そして話は変わり、
「王様なんかやってるね、あれ何?」
と聞いてみる。
王都に戻ってくると、王様は第一軍団の半数以上を使って何やら大規模な工事をしていた。
渚さんが半ば呆れたように笑いながら教えてくれる。
「第一の寮と練兵場が老朽化したから新しく寮を建てて、練兵場は直せるところは直して、あとなんか最新の訓練用具を入れてるんだけどね……」
何か言いたげだな、と感じて聞いてみる。
「なんか問題あったの?」
すると大地さんが答える。
「俺達はユルマズさんが帰ってきてから相談した方が良いと思いますよって言ったんだけど、立派な寮を建てて驚かせてやるって言ってね」
ははっ、乾いた笑いしか出ない。子供じゃないんだから。
はぁ、とため息を付いて渚さんが言う。
「人手もお金も掛かるんだから、思いつきでやって良いようなもんじゃないんだよね」
大地さんも続く。
「まあユルマズさんもそろそろ帰ってくるようだし、ユルマズさんに怒られればわかってくれるだろう」
「ユルマズさんが言ってわかるもんなのかな?」
これまで色んな話し聞いてきたけど、あの王様は結構馬鹿なんじゃないかと思い始めている。だが、大地さんは苦笑して言う。
「王様はまあ、冗談でも賢いとは言えない人なんだけど、それでも何故かユルマズさんの言うことだけは素直に聞くんだよ」
「へえ」
「王様の唯一の長所だね」
俺が驚くと、渚さんは中々厳しいことを言う。
「ユルマズさんには結構厳しい諫言をされても大人しく聞くんだよな。それで後でユルマズさんの文句とかも絶対言わないし」
「へぇ、それは偉いね」
部下の厳しい言葉を受け入れるのは簡単なことではないと思う。しかも、ユルマズは平民だ。
渚さんが真面目な顔で言う。
「冗談抜きで、この国の未来はユルマズさんに掛かってると思う」
「……そんな?」
少し驚いて聞くと、渚さんだけではなく大地さんも頷く。
「王様は面倒臭がりでね、軍団長が四、五人揃って意見を出すとちゃんと聞いてくれるんだけど、例えば俺一人で意見を言っても結構聞き流されるんだ」
「うん」
「その上今回みたいに思いつきで大金を動かしたり、なんならマルテーの件だって王様が決をつけている」
「ああ、あれもそっか」
結構ひどいな、と呆れていると大地さんが続ける。
「でもユルマズさんが言えば一発で聞くんだ。本当にユルマズさんの舵取り次第だと思うよ」
「ユルマズさんも大変だなぁ……あ、そう言えば、俺ユルマズと仲良くなったんだよね」
「え!?」
「はあ!?」
カキン、キュージャンに出張中にユルマズと仲良くなったことを思い出し、二人に伝えると大いに驚かれた。
その後、俺は現場を見ていないけれど、ユルマズは王都に戻ってくると王様を手厳しく叱ったそうだ。王様は褒めてもらえなくて悔しそうだったが、大人しく言うことを聞いていたという。
このような事業は雇用を生むチャンスなのだから、国でやらずに国民に仕事を割り振りなさい、ということらしい。
第一軍団の寮は半分程でき上がっていたが、それでもそこから国民に呼びかけて働き手を募集したそうだ。練兵場の復旧工事にしても、専門職の人を含めて呼びかけたらしい。
大地さん達第四軍団は、第二軍団の多くが戻ってきて仕事はだいぶ楽になったようだ。ただ、第二軍団の何割かはカキンとキュージャンに残っているので、第四軍団も王都近郊の依頼を手伝っているそうだ。
俺も回ってくる依頼をこなして生活している。その中で、鬼との戦いの中では少々思うところがあったので、新しい武技を開発した。
悪霊や、イガラシのように悪鬼に誰かが憑依された際、憑依した悪霊や悪鬼のみにダメージを与える『救済の一手』という聖属性の武技だ。
救済の一手は憑依された側の人体には一切のダメージは入らない。
完全に狙い通りの武技を開発することができたのだが、俺はこれまでの人生で悪霊に憑依された人というのは、イガラシを覗いて出会ったことがないので、残念なのは使う機会が見当たらないことだ。
それでも、いざ誰か知り合いが何かに憑依された際、この武技が使えればかなり楽になるはずだ。まあとりあえずは満足か。
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